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58.四凶刃の火~不安と邪気

 幻想世界に登場するモンスター。それらは原則オリジナルの動物より強化されています。例えばクモが口から糸を吐けるよう魔改造されているように。混沌の魔力と言っていいもので特殊能力を与えられているのが常です。

 しかし逆に特徴的な能力を没収されている。そこそこ巨大化ぐらいはしているものの〈世界の制作〉から嫌われているというレベルで弱体化させられている動物がいます。

 それは何でしょう。

 ミスラムに勝利した藤二。シャドウにとって仇敵、主君イリス様を煩わせた害悪を見事に討伐した彼だがそこに歓喜はない。


 何故ならこの先の厄介事が予想できているから。ほぼ確信していると言ってもいい。


 悪徳都市ウァーテル。かつてそこは各地の流通拠点となる商業都市だった。

 しかし戦争時の要衝でもあったウァーテルは各国が相争う激戦地と化し。やがて和平の期間ですら諜報戦という名の闇討ち、暗殺の仕掛けが横行するようになった。


 「そんなウァーテルの闇がこの一戦で消え去るはずがないよなぁ」


 名前のないウァーテルをあらゆる面から支配する組織。

 その実態は各国の裏社会を支配する暗部の集合体だ。連中はスラムからの犯罪組織だけではない。

 国の密偵組織に邪教団。山海の族や凶猛な傭兵団など千差万別の身分、勢力の黒灰色が集約された組織である。


 「三割も削れていれば御の字といったところか」


 主君イリス様の宣戦布告、使者としての来訪から始まった奇襲攻撃はそれなりにウァーテルと各国の闇にダメージを与えただろう。これからさらに追い討ちをかけてやれば痛撃は増大する。


 しかしそれだけだ。

 周辺勢力の全てを敵に回して永遠に戦い続けることなど不可能に決まっている。無限に近い援軍に包囲されての籠城などできるわけがない。ましてそれが異能のカオスヴァルキリーとシャドウの集団となればどうなるか。


 「絶対に《セイギの味方》とやらが討伐にくるだろうな」


 そうなれば包囲に疲れた住人が間違いなく内通するだろう。多少の裏切りなら対処できるが暴動につながるその芽を完全に摘み取ることはできない。


 「俺の頭じゃお先真っ暗としか予測できない。我らがお館様はいったいどうなさることやら」


 同僚たちの援護なくして満足に任務を行えない。お仲間に頼り切って屋内戦闘を行うことが珍しくない藤次の発言力は低い。そんな藤次が怒り狂った主君や暴走しかけた一族を止められるはずがなかった。


 そんなどうしようもないことを脳裏から追い出すべく藤次は首をふる。首領ミスラムを討ち取ることなどオマケの任務にすぎない。これからやることは藤次単独でしかできないことだ。


 「さあ、お仕事、お仕事と」


 そうつぶやきつつ自称最弱の四凶刃は地下水路の闇へと消えていった。





  

 地下水路の一室。ウァーテルの首領として周辺諸国の闇をしていたミスラムが座していた真の政庁であり事実上の玉座。そこは一体の骸があるのみの墓場と化していた。


 "ヤレヤレ、死んでしまうとは情けない"


 その部屋に異形の声が響く。

 空間に異形の姿はない。かと言って伝声管や魔術で声だけを飛ばしていてはありえない邪気が亡骸の周りを覆っていく。


 "まあ傀儡としては優秀なほうだったか。とりあえず後片付けを済ませよう"


 その邪気が奏でる響きにあわせて壁の一面に眼球が一つ浮かび上がる。続けて各面の壁に耳、鼻、舌という感覚を司る器官が浮かび上がってきた。


 パンドラデーモン。穢れた玉座や陰謀の部屋に擬態する。あるいは宝箱ではなく部屋そのものが悪意の塊であるミミック型の災い。邪皇の眷属である怪物。


 それがパンドラデーモンだ。その内側、部屋に見える腹は策を練るのに最適で数々の陰謀が企てられて戦火を広げたとか。まあ彼としては最初のお膳立てはしてやったが、その後は放っておいても地獄の汚濁をヒトはまき散らしていった。


 家畜としては充分に優秀だったと言えよう。


 寛容の心で賞賛しつつパンドラデーモンは床に位置する口を開く。そうしてミスラムという人形を捕食しつつ次の傀儡について思考を巡らせようとした。


 "ッ!?"


 「はい、そこまで。それは旦那様が討ち取ったもの。今は有効利用できるモノなんだから。片付けられては困るんだよね」


 ソレは悪意の居室にいつの間にか存在してた。加えて遺体に対する敬意はともかく嫌悪もない。


 そしてパンドラデーモンよりはるかに濃密な邪気を放っていた。


 "ッ!!『ムーヴポート』"


 パンドラデーモンは即座に逃走の魔術を発動させた。戦うリスクが高すぎる。今は《人形》がない。

 契約し増長させて全能感に満たされた傀儡に異能と誤認させた邪法を与える。それに戦わせてパンドラデーモンは部屋のふりをして観戦するのが計画者の戦いというものだ。


 腹の中に侵入した毒を噛む危険を冒すなど愚の骨頂だろう。あるいは報復の楽しみを知らぬ無粋とでも言うべきか。


 そんな暗い愉悦に浸っていた身体に異変が起こる。

 魔の者として抑制していた感覚。触覚、皮膚の感覚が復旧し始めて。さらに己の体が伸びていくような錯覚に見舞われる。


 「急いでね。それがアナタの役割だよ」


 聞こえるはずのない声が伸びた身体を弦として響いてくる。それに驚愕する間もなくパンドラデーモンは己を構成するものが伸ばされていることを痛感した。



 地下水路の壁に肉片と黒い血の汚れを刻みながら。


 「ッ!!!!!ァァァッ!!!?」


 「貴方たちの転移魔術は便利だよね。シャドウたちが駆け足に血道をあげているのをしり目に刹那での移動を可能とする。それも安全、快適に絶対不可侵の道を進んで。

  身の程しらずにもほどがあると思わないかしら」


 だからと言ってこんな扱いを受けるいわれはないと部屋型のデーモンは叫びたくなる。

 転移魔術から《絶対不可侵》の要素を消却してリスクの爪牙で引き裂く。転移魔術の加速をそのままに壁、床をヤスリとしてパンドラデーモンの血肉を生きたまま削り削ぐ。


 参謀・計画立案する魔としてはありえない苦痛と屈辱である。

 しかしこれは凶行の始まりにすぎなかった。 

 

 先ほどと同様に。正確には水路の石畳に己の体重をかけながらPデーモンは血肉、感覚をこそぎ取られていく。


 何が起こっているのか。いや何をされているのか。誕生して初めてと言っていい激痛にさいなまれながらも悪魔部屋は必死に思考をめぐらせる。

 そんなパンドラデーモンに対して希望の光がもたらされた。


 「謀略部屋のくせに魔術に関しては三流といったところかな。まあ頭でっかちにしては逃げる判断だけは早かったよね」


 そして元凶であり絶望だった。

 滅ぼされたというウワサが流れる極東の衣服を着こなした子供。髪は首筋、額のところでそれぞれ切りそろえ黒い兜のよう。さらに額の両端に一対の角を生やしているのはオーガか邪妖精のようだった。

 だが放つ邪気と魔力がそんな甘い存在ではないことをに如実に示している。


 「だから少しだけ本気を出してあげる。

 『邪法にして童子の双角、戯れにしての奈落の一角、

  汝、囚われた魔の叫喚とともに、狂喜と悪夢の旋律を奏で…』」


 "遅いっ!『ミミックキューブ』"


 間一髪のところでパンドラデーモンの魔術が先んじて発動する。奪ったばかりの砲撃の魔術。 

 多段発動されたそれが小娘一人の身に襲い掛かる。



 よ‼ 〖飛童角〗』


 にもかかわらず邪気は僅かに揺らぐこともなく。三日月の形に歪められた口から昏い魔力が放たれる。


 それは縮めたパンドラデーモンを形作り。あるいはミミックキューブに呪詛とけた外れの魔力を凝縮したナニかだった。

 

 「ふうん。眷属にしては頑張るね。判断力だけは認めてもいいかな。

  旦那様のキューブを乱射しなければ配下にしてあげてもいいくらいだよ」


 セリフの内容とは裏腹に冷たい殺気で地下水路が満たされていく。否、それは殺気ではなかった。


 "オオオオオオオッ!?ハッ!ガァアああアアアあ!!"


 魔性の血肉によって穢された地下水路に対し、本物の呪詛が込められていく。元から不穏な空気のあった通路が歪められ魔宮と化していく。


 「だけど駄目。無様で愛しい藤次様。私の魔角を伸ばしてくださる大事な旦那様の不穏になる存在をのさばらせておくわけにはいかないの」


 〔不穏はお前だ〕命乞いする気も失せたパンドラデーモンの胸中にそんな考えが泡のように浮かぶ。


 


 それがウァーテルの奥底から周辺に悪意をばらまき続けたものの最後だった。 

 


 

 

 


 

  




  

 私はカエル】だと考えます。カエルには伸縮する舌、跳躍力に秀でた脚と壁にはりつける足があります。にもかかわらず巨大化するとそれら全てを失ってしまう。

 武器をからめとり、頭突き押しつぶし二種類の体当たりを可能とする有用な器官。壁にはりつければどれほどの奇襲ができるでしょう。もちろんパワーや毒に特化してそれらがない種類のカエルも世界には生息しているでしょうが。跳躍すらしないカエル怪物ばかりというのはいかがなものでしょう。


 もっともカエルの舌がいくら有用でもヘッドショットなどに使われたらスプラッターにゲームバランスが崩壊しかねません。

 世界を制作するならそんなバランス崩壊はイヤでしょう。やっぱりカエルはギャグ担当の種族や巨大化するだけのモンスターでいてもらうべきでしょうか。

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