56.説明会(ミミックキューブ)とよくある話
[西遊記][そんごくう]の物語。皆さんはこのお話から何を連想するでしょう。
妖怪退治の道中記。様々な作品のモチーフ。あるいは序盤と比べ弱くなった孫悟空を観音様が助けまくるお話。そんなうがった見方をする人もいるでしょうか。
私の場合、主人公の孫悟空が不老不死を追い求める話だと最近は考えています。
もとから妖怪石猿で長生きが約束されているのに〈仙術修行〉を始める。そして〈天界に昇り〉〈仙桃を貪り〉〈丹薬を飲み込み〉〈仏道の修行を積み〉〈闘将仏に成る〉人間ならいったい何度、不老不死を得ているでしょう
他にも〈返事をした者を飲み込むヒョウタン〉をはじめとした仙術具・宝貝には直接、補助的に不老不死を得るものが少なくありません。[封神演義][オデュッセア][ヘラクレス]など他の長編物語と比べても[そんごくう]は不老不死に関わるものが多過ぎると思うのです。
藤次の使う術式、固有に近い魔術ミミックキューブについて
この術式は原則、結界箱と火炎魔術がセットになっている。それを【屋内限定】という誓約をかけることで、魔力の低いシャドウ男の魔力量を増幅できるようにした術式だ。
この中で火炎魔術はとにかく種類が多い。攻撃から錬金・鍛冶に使うのもの。様々な物質を焼き将来役に立つかも不明な火から、水以外の属性と混ざって変化する怪火まで。
ただし火術単体では器用貧乏の出力不足な燐火しか発生させられない。火傷させるのも難しく、煮炊きもできない火力。火炎などと言うのもおこがましい点火の魔術だ。
単発ならば。
ミミックキューブで重要なのはその名のとおり結界箱だ。その最も重要な効果は二つ。
一つ結界箱の内部で【発動】した術者の火術を増幅するけと。
二つ結界箱の内部で【発生】した炎、熱エネルギーを封じこめること。
他にもバリケードや解析などの術式を追加するアレンジは可能だ。可能だがまず重要なのは火術の増幅と封じこめ。
他者が相応の覚悟を持ってミミックキューブを会得・使用すれば別のことが重視されるかもしれない。だが藤次が編み出したミミックキューブは条件付きで千変万化の大火力を扱うことだ。
追記…
立方体、直方体型の結界箱は収縮して閉じ込めた敵を消滅させるなとどいう神技は逆立ちしても使えません。空中に発生させて足場にすることもまずできない。魔力を浪費すれば一応可能だが、そんなことよりシャドウの体術を鍛えたほうがずっと効率的で実戦に役立つ。
ミミックキューブは結界箱の内部で火爆の術を増幅させてそこに取り込んだモノにダメージを与える。初見や壁透しの術で不意をつかなければ、通用しない二流の攻撃魔術です。
ミミックキューブ単発では。
数ヶ月前
「こちらですマスター!時間がありません。お急ぎください‼」
「大丈夫だよ、扇奈。そんなに慌てないで」
シャドウの頭領・姫長である扇奈・セティエール。彼女は初めての行動をしていた。
絶対の忠誠を誓った御館様であるマスター・イリス。主君の行動の遅さに対して焦燥し苛立ち、あろうことかその不満を隠せないでいる。
第一の忠臣、シャドウを束ねる長。どちらの立場としてもそれはふさわしくない。上級家臣としての資質を疑いたくなる、恥ずべき行為と言っても過言ではないだろう。
「慌てたくもなります。ようやく訪れたこの刻。一度きりの儀式を執り行う機会です。
どうか御自愛ください」
そう告げて走りつつ扇奈は気流の術式による警戒を行う。とたんに傍で開きかけた口が閉じる。そうしてその口は微苦笑を浮かべていた。
数分後・・・
身体を清めた二人は儀式の間に訪れていた。
「支度はできているかしら、藤次」
「藤次君、今日はよろしくね。ボクの命を君に預けるよ」
「委細、もれなく。身に余る光栄でございますイリス様」
頭領と主君。四凶刃の上に立つ二人に対し響く返答が返ってくる。その表情に気負いはない。
できることはすべてやったし、儀式に必要な【相応の対価】は払っている。これで失敗することなどありえないし、億に一つがあるなら運命の悪戯だ。マスターイリスがそんなモノに煩わされるはずがない。
扇奈はそう自分に言い聞かせて儀式場となる部屋の空気を魔術で整えていく。
『竜域』
そして扇奈は清浄な空気を作りそれを掌握した。そしてその手綱を儀式の長に手渡す。
「参ります『アルケミックキューブ』」
言霊によって部屋全体を網羅する結界の直方体が展開していく。
そう。今日の主役は藤次だった。イリスの家臣筆頭として今回の儀式は扇奈が仕切りたい。
だが払うべき対価が魂に刻まれる誓約。近い将来にほぼ確実に使えるはずの魔術の会得・可能性を封じ断念することを条件に、身の丈を過ぎた魔性の術を使う。
それがこれから行われる錬成の儀式魔術だ。
頭領であり旋天属性という稀少な才能を持つ扇奈。彼女が魂を削る対価を払うのは主と配下たち全員に禁じられるのは当然だろう。
「『光燐』そして『アルケミックキューブ』『アルケミックキューブ』×多段」
イリスの好む魔力・光燐が満たされた結界儀式場に次々とアルケミックキューブが展開されていく。
それは錬金台座であり窯であり炉でもあった。
続けて部屋の隅に控えたシャドウたちが各キューブに素材を詰めた木箱を重ねていく。否、木箱自体も数種の錬成火を燃やすため組み木された貴重な燃料ということを考慮すれば複合材料と言うべきか。
「組み木箱、キューブに重なりました」「準備完了」「こちらも完了済みです」
それぞれが言の葉を発し魔術の儀式と言うには不ぞろいで、歪な人員・素材の配置が出来上がる。
本来、魔術にうといはずのシャドウが作ったにしてはマシなものができたと言うべきか。それとも魔術を愚弄するなと罵るべきか。
いづれにしても魔術儀式の準備は整った。
「それではこれよりイリス様専用のエリクサー錬成を始める!藤次、頼んだわよ」
「承りました。この身命を賭して」
そのセリフにお優しいマスターの瞳に嫌そうな光が瞬く。だがイリスの存在あってこそのシャドウだ。
数十年後の先ならともかく数年後に【古傷?】で倒れる不穏の芽は根絶しなければならない。ここは四凶刃の一人を失うリスクを冒してでもエリクサーを入手すべきところだ。
それから三日三晩が過ぎて・・・・・
イリスは魔術の眠りについていた。禁呪まがいの亜種エリクサーでは服用するのも儀式に含まれる。
聖賢の高過ぎる魔術抵抗を一時的にでも下げるには特殊な眠りが必要なのだ。
「よし、仕上げに入ります」
「ッ!?、わかったわ。全員気を抜くなっ!」
口ではそう言いつつも扇奈は内心、首をかしげていた。藤次の魔術キューブによる薬の製造は知っていたが、それはこんな不穏なものだったろうか?
目の前で脈動する焼成に圧縮を重ねたエリクサーの波動から禁呪と同様の気配を感じるのは自分だけだろうか?
そんな風に不審と走査の誘惑にかられる扇奈だったが、下手な詮索はできない。
藤次は代償を払っておりこの場この時においてのみは感覚・思考ともに扇奈をも上回る。余計なおせっかいは全てを台無しにしかねなかった。そう扇奈が考えたところで藤次が動く。
「『九炉身』・・・そして『アルケミックキューブ』『ミミックキューブ』」
「!?」
それは狂気の始まりだった。聞きなれぬ切り札の身体強化『九炉身』はいい。
だが藤次自身と素材を集約しているキューブ双方を覆うアルケミックキューブが檻に見えるのは扇奈の錯覚ではないだろう。
さらにミミックキューブとは何なのか。その答えを藤次以外の全員が目の当たりにした。
「グッ!ッ・・・・・・」
先ほどまで儀式場の核だったキューブ炉が崩壊していく。だが中身の準エリクサーまで飛び散ることはなく。藤次が拳に作った『ミミックキューブ』にかろうじて回収される。
「ガァアアアアアアッ!!」
ただし回収されたのはあくまでエリクサーになるであろう部分のみ。灰となった素材の不純物やら歪んだ魔力は暴風の刃となって儀式場の部屋を荒れ狂いそうになる。
その刃は九炉身の使用者の血肉をえぐり、作られたばかりのキューブをきしませる。
「ッ!?総員、防御態勢を取れ!!嵐閃響刃『嵐崩衝』!!」
扇奈は未完成の魔術をとっさに使用する。冷静であるべきと戦術の思考は告げるが、扇奈の闘争本能はあらん限りの魔力をつぎ込んでのゴリ押しを選択した。
その選択はかろうじて大事な配下たちの命を拾い上げる。暴嵐は空振りしたかのように消え失せた。
「お優しいこって。姫長の扇奈様ならこういう時はイリス様とご自身の安全だけを考えるべきなのでは?」
「ハッ、ぬかせ。貴様にはこの件の懲罰と継承の両方を受けてもらうのだからな」
そう言いつつも扇奈は内心で冷や汗をぬぐう。
古の老仙は八卦炉で霊丸薬を煎ると同時に怪童までも焼こうとしたとか。だがそれによって炉は破壊され霊丸薬は歴史の闇に消えたらしい。すさまじい薬効があったはずなのにそれを再現しようとするものは皆無も同然だ。
「ヘヘッ、!?〰~~ ̄~∻〰」
しかしそれは賢明な判断だろう。人語を介し大勢の戦士と渡り合った勇士の蛮族。それを無残に焼き殺そうとした処刑道具なぞ、命をつなぐ薬を作るのにふさわしくない。
「オオオオオオオオッ~~~~-~」
扇奈の眼前ではじけそうなエリクサーになりそうなモノを藤次が術式と身体強化の力技で押さえ込む。同時に肉が焼ける臭いと毒気を感じた。エリクサーは命の奇跡でもその前段階は〈薬の裏側〉が凝縮されているのだろう。
『なぐってでも止める。あるいは私も切り札をきって藤次に協力するか』
一瞬そんな考えが扇奈の脳裏によぎるが、霊薬調合は芸術とは違う。衝動のままにアドリブなどしたらどんな惨事が起きるか知れたものではない。
「皆ひるむな!四凶刃の火、藤次を信じろ!!」
だから扇奈は活を入れた。自分以上に動揺しているであろうキューブ魔術陣にはりついている配下のシャドウたちを鼓舞し自らは虚勢を張る。
「「「「「承知いたしました、姫長!」」」」」
これでなんとか乗り切れる。いや何としても《霊薬の生成を成功させる》のだ。
儀式場に集ったシャドウたち全員が心を一つにしてそう決意した。
そう決意してしまったのだ。
『お願いでございますイリス様!!どうかあの悪鬼たちから私の^*;~を助けてください!!』
その叫びによって『イリスにエリクサーを飲ませる』儀式は破綻した。
その中でも注目すべきは「太上老君」の存在です。不老不死の丹薬・金丹を練り上げ「金角銀角」の正体である仙童の主にして〈返事をした者を吸い込むヒョウタン〉をはじめとした仙術具を本当に所有する大老仙人。
そんな仙人の所有する〈八卦炉〉の【記憶】が皆さんにあるでしょうか。私は最近まで有りません。
何故なら工房シリーズの錬金術で「薬とは混ぜるか鍋で煮て作る」ものと考えてしまっていたから。
〈炉〉は鍛冶にしか使うべきでないというかたもいるでしょう。とはいえ〈オーブンもどき〉で調理・調合をもう少し行ってもいいのではないか?と愚考します。




