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54.四凶刃の火~魔剣の理不尽

マジックユーザーを名乗る人たち。彼らは賢く効率を重視するとか。それは本当のことでしょうか?


呪文には力があり、様々な魔術を紡ぎます。ですがそれはムダを省いたものとは言えません。

「魔術使い。杖がなければただの人」という昔ならともかく、昨今は杖・指輪なしで魔術をふるうスペルキャスターなど珍しくもないでしょう。

だったらエネルギー効率的に呪文を唱える口舌から魔術を放つべきではないでしょうか?特に攻撃の術は一秒でも早く撃つために口から魔術を放つべきだと思います。

『ミミックキューブ』。壁を透過して結界箱・火術の爆裂セットを部屋に放てる。部屋の中にいるものは致命的な炎を受ける瞬間まで術者・キューブの存在すら満足に感知できず。一方的に攻撃を受けるはめになりかねない。


それが魔術の素人である盗賊たちならばなおさらだろう。


隠し部屋に身を潜めようとも使い手である藤次は幹部シャドウの一員だ。

施設の構造的に隠し部屋がありそうなところは当たりをつける技量はある。そして姫長から音による空洞の探し方も教導されている、屋内戦に特化したシャドウだ。


「・・・・・ッ!?・・・ッ・・・!」


「お~い。出てきてくださ~い。降伏したいなら早い者勝ちだぞ~」


降伏勧告のセリフが地下水路の石壁に響く。だがセリフの内容とは裏腹に藤次は助命する気など一かけらもない。


その結果、シーフたちは反撃の機会すら与えられず一方的に殲滅されていくことになる。


残酷ではあるが盗賊連中の悪行を考えれば自業自得というものだろう。

合法に非合法。直接はもちろん間接的とはいえ確実に一族一地域が滅亡する陰謀・悪徳を散々賢しげに行ってきたのだ。


見逃して後日、確実に報復されるリスクを考慮すれば。秘密部屋を知っている幹部、側近の抹殺にためらう理由などありはしない。




 

 「ッ!」


 そんなことを考えていた藤次にわかりやすい殺気がたたきつけられる。

 隠れるつもりがない。盗賊系の組織では少し珍しい攻防のバランスが取れた荒事の担当。


 「アサシン共を倒した腕前は認めてやろう。だが単独行動はまずかったな」


 そう告げる男は長剣、盾と軽鎧を装備していた。加えて魔力を高め術式を構成していく。


 『フレアロール』


 呪文と同時に数個の火球が出現し地下水路の空間を舞い踊る。その光景に目を奪われる暇もなく火球の群れは円環を作り下水道の壁すれすれを移動して藤次のほうに迫ってくる。


 「まあ我の前で頭数をそろえても無駄なんだが」


 そう告げて魔剣士の男は跳躍し灼熱のトンネルとともに突進を仕掛けてきた。その武装は魔力の輝きを帯びており、勇者に匹敵する実力をうかがわせる。


 

 そんな戦力評価をしている藤次を両断すべく長剣の一撃が振り下ろされた。対する藤次は火属性の魔力が込められた短剣が一振り。その結果は明らかだろう。


 「えいっ」


 「ッ!?」


 片腕の力だけで振るわれた短剣。小盾どころか腕甲の用をなすかも絶望的な緋色が長剣を切り飛ばす。

 そのありえない理不尽に驚く地下勇者に対して藤次は返す刃を振り下ろした。


 「クッ!?」


 その攻撃をかろうじてかわす地下勇者。追随する火炎の輪に飛び込んで藤次の追撃を封じる。

 

 そんな魔剣士の挙動を藤次は冷めた目を隠しながら眺めていた。胸中で時を数えながら体勢を整えるのを待ってやる。その間、魔剣士は自ら放った火を消すのにやっきになっていた。


 「そろそろいいか?」

 「ッ!?」


 藤次の問いかけに男は盾をかざして身をかばう。防御を固めたであろうその構えに藤次は短剣を投げつけた。


 『ミミックキューブ』


 術式を発動。投擲された短剣を瞬時に片腕ほどの結界箱が覆う。そしてほぼ同時に火爆を点火。

 それにより高熱付与と加速された短剣は結界箱のもろい一面を突き破って射出される。


 「なっ、バッ!」


 火球などとは桁違いの破壊力を秘めた刃が盾に突き刺さる。その一撃は魔剣士の盾どころか半身を爆散させた。


 

 魔剣の製造。それは理不尽な不思議である。


 【石器→黒曜石の矢じり→青銅の短剣→青銅の長剣・・・・・・・・・・】

 

 こんな刃の歴史を書いたら本職の鍛冶師はあきれるだろうか。弟子がこんなことを言ったら不勉強に激怒するだろう。

 なのに魔剣ときたら宝箱から発生する。短剣の工程・生産数をすっとばして、装飾の施された長い剣が出現するのを誰も不可解に思わない。



 「まっ、俺にとってはありがたい御話だけどなぁ」


 与えられたモノを不思議に思わない。それは依存と退化の連鎖だ。藤次にとっては楽勝な思考停止した雑魚でしかない。

 ロングソードよりダガーの製造のほうが難易度は低い。ならば長いだけの剣より短い刃に高密度の魔力を込めるほうが容易だろう。瞬間的に魔術効果を高めることも可能だ。


 「数段格上の魔剣ならともかく、こんな穴蔵で錆びてる刃じゃなぁ」


 木の棒、泥玉のごとく破壊されるのは道理である。





 「それで?前座の戦力観察は終わったのか?」


 その問いかけが終わる前に藤次がよく知る結界檻が襲いかかった。

 


もっとも口から効率重視で魔術を放つのはいくつかのリスク、コストを伴います。

それは顔面の変形リスクとお手入れのコストです。

ドラゴンほど頑丈ならブレスを吐き続けても顔の皮膚・筋肉が影響を受けることはないでしょう。あるいは顔が歪んでも矯正できる変化術持ちの妖魔なら物理エネルギーを吐いても問題ないと考えます。


ですがどちらにも該当しない人間の術者はお顔のケアが必要になるでしょう。高いコストをかけて、いつか目鼻に表情まで影響が及ぶことに怯えながら。

ドラゴン以外の魔獣がブレスを吐かなくなった今日このごろ。それはイヤだと考えます。

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