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53.四凶刃の火~ミミックキューブ

幻術を有効利用する。芸術のもたらす恩恵を幻術でも得る。それにはやりたい放題な幻術に制限をかけ分類するのがいいと考えます。

そしてれらは難しいことではありません。あるいは難しく考える必要のないこと、と言うべきでしょうか。何故なら芸術の常識を利用させてもらうだけでいいのですから。



悪徳都市ウァーテル。その奈落に通じる地下室の一つで盗賊たちの元締めが声にならない罵声を上げていた。


「何なのだ、何なのだ、こいつらは!」


悪徳都市ウァーテル。表の世界に住む者たちにとっては諸悪の根源でしかないだろう。だが盗賊たちにとってウァーテルは己のプライド・人生を守る牙城だ。何故か?


理由はこの世界に魔術があり勇者・魔物が存在するからだ。


シーフがいくら巧みに身を隠し、その技を磨いても魔術による感知・呪縛から逃れることは全くできない。魔物の嗅覚はたやすくシーフを追跡し、疾風の速さで喉笛に牙をつきたててくる。

あげく勇者ときたらそれら二つを併用し、勘やら啓示やらのチート異能で盗賊組織を蹂躙してくる。勇者の前では闇の組織もケチなチンピラ集団と同様の扱いだ。


だからシーフたちはより深い闇の奈落へと潜った。各勢力の利害を調整しつつ陰謀で操る。恐怖で縛り金の力で恩を売った。そして迷宮と邪教の力を融合させることにより、ついに魔術による走査を振り払うことに成功する。


ウァーテルに所属する盗賊たちを魔術で探すことは困難になり。逆に覗き魔の術者は暗殺者による制裁を受けることになる。勇者の理不尽な感知能力も都市ウァーテルに張り巡らせた結界には通用しない。

そうして役目を終えた英雄たちは悲劇の主人公へと堕ちる。権力者にとって邪魔な勇者たちが消えるのは闇ギルドにとっても色々と都合がいいのだ。



そうして悪党たちの楽園と化したウァーテル。そのウァーテルが今、たった一日で陥落しようとしている。表の政庁が落ちたという話ではない。


その状況に備えて作られた抜け道がふさがれている。脱出すべき幹部、資産がたった一人のシャドウによって追い詰められつつあるということだ。


「!?ッ」


そう考えた男の胸に衝撃が走る。それは鈍い痛痒をもたらしたが、命を奪うモノではなく行動に支障をきたすほどではない。

だがこの状況でそれに安堵するほど彼は愚かではなかった。


「何者だっ!」


誰何の声をあげるも答える者はいない。気配を探るもその網に引っかかるのは怪訝そうな表情を浮かべる部下たちの発するものだけ。だが長年培ってきた勘は最大の警鐘を鳴らしていた。





「おっと、見っけ」


四凶刃で最弱の男である藤二。その理由の一つは彼の能力が汎用性に欠ける。〈劣る〉ではなくはっきりと〈欠落〉しているためだ。


いくら能力を強化するため。リスクを除去するためとはいえ、使用可能な条件を限定しすぎている。そのため彼が他の四凶刃に勝てる可能性は皆無に近く。実際、模擬戦の類では連敗記録を更新し続けているありさまだ。


「いっくぜぇ~、」


そんな藤次がシャドウの幹部である四凶刃の末席に名を連ねている理由。それは相応の戦果を上げているから。『ミミック・キューブ』という有用な固有魔術を使えるからだ。


『座標確認、箱を展開』


抜け道、隠し部屋が無数に存在する地下水路。そこはウァーテルの盗賊たちにとっても迷宮に等しい奈落だろう。

しかし藤次にとってそこは身を隠せる茂であり、攻撃を防ぐ障壁であり、さらには獲物を蹂躙する狩場でもある。


『箱の展開を確認、続いて着火』


結界の箱を作り、その中で火術をふるう。結界箱と火術の組み合わせにより数百種類の火炎ミミックとでも言うべきモノを操る。


「地獄で己の所業を後悔しろ『ミミックキューブ』!」


屋内限定でしか使えない。庭、屋根上など外気にふれる施設でも使えないし、洞窟などの自然領域でも使用は不可能となる。模擬戦では使えない四凶刃、最弱の原因となっている術式。


「なんてなっ。こいつを発動しても断末魔どころか悲鳴も聞こえない。我ながらしょ~もない術だぜ」


ため息をつく藤次に答えるものはいない。地下水路には澱んだ静寂がただようばかりだった。





「ッ!?、!!ァ~~~!!、ッ!?」


入口のわからない秘密部屋。そこでは盗賊の元締めが声にならない悲鳴をあげようとしていた。

正確には悲鳴・罵声をあげようとして果たせずにいた。


突然、体を焼き始めた焦熱・高熱によって


《アヅイ!あづいあヅい、あづい!!》


だから精いっぱい胸中で叫び続ける。それによって少しでも痛みを紛らわし、状況を理解すべく感覚を研ぎ澄ませた。


「元締め!?これは、いった、、、ギャァァァァ!!」

「ヒィ、ヒィッ!?」


そして鋭くした感覚はより激しい痛苦と、状況の悪化を伝えてきた。自分を中心として部屋中に火球と熱波がばらまかれる。それは側近たちを焼き尽くし、護衛の闘争心をへし折った。


「逃げなきゃ、逃げ、逃げなぎャァァァァ!!!!」


何とか脱出を試みるシーフの元腕利きたちを炎は容赦なく焼き尽くしていく。ここは秘密の隠れ部屋だ。出入口は巧妙に隠され、その扉を開閉することは容易でないよう設計している。


まして透明な膜らしきものが部屋にいた人員を囲み、火刑の檻を形づくっているのだ。一歩先の壁は焦げ目すらないのに、部屋の中は猛火が渦巻く地獄が広がる。


こんな獄炎が自然に発生するはずがない。否、自分たちが見聞きした邪法・火あぶりでもこんな凶行を繰り広げることは不可能だ。



何故なら元締めだった自分はまだ生きているから。死ぬこともできず、地獄の炎を放つナニかの仕掛けに取り込まれているから。


「ァ、ぁ・・・・・」


部屋中を見渡しても侵入者らしき気配は感じられない。あるいはすでに自分は焼死していて感覚器も灰と化しているのだろうか。

そんな思考に逃避しながら、盗賊の元締めだった男は終わりが一秒でも早く訪れることを願い続けた。








『ミミックキューブ』


数種類の結界の箱と数百種もの火術を組み合わせ併用して使う固有に【近い】能力。


術者である藤次はある程度狭く【屋内と認識】したエリアでしかこの術式を使えない。


屋内と認識すれば天井、床に壁だろうと【透過】して術式の発動場所を設定できる。


元は炉と錬成の火がセットになっている。アイテムや丸薬の精製を行うための術式だったとか。イロイロあってそれは潰え現在に至る。





芸術・芸術家の常識。それは得意分野が決まっていることです。

絵画、彫刻に音楽。調理、服飾に物書きやショーの企画。この世には様々な芸術がありそれぞれに専業の芸術家がいます。万能の芸術家で歴史に名を残す天才も、少し調べれば得意分野があることは明白になるでしょう。

幻術師もそんな芸術家と同様に自らの得意分野を見出し、詐術以外で生活の糧を得るようにすればいいと考えます。あるいは自分の好きな幻を投影して、他人を惹きつけて生きると言うべきでしょうか。


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