50.光は閉ざす
英雄・その軍勢をも自在に翻弄する幻術は昔ファンタジーのやりたい放題なチート魔術。事実上の即死魔拳と言えるでしょうか。とはいえそれではまずいと考えた先達が幻術を分類してくださいました。
被術者の精神・脳に直接?幻を流すテレパス夢型。
現実世界で灰や霧などに幻影を映す拡張風景のタイプ。
この分類がなければ幻術に【芸術】の技術を流用しようなどとは考えられませんでした。
悪徳都市ウァーテル。その中心部である政庁屋敷での戦いは終局を迎えようとしていた。
「どこだ!ギルド長はどこに隠れた!」
「知っていることを話せ!貴様らの首領はどこに逃亡した!」
ウルカとサキラ。側近シャドウ二人による誰何の声が政庁の通路に響く。
『フォトン・シャット』世間で言うところのライトの魔術を敵の瞳に付与することで視覚を一時的に封じる術式。それによりイリスたちは無人の野を行くがごとくウァーテル政庁の防衛戦力を打ち破り突入を開始した。
そして広大な屋敷を空しくさまようことになる。
迷宮のボスモンスターではあるまいし、人間の権力者が玉座の間にへばりついている必要などない。
ましてここは悪徳都市ウァーテル。盗賊あがりのボスが形勢不利で逃亡しないなどマヌケかノロマな無能というものだ。
かくしてイリスたち三人は敵のボスの姿を求め、見つけた者を脅し行方に関する情報を求めさまよった。逃げ道をふさぐ包囲はできず、電撃のような速さの突入もかなわず。
彼女たちに先ほどまでの連戦を勝ち抜いた精彩はなく。迷子の小娘たちが焦燥をかかえつつも叫ぶことで不安を抑えようとする姿を連想させた。
だがそんな空しい政庁の探索も終わりを迎える。
「う~わ~。ヤッパリ闇ギルドのボスに逃げられた~。く~や~し~い~」
「イリス様、ここは敵陣でございます。どうかご自重を」
ウァーテルの玉座とも言える政庁の執務室。防音がきいていることを確認した部屋でイリスたちは三文芝居を閉幕させていた。
「そうは言ってもね。ボクの本業は大将首を討ち取ることじゃないんだから。ようやくこの突入ゴッコも終わったかと思うとせいせいするよ」
そう告げるイリスは逃げ足の速いシーフ連中の足取りを完全に把握していた。声出し探索などフツウの魔術騎士に偽装するためのお遊戯でしかない。
『フォトン・シェード』初歩の魔術と認識されている『ライト』の魔術を敵の視覚に侵入させる魔導。
人間の二流術者ならともかくそれをつかったのはイリス・レーベロアというカオスヴァルキリーだ。
光属性で光学情報を操る。その光を攻撃魔術として使用することは不可。
そして正門の戦いでその【重要機密】を暴露しまくった愚か者。
本当にそれだけの者が扇奈たちシャドウから絶対の忠誠を得るなどということができるはずがない。
「それではイリス様。今後はいかがいたしましょうか」
「ん~。連中はお決まりの地下水路に逃げ込んだようだね。ここはもう藤次がはじめているし。
うん、彼に任せちゃおう。たまには畑違いのことをする苦労を分かち合いたいしね」
「四凶刃の火鬼でございますか。それなら億に一つもないかと」
「だよねぇ~。というか億に一つなんてあったらギルドマスターは悪行の報いを受けるですまないかも」
「・・・おたわむれを」
「冗談だって。まあ下水に沈むくらいで終わりでしょ・・・・・灰となってね」
冷たく告げるイリスの瞳には自らが放った呪いにかかっている者たちの位置情報が光点となって映し出されていた。
イリスは静音詠唱によって呪文を舌で転がさなくとも術式を操れる。だがそれは魔術の声を放てないということではない。
≪光を攻撃魔術として放つことは不可≫
この重要機密はエサのついた釣り針であり、同時にヴァンパイアの牙に等しい呪いだ。
イリスにとって不利となるこの情報を【安易にネタバレ】で入手した敵連中は気づかぬうちに最底辺の眷属と化す。眷属と言ってもヴァンパイアのように魔物・従属化するほどのたいした効果はない。
ただちょっと魔眼の力を得る。≪実質、攻撃魔術は使えない≫という秘密をしゃべった時にそれを聞いた奴らも使い捨ての眷属とするだけだ。
有益な情報というエサを飲み込んだサカナはこの呪いから逃れられない。イリスがリスク付きの誓約で増強した言霊は、情報こそ武器と安直にのたまう知恵者を逃さない。
かくして最底辺の眷属にされたことに気づいていない。未来の光が閉ざされた悪徳ギルドを束ねていたモノは放置された。
とはいえ私の幻術分類は精神に干渉しません。それだと孤独な王様の力になる。チートな催眠・洗脳の魔術と混ざってしまうリスクがあります。
拡張景観・感覚惑わしの幻術を分類する。幻術に制限をかけて分類する場合、私は【景観】と【ダミー人形】に分けます。
天候を操ったり、転移魔術を使ったかのよう風景を次々と変化・塗り変える【景観】魔将軍の幻術。
分身や変装のように人物・個体の幻を操る【ダミー人形】なニンジャの幻術。
【景観】を舞台装置・壁画とするなら【ダミー】は彫刻・人形作りといった感じでしょうか。
ほぼ一方向からしか見られない景観・壁画タイプの幻術。全周囲から見られ、被術者によっては耳、鼻によっても見破ろうとされるダミー・彫刻タイプの幻術。
まずはこの幻術分類からはじめてみようと考えています。芸術のように幻術も分野を決めていけば安易なチートにならずレギュラー以外も使えると思うのです。




