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49.フォトン・シェード

幻術。それは魔術の鼻つまみモノ。少ない魔力で容易に敵を惑わす邪法に近いモノ。三流の手品師扱いされていると言っても過言ではない不人気な魔術です。

昔は妖怪やそれに近しい闘士が使うこともありましたが。昨今は主人公どころかレギュラー・敵役でもメイン能力で幻覚系の力を使うお話は目にしていません。せいぜい見破られることが当たり前の中の下な妖術。バカにする価値もないまやかしと化していないでしょうか。

悪徳都市ウァーテル。その中心部に至る大通りでの戦闘は終局を迎えようとしていた。


「援軍だ!援軍が来たぞ!」

「ようやくかよ。だがこれなら数で押し込んで・・・・・」


ウルカ、サキラのシャドウ二名を率いてイリスというカオスヴァルキリーが事実上、単独で突貫する。そんな英雄もどきの戦いにも変化が訪れる。

いつまでたってもたった三人の小娘を討ち取れない。そんな戦況に業を煮やした指揮官がなりふりかまわず人数をかき集めたのだ。


ウァーテルのいたるところでシャドウが暴れ回っているいるが、そんなことは関係ない。仮にも中心部の政庁を守ることが最重要と考えた。あるいはイリスの撃破こそが劣勢を打開する鍵と察したのだろうか。


そんなウァーテルの兵力に無情な宣告が下される。


「残念だけど時間切れ。ボクの魔術が完成したよ」


静音詠唱。舌で紡ぐ呪文ではなく、別の身体部位を動かすことによる信号の意思発露によって術式を編む魔術技能。身振り手振りの手話・舞踊で人が魔術を使用するのは別に珍しいことではない。


ちなみに光学情報に干渉するイリスが静音詠唱を発動させる時の身体部位は目蓋と眼球運動だ。これによりイリスは術式を展開しながらも四肢の動作・呼吸法のほとんど近接戦闘にふりわけられる。


「光がもたらす白き闇よ広がれ!『フォトンシェード』」


火力を伴う攻撃魔術の使用を禁じる誓約により放たれるイリスの魔術。それは陽光に作用する。人間が本来なら不可視の太陽光を可視化することで、黄色い普段の太陽光を一時的に視えなくした。


「何だこれはっ!見えない。何も見えないっ!」

「落ち着けっ!小賢しい生臭神官の目くらましだ。落ち着いて対処すればすぐに視界は回復する!」

「〈フラッシュ〉の魔術か。悪あがきをっ!」



「おおっ!冷静な判断だね。感心、感心」


余裕なセリフの響きに危機意識は皆無だった。片手間、奇襲の時間稼ぎにしか閃光の魔術を使ってこんかった先達と違い、イリスは視覚への干渉に特化したカオスヴァルキリーである。

【人間】の大魔導士ですらその術式を防ぐのは困難を極めるのだ。魔術、眼球の神秘を盗む欲望はあっても学ぶ気のない連中では永久にレジストなど不可能である。


そんなウァーテルの戦力に侮蔑の視線を一瞬投げかけたシャドウたち。彼女たちが主に視線を戻したわずかな間に、一時的に視えていた太陽光の輝きは霧散して本来の不可視光線に戻る。


「よし、これでっ!?」

「見えないっ!?まだ見えない。どうして見えない!?」


だが悪徳の住人たちの視覚は光のもたらす闇に覆われたままだった。


目つぶしと誤認されやすい魔術である『フォトンシェード』。

その狙いは偽・目つぶしの魔術に抗おう、視覚を回復しようとした被術者の眼球に『ライト・発光・灯』の最下級魔術を付与することだ。


イリスの技量・誓約つき魔術なら魔力のごり押しもできなくはない。だが万全を期してイリスは偽・目つぶしにより被術者に光の瞬きを求めさせる。そんな希求の経路によって魔術耐性がゼロどころかマイナスへとおちた連中の網膜に初歩の魔術をかけるのはイリスにとって容易なことだった。


「汚いぞっ!卑怯者めがっ!」

「女でも騎士なら剣を使え。その長剣は飾りかっ!」


威勢のいい怒鳴り声があちこちから放たれるものの、その響きはひたすら空しい。視覚という最重要の感覚を封じられ恐怖に怯えるゴロツキ兵など木偶の坊にも劣る。


「イダッ!?やめろぉ来るなぁ」

「うるせぇ下手に動くな。振り回したエモノがアだっ!?」


色が白かろうとそれは魔術の闇。視界が塞がれているだけでも恐怖なのに、それが未知の魔術であることが恐怖をあおる。加えてイリスたちが無力化された敵を放置するのか。


何よりトチ狂った奴らが武器をふるっただけで同士討ちによる血の海ができるという想像が暴力の住人達から精神力を削り取っていく。


「「・・・・・・・・・・・ッ」」

『二人とも!ここで奴らを脅かして同士討ちをさせたら丸腰の人を襲う賊と同じだよ』


発光信号による無音会話の術式フォトントーク。それを放ちつつイリスは最低限度の視界を確保できるようフォトンシェードを調整してやる。この状況で実力差を理解できない愚か者なら話し合いも難しいだろう。


その時は容赦なく切り捨てるのみだ。


「ここは通さん、通すものかぁ!」


へっぴり腰で大通りをふさごうとする巨漢。その叫びをしり目にイリスたちはウァーテル政庁に突入を開始した。




しかしそれはもったいないこと。宝石の鉱脈を放置するのも同然なファンタジーの損失でではないでしょうか。

理由は幻術が【芸術】の技・感性を生かせる魔術だからです。絵は現実をキャンバスに写し取ったもの。音楽は限られた時間のみ響くもので、幻術と同様に記憶から露と消える可能性があります。

それでも人を感動させ心に活力をもたらします。幻術にも同様のことができるのではないでしょうか。



もちろん闇討ち・詐術に使われマイナスイメージがつきまとっている。使用制限がゆるゆるで幻覚に被術者とらえれば好き放題できるなどという犯罪者が使っていれば幻術に未来はないでしょうが。

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