48.閑話 アクセルブレイカー~侍女シャドウ
幻想世界にチートは数あれど。孤独をもたらす王の力と併用が必須の神スキル。地雷のリスクがあるのにそれに気づかれないで乱用されている怖いスキルは何でしょう。
ヒントはアルテミスの神話にあります。
悪徳都市ウァーテル。その港。凶悪海賊たちの基地でたった一人の異能者が恐慌・殺戮の嵐を巻き起こそうとしていた。
彼女の名は扇奈・セティエール。シャドウたちを束ねる頭領・上忍の頂点であり。事実上シャドウたちを勇者の実力を持つまでに鍛え上げた生ける伝説だ。
その言葉は絶対であり、その意思はあらゆることに優先する。当然、その命は身を盾にして護るのがシャドウ全員の責務だ。
聖賢の主であるイリス様もそのことは認めており、自分より姫長である扇奈の安全を優先するよう内々に命じている。
そんな扇奈様の後ろ姿を不満そうに見つめている瞳が三組あった。
彼女たちの名はそれぞれアヤメ、カヤノにミヤホと言う。精鋭がそろえられた姫長の側仕えに所属する中でも【四凶刃】に近しい戦闘力を持つと言われる護衛担当のシャドウである。
「いったい姫長は何を考えておられる!」
「さあ、知らないわね」
「・・・・・・・・・・・」
側近にあるまじき不満のつぶやき。しかもそれは任務中の同僚に話かけたのではない。旋天属性という規格外であり風、音を解析し操る扇奈様に諫言することを狙って放たれたものだ。
その結果、扇奈様の勘気にふれて制裁されてもアヤメたちは本望である。シャドウのトップである扇奈様が海賊相手にその術技をふるうなど側近として到底、看過できることではないのだ。
アヤメたちとしては〈海の通り魔どもを皆殺しにせよ〉と命じられるのが最上。扇奈様が指揮してアヤメたちと共に海賊を殲滅するのが次点といったところか。
『愚か者たちよ!』
だが現状は扇奈様が矢面に立って海賊たちを挑発している。はっきりと悪意をもって海賊を愚弄し憎悪を一身に受ける未来を確定させようとしている。
それは好ましいことではなかった。外交・戦争は綺麗ごとではない。
いくら憎たらしい相手でも妥協点を見い出せるよう面子は立てねばならないのだ。にもかかわらず姫長である扇奈様が憎悪をあおっている理由は一つ。
「きっと海賊どもを一人たりとも生かして返す気がないのね!」
「・・・・・」
「聖賢の御方のために決まっているでしょうに」
「言ってみただけだ!そんなことはわかっている‼」
扇奈様が暴れる理由。それはバカな戦闘狂を演じ、それを主君であるイリス様に止めさせることだろう。そんな演出でイリス様のほうが賢くシャドウの姫長である自分より上だとアピールする。
扇奈様をトップにと望むシャドウたちの声を鎮めることが狙いだろう。多少、派手な能力を持っているからといって、お気楽に手柄を立てればいいというものではない。真に忠誠を誓うなら主を立てることは重要だ。
自己満足や傲慢の感情を一切排除して。未来の破滅を回避するため必死に謀って、太陽が誰かということを宣伝するのが扇奈様の忠誠なのだろう。競技で優越感まじりに手抜きをするのとは異なる。
「で、私たちがこの連中の相手をしなければならないと」
桟橋への道をふさぐように陣取るアヤメたち。その中央に位置するカヤノに何かが激突する。
事前の情報収集が正しければソレは悪徳都市の中でも精鋭に位置する存在。シーフブレイバーたちが加速して襲撃をかけてきたといったところだろうか。
ソレは一瞬でカヤノたちの陣に肉薄し、身体強化による機動性を生かした一撃を放ってきた。
『旋風閃』という身体強化を使うシャドウの中でも上の下に位置する側近シャドウ三名の陣形に対して突撃をかける。それは精鋭シーフたちの常勝パターンであり、アヤカたちにとっては愚かで無謀な突撃だった。
「『旋風閃』発ど」
中央に陣取るカヤノが半歩だけ体をずらして身体強化を発動する。すると瞬時にシーフブレイバーが現れカヤノに加速からおおいかぶさるように体当たりを仕掛けた。
「う。フッ!ハァッ!」
「バッ!グッ、ハガァ!?」
否、カヤノによって下手くそな体当たりをするよう誘導された。加速しながらの進路変更ができないタイミングを見切って、カヤノは移動ルートの中央に半歩、身体をずらす。
その後、旋風閃を発動すれば上昇した防御力によって即席の障害物が完成だ。そんな障害物と化したカヤノにおおいかぶさって腹部を激突・自爆させたシーフブレイバーは肘打ち、突き上げの追撃をくらい宙を舞う。
加速能力は無敵能力ではない。高性能の鎧をまとったライドマスクでさえ怪物の外皮を削るように攻撃して、〈体勢を崩してから〉必殺レッグをたたきこむ。何故か?
「機動・挙動が見え見えなのよ。だったらまともにスピード勝負をする必要もない。
少しばかり防御を高めて移動線の中央に立っていれば、軽い突撃など自滅させられる」
答えは惨めな自爆を避けるためだ。
加速で攻撃力を上げても一撃必殺の保証などない。
しかし高速戦闘は羽虫とツバメの狩りではないし、雑兵と重騎士の突撃と同じ結果になるとは限らない。同程度の身長、体重で一撃必殺など夢のまた夢。丸腰と剣で武装しているくらいの実力差がなければそんな奇跡は起こらないのだ。
「まあ闇討ち専門のゴロツキ盗賊にこんなことを言っても無駄だろうけど。
その加速重視の身体強化を行う者同士での模擬戦闘。あるいはスピードに対応できる格上の技量を持つ御方と何回、戦った経験があるのかしら?」
暗殺者にとって情報の秘匿は最重要の必須事項だ。正体がわからなければ不意をつく殺しの成功率も上がる。だがそれは正体不明なモンスターの強さに終わるリスクをはらむ。情報の隠蔽に終始してしまい成長の機会を放棄した魔物と化すのだ。
迷宮攻略ができる成長していく勇士にはまったく通用しない。そんな絶望が口を開けているとも言える。
「バカなっ!」「・・・・・!!」
そんな現実を認められないシーフブレイバーたち。プライドと恐怖で顔を歪ませた連中は連携を試みてくる。だが限られた桟橋への道でその手札は限られており。
何より旋風閃の指導を行っている側近シャドウたちにとって連中の技量は見習いにも劣っていた。
カヤノは憐れなシーフたちの移動ルート、視界の真ん中にそれぞれ投げナイフを放る。とたんに急停止を試みる者、回避を行おうとうするのはシーフの性か。
この状況で有用な決死の突撃を仕掛けてくる者は皆無だった。扇奈様の背後を守らなければならないカヤノたちにとって覚悟の突貫こそ厄介なのに。
そんな益体もないことを考えながらカヤノは旋風閃による疾走に入る。
その一閃は無理な制動で瞬きの間、停止した賊二人を瞬時に切り裂いた。
職人や感知能力チートが好きなかた。某、忍者大戦の大ファンで眼力にこだわりがあるかたは読み飛ばしてください。不快な思いをします。広い心で小者の戯言とお許しいただける方のみお読みください。
精神操作との併用が必須の危険な能力。それは【鑑定】スキルです。
鑑定で女性たちの個人情報を看破した場合。鑑定スキルの持ち主は女神の制裁を受けるでしょう。アルテミスの裸を目の当たりにして自分の猟犬に喰い殺された狩人のように。まったく弁明を聞いてもらえなかった狩人のように。
「アイテムしか見れない」「接触しないと作用しない」
そんな言い訳が通じると思う人は危機意識が足りないでしょう。
「着衣のサイズを鑑定すれば」「音波で地形を把握するコウモリのように将来成長すれば」
こんな意見が出れば鑑定スキル持ちの人生は終了します。女性と女性の尻に敷かれているヒトと、女性の心を持つ全ての人々によって抹殺されます。
でも大丈夫。神サマの精神を操る能力は鑑定スキルの安全を説明してくれるに違いありません。材質を解析できるのだから当然サイ.....などということは断じてありません。
鑑定スキルの持ち主はお医者様や仕立て屋さんのように職業倫理に満ち溢れ悟りを開いたかただけなのです。おバカなボンボンが鑑定スキルを持つことなど世界の修正力が許しません。




