404.~閑話~黒霊と領主+炎熱の休日:アサシンコール
だいぶ”差別的”なことを書きます。気分を害される方は、読まないでください。
古代世界において、迷信・偏見が横行し。同時に神秘が人々の生活に、近しかったころ。
人間扱いして欲しくば、五体満足の健康であることが求められ。傷病などで、容姿にダメージが入るのは、死活問題だった。
下手をすると”神の加護を失った”みたいなことを、言われかねず。『権力者のカリスマ=優れた容姿・肉体』と、いう面もあったと愚考します。
さて、そんな時代に、いきなり『毛髪』が失われたら。
周囲は、どんなことを言ったでしょう?
黒霊騎士団がシグルスの街に襲来する、少し前のオハナシです。
辺境にあると言っていい、シグルスの街。
たいした産業もない街だが、平和でもなく。少ない利権を、子爵家の分家親族が奪い合っている、どうしようもなく小さい街であり。
そんなシグルスの街で、お飾りの領主を務めているのが、ザリウスという男だ。
顔も知らない父親の縁で、領主に祭り上げられ。
上は上級貴族から、下は屋敷の使用人にまで”下賤の血をひいている”と、侮られ続け。”お飾り”であり、シグルス子爵家の血を残す”種馬”として、ザリウスは飼われていた。
そんなザリウスに転機が訪れたのは、C.V.勢力の一つ黒霊騎士団が、襲来した時から。
〔とっとと降伏するしかないだろう〕
〔何を言う!貴方にはシグルス子爵家の誇りはないのか!〕
〔そんなもので、勝利できるなら苦労しない…
降伏しないなら、オマエらが決闘を挑め〕
〔野蛮なっ・・決闘などっ!〕
少ない利権を取り合いする、親族どもは口先だけな”貴族の誇り”をさえずり。
そいつらより頭は回り、力もあるのだろうが。庶子の新子爵を蔑みの目で見る、上級貴族に援軍を期待するほど、彼は愚かではない。
〔お初にお目にかかります、ザリウス子爵。
私たちは魔王様に仕える、黒霊騎士団と申します〕
〔魔王様の名に誓って、乱暴狼藉はいたしません。
こちらは些少でございますが、街に駐留する『お礼』でございます〕
〔それとも、ザリウス子爵は『武具』をお望みですか?
気に入ったものがあるのでしたら、お譲りしますが〕
その時のやり取りをザリウスは忘れられない。
見た目より重量のある『魔剣』を取り落とし、恥をかいたザリウスをフォローしてくれた。
一切、侮蔑することなく。面子を保ってくれた、黒霊騎士C.V.こそ真の『淑女』であり。
生活するのがやっとで、貴族の教育など受けていない。そんなザリウスに対し、『貴族の義務』を要求してくる。
利権を奪い、他人の面子を潰すことを、自らの誇りとする。合法的に立場の弱い者を抹殺するケダモノたちに、ザリウスは心底からうんざりしており。
〔黒霊騎士団にオレは降伏する。この魂を売り渡す、『契約』を結ぼう〕
〔あの…私たち黒霊騎士は闇属性のC.V.であって、『悪魔・魔人』の類ではないのですが…〕
〔だったらオレはハイムンド王国を裏切る。黒霊騎士団に内通して、オレの利益を追い求めよう〕
〔・●:●・そんなことをして、後悔しませんか?〕
その時、暗い目を向けるメリダ殿は、怒っていたのだろう。
純粋に武力を尊ぶ黒霊騎士団にとって、裏切りは”汚らわしいモノ”でしかなく。
誇り高い彼女たちからすれば、”裏切りを歓迎する、腹黒い女狐”と、見られるなど侮辱でしかない。
〔後悔などするものか・・どいつもこいつも、オレのことを”タダで都合よく動く駒”と、既に侮蔑している。そんな連中に恩などないから、”裏切り者”呼ばわりされたくないな。
オレは領主として、自分や領地の利益を第一に考えただけだ!〕
〔・ー:・それは、まあ…そうですけど〕
〔ああ、だけどオレの”裏切り”で、領民に被害が出ないように、フォローだけはお願いできるか?
仮にも領主として、まっとうな住民の生き血をすすりたくはないからな…〕
〔!…?・・それは、とても難しいことですね…〕
〔黒霊騎士団の武力なら、なんとかできると思うが…まあ、手間をかけてもらう分、オレへのメリットは削ってくれていい。払えるかぎりの代価は払う〕
そんなザリウスの話しを聞き。メリダ殿は平静を装いつつも、目の色が変わり。
〔そうですね…騎士団の幹部に、話だけは伝えてみましょう。
ですが、”裏切り”が認められなかった場合、ザリウス様には大きな代償を払ってもらう。ハイムンド王国との外交ネタに、使い潰しますが…〕
その程度のリスクなら、ザリウスは裏切りを申し出た時点で、考えている。
そもそも”盗賊ギルドの活動”によって、ザリウスは家族を失っており。連中を野放しにする王国への忠誠など、最初から皆無だった。
最低限、うわべだけでもザリウスを貴族として、あつかっていたならば。貴族の社会に慣れて、マシな同僚とつきあえないか、待ってもよかったが。
〔黒霊騎士団を、シグルス領まで素通りさせて、知らんぷりしている。
そんな王国の権力者どもが、どうなろうと知ったことか〕
〔ザリウス様のお気持ちは、理解できなくもありません。
『後詰めをよこさない主君は、見捨ててかまわない』とも言いますし。
黒霊騎士団に所属する、7級闇属性C.V.のメリダ・フロートスの名において、ザリウス様と『契約』を結ばせていただきます〕
〔そいつはありがたい…〕
『裏切りがあれば、ザリウスだけが殺される』と、いう不公平な『契約』だが。
それでも”盗賊ギルド”に尻尾をふる、貴族どもの”二重基準”より、マシな内容の『契約』でさえあれば。
ザリウスにとって、充分に守る価値のある『契約』であり。
〔まずは『契約内容』の精査だな。ユングウィルに相談できればいいが…〕
そんな算段をしつつ、ザリウスは黒霊騎士団のご機嫌を取る、方法を考え始めた。
【魔王様】:その定義は様々ですが。黒霊騎士団が奉じる偉大なる魔王様は、『魔性の王様』であり。
生き血をすすり、真人間を餌食にするような、『悪法』を否定なさる【魔王様】です。
無論、考えなしに秩序を破壊したり、行政府を攻撃はしませんが。”二重基準”を振りかざす”寄生虫のルール”を、尊重するほど甘くはなく。
〔シグルスの街は、ハイムンド王国から見捨てられている。ならば有効活用できる、私たちに貸してもらいましょう〕
〔かしこまりました、シャルミナ団長!〕×5
こうして黒霊騎士団はシグルスの街に、堂々と駐留することになり。
『血統』しか自慢することのない…血筋を誇っているくせに、”盗賊ギルド”に尻尾をふるという。
無力ゆえに”二重基準”をふるう。そんな貴族ルールを無視して、黒霊騎士たちは活動することに、なったのですが。
〔『雑学』の紹介なら、『ギャップ』は楽しい笑い話ですが。
異文化・異種族間の『行き違い』は、血の雨がふる原因になります〕
〔それでいいのかしら?メリダ…
おそらくだけど30年ほどすぎれば、混成都市の重騎士たちから、黒騎士になる者が現れる。
急いでシグルスの街から選別しなくとも。貴女の伴侶は、重騎士殿の次代から選ぶべきではないかしら〕
〔それもけっこうなお話ですが。
私が求めるのは、心に闇をかかえた人間であり。同時に復讐に溺れることのない殿方・・・自らに不都合な『二重基準』を課している方です〕
庶子から突然、シグルス子爵に祭り上げられたザリウス様。
彼を”裏切り者”と罵る者は多く。実際、黒霊騎士の中にも、『兜』で不快な表情を隠す者は少なくありません。
〔しかし、この領域のモラル・医療事情の両面から考えて。庶子だった貴族が、ザリウス様お一人だけということはございません〕
〔確かにね・・・〕
跡継ぎの長男が産まれない、病死することなど、いくらでもあり。
そもそも権勢を誇る”盗賊ギルド”が、『跡継ぎ問題』を儲けの種にしない可能性は、ゼロだと断言できる。既にウァーテルの宰相、イセリナ様にも『契約』したうえで、この件の確認をとった。
〔そう考えると、ロクに教育も受けていない、庶子の方たちが貴族社会に、仮にも溶け込めている。その理由は”盗賊ギルドの傀儡”だからか。
『政務』をおろそかにして、『社交』に耽溺しているからでしょうか?〕
無論、社交に集中するのは、一つの戦略です。『他の貴族に甘く見られない』と、いうのは貴族に取って『強さ』と同義であり。貴族として最低限な『二本足で立つ行為』と、言えるかもしれません。
〔だけど、それで民草の生き血をすすったり。自分より新顔な貴族をつかまえて、嫌がらせにまい進する。
”それら”を正当化する理由にはなりませんし。
目こぼしをするとしたら、『怪物暴走』ぐらい圧倒できる、強者でないと話になりません〕
黒霊騎士団は『魔王軍』の武闘派であり、博愛集団とは真逆の存在です。
そして構成員は、シャルミナ団長を通じて魔王様に拾い上げられた、元人間も少なからずおり。その生い立ちから、”悪政・嫌がらせ”を極めて嫌悪しています。
だからと言って、正義の味方を気取るほど愚かではなく。
『魔王ハーミュルス様』に仕える軍団員として、作戦以外で武力をふるうことは許されません。
許可されるのは、魔王軍に利益をもたらす『作戦行動』だけであり。
〔ですから、『貴族の社交』よりも民草の生活を重視して、苦境に陥っている。
大半の者から攻撃されている、ザリウス様の境遇は、黒霊騎士団が動く大義名分になると考えます〕
〔そうね・・・ハイムンド王国の弱兵が、何をさえずろうと問題ではなく。
うるさいようなら、壊滅させればいいだけのこと〕
”略奪暴行”に無縁とはいえ、黒霊騎士団は魔王様に仕える一軍であり。魔王城の守備だけが、任務ではありません。
”略奪暴行”を是とする、文化圏を攻撃する。”盗賊ギルド”のように、弱肉強食を奨励して魔王城への侵入を企てる。そんな不穏分子を、軍団によって滅ぼす『戦争外交』を行い。
戦闘後の混乱を最小限に抑える。そのために必要な、『人材』を確保することも役目の一つです。
〔ザリウス殿が『契約』に誠実で、自らの戦場で戦い続けるならば…
魔王ハーミュルズ様の黒霊騎士、5級黒天属性シャルミナ・ヴァイ・ローヴェルの名において、その戦いを支援しましょう。
邪魔者は打倒するのみ・・この件は貴女に任せますわ〕
〔かしこまりました、シャルミナ団長!!〕
こうしていびつな『契約』が結ばれる。黒霊騎士団の意向が最優先であるも。
”二重基準”を蛇蝎のごとく嫌悪している。メリダの主導によって、領主ザリウスへの支援が始まった。
世の中は『需要と供給』というものがある。
それは盗賊ギルドに属する、殺し屋稼業でも例外ではない。
少し前、悪徳都市が裏社会の中心だった。
奴隷の売買が盛んだった時は、『殺しの依頼』もそれに関連した内容であり。
『商品』を盗むなど、チンケな掟破りを行う者を制裁したり。
奴隷売買を妨害する者、奴隷候補を保護する偽善者など。他にも派手に奴隷狩りをやり過ぎて、奴隷市場に損失を出す者など、様々な連中を抹殺してきた。
しかし悪徳の都がC.V.勢力に落とされ。盗賊ギルドの流通・奴隷狩りをする山賊たちが、次々と討ち取られていき。
殺し屋への依頼も、大きく変化した。
昨今、殺しの依頼で多いのは、『お家騒動』に関することであり。
クズな跡取りを貴族当主にすえて、悪政を行わせ。苦しむ領民を借金漬けにして、奴隷落ちさせる。略奪ではなく、合法的に奴隷落ちを誘導する。
そのために知性の低いボンクラどもに『暗殺で面倒事は解決する』と、いう成功体験をさせ。
〔賢い貴族の特権によって、暗殺を依頼できる〕
〔平民は下賤だが、暗殺を行う裏社会は、特別扱いすべき〕
こういう思考誘導を行う布石を打つため。シュルツラたちは下級貴族たちからも、安い料金で依頼を受けつけ。
無駄にプライドの高い、貴族の自尊心をあおって、殺しの依頼を出させる。
ウァーテルの勢力圏から外れた地域で、そんな活動を行っていたのだが。
『血塗れた刃で、糧を得る悪法 夜の安息を、叫喚で引き裂く暗愚たちよ
武勲はなく、酒宴に招かれず 獲物を失う走狗とともに
砂上の水、虚飾の灯火をならべ 卑劣の狂宴に、破滅を誘え
アサシンコール!!』
「オオオォォーーーーー!!」×10
〔メイド服をまとった、ふざけた魔女を絶対に殺す!〕
そんな衝動に突き動かされ、シュルツラたちは黒髪のC.V.に殺到する。
〔この女を生かしていては、依頼を達成できない。嘲りの目で見下す奴は許すものか。C.V.の要人を殺せば、名声を得られる〕
様々な思考が渦巻き、殺し屋のプライドが〔絶対にコロセ〕と叫ぶ。
そんな計算・感情が併さり、狂戦士のごとき力を発揮して、シュルツラたちは刃を振り下ろし。
「刺客は滅せよ・・『ダークディバイス!』」
「ギy*:*ー;⁺…」×10
視界・意識が暗転する。何をされたか理解できずに、シュルツラたちは壊滅させられた。
ユングウィルと炎熱C.V.班5名がノーグ村を訪れ、開墾などのサポートを行いはじめ。約半月が過ぎて、彼らは貴重な休みを取っていた。
「それじゃあ、既に村で行っていて、改良したいこと。あるいは、新しく行いたいことなど。
思いつくことを自由に提案してくれ」
「かしこまりました、ユングウィル様!」×2
一応、〔会議を行うため、各種作業から外れる〕と、いう建前のある休みだが。
会議の進行役として、ユングウィルは部屋にこもり。炎熱C.V.班の5名は、交代でユングウィルの世話を、最優先で行う。
ユングウィルにとって、休憩が多い会議であり、初体験な休日だった。
ちなみに作付け・開墾を行っている忙しい時期に、農村で休みなどなく。
『依頼料の分割払い』『闘技場の経営』などに伴う、激務で忙殺されている。冒険者ギルドも『休み』をいつとれるのか、知れたものではない。
そんな中で、ユングウィルも無休の日々を、過ごすはずだったのだが。
〔休みをとらないと、かえって仕事の効率が悪いです〕
〔平時に休みがとれないなら、強硬策を取らせてもらいます〕
〔そもそも定期的な休みがとれないようでは。ハーレムで次代を育むことができません〕
全てのC.V.様による、凶悪・狂猛・凶暴・暴虐な『外交交渉』に、各機関が屈してしまい。
〔人材を活かし、仕事を効率化するには、適度な【休み】が必要ですw〕と、いう極メテ高度なセイジ的判断が下サレ。
当然、年中無休に近い従来の文化圏と、ほとんど強制的に休日が設けられた勢力とで、軋轢が発生したものの。
休日の取得を主導した、混成都市を敵に回せる、勢力などあるはずなく。
ユングウィルは、いたいけな村人たちを怯えさせないため。建前をふりかざして一日休みを取って、宿泊している村長の屋敷にこもり。
午前中はメイガスメイド2人と、会議を装った雑談に興じていた。
〔とにかく、自由に意見を言えるよう。意見の不採用は、後日に伝えよう〕
1)作業を行う『筋力』を上げる、『攻撃力アップの身体強化』を村人に教える
2)釜戸・調理器具の性能を上げる、『魔術陣』を調理場に描く。
3)ノーグ村の発展を、周辺の村にも広く知らせ、ギルドの広報を行う。
ここら辺は、命に関わる『維持コスト』がかかるから、意見を却下した。
炎熱C.V.班が村に常駐し、ユングウィルが領主の権限を持っている・・・というならともかく。
農繁期しか滞在しない、ユングウィルたちが去った後に、何かあったら取り返しがつかない。
付け焼き刃の『身体強化』で、気まで大きくなった奴が、暴力沙汰を起こす。『魔術陣』の術理を奪うべく、邪法使いが襲来する。他にも急速に発展したノーグ村に対し、”嫉妬”をいだく者が現れるかもしれず。
ノーグ村に劇的な変化をもたらすのは、これ以上よろしくない。(開墾地を急激に広げておいて、今さらだが)
「でしたら、ユングウィル様^・^こちらの元気が出る『錬金やk
「絶対にダメだ!!」
フルルの錬金薬は論外だ。単体での効果も厄介だが、食後の食い合わせで騒動が発生したこともあり。はっきり言って、トラブルの予感しかしない。
そんなユングウィルに対し、フルルは猫なで声を発し。
「『錬金薬』がダメならぁ~、こっちの元気が出る『ワンDォ
『ヒートナックルっ・』
相方の提案に対し、フリスが激しめの突っ込みを行う。
『ムチ』に似たそれは、どことなく『獣の尾』に似ていたが。
フレイシアが席を外した時を狙って出され。まじめなフリスが『仮にも術式』を使ったことから考えて、詮索しない方がいい案件なのだろう。
「ちょっと、フリスっ!イタっ、痛いから・・」
「痛くしているのだから、当然ね。ジョークが通じる案件か、よく考えなさい」
メイガスメイド2人が道化を演じることに伴い、会議は長時間の休憩に入る。
そんな時間の浪費をしつつ、ユングウィルの休日は過ぎていった。
ノーグ村の村長ロイクにとって、村の維持・発展こそ至上命題であり。
そのためなら、グレーな行為にも手を染める。自らも含めた、村人一人を犠牲にしてでも、村全体の存続こそが最優先だ。
「会議ですと?・・・この朝から?」
「ええ、状況にあわせて、当初の計画を修正する。
これは作戦行動を行うにあたって、重要なことよ」
そんな村長ロイクにとって、火炎C.V.様の言葉は、理解に苦しむ内容だった。
慰安旅行に来たならともかく。フレイシア様たちは『外交』のため、ノーグ村を訪れた。
そうして村中を見回り、いくつか知識をもたらし。『魔術』によって開墾を行い、次男以下の者たちに土地を与えた。
それらはノーグ村に利益をもたらすのと同時に、村の秩序を乱す行為であり。
村長のロイクとしては、出来の悪い跡継ぎをなだめたり。次男たちが調子に乗らないよう、にらみをきかせるなど。
農繁期であることも含め、村人の調整を行う、激務の日々だった。
本音を言えば『冒険者ギルドへ払う、依頼料を分割払いにする』と、いう事実上の『借金』をかかえていなければ。
ユングウィル様たちから利益を引き出すため、ぎりぎりの交渉を行いたかったのだが・・・・・
『フレイムバイザー set up●―●バーンアクス!!』
『フレイムバイザー set up●―●クリムゾンアロー!』
冒険者ギルドの魔術戦士お二人が、『火の魔術』を発動する。
魔術を知らないロイクでも、情念を察せられる。派手な炎は出ないのに、大木が切り倒される、恐ろしい『魔術』が使われ。『熊・猪』の脳天が正確に射抜かれ、巨体を地面に横たえる。
「そろそろ会議の時間ですから。こちらの『大木』の処置を、ロイク村長にお願いします」
「獲物の毛皮を、火だるまにする『高火力』は改善した…
とはいえ、血抜きはできていない。ぜひ、村長の采配で解体の見本を見せてください」
「・・・・-…・」
〔村の代表として、会議に参加させろ!〕などと、言える雰囲気ではなかった。
下手に会議への参加を求めたりすれば。大木・獲物に向けられた二つの『魔術』が、ロイクの方へ放たれかねない。
万が一の可能性とはいえ。彼女たちの『魔術』は、ロイクの心身を硬直させる、充分な威力があり。
「今夜は肉を食べれる。御馳走だね!」
「干し肉を作る分は残さないと」
村人たちの楽し気な声が、遠くに聞こえる。
それからロイクは村人たちに、平静を装いつつ指示を出し始めた。
ネタバレ説明:『アサシンコール』
『アサシンチャーム』『殺人者への魅了』『スライドターゲット』とも呼ばれ。
別名が多く、使用するC.V.も多い、『精神干渉』の魔術能力であり。
『催眠誘導』とは段違いに、強力な精神操作を行います。
効果は刺客の標的を、護衛対象から『術者』へと、移行させる。
『盾役・タンクが敵の攻撃を引き付ける』のをアレンジして、刺客のターゲットを『アサシンコールを発動した術者』に変えてしまいます。
なお発動には4つの条件のうち、1)2)は必須であり。
『アサシンコール』の効果を十全に活かすには、全ての条件を満たさなければなりません。
その条件は以下の通りであり…
1)『アサシンコール』で精神を操る被術者は、平時に報酬・欲望で動く『刺客・殺人鬼』限定とする。正当な宣戦布告がなされた戦時に、騎士・兵士が襲い掛かって来ても発動できない。
2)『アサシンコール』によって、守るべき護衛対象を最低限、知っている必要がある。見ず知らず、通りすがりの他人を守るため、『アサシンコール』は使用できない。
3)正体・実力や所属組織など、刺客・殺人鬼の情報を知っているほど。『アサシンコール』の射程・強制力など、効力が増強される。
4)あるいは『アサシンコール』を使う『術者の情報』が、刺客や護衛対象に知れ渡っているほど。精神干渉による、『標的を変える理由』の説得力が上がる。
・・・以上の4つになります。
ep.396の『キラーゲーム』を覚えている方は、気付いたかもしれませんが。
もともと『アサシンコール』は、『刺客への特効能力』を持つ『魔導能力』の一部でした。
しかしアサシンの手練手管が、あまりにも多岐にわたり。
『感知能力』が不得手なうえに、攻撃特化で『護衛任務』に向いていない。そんな黒霊騎士団が、アサシン対策を早急に行うため。
『魔導能力』の多様さを捨てて。『敵の攻撃を誘引する』『精神操作で標的を変えてしまう』ことに集中して、平時の刺客対策を行う。
それが『アサシンコール』という魔術能力の正体です。
これだけだと『タンクの挑発を、刺客限定で行う』『標的を殺す前に、護衛の術者を倒さなければ』と、いう『催眠誘導』を行ったにすぎない。
多少、刺客たちが『攻撃偏重』になるとはいえ。『精神干渉』と言うほど、強力ではないのですが。
『ターゲットを術者へ移行する精神干渉の効果』は直接、襲いかかった刺客だけでなく。
『アサシンコールを使った術者の情報』を調べて知った、組織・依頼人にまで感染していく。
ゾンビ・ヴァンパイアの犠牲者が、ゾンビ・下位ヴァンパイアと化してしまう。ウィルスに感染した人間が、ゾンビになるように。
『アサシンコールの術者に関する情報』と、いう言霊も大勢に広がっていき。
組織全体で、『標的』を術者の黒霊騎士へと変えてしまう。弱い標的を襲うのを、後回しにさせる『精神干渉』を行います。
ちなみに術者を殺せば、『アサシンコール』は解除されますが。
攻防に優れた黒霊騎士たちに、軽い『バーサク状態』で力攻めを行う。英雄ならともかく、人間の刺客では自殺行為に等しく。
そもそも刺客を倒すのに、実戦集団の黒霊騎士は一対一で戦ったりしません。
待ち伏せして、確実かつ容赦なく包囲殲滅します。
実際のところ、黒霊騎士の術者が『殺し屋組織』の情報を得るには、同盟者からの協力が必要になり。
あるいは刺客の一人を撤退させて、言霊を広めても。刺客のチームに『アサシンコール』をかけるのが、せいぜいですが。
黒霊騎士団にとって、隙が多い『平時』をカバーする。
あるいは尊敬する姉貴分のプライベートを騒がせる、連中を徹底的に殲滅する。
そんな風に運用をしぼるなら。
黒霊騎士の戦闘力で、迎撃の難易度を下げれるならば。『アサシンコール』は、有用な魔術能力です。
『病』・”毒”や頭への衝撃など。
加齢以外の理由で、頭髪が失われることは、いくらでもあり。
それを”神の加護を失った”などと、”誹謗中傷”する。迷信に権力争いなど、様々な理由でソレをやらかすリスクは、『古代世界』で高かったと愚考します。
さて、そうなったら二つ選択があり。
一つは髪を剃って、信仰の道を進む。神官などになって、堂々とスキンヘッドになる。
もう一つの手段として、『髪の豊かな神格』にお祈りする。
『毛生え薬』など、現代科学でも永遠の研究対象ですから。神秘の時代に、神にすがるのは当然のことであり。多神教ならば、『髪の豊かな神様』に祈る。
『美の神』『植物を司る神』『生命力の強いとされる神』にすがり。
その神格の一つが『メドゥーサ』や『ゴルゴン三姉妹』だったのかな~・・・と、愚考します。
別に人喰いなど、悪事をしてないのに、戦士たちが『メドゥーサ』に襲い掛かってきたり。複数の神々がペルセウスに協力してまで、討伐を行おうとする。
コメディネタとしてなら、『髪をめぐる争い』の可能性もある・・・のかも?




