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4.アルゴスゴールド 1

 『アルゴス』ギリシャ神話に登場する全身が目で覆われている怪奇巨人です。『エキドナ』という魔女怪物を退治した。『ヘルメス神』に殺されたなどの伝承がありますが、一番の神秘は『女神ヘラ』に仕えていたことでしょう。


 自分の息子である『鍛冶神ヘパイストス』を“醜い”という理由で捨てた『女神ヘラ』。そんな女神が下手な怪物より、はるかに不気味な巨人『アルゴス』を配下にしている。


 よほど使える部下だったのでしょう。そしてその能力は断じて『不眠』などではありません。その程度なら、複数の人員を交代させればよいだけの話です。

 「お前ら!!何をしている!さっさとこのアマたちを殺せっ!」


 動揺から立ち直った男の震え声が正門の前に響く。その言葉に目の前の神秘にのまれていた門番たちが動き出した。

 「死ねェ、オラァァ!!!」「「眼前の敵を撃ち貫く光弾よっ!」」


 その光景は奇妙なモノだった。門番とは名ばかりの暴力集団が女性二人に襲いかかる。


 しかしその後方から援護する魔術師の詠唱は統制のとれたものであり。間違いなく実戦経験があるのだろう。悪徳都市ウァーテルの入口ともなれば物騒な目的の来訪者もあり得る。彼らを阻止してきた連中は間違いなく精鋭であり、普通の町にはありえない戦闘集団だった。


 「だから無駄だと言っているでしょう。『術式干渉アルゴスゴールド』~射撃角度」


 「「ッ!?・・・!!」」「ガッ!?ギャァーー!!!」


 そんな戦闘集団が蹂躙されていく。魔術による支援攻撃が前衛の背中を誤射して、混乱に陥った集団へ、軽装騎士の装備をまとったイリスが突撃していく。今だその手には短剣しか握られていない。


 だが文字どおり半壊した集団には過剰な武装だった。かろうじて立っていた兵士に容赦なく短剣をふるい、そのまま後衛の魔術師たちに肉薄する。


 「バカなっ、ウソだっ!」「違う、オレは確かにこの女を狙ってうっ!?」


 混乱した魔術師はまだマシなのかもしれない。攻撃魔術を最悪の形で乗っ取られ、実戦で初の誤射をやらかした魔術師たちは精神に失調をきたしかけていた。そんな無力な存在をイリスは一切の慈悲なく短剣の錆にしていく。


 「やめろっ!そいつらに戦う力はない。降参する。だからやめてくれっ」


 開戦の使者から殲滅者の本性を現したイリスに悲痛な声が放たれる。その声を発したのは倒れふしたバルムだった。ダメージがぬけていない体を必死にはいずらせ、殺戮の場に近づこうとする。その自殺行為はとりあえず門番たちの全滅を制止した。


 あくまで「とりあえず」だが。


 「そうは言ってもね。開戦の使者であるボクを彼らは問答無用で殺そうとした。それに対し火の粉をはらおうが無礼討ちをしようがボクの勝手でしょう」


 「私たちでございます。マスター。このようなモノたちマスターのお手を煩わせる価値のある戦士ではございません。私にお申し付けくだされば然るべき“処置”をいたしましたものを」


 そう告げるイリスと扇奈の声に気負いはない。戦闘に伴う闘志。集団を圧倒した高揚すら皆無のやり取りは二人の実力を如実に示していた。


 「そうはいかないよ扇奈。ここでチカラを示しておかないと、帰り道どころかこの町を治めるときにまで無駄な抵抗が続く。そういうわけでここはカオスヴァルキリー(C.V.)のボクに任せてくれないかな」


 「そういうことなら仕方がないですね。今回は側近として、見守り役に役に徹しましょう」


 「なめるなっ!!『ゾーン・ブレイズ』」


 戦闘中にのんきな会話を始める主従に怒声と『業火』が襲いかかる。その炎は広範囲魔術であり、少し射線を曲げられた程度では回避できない中級の術式だ。


 「戦友をまきこむ範囲術式を放つなんてひどいことするね。『アルゴス・ゴールド』~発動箇所」


 「ッ!!!!ッ!?」


 とたんに魔術の炎は術者を巻き込んで発動する。見習い魔術師なら時折やらかす術の暴走・自爆が、熟練の魔術師を襲う。それを横目に、術の暴走を引き起こした元凶のイリスは穏やかにバルムに話かけた。


 「せっかく君が降参したのに残念だったね。でもああして戦闘の意志を示した以上、ボクの迎撃は正当防衛となる。ああ自滅したんだからボクの迎撃じゃないか」


 「もちろんですナスター。そもそもこの町ウァーテルに正当防衛などという法はございません。愚か者のザコが助命のチャンスを棒に振った。ただそれだけでございます」


 「・・・・・」


 そう告げる魔女二人の前で門番たちは生きながら松明と化していく。その凄惨な光景と、冷たい視線はこれが処刑であることを雄弁に語っていた。


 「何故だ!実力差は明白。あんたたちの戦闘力なら、ここまでしなくとも押し通れただろう。なんでここまでする必要がある!!」


 「それは使者であるマスターに手を出したから仕方なく・・・・・」


 「建前はいいよ扇奈。彼が聞きたいのはそんなことじゃないでしょう。これは報復。C.V.として同族の仕返しをしたんだよ」


 「同族の仕返しだと!?」


 「そっ。このウァーテルに来たC.V.で少なくない人数が永久に行方不明になっている。調べてみたところ、この門番たちが人買いに誘導していたとのこと。だから身を守ることを理由に復讐をしただけよ」


 軽い口調でに真実を垂れ流すイリス。だがその内容は明白な宣戦と処刑の布告であった。


 『そんなことが許されるはずがない』というセリフをバルムは飲み込む。この世界の法は力あるものが決める。特に悪徳都市ウァーテルはその見本だ。ならばより強い力にルールを変えられるのも必然だろう。


 『マヌケは売り飛ばされる』が『弱い人買い連中は惨めに殺される』に変わったのだ。

 

 アルゴス・ゴールドの説明は次回に。

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