392.閑話~微風と闇猫+下級シャドウの厄日:ブラックゲーム
『タラスク』という邪竜がいます。聖人伝説に登場する、フランスの川・沼沢に出現する、異形の竜であり。
亀の甲羅を背負い、6脚の熊足、ライオンの頭を持つ。
爬虫類の部位が『亀の甲羅』だけという、魔獣っぽい『ドラゴン』です。
出身地域では、『お祭り』の出し物に登場しており。あまり厳しいツッコミは、やめたほうがいい『竜魔獣』だと愚考します。
そのため、これ以降は幻想・学説を割り切れる人だけ、お読みください。
『竜の原型は、自然災害です』と、いう風情のないことを書きますし。
『タラスク』の能力に関連して、『排泄物』のことも、容赦なく書きます。食事中・前の人は、読まないほうがいい内容です。
C.V.様も含め、この世には魔術・物理戦闘の両方をこなしたり。相乗させて理不尽な力を発揮する者が少なくない。
そういう多彩な力をふるう者たちにとって、能力の『比率』は重要なこと。常に頭を悩ませる、懸案事項だ。
遠近・力と速さ・多対一と一対一のどれを重視すべきか。『奇襲』を行うべきか、軽快するのか?戦場での戦い、平時からの備え、どちらにコストを割くべきか。個の強さ・集団戦での勝利、どちらを重視して克服するか、訓練メニューを立てるだけでも難しく。
多彩な力をふるえるのは〔手札が多い〕と、安直に喜べるものではない。
『たくさんの手札』をそろえ、迷いなく行使できる者こそ、『勇者』と呼ばれる存在なのだろう。
「シャっ…」
「:‐/・~」
そんな益体もないことを思考しつつ、侍女頭のアヤメはC.V.リアベル様の閃手をさばいていた。
〔身体能力では向こうが上っ!『術式・武術』は同系統…!〕
「どうしました…?互いに『感知能力』に秀でた者どうし。
五感を研ぎ澄まし、惑わし・・・理合いを競う…『ブラックシャドー!!』」
『旋風閃!!,!』
速さはアヤメが上だが、圧倒できるほどの差ではなく。感知能力ではリアベル様が経験・能力のどちらでも上だった。
所詮、アヤメの『感知戦闘』は、感覚の鈍い”賊”を相手にしてきた、我流の術理にすぎず。たまにモンスターと戦うこともあるが、奴らは血の匂い引き寄せられる本能に抗えない。程度の差こそあれ、アヤメの敵ではなかった。
「『せんぷう閃影』…を、もっと見せてもらいたい。
だけど効果がないと見切りをつける。さすがはタクマ様の姉貴分です…」
『視覚(と味覚)』を除く、『他の感覚器官』が察知する成分を束ね、『魔力の影』と化す。『魔力の影』なのは一目瞭然だが、なまじ気配感知ができる者は、その分身を無視できず。
『魔力の影』に感覚・集中力を割いて、本体との攻防に、敵を対応できなくしてしまう。それが『旋風閃影』の術理だが。
「いきます…『ブラックシャドー!!』」
「//・ー―:‥!」
ゆらいで、本体と重なるように、リアベル様の『影』が這い寄ってくる。それは『アヤメの影』を喰らいつくす、『魔力量』が込められており。同時に訓練・実戦で積み重ねられた、流れと重みがあった。
〔同系統の術では勝てないっ・・何より…〕
「・・・・・+:⁺…///・」
獲物を狩る『猫の瞳』が、焦点を合わせようとゆらぐ。
ただし、その視線はアヤメのほうを向いておらず。『旋風閃』で走った軌跡を追っており。
「チィ…
『空を翔けし速き刃よ 翼をたたみ臥竜となり
咆哮よりも広く響き 牙より多く、脚を引き裂く
禍と蹂躙の旋律を 螺旋の台地で、疾くつま弾け 双竜爪閃!!!』」
「やるっ…ならば、私も・・・
『牙より柔らかなる、暗影の爪 飢えて渇いた牙は、水と火で潤う
されど胸腔の灰色は染まらず 氷雪の大地に埋もれることなく
金の瞳は影に隠れ、月夜に輝き
昏き稜線に沈むことなく、無形の境界を進め…
ブラックゲーム!!/!』
アヤメとリアベル二人の魔力が交錯し、感知能力が本格的な駆け引きを始める。
そうして『模擬戦闘』は、次の段階に移行した。
混成都市ウァーテルという、大陸の交通・経済網を仕切る要衝がある。
かつては恵まれた立地に依存し、”盗賊ギルド”の跳梁を許していた。
そんな商都は聖賢の御方様の治世によって、大陸中の富を増大させる黄金の都市と成り。
”山賊”を駆逐し、”詐欺”を許さず。”害悪”を警戒する『コスト』を、商品の品質・価格に反映させた。
さらにのろまで鈍い”賊”の反撃を許さず。水源に毒を放り込まれたら、下手人にはどこかの水を薄めてから、たらふく飲ませ。”放火”を企てた不届き者は、組織の拠点を火攻めにした後に、しかるべき刑に処す。
ある程度は『富・チャンス』を分配して、公平感のある裁判を行いつつも。
戦争種族C.V.様に仕えるシャドウ一族として、敵対する連中には容赦のない制裁を行う。
それらを指揮する、優秀な上司を持ち。強大な勢力に属して、偉大な主君にお仕えしている。
下級シャドウのフォルカは、かつての”過ち”を忘れそうになる、恵まれた兵として働いていた。
今朝までは…
「*:⁉-;・拝謁の栄を賜り、恐悦至極に存じます^…:」
メイドC.V.様に案内され入室した隠し部屋の中で、フォルカは床に頭をこすりつける。
そこにいらっしゃられたのは、混成都市を支配する、絶対の存在であり。
聖賢の御方イリス・レーベロア様。
金輝の宰相イセリナ・ルベイリー様。
そして機嫌が悪いことを隠そうともしない、姫長の扇奈・セティエール様たちが、それぞれ円卓の席につき。
その円卓に『空席』が設けられてることに、フォルカは心底から恐怖した。
「ヤッホー、フォルカ君。今日は突然、呼び出して悪かったね。
だけどボクたちは女の子ばかりでしょう?男性の視点からも意見を聞きたくて、ちょっと来てもらったの。遠慮なく、思ったことを言ってね」
〔ゼッタイに無理でございますぅーーー・;〕
フォルカは即座に胸中で泣きわめく。それを起点にして『自己暗示』をかけ、『思考加速』を発動させ。保身の受け答えをする、最大限の準備を整えた。
そうして無難な返事を行うべく、口を開き。
「『姉上は意見を求めた』・・・余計なことを考えず、遠慮のない意見を述べるように」
「『無論、一族の名を汚さぬよう』・・・他者を誹謗中傷しない、建設的な意見を言うように」
「-;・:+`…・かしこまりました」
狭い隠し部屋で、強力な『術式』が飛びかう。同盟を組んでる姫長様、イセリナ様の間で視線が火花を散らし。
何らかの『術式』が飛びかってることを察するが、フォルカごときに対抗手段などあるはずなく。
哀れな下級シャドウは、破滅の予感にさいなまれた。
そんな家臣たちの様子を気にすることなく、聖賢の御方様が口を開く。
「いくつか尋ねたいことが、あるんだけど。
まずフォルカ君は、どんな娘さんが好みかな?」
「っ!*;」
「『高い魔力』を持つ子・・家事が得意な子・・・
面食いで〔金髪じゃないとヤダぁー〕とか、好みを教えてくれないかな?」
「・・~:・そうでございますねぇ…」
主君の問いに即答せず、フォルカは悲鳴を呑み込む。
友人どうしなら、思春期の雑談だが。高位の女性で主君で、『多重婚』を推奨する御方の質問では、恐怖しかない。
1)『高い魔力』持つC.V.様が好き→C.V.様の種馬墓場に直行
2)家事が得意な子→イセリナ様が後見するメイドC.V.様に、お持ち帰り
3)面食いで〔金髪・・・以下略→眼前にいらっしゃる光属性の金髪C.V.様お二人に、”劣情”をいだいた謀反人として処刑
フォルカは瞬時に『異性の好み』を思い浮かべようとするも、お先真っ暗な未来ばかり連想してしまい。
そんな不甲斐ない配下に、姫長が助け舟を出してくださる。
「どうせ貴様らのことだ。女人ならば誰でもいい・・もしくは男同士の付き合いが楽しい、悪ガキのままなのだろう?」
「・・・姫長の仰る通りでございます」
〔ただし原因の一端は女シャドウにあります。ちょっと娼館に行っても、お酌をしてもらっても。『匂い』を解析して全部、見透かしてしまう。
気の休まるときがねぇ…〕
ちなみに男性シャドウに課せられた、『鉄の掟』は『異性への感知・解析を禁ずる』と、なっている。それで”女の賊”を逃がせば〔色香に迷った〕と、締め上げられるのは理不尽ではなかろうか・・・・・とは口が裂けても言えないが。
「それはよかった。
だが口さがない”連中”は、”一族の女が蔑ろにされている”などと、盛んにさえずっているのよ」
「Hュ*…」
言の葉を耳にした、フォルカの顔面から冷や汗が消失する。恐怖で汗腺が閉じ、無駄な呼吸法で汗が霧散するも。事態は一切、さっぱり、全く解決することなく。
「”幼馴染とは結ばれない”と、いう俗説が広がり。続けて”女シャドウはサディストばかり”という陰口をたたかれ。
ふざけた”流言”を抹消しようと、勝負に出れば。”助けた乙女が、ご恩返しに来ました”と、いう有り様で【覚悟】が空振りする。
この”惨状”を、男たちは、どう思っている?」
「それはっ…*;⁺・」
「「・・・・・:・」」
フォルカは姫長様に、言い訳を述べたい。〔オレのせいじゃないです!〕と、恥も外聞もなく泣いて、慈悲を乞いたかった。
しかしイリス様、イセリナ様たちの眼前で、それを行う度胸はなく。
そもそも『言い訳』のセリフを考えるのに必要な、思考が回らない。〔蛇に睨まれた蛙〕に等しい、有り様だった。
そんなフォルカに対し、救いの手が差し伸べられる。
「・・・仕方のない奴だ。貴公にとって、女性関係は手に余るのか?」
「・:・-・:・」
混成都市の宰相、イセリナ様がフォルカに話しかけてこられる。
少し蔑みの色があるが、この場で漢の意地を見せても、百害あって一利なしというもの。
「ならば小姓のように、要人たちの間を飛び回るダケに等しい。
荒事の無い、簡単な閑職に就くか?出世は望めないが、10倍の報酬を約束しよう」
「・・・‘‥`・…・」
憧れていた『文官』としての任務だろうか。重騎士たちのように、文武両道をこなす役職に就く。危険な前線・未知の魔境から退いて、日々の決まった仕事をこなす。
それはフォルカの望むものであり。
「もう一つは貴族家の乗っ取り任務よ。
戦場に出てこない連中は、間接的な殺害は”賢い陰謀”と、胸を張り。こちらが武力・賭け事で破滅させると、理屈をこねまわして騒ぐ。
そこで奴らの流儀にあわせて、貴族の位を買い取り、乗っ取る。貴族どものルールに従い、権力争いでビパス子爵という”愚か者”を敗北させる。
かなり長期なうえ、援軍も遅れない。敵地で孤立無援になる、面倒な任務だが・・・無論、こちらは…」
「滅相もございません!!
フォルカ・光実、喜んで貴族家乗っ取りの任に就かせていただきます!」
「だが、それは貴族のマナーなど学ぶことが…」
「貴族どもの礼法・歴史に諸芸・・・たくさんあっても、無能が就ける『位』など困難のうちに入りません!
一命を賭して、任務を成し遂げて、ご覧に入れます‼」
「・・・10倍の報酬が欲しくはないの?」
「「・・・・:…」」
事実上、お三方からの問いかけに対し、フォルカは笑顔を返し。
「いえ、まったく」
「・・・^:^・」
「「・・・-・」」
こうしてフォルカは隠し部屋から退出した。
ネタバレ説明:『ブラックゲーム』について
正式な名称は『ブラックシーカーゲーム』という、『感知系』の魔導能力です。
主にリアベルの『爪』で対象に傷をつけ。その傷を『目印・制約』にして、解析を行う。
敵の位置を探ったり。血液成分・装甲の材質を調べる『魔術能力』として、C.V.の同僚に知らせている。
ごく一部のC.V.にしか、『魔導能力』の詳細を知らせていない。連携のため情報共有を行うC.V.の中では、珍しい『魔導能力』です。
その正体は『爪』でつけた『傷』だけではなく。噛みつき・尻尾の接触・視線の交錯など、多岐にわたる『魔術的な接触』で『目印』をつけ。
未知の敵から、あらゆる『情報』を抜き取っていく。敵の体内電流・体臭から行動履歴を調べ。体液の毒性・魔術の系統など、被術者すら知らない『情報』を迅速に奪います。
なお『爪』は情報の『偽装・幻惑』を破壊する。『尻尾の接触』は解呪を阻害するなど。身体部位によって、いくつか副次効果を伴いますが。
一番、厄介なのは『足跡(肉球?)』であり。リアベルが踏みつけた地面が、『呪符・呪力の場』と化してしまう。『爆発』する代わりに、『情報』を抜き取る『呪術地雷』とでも言うべき、魔術陣を構築していく。
これらを『身体強化』と併用して、戦場で敵の解析を行う。上位C.V.に仕える、専属の『斥候』がリアベルの正体であり。
彼女に求愛され、口八丁で逃げ出した野郎は、おもいっきり”外交問題”を引き起こしており。イリスよりも格上の上位C.V.様から怒りを買いかねない、極めて危険な状況です。
なお『ブラック(シーカー)ゲーム』は、『感知で探っている』ことを敵に知られるわけにはいかず。そのため『ブラックゲーム』の発動を、様々な手段で偽装・隠蔽している。
『無詠唱』による一部発動。ステップや尻尾の動きなど、動作による『静音詠唱』から。他のC.V.が発動する『魔術能力』の影に隠れて、発動することもあり。
その中で一番の偽装は、『ブラックセンス』の詠唱にまぎれて、並列で詠唱することです。
ちなみに『ブラックゲーム』、本来の詠唱は以下の通りになり。
『牙より柔らかなる、暗影の爪 蹄より遅くてもろい、歩みの跡よ
氷獄の冷気に凍ることなく 氷雪の大地に埋もれることなく
獲物と悪路を、等しく探し 稜線に沈まず、無形の境界を進め…
ブラックゲーム !!/!』
これに前のエピソードで唱えた『ブラックセンス』の詠唱を絡める。
『暗夜の爪は風と地にうなり 飢えて渇いた牙は、水と火で潤う
されど胸腔の灰色は染まらず、満たされず
金の瞳は影に隠れ、月夜に輝く ブラックセンス!!!』
以上、『ブラックゲーム』のネタバレ説明でした。
『毒の息を吐き、灼熱の汚物をするor撒き散らす』
そんな『タラスク』の原型は、ガスを発して、異臭のする土が多い、『沼地』だと予想します。
某有名な検索サイトでは、タラスクのイメージアップを狙ってか。この『灼熱の汚物』が記載されていませんけど。
お祭りの出し物に、そんな伝承を求めませんし。リアル歴史ではないのですから、そこは割り切って、しっかり記載すべきと愚考します。
まあ『聖人がとっても大事』と、いう文化圏だと。聖人に退治される『邪竜が汚物を…』と、いうのは許容できないのかもしれません。
人気のゲームに登場する『タラスク』も、『普通に清潔』ですし。観光客も呼ぶお祭りで、〔昔話の伝承と違う〕と、騒いだりする必要はないでしょう。
【他人様を中傷しなければ】と、いう条件はつきますが。
そんな『タラスク』は、『毒の息』を吐く、古代ドラゴンの系譜であり。
『災害・自然の毒気=ドラゴン』と、いうイメージだった『竜の能力』を受け継いでいる。それをもって異形ながら、ドラゴンに分類されると考えます。
とはいえ『毒息』以外で、さらに『汚染物質』を排泄するのは、『タラスク』ぐらいであり。
ここからは完全に個人の当てずっぽうですが。
『タラスク』は河川を汚染する、『沼沢地帯』の化身ではないでしょうか?
『毒の気体』を出す火山の化身である、ドラゴンはたくさんいますが。
毒気を吹き出し、大事な河川を汚染する『泥』も出す、自然は珍しく。それが『タラスク』と、いう異形の竜魔獣と化した。
『助命を願ったのに、民草に袋叩きにされ、殺されたタラスク』の伝承となった・・・と愚考します。
現代日本人からすると、”捕虜の虐待”でしかありませんが。伝承が生まれた時代に『捕虜の人権』などと、いうものがあるはずなく。
『毒気を出し、汚泥もわく沼地は、容赦なく開拓された』→『タラスクは怒り狂った住人に惨殺された』と、いう感じに変換されたと愚考します。