390.閑話~微風の劣勢+警備依頼の条件
賢しげ、得意げに話すことでは、絶対ないですけど。
報復を決意した『武士』が刃傷沙汰を起こす場合、標的を逃がすヘマは、まずしません。重傷どころか、きっちり殺害しています。
それほど『武器による先手・奇襲は有利だ』と、いう犯罪の数字が出ており。
老人で礼法指導役の吉良上野介公を仕損じた、浅野内匠頭は控えめに言って『病』だった。別件の刃傷沙汰で仕損じた、水野家なにがしと同様、心身に大きな問題があり。
〔吉良上野介公に対し、その濡れ衣を着せるな〕と、言いたい。
そもそも浅野内匠頭の病は、饗応役のストレスで一朝一夕に患うものではなく。浅野家の健康管理が悪いのを、吉良上野介公の失態になすりつけるなど、冤罪もいい所だと考えます。
そしてさらに不満なのがTV番組の存在です。赤穂47士を主人公にして、そちらを主役にするのは仕方ない。創作・表現の自由だと思います。
ただし忠臣蔵を本当にあった『史実』として放映するのは、歴史ねつ造であり。ロクに資料は読まない、時代考察は甘くて、刃傷沙汰を肯定している。
これで苦情が入らない。〔吉良家側が不満をいだかない〕と、考えるのはいかがなものでしょう。
『タバコは有害です』と、表示するのが義務になっているように。
『”忠臣蔵”は史実をもとに、浅野家の視点から製作されています』と、いう表示をするのが正確・誠実ではないでしょうか?
黒霊騎士団が事実上の駐留をするシグルスの街。
そこにはもともと住んでいた住民に加え。訓練・偵察のために、ギルドに建造された闘技場へ、冒険者たちが訪れ。
各勢力の『密偵』が送り込まれ、その中の”不届き者”は永久に消息を絶ち。
そんな中で侍女頭のアヤメは、予定外の来客を迎えていた。
「お初にお目にかかります、アヤメ様…
虹月属性ルイリナ様にお仕えするC.V.が一人。
闇水属性リアベル・ヴィターシュと申します」
「ご丁寧なあいさつ、痛み入ります。
私の名はアヤメ・姫紗薙。風属性のシャドウにして、一族の三位を務めております」
「お会いできて、光栄です…
互いに重責を担う身分であり、立場を持つ者同士。文化・風習の違いは、寛容をもって当たりましょう」
「意義はございません」
格式ばった、『外交』のやり取り。
だが、その実態は弱小勢力が、上位C.V.の配下から圧力外交を受けている。
『役職』を語らないリアベルから、上級シャドウが要求をつきつけられる、構図であり。
アヤメは戦々恐々としている、内心を押し隠しつつ、リアベルを観察する。
「・・・・^・」
シャドウ一族の姫長がまとっている、故郷の服装に似通った衣服を着こなし。
袖は大きいものの、四肢の動作を妨げない『装束』が、しなやかな身体を覆っている。
シャドウ一族と比べ『獣』の強さを感じるも、文明的には近しいものを感じる。
そして魔王軍のマの字も告げない、『プリンセスガード』という聞き覚えのない所属に、アヤメは警戒感を高め。
アヤメがそんな査定をしたところで、リアベル様が口を開く。
「イリス・レーベロア様が築かれた、混成都市ウァーテルは素晴らしいもの。
その『剣』となったシャドウ一族の皆様は、『武』の面でご指導を賜った…」
「・・・いまだ未熟者の身ながら、主君の『弓矢』として邁進しております」
突然、あちこちに話しが飛んだことに、首をひねりながら。アヤメは『外交』の受け答えを続ける。
「そのためC.V.の事情は、ゆっくりと知らせる予定なのでしょうが…
私の権限で、少しばかり【昔話】をさせていただきます」
「…よろしくお願いいたします」
ちっとも、よろしくなかった。
アヤメの立場でも、C.V.様の事情に疎いこと。それをリアベル様に見透かされ、【昔話】とやらが厄介事だと確定していること。この『情報』を知るのはイリス様の不興を買うリスクを伴い。かと言って断れば、黒霊騎士団とは異なる、厄介そうなC.V.勢力から今以上に侮られかねない。
予兆なく、降ってわいた外交戦にアヤメは頭痛がしてきた。この問題を解決するためなら、少なくない『対価』を払ってもかまわないと思えるが。
・・・・・…というわけでございまして。ルイリナ様も大変、お喜びになられました。
私も黒霊騎士団での『お役目』を最後に、職を辞します。
つきましてはシャドウ一族のタクマ様に、婚約を申し込みたく存じます」
「・・~・+ー・・・!」
リアベル様のオハナシ。
『それはタクマが、C.V.リアベル様の唯一無二の物を、肌を合わせつつ奪った』と、いう告発であり。〔責任を取ってください〕と、いう通告だった。
混成都市ウァーテルの郊外。そこで行われた決闘裁判は、実に面白みのない内容だった。
シャドウ一族の代表である扇奈様、”盗賊ギルド”の傀儡であるバボス伯爵による戦い。
もともと個人の実力は隔絶していたうえ、扇奈様は傀儡に何もさせないように、立ち回り。
『双陽炎扇』は、それなりに派手な『術式』ではあるものの。周囲に被害を与えないことを優先しているため、観客が血に酔うことも少ない。
〔退屈な決闘だなw〕と、勝手なことを言う者も少なくなかった。
しかし、それらの雑音はすぐに沈黙することになる。
「それではラフトス、よろしく頼む」
「任せてください、重騎士様」
決闘が終わった、見通しの良い平地。そこではシャドウ一族の皆さんが、何等かの『魔術』で後片付けをして、撤収していき。(おそらく扇奈様の『魔術』の痕跡を、消したのだと思う)
後には『ドラゴン』の死体が一匹、取り残された。
遠目から見れば、ほとんど出血・外傷のない。きれいで高く売れそうな、状態の『ドラゴン』なのだが。
実際は長い首が、『魔術』によってねじり折られている。舌が飛び出て、眼球がこぼれ落ちかけた、変死体の『ドラゴン』が転がっている。
それを行った術者に敵対するなど論外であり。不興を買う”悪口”をさえずるなど、貴族を侮辱して、無礼打ちを望むに等しい。
とはいえ一介の冒険者にすぎない、ラフトスにとって優先すべきは、『依頼』であり。重騎士を手伝って、『ドラゴン』の死体を警備する。
無謀な連中から『ドラゴン』の素材を守り、無知な観客の命を保護するため。
重騎士のふりをして、ラフトスは周囲に睨みをきかせ、人々が近寄らないように努めていた。
〔『ドラゴン』を解体していく光景から、己の意識をそらす〕
そんなイメージをしているラフトスのところに、一人の女が近付いてきた。
丸腰だが、身のこなしは戦士のそれであり。簡素だが仕立てのいい服を着ている、落ち着いた女性が歩みを進め。
「何者だっ…」
「私の名はカティア・エルバレート。陸戦師団で指導役を務めている、しがないカオスヴァルキリーだ」
「「ようこそ、おいでくださいましたカティア様!!」」
「お勤め、ご苦労。『契約』の対価として、この『飛竜』を、少しばかりいただこう。
許可証は、これだ」
「確認させて、いただきますっ!」
重騎士とC.V.カティア様のやり取りを聞きながら、ラフトスは周囲の警戒に集中する。ゴルンさんが手続きを行って、警備の人員が一人減っており。
〔ならば指名依頼を受けた冒険者として、その穴を埋めるべきだろう〕
そんなことを念じながら、意識をカティア様からそらす、イメージをラフトスは行い。
『ブラッドタスク』
「「「「「*⁉‘:`‐ー―…&*・;」」」」」×10
見物人たちから、声にならない悲鳴が響く。
同時に大剣によって、ナニかの一部が切断され。心胆を寒からしめる『赤色』が放出され、代わりにナニかが吸い上げられていく。
『化け物』が骨を咀嚼して、呑み込む音が、耳朶を打ち。
「‥久々の翼トカゲは、やはり美味だ。
できれば、全身を存分に貪りたいが・・・」
「!;⁉‐ーッ」
「『契約』では牙と眼球を除いた、『頭部』だけが私の取り分だからな。
今日はこんなところで、我慢しよう・・・ふむ、おどかしてしまったか。
『コレ』を仲間で分けるがいい」
「「「「「ありがとうございますぅー;」」」」」
泣きが入ったセリフが合わさり、警備役の全員でカティア様を見送る。
しかし『ドラゴン解体』の警備は、始まったばかりだった。
行商・隊商の護衛を行う冒険者。その依頼は誰にでも受けられるわけではなく。
山賊を追い払える実力に加え、信用がなければお話にならない。山賊に早変わりする傭兵・冒険者など論外だが。積み荷・移動ルートの『情報』をもらす、山賊の協力者も必要ない。
〔オレは何も見てない。背中のドラゴンに行われたことを感知しない。気絶した見物人など、さっぱり記憶してない〕
胸中で自分を励ましつつ、ラフトスは最初の依頼を、受けた時のやり取りを思い出す。
ちなみに混成都市ウァーテルを支配する戦姫C.V.様に関わる、護衛依頼の場合になると。冒険者は頭数をそろえるため、集められることが多いそうだが。
〔ボクたちは悪辣な”盗賊ギルド”と敵対してるからね。
”非道な拷問”に耐えて、『情報』を死守しろ!・・・なんて言わないよ~〕
それはそれで〔冒険者を軽く見られている〕と、いう感じであり。
冒険者のプライドを、大いに刺激したものだが。
「しっかりしろ!」「・・これは、水をかけて起きるのか?」
「そっちを持て・・よし、運ぶぞ」「寝かしといてやれよ…」
〔〔〔まったく、素人が野次馬今生で見物なぞするな…〕〕〕
凶悪な『魔力』を目の当たりにした、野次馬たちが血の気を失って倒れ。中には気絶している者も少なくない。
〔なんだか討伐依頼で集団を組んだ時の、救護所みたいだなー‐~〕
そんなことを考えながら、ラフトスが背後をチラ見すると。
頭のなくなった、『ドラゴン』の体が横たわり。おそらくドラゴンの牙・眼球を包んでいる、袋を持つ重騎士さんが、平静を装っていた。
〔短時間で『竜の頭』を切り取ったのに。血しぶきどころか、血臭すらしないのは、何故ですか?〕
そんなことを尋ねられる、空気ではなく。ラフトスは代わりの問いかけをする。
「モンスターの解体をすると。見物人たちは、いつもこんな感じになってしまうんですか?」
「いつもではない!普段は計画的に隔離スペースを用意して…・:」
〔ナニも聞いていない〕〔一切、しゃべってなどいない〕
ひっかかる表現によって、ラフトスとゴルンさんの意思が、近しいものとなり。
それから次の『ドラゴン解体』を、行う者たちがやって来た。
「オラァー―‼もたもた、するなぁ~・ー―-」
「m・・・:・」×5
「・・・◎・:・」
巨漢なうえに、悪人面で独特な筋肉をつけた男が、ムチをふるう。その先には鎖につながれ、口枷をつけられた優男?たちがおり。
〔奴隷を買わない〕と、小耳にはさんだ戦姫C.V.様にあるまじき。だが余所では、それなりにある光景を、ラフトスは目の当たりにした。
「・・って、そんなわけあるか!この『口枷』はいったい?」
「よくぞ聞いてくれたっ‼
この者たちは”忌まわしい詐欺師”どもだ*:!」
堅実に仕事をこなしてきたゴルンさんが、前のめりになって、眼前の惨状を話し始める。
「恐れ多くも、イセリナ団長閣下が投資して、蓄えた財貨を狙い。口八丁と偽りで、詐欺を仕掛けてきた。
無論、聖賢の太守様に続く見識を持つ、団長閣下に匹夫の浅知恵など通じるはずもなく…・:・~」
〔あっ、これ長くなる話だ…〕
ラフトスは瞬時に、そう確信し。面倒くさい依頼人への対応と同様に、右から左へと、話を聞き流したかったが。
「・・;・+・~;・」×5
「とっとと、ドラゴンの鱗をはがせぇ!一枚ずつ、丁寧にみがけぇ~;-」
口枷をつけられ、しゃべれない連中に加え。連中にムチをふるう監督役まで、冷や汗をかいて怯えている。
その光景を横目で見たラフトスは、ドン引きしたくなる身体を押しとどめ。
ゴルンさんが得意げに語る、貴重な情報を聞き続けた。
「・・・そうして”詐欺師”どもは、”ボス盗賊”のもとに”偽金”・白紙を上納してしまい。そこから転落人生を歩むことになる。ギャンブルで負け続け、”盗賊ギルド”の掟を破り…・・・そうして恥知らずにも、こうして生きている。
まあ最底辺の苦界に堕ちた”連中”より、マシだがなぁ!」
「ー;~‘+;…・」×5「働けっ、働きやがれぇ~;-・‼」
「・・・・ー・」
世の中、きれいごとばかりではない。
そして〔貴族の名誉を汚した〕などして、無礼打ちにされる者もいれば。冒険者のいさかいで、数日後に”冷たく”なっている者もおり。
スラムならば、これらの理不尽が二重でふりかかる。
だから権力者に”詐欺”を仕掛け失敗すれば、処刑されるのは自業自得だ。身一つで裏社会を渡り歩く、詐欺師ならばなおさらだろう。
〔だけど、”最底辺の苦界”ってナニ?ムチをふるっている、コイツは誰なんだ?そもそも、ヤバい権力者様に、どうして詐欺なぞ仕掛けたんだ?〕
とても、そんなことは尋ねられない。
ラフトスが知らされたのは、C.V.様は実力主義で男女を平等にあつかう。人間世界の男尊女卑に配慮しつつ、巧みに人事を行い。”女尊男卑”と後ろ指をさされないよう、パワーゲームを行い。
そして〔女には死よりつらい苦界がある〕と、いうこと。
〔一家離散とか、身売りさせた”外道”は、男女一緒くたに堕ちてもらう〕と、いう主義のC.V.イセリナ様が、混生都市で絶大な権力を握っており。
『口枷』をはめられ、惨めな姿をさらしている、この連中は詐欺師の”下っ端”だとのこと。
「そういうわけで、この連中は必死に働いて、団長閣下の慈悲にすがっている。
こんな連中、とっとと”奴隷●館”に売り飛ばせいいだろうに…・」
「N;*:…*」「黙れぇ‼勝手にさえZるなぁ!;!」
「・・・・…・」
〔いったい、どこの”鉱山送り”だろう〕
そんなことを考えながら。ウァーテルのC.V.様から依頼を受ける際に、冒険者に必要なことを、ラフトスはまとめる。
それは〔見たら死ぬ、怪物がうろついている〕と、いう危機感をいだいて”見て見ぬフリ”をする。〔都市に有益な情報を拡散する〕と、いうセンスを研ぎ澄ます必要がある。
ゴルンさんに教えられた情報を、どのようにアレンジして、どこに伝えるか?
真剣に吟味しないと、罪人らの隣に並ぶ、リスクがあるわけで。
〔とりあえずギルマスに、しっかり相談しよう〕
そんなことを考えつつ、ラフトスは警備?依頼をまっとうしようとした。
”田舎大名の殿様ルールを世界の中心にして、二重基準のやりたい放題をした。浅野家の落ち度を棚に上げて、吉良上野介公に全ての罪・責任をなすりつけ。テロルな討ち入りをしたあげく、美談として売るため、ねつ造に改ざんを繰り返した”と、まで表示しろとは言いません。
ただ現実問題として”忠臣蔵”を観た人は、どう思うでしょう?
〔吉良を反面教師にして、生徒・後輩には優しく教えよう〕と、考える人が、いったいどれほどいるでしょうか。
残念ながら”いじめられたら、刃で仕返しする””復讐のためなら家族・貧乏藩士を犠牲にしてOK”と、同レベルのことを考えたり。
”吉良上野介を悪人にするため、都合のいい歴史書のみを信じる”と、いうリスクばかりある。
後の時代に発生する刃傷沙汰は、”忠臣蔵”を参考にしている。浅野内匠頭を反面教師にした暴漢が、楽屋で刃物を刺したり。”テロルな討ち入り”をイメージして、準備を行い復讐を成功させている。
仕返しの前に、誰かに相談したり。逃げ出したり、気晴らしに遊んで、旅をしたりすれば。
幸せをつかんだり、刃物以外で『見返す』機会も得られるかもしれない。
それなのに”忠臣蔵”を知って、万人に一人でも悪い感情の連鎖があると。
〔ロクなことにならないじゃないかな~〕と、愚考します。