387.閑話~作戦計画の仕損じ:イリスの通常攻撃
『ケンタウロス』が、弓矢を巧みに扱う、狂暴な騎馬民族をモデルにしているならば。
『ユニコーン』も、槍を巧みにふるう、槍騎兵(+サイ)をモデルにしている。あるいは騎馬に『ユニコーン』のような『突進力・癒しの力』を求めたのではないでしょうか。
『突進力』に関しては、戦場の騎士なら、誰でも求めるでしょう。
そして『ユニコーンの処女好き』も、カッコイイ王子気分な騎士の好みに合致します。あるいは処女性を尊ぶ某宗教の『信者騎士』と同様に、『乙女を好んだ』と言うべきでしょうか。
これだと『ユニコーンは凶暴』と、いう伝承にも合致する。
”敵国では略奪”・”異教徒は皆殺し”と、いう騎士にそっくりであり。
鎧をまとわず、上半身?が人間の『ケンタウロス』=軽量で略奪品の運搬も上手な『騎馬民族』に対し。
一角が額に生えている『ユニコーン』=長柄武器を持っているため、略奪は部下に任せるしかない『槍騎兵』=素人目には突撃するだけの『騎士』と、イメージされ。
ユニコーンは『騎士・騎馬槍兵』がモデルになったと妄想します。
『身体強化』の魔術がある。
物理法則を無視できない、この魔術世界において。
『身体強化』の魔術は戦の勝敗を左右する、極めて重要な『魔術』であり。
様々なアプローチで、その術理を高めるべく、研究が行われてきた。
同時に戦場にたつ者たちも、勝利をつかみ取るべく『身体強化』の術を、研ぎ澄ましていき。
『身体を強化』するうえで、何を『イメージ』するかが重要だと結論づける。
強い戦士、勇者に憧れる者。長年にわたり修行を積み重ねた、達人・武聖に成りたいと願う者もいれば。怪物に対抗すべく、虫・獣の身体をイメージする者たちも少なからずおり。
そんな中で、光属性C.V.イリス・レーベロアが求めたのは、『百眼巨人』という異形の存在・・・・・ではなく。
人型の『身体構造』を、ひたすら追求する『術理』だった。
『瞼』は『眼球』の鞘であり、鎧を兼ねる。『視線』に『魔性』を求めるなら、『瞼』も『魔力』をおびて然るべき。『護符』『怪球目玉』と同程度の力では全然、足りない。
〔身体に最速を求めるならば、『瞼の魔力』による速さを、全身に〕・・・というのがイリスのイメージだ。
「そうだった
『堕神官の視界を把握…網膜の照準動作を検知・・』
〔ボク…重騎士たちじゃない・・商人たちを狙って…〕
『身体強化を発動…障害物は老人のみで・・術式発動まで』
ねっ/‘/`…と」
瞬きの速さで、サディルフ神官と商人たちの間に、イリスは自らの身体を割り込ませる。同時に『術式干渉』によって、周囲の『魔術』全ての標的をイリスの身へと変更させ。
軽鎧の表面に『魔術』が当たった刹那に身体をずらし、衝撃を滑らせる。
そうして無詠唱の『”自称”神聖魔術』を両肩にかすめさせた。
「‼+!太守ッ‥ー総員、WぁRぇn続けぇ~=ーーー」
そして怒声と共に、ガルド副団長が部屋の床を陥没させる。
しかしその巨体が床下に落ちることはなく。巨人の剛拳と化した身体が、空気を切り裂いて撃ちだされ。
「「「:・*~;‐:ッ!!」」」
進路上の老商人たちを踏み潰す勢いで、巨体がイリスのもとへと駆け付けようとする。
数多の魔獣・騎士たちを粉砕してきた、『必殺の突撃』は死を確信させる暴威であり。恐怖の表情で凍り付く、老商人たちが粉砕され。砕けた床板と同様に宙を舞う、可能性はかなり高い。
イリスが見捨てて、放置すれば。
〔商人の一人が生きてれば、『神官が魔術を撃った』証言は取れるけど…
こんなことで、ガルド君の戦歴に傷がつくのもアレだしね~〕
「バカなっ⁉この速S:*~~w∼」
そんなことを考えつつ、イリスの右手は神官の喉笛をつかみ引き寄せる。そうして身体を回転しながら、左手で真ん中の老商人と位置を入れ替え。
そこから一歩進んで、『身体強化』を発動させた。
神官の身体へと・・・
『ゴGィカkッ*::*:`‐-:』
「ぐぅオオっ…+・・」
『防御力』だけをイリスに強化され、『肉壁』と化した神官の背中が、ガルド将軍の突進を受け止める。人体がひしゃげ、潰れていく音が響き渡るも。
仮にも信者に『攻撃魔術』を放つ、狂信者を思いやるほどイリスは優しくなく。
急制動をかけたガルドの肉体が傷つかないよう、神官衣を着た『肉盾』の防御力を下げつつ、彼の力を受け流し。
「急に飛び出して、ゴメンねガルド将軍…この神官が商人たちを殺して、その罪をなすりつける・・・・っと、自分も自害して、ボクたちの凶行を演出する気なのかな?」
「グHァ*:*」
口を動かしながらもイリスは瞳・瞬き繰り返し、神官の体内に施された”仕掛け”を侵蝕する。さらに口内へも『光術の封印』を施し、奥歯に仕込まれた”自決用の毒”すら誤飲できないようにして。
「「「「イリス様ーーー-―!!」」」」
「…遅いぞっ‼」
護衛の重騎士たちが、遅ればせながら殺到する。
そんな彼らを人睨みしてから、ガルド将軍は何か言いたそうに口を開くも、わずかに首をふり。
「さてと…この状況を、どうしようか・・・」
「…あ、ァ‐∼ー」「「ひ、ヒィ…・」」
「・・・・・…」「「「「・・・-・」」」」
当初の作戦が達成できなくなり、重騎士たちはイリスの指示を待つ。
本来なら神殿の一室に押し入り、『”盗賊ギルド”に殺された、大勢の人々はどこに消えるのか』と、いう問いかけで難癖をつけ。
商人もろとも、ウァーテルに建つ光神殿も糾弾するはずだった。
”難癖”をつけるなどチンピラ同然の愚行だが。イリスの問いに〔わかりません〕以外の答えを返した者は、『呪い』の恩恵を受けている。
大量の遺体から土・灰の素材を発生させ。それらを使って『呪いの道具』を作成し、それを高額で売りつける。
そして『呪いの道具』を所持する者は、『呪い』による『付与魔術』で幸運に恵まれるが。一旦、ツキに見放されると、今度は『呪い』が不幸を倍増させて、破滅に誘う。
そしてこの『呪い』の法則を知っている。”盗賊ギルド”は数年をかけて幸運を操り、合法的に資産家を食い物にするのだ。
『魔力』すら見えない只人は、『呪力』など理解できず。要人が亡くなり、急速に家が傾いても〔不幸が連続した〕と、しか認識できない。
仮に強運・才覚の力で、一度目の不幸をはねのけても。『呪いのアイテム』を目印にして、有形無形の攻撃をされれば、強運だけでしのぐことは不可能であり。
かくして『呪いのアイテム』は忌まわしい伝承を、悪徳都市と共に積み重ね。
灰色な商人は、傾いた商家を乗っ取り、大きくなっていく。
もっとも『魔力』を感知・認識できる、C.V.にとってはタネが透けて見える、”おぞましい茶番”であり。
『魔眼の上級魔導』を行使する、イリスにとっては”茶番以下”だった。そうして献上品に『呪いのアイテム』が混ざっていたのは、敵対者の多い戦姫にとって笑い話にすぎないが。
目をかけている部下・商店に、『呪詛の宝石・美術品』を見つけたことで、今回の殲滅作戦が始動することになり。
イリスたちは神殿に押し入ったのだが。
「あ、アHぃ⁺;…」「「い、命ばかりは・・どうかっ*…;」」
「ガっ、かッKKKゴ*>⁺〈;…」
「んーー、コレ、どうしようかな~・-」
重騎士たちなら、説明すればイリスの行動を理解するだろう。
神官が”濡れ衣を着せる”べく、神殿に来た商人3名を『魔術』で、殺害しようとした。そして神官も自害して、遺体を四つ並べる計画?だったと推測する。
そしてイリスは”神官が商人たちを『魔術』で殺す”挙動を察知して。”冤罪”はともかく、”悪意”を察したから。
『身体強化の加速』で両者の間に割り込み、『魔術』を妨害する。
まあ人間たちには、瞬間移動モドキに見えたでしょう。
そして陸戦師団の副団長からすれば、要人を護衛する責任を果たすべく、急加速を行い。
最強の重騎士たちが、商人たち(の後ろにいるイリス)に突撃するのを、目の当たりにして。状況を把握できない商会主たちは、死の確信をいだいた。
それから神官を生きた盾にして、半死半生にさせたけど。
〔ちょっと不幸な偶然が重なったけど、豪商たちは命拾いしてよかったね〕などと、イリスが笑顔を向ければ。老商人たちは、今にも卒倒しそうであり。
仮にも助けた命が儚くなるのは、イリスとしても不本意だ。
「しょうがない。面倒だけど優しそうな乙女を呼んでキ、:てっ『!✙!』」
セリフとは裏腹に。イリスは『光付与』で、商人たちの首筋を圧迫して、意識を狩りとり。
「おっと商人のみんなには、刺激が強カッタのかな?
眠ったようだから、今のうちに運んじゃおう」
「「「「・・・・*:・」」」」
「イリス様の御命令だ・・急げ!!」
「「「「ハハッ‼」」」」
こうして重騎士一人が一体を運搬して、撤収を行った。
そして当然、殲滅作戦に伴う計画は、失敗あつかいになり。
それ以上にイリスが加速して、神官まで生存している顛末に対し。
留守を預かった妹分、シャドウの姫長たちは大激怒した。
シグルスという街がある。
『訓練場』兼『闘技場』の施設が冒険者ギルドに増築され。それに伴うささやかな景気でにぎわい。
同時に駐留している黒霊騎士の集団によって、事実上の支配を受けている。
陰謀・暴力によってシグルスの街を狙う連中は、永久に姿を消してしまう、暗黒都市と化しており。
街を支配していた者たちは、悪夢にうなされることもあるとか。
そんなシグルスの街にある高級レストランの個室で、3人の男たちが会談の場を設けていた。
「作戦の失敗、おっめでとーーーユングウィル殿!」
「「・・・`・・」」
四凶刃にして弓兵のタクマ。冒険者ギルドの交渉担当を務めるユングウィル。
そしてシグルスの街を治める領主ザリウス。
彼ら三人が忌憚なく意見を交わせる、無礼講の宴にタクマの音頭で集められ。
一人だけ事情通のタクマさんに、ユングウィルとザリウス様は翻弄されていた。
「・・・作戦失敗とは、どういうことでしょうタクマさん」
「姐御から〔マシな”盗賊ギルド”と連絡をとれ〕って、交換条件を出されたのだろう?
だけど聖賢の御方様の決定で、もう少し”盗賊”の数が減ってから、『外交』を行うことになり。
当分、”シーフ”と連絡をとる必要がなくなった。まっとうな冒険者ギルドが、”犯罪組織”とつるまなくてよくなった。
作戦失敗で、おめでとうだろう?」
「「・・・・・-・」」
〔上の決定で作戦が中止になった〕と、いう面もなくはないが。
〔これからも”盗賊ギルド”の殲滅を続ける〕と、告げている。四凶刃の通告に、ユングウィルたちは背筋が冷たくなる。
自分たち二人どころか、シグルスの戦力をかき集めても、全く勝ち目がない。
そんな狂猛な存在たちが、ザリウスたち貴族ルールに縛られず活動し続ける。
その戦力がいつ自分たちに向けられるか、知れたものではなく。戦火が飛び火して”シグルスの街が争いに巻き込まれる”と、いうリスクもある。
少しでも危機感があれば。ユングウィルとザリウスの二人が、シャドウの一族を警戒するのは、当然のことであり。
この状況を避けたくて、ユングウィルはアヤメ様に交渉を持ちかけた。
たとえ不利な内容でも、何らかの『契約』を結んでいれば。
上位者のプライドで、〔ユングウィルたちの安全に、配慮してくれるかもしれない〕と、いう期待があったのだが。
そんな二人に対し、タクマさんがにこやかに話しかける。
「本音を言えば〔”盗賊ギルド”とは、つなぎを取れません。もう少々お待ちください〕と、いう答えが返ってくれば、合格だったんだが。
シャドウ一族の予想を超えて見せた、お前さんたちとは、もっと仲良くしていきたい」
「・・・-…・」「それは、どうも…・」
ユングウィルとザリウス様が行ったこと。
それは領主邸に潜り込んでいるスパイをあぶり出し、こちらにつかせること。
盗賊ギルドを裏切らせて、冒険者ギルドに再就職させることだ。
まあ実際のところ、タクマさんはスパイの存在を把握しており。
スパイから情報を受け取る『連絡員』は、とっくの昔に”森の肥やし”となって。スパイは領主館で孤立無縁で、身を隠しているしかなく。
そもそもスパイと言っても、脅され利用されている、被害者の面が強く。シャドウ一族にとっては、見逃したほうが、色々と利用価値があるのだろう。
結局のところユングウィルたちは、シャドウ一族の手のひらの上におり。
〔人を食い物にする賊と連絡を取らなかった〕ことを、評価され。
首の皮一枚つながって、酒宴に招かれているのが現状だ。
「そこで、あんた達には『多重婚の互助会』のメンバーに、オレが推薦しよう。
空色のように変わる女心…異文化どころではない魔術文明・・・そして何よりハーレムという魔獣の群れから一時でも逃れるため。
ハーレムサークルは君たちを歓迎しよう」
「「・・・・・:<」」
〔貴族だけど『重婚』なんて、してないんだが〕
〔情報交換をする場か・・・やばそうだが断れないだろう〕
この時、ザリウス様とユングウィルの二人は、平和ボケして呑気なことを考えてしまい。迅速に逃亡する機会を、逸してしまう。
そして即日、自分たちの愚鈍さを、大いに後悔するはめになった。
ネタバレ説明:イリスの通常攻撃について
侍女頭のアヤメは『敵に対して身体強化をかけ。それに伴う副作用・バランスを崩したところをついて、攻撃する』と、いう通常攻撃を行う。
『敵が身体強化によって、戦闘力が上がってしまう』と、いうリスクを負う代わり。敵の体幹・バランスを崩す『攻撃』を、息をするように行います。
そしてイリスも同様に、異常な通常攻撃を行う。普通の術士なら『異能・秘術』に分類する、無名な攻撃を行います。
その内容は『魔眼』による、高速戦闘を念頭に置いており。
敵の『魔眼』より速く視線を放つ。
感知能力で敵の『魔眼』を解析しつつ、『視線』の撃ちあいをする。
もしくは『魔眼』で先の先を取るため、思考・身体操作のどちらも超スピードで行えるよう、修練を積み重ね。
瞼による瞬きの『速さ』をイメージする。
文字通り『瞬きの速さ』で、攻防の動作を行う。そのために全身に目と『瞼』がある、『百眼巨人』をイメージして、『魔術能力』を編み出しています。
ちなみに『アルゴスの伝承』にある、『全身にある目のどれかが開いて、不寝番ができる』と、いう能力に関してイリスは完全無視しており。
イリスの解釈で、『アルゴスゲーム』の特殊能力・ステータスを構築しています。
以上、イリスの通常攻撃を、少しだけネタバレしました。
古代の世界では『サイ』が誤認されて、『ユニコーン』と化し。
騎兵が槍をふるう時代では、騎士の突進するイメージが『ユニコーン』へと、なっていく。
加えて『ユニコーン』には、『ペガサス』ほどのメジャーな神話がなく。それでも『カトブレパス』よりは、生態の逸話が存在する。
そのため『ユニコーン』は色々と作り話が追加され。『サイ』と『騎士』のイメージは、混ざり合う下地があったと愚考します。
それと『ユニコーンの角』にまつわる、『癒し』の伝承ですけど。
”『象牙』『エジプトのミイラ』にすら薬効がある”と、考えていた時代です。『サイの角』『イッカクの角』に癒し効果がある・・・と、誤認するのは十分にありえます。
そして『騎士』も高度な治療を受けられた、職業です。
全身鎧をはじめとした、装備の整備から、馬の世話まで。素人にとっては、単なる突撃要員の騎士ですが、『ものすごく金のかかる職業』であり。
単独で活動できるのは、『物語の英雄』だけ。
従士を雇い、戦況を見極め、狡猾に立ち回らねばならない。当然、情報通でなければならず、五体満足は必須事項となると。
『ユニコーンの加護を得ているように、傷病が癒される』
そんな広報戦をする騎士もいた。ぶっちゃけ情報を集めて、(ヤブ医者・腐れ坊主ではない)最新の治療を受けることが、生死を分けた。
こうしてきらびやかだけど、金のかかる『騎士』は、『ユニコーン』のイメージと重ねあわされた・・・と、私は考えますが、いかがでしょう?