381.閑話~『遠当て』の波紋:遠当て&重鎌
徳川幕府が諸大名に行ってきた転封・取り潰しを考えれば。
”養子縁組の届け出が遅い””士道不覚悟””城の修理に関する届け出が不備”
徳川家だけが御三家という『いつでも養子を認める』システムを作り。
他家・・・というか目障りな諸大名は難癖をつけて取り潰す。参勤交代・公共事業という”財政負担”を課してきたことを考えると。
明治政府による徳川家への処分は妥当と言える。
〔徳川家のルールなら切腹なのでは?〕と、愚考します。
とはいえ人間は感情の生き物であり。都合の悪いことは忘れるもの。
”太平の世のため、諸大名の取り潰しは正義”と、教えられた徳川武士団には、『後世の見解』など通じないでしょう。
戦士とは自分勝手な者です。
血を流せば労われたい、手柄を立てれば称えられたい。敗北の事実をなじられれば、怒り反発をおぼえる。
そのうえ敗北を責められないと〔軽視されてる〕と、不満をいだく。
自らの『魔術能力』を高めることにしか、興味がないと思い込んでいた。
黒霊騎士のリューネルは自分で思っていたより、はるかに小者だったと思い知る。
今後は〔恋愛事など面倒くさい〕などと偉そうには、とても言えないでしょう。
『ダークスラッシュ//!!』
「ぐフ*:xっ」
『魔力の剣』が、戦友の黒霊騎士を打ち倒す。だが、今までのような勝利の歓喜をリューネルは得られない。
無敵な黒霊騎士団の中で、一歩、一歩、着実に実力をつけてきた。その自負が〔箱庭の中で、自信過剰になっていたにすぎない〕と、いう不安に塗りつぶされる。
リューネルにとって、シャドウ一族の侍女頭に瞬殺されるのは、それほどの衝撃だった。
「総員、集合・・これより作戦行動を伝える!」
「「「「「「「「「「了解です、副団長!」」」」」」」」」」
そんなリューネルたちの心情など顧みることなく、事態は進行していく。
「かねてより、疑惑はあったが。先日の『手合わせ』によって、疑いは確定事項となった。
絶望の光剣が従える、人間たちは『境界越え』『皇竜殺し』の実力者が複数人存在する!」
「バカなっ…」「「「「「・-⁉:!・!」」」」」
「「そんなっ!!」」「「・・・-!・・」」
この世界において『魔力』は物理法則を無視できない。
そのため人間の術士が認識する以上に、”理不尽”な神秘が存在する。
『境界』『皇竜』なども、それらの一つであり。
世界中の『魔力』を循環させる、『龍脈』があるならば。逆にエネルギーの循環を妨げ、留める『境界』、及び『境界』を守護する『皇竜』が存在し。
人の身でそれを超える偉業を成した者は、『女』なら上位C.V.として招かれ。『男』ならば『魔王候補』としてC.V.種族の時代を育む、『多重婚』の中心に迎え入れられる。
ただし例外はあり・・・
「無論、我ら黒霊騎士団は既に、偉大なる魔王ハーミュルズ様に忠誠を誓っている。魔王候補を探すのは、他のC.V.に任せておけばいい」
「「「「「ハイッ‼」」」」」
「「「「「『黒霊鎧』に誓って!!』」」」」」
『カオスヴァルキリー』は多文化種族であり。
外交・『多重婚』に関する、事情・理念も多岐にわたる。
騎士団長が魔王様の側室になっており、寵愛を競っている。その状況で魔王城の秩序を乱す、『魔王候補』を夫にしようとする黒霊騎士は皆無であり。
黒霊騎士団としては、従来の『外交方針』を変えることはない。
1)魔王様・魔王軍に利益をもたらす、『知識』を集める。
2)黒霊騎士C.V.の血統を調整する、魔力の低い殿方と交わる。
3)騎士団長シャルミナ様の『お力』を高める、秘宝?を探す。
これら三つを成すため、『人間の領域に来た』黒霊騎士団は活動しており。
その”妨げ”になる、”盗賊・邪教”には滅びてもらう。イリス様の勢力と同盟を結び、【依頼】を成し遂げる戦力を提供する。訓練場の『興行』によって、冒険者の修練・生活を支援するのもいいでしょう。
これが黒霊騎士団の『外交方針』になります。
『暗黒爆縮』で邪魔者は、容赦なく消滅させますが。不毛な競争をこなしている冒険者には、手を差し伸べ利益を循環させる。
誠実にルールを守っていれば、黒霊騎士団は真人間に対して、優しいC.V.と言えるでしょう。
〔だけどC.V.種族として、それでいいの?〕
一人のC.V.として、リューネルは武力を高め、『魔術能力』を強力にしたい。
『魔力暴走』を防ぐため『只人の血筋を取り入れる必要』が、あることは理解しているけど。ユングウィル殿ほどひ弱な、文官?商人と結ばれるのは嫌だ。
巨大な影ではなく、『暗影』とは異なる。風属性なシャドウ一族とは同盟するよりも、挑戦して武を競いたい。
そんな衝動がリューネルたちの心に、沸々と湧き上がり。
「・・・…・とはいえ、シャドウ一族との『同盟条約』は見直す必要がある。
『模擬戦闘』を行い、(イリス様の配下ではなく)独立した武闘集団としてあつかい。『五分の同盟』に修正しなければ、黒霊騎士団の『誠実』に汚点がつく。
この『儀式』を成立させる『犠牲』となり。私の『攻撃魔術』に焼かれる、覚悟を持つ騎士はいないか!!」
「「「「「「「「「「…・*・・・ー・」」」」」」」」」」
『境界』を超えるほど、『理不尽な存在』ではいとはいえ。
副団長の『天属性』は、単に魔力を集めた『障壁』では防げず。黒霊騎士が誇る黒霊鎧すら、『余波』で重傷を負わせる。
その暴威にさらされるのは、黒霊騎士とて恐ろしいが。
「8級闇属性C.V.リューネル・アノスト…『模擬戦闘』の結界役に、志願させていただきます!」
リスクを負ってでも、一人のC.V.としてシャドウに挑む資格を得る。
そのためにリューネルは名乗り出た。
『姐御が遠当てで、黒霊騎士C.V.様を圧倒した』
この出来事はシグルスの街に来訪していた、シャドウたちに知れ渡り。
誇りと歓喜を一族にもたらした。
”盗賊ギルド”・連中に言いなりの三流騎士ではなく。
魔王軍の武闘派である、黒霊騎士団にシャドウ一族の武術が通用する。それはシャドウたちの『魔術能力』が、〔井の中の蛙〕などではなく。
未来を切り開く、確かな実力を持ち。
混成都市ウァーテルを支配する、聖賢の御方様にお仕えする実力に達している。
それがわかりやすく示され。
〔自分たちより、C.V.様を優先的に召し抱えるのではないか〕と、いう不安を感じていた。下級シャドウたちが安堵し、喜ぶのは当然の流れと言えるだろう。
しかし、ある程度の事情を知っている、幹部シャドウは同じように喜ぶわけにはいかず。
タクマは姐御と密談をしていた。
「『遠当て』は当分の間、修得を禁じる。
今、一族が優先すべきは、黒霊騎士団と同盟を強化することよ」
「・・・理由をお尋ねしても、よろしいでしょうか」
「簡単なこと…本気を出した黒霊騎士に、『遠当て』は絶対にきかないわ」
「・・・…やはり?」
『遠当て』の術理。
それを端的に言うと、『一撃目の風術で五感のどれかを攻撃し。それによって動揺・硬直している相手を、二撃目の風術で体勢を崩し、痛撃を与える』と、いう術理だ。
そして実戦では『術理』を悟られないよう、様々な小細工をする。
『一撃・二撃目の風術』を撃つ、『二連撃』だと悟られないよう。
さらなる前準備の『感覚阻害』をかけたり。『一撃目』を軽く放ち、効果が遅延で発動するよう、威力を調整する。仲間と組んで『二連撃』を放ったり。『一撃目』を『毒・幻術』などに頼る、方法も考案された。
こうして実戦で使えるレベルの『風刃』を放つ、魔力量がないシャドウでも、遠距離攻撃ができるよう。『遠当て』は編み出されたのだが。
「私の『遠当て』で、黒霊騎士の試験役を打倒できたけど…
あんなのは丸腰に近い、『魔術能力』を封印した存在にすぎない。黒霊騎士の正体・本業を隠した、雑兵の装備をまとっている人形に等しい」
「『鎧影』ですか・・・」
大剣に漆黒の『フルプレート』を、大半の黒霊騎士団は標準装備としている。
そしてその戦法は『怪力』で重量装備をふるう、攻撃力にある・・・と誤解しがちだ。
あるいは騎士団長のシャルミナ様が『理不尽な攻撃力』をふるうから。『黒霊騎士』は、その下位互換だと”妄想”してしまう。
「だけど『鎧影』の正体は、『魔杖』ではなく『浮遊大盾』だったわ」
脚の無い『浮遊リビングメイル』という外見の『鎧影』は、敵を欺きつつ防御を行う『マジックシールド』だった。攻撃メインの武闘派が、そんなものを開発・運用するのは不自然すぎる。
「極めつけは、自称バーサーカーであること。理性を失うことを代償に、強力な『身体強化』をふるうのがバーサーカーだけど。
本当に危ないバーサーカーが〔闘技場を使って『興行』を行おう〕などと、そもそも思案すらしないでしょう」
「ですよね~-~」
残酷に”屍山血河”を作る、”殺戮遊戯場”ならともかく。
経験不足な冒険者たちに、『魔術』・中級モンスターとの戦いを体験させることも兼ねる。
そんな聞いたことのない『興行・闘技場』を作る、黒霊騎士団は(魔王軍の中でも)かなりの穏健派であり。
「そもそも本当に『狂戦士』なんですか?」
「視線・重心や皮膚感覚など『感知能力』から、解析すると。確かに『力』をメインとした『身体強化』を使うのは、ほぼ確実よ。
そして『遠当て』を見た、反応から察するに。『一撃目』の五感への干渉を、何らかの手段で無効化できる。
あくまで推測だけど、『魔剣に命を吸わせる』のとは真逆の『術式』を使う。『黒霊鎧』に命を吸わせて、『状態異常』を軽減したり解除する。『鎧の防御』を貫く攻撃に、対抗術式が発動するのだと思う」
「はー~、単純と言えば、単純ですが…」
有効な手段ではある。
そもそも魔王軍・・・侵略しない魔王軍の任務は、『魔王城』を防衛することだろう。
そう考えれば侵入者・攻城を行う軍勢を欺きつつ、防衛を行う。そういう一般の黒霊騎士は、かなり有用な守護騎士になり得る。
それはシャドウ一族にとって、有用なC.V.騎士団でもあり。
「『遠当て』を会得するより、『旋矢』を修得したほうが、兵の運用に厚みができる。
そして『旋矢』の放つ部隊を編成するより、黒霊騎士団と同盟を結んだほうが、一族の利益になる。
だからタクマ…貴様には黒霊騎士C.V.との政略結婚を命じる!」
「・-・*ハ、ハhァーー」
〔勘弁してください〕
〔オレは、おっかないシャドウ姉妹と婚約してるんですけど…〕
そんな本音を、タクマが言うわけにはいかず。アヤメの姐御が命じるままに、タクマは特殊な実力のアピールを、黒霊騎士団に行うことになり。
〔これでお遊戯が標準術式に、採用されるのを防げる〕
そんなことを考え、腹の中で少し笑みを浮かべた。
ネタバレ説明:『遠当て』&『重鎌』について
『一撃目で敵を崩し、本命の二撃目の風術を放つ』
『遠当て』『重鎌』のどちらも似通った術理ですので、違いを説明します。
1)『一撃目』について
『遠当て』の一撃目は五感に干渉する。味覚以外の四感覚(視覚は『結膜』を風でこする)と体内電流に干渉して、バランスを崩し。相手を死に体?します。
被術者の『感覚・体幹』などを解析し。そのうえで急所・感覚器をつく、『適量の衝撃』を浸透させる必要があり。かなり難易度が高いです。
それに対し『重鎌』は、三位一体の妖怪『カマイタチ』を模倣しており。
物理・フェイントで、敵のバランスを崩せればよし。本命は『追尾・命中率の増加』の効果がある『呪いの目印』をつけることです。
2)『二撃目』について
『遠当て』だと『一撃目』の感覚への干渉で、ほぼ勝敗は決しており。油断なく、容赦なく連撃を放てば、勝てるでしょう。
ただし『魔力』で再生・防御をできる相手だと、感覚器が回復する場合があるため。速やかに、最大限の効果がある『二撃目』を放つ必要がある。
”遠当てTUEEE”などと、やってる暇はありません。
一方の『重鎌(重ね鎌)』は『二撃目』が本命であり。
どの角度・タイミングで、どのくらいの強さで『一撃目の呪いの目印』に、本命の『風刃』を放つか。どういう条件で、何を巻き込み、敵に奇襲をかけるか?
術者の『作戦・戦闘センス』が重要になります。
3)その他
『遠当て』のほうが、『重鎌』よりはるかに難易度が高く。
風属性のシャドウ幹部が使う、『術式』です。
実戦だと『一撃目』の感覚干渉が通用した時点で、勝敗が決しますが。五感への干渉を防ぐ『術式』を持っていたり。
虫型・巨体モンスターなどで、対人用の『遠当て』が通用しないことも多い。
〔『遠当て』は一撃必殺だ!〕などという、勘違いをしないよう。侍女頭様による、丁寧で情け容赦のない教導がされます。
『重鎌・重ね鎌』のほうが、会得の難易度は低く。流れに乗ってはまれば、格上の足元をすくう可能性も、あるのですが。
C.V.などのように『魔力・呪力を認識できる』相手にかけると。
一撃目の『呪いの目印』が解除されてしまう。奇襲の前準備的な『軽い呪いの目印』なため、解除も容易であり。
解除される前に、『速さ』で『二撃目の重鎌』を放つか。策を練って、奇襲で『二撃目』を有効活用するか?使用するシャドウの性格が出る『術式』です。
以上『遠当て』&『重鎌』のネタバレ説明でした。
しかし『人間は感情の生き物』というのは、新政府軍の将兵も同様であり。
新政府軍の『戦績・外交能力』を考えれば、奥羽列藩同盟の被害をもっと抑えられたと愚考します。
そもそも新政府軍は江戸城を無血開城させており。勝海舟などの傑物・諸外国との兼ね合いがあったとはいえ、”血に飢えたケダモノ”ではありません。
しかも薩摩屋敷を焼き、新政府軍に徹底抗戦をした。『庄内藩』ですら軽い処分で済ませている。
新政府軍は充分に『外交』の通じる相手であり。会津藩で犠牲が多かったのは、外交に失敗したから。
仙台藩で、新政府軍の使者を殺害したり、融和派を自害させた。
『江戸城を無血開城』した新政府軍を侮って、『はっきり降伏』の意を示さなかった。
それらの首魁である、会津藩への処分が苛烈になるのは、『戦争』なら当然の流れであり。
『会津の戦い』だけを切り取って、”新政府軍を非道”と断ずるのは、どうかと思います。
新政府軍の『将兵』とて人間ですから、死にたくないですし。戦争を終わらせて、新政府軍で『出世』もしたいでしょう。
そんな中で、いつまでも戦いを続ける会津藩を、彼らはどう思うか?
『諸外国の介入』というタイムリミットもあり。徳川幕府が難癖をつけて、大名を取り潰してきた”前科”もある。
広域・複合的に歴史を考えれば『新政府軍は日本人として、内紛の被害を抑える努力をした』と、推測します。