38.掃討戦 観戦料金
私の神話に対する評価で重要なことの一つはネームバリューです。黄道12星座はギリシャ神話としてはいまいち。双子座の半神で生き残ったほうの名前を言えますか?
だけど人類史の転機、○○革命としては重要なシンボルとなる。そんなことを前回、書きましたが問題となる星座が三つ。とりあえず乙女座は巫女、女王に母性もろもろのシンボルとお茶をにごします。
問題は双子座とさそり座。特にさそり座が皆目見当もつきません。海神の御子を倒したからジャイアントキリング?刺客の毒針は嫌です。世界では虫を食べる文化がありますからそれでしょうか?
《情報は戦争の勝敗を左右する武器である》
知将、参謀に軍師とやらはしたり顔でそうのたまう。きっと情報を入手してそれを生かす自らの英知に陶酔しているのだろう。別にそれを愚かとは言わない。
もたらす戦果を鑑みればそれは当然の権利・行為だ。猛将、戦鬼と比べ評価が低いとなれば自らの有用性をアピールすることは権力の世界で生きるのに必須だと断言する。
【だからと言って兵士・戦士だけが惨劇の責任を取らされる。策士・上級の密偵だけが安全な場所で栄華を貪るのはどうかと思うんだ】
そう告げるシャドウたちの主は平時の闇討ちを絶対に行わなかった。安直な忖度など一切許さず、シャドウたちを敵地に送り込む諜報活動も許さなかった。
聖賢の主が言うにはここは魔術と錬金術の混在する大陸とのこと。人を騙し討ちにする密偵をシャドウたちが務める必要はない。そんなことをしなくても情報を得る手段はあるし、強化シャドウのほうが自分にとっては指揮しやすい。
そう言って大恩あるシャドウたちのマスターは微笑んだ。
イリス・レーベロアの妹であるカオスヴァルキリーたち。彼女たちがウァーテルに使者として赴いて。無残な骸をその城壁に吊るされたという報告があった後も。
大気をえぐる。そんな覚悟で放たれた旋風閃。呼吸法と魔術による身体強化の併せ技によって下級シャドウたちは跳躍し飛び蹴りを放っていく。
明らかな大技であり、初見でもかわすことは容易だろう。いかに強化した身体を天翔けるランスと化しても、標的のウォッチャーとシャドウたちとの距離がありすぎる。そもそも連中は戦場を観察し情報を集める特殊な偵察兵だ。チンピラふぜいとは格の違う盗賊ギルドにおける精鋭の一角である。
よって旋風閃からの飛び蹴りを直撃したものは皆無だった。
「なぁっ!?」
そしてウォッチャーたちの体をかすめた急降下による蹴りはかすめただけで肉塊をはじきとばす。騎馬によるチャージはじかに当てなくとも歩兵の隊列を粉砕する。ならばそれ以上の威力を持つ強襲が同様のことを可能とするのは当然だった。
「ッ!?」
そしてほぼ同時に半数近いシーフの精鋭が悲鳴も上げられずに路地裏の壁を彩った。汚れた壁が臓物以外の体液によって変色する。
「「「旋風閃・鉤鎌」」」
シャドウたちの足は飛翔するランスと化したが手が遊んでいるということはない。その手は鎌槍となって回避中のウォッチャーたちの頭や衣服を刈り取った。その結果、連中は生きたクッションよろしくシャドウたちの着地を手伝わされたのである。
頭蓋を砕かれ即死できたものは幸運だろう。何故なら盗賊の衣装は破かれることなくロープと化して。持ち主の体を引きずって地面を削る処刑道具となったのだから。
「ヒィッ!!」
かろうじて完全に回避を成功させたウォッチャーたちも大きく体勢を崩すことになる。それに対し二重の身体強化をかけたシャドウたちは一瞬で姿勢をととのえた。
シャドウたちは騎士でもメイルフェイスでもない。飛び蹴りはあくまで移動手段の一つにすぎず。大技だと思ってカウンターを狙うものがいたら逆襲をかけるちょっとした駆け引きにすぎない。
つまり転がって逃げようとするウォッチャーのあがきものろまな芋虫も同然だった。そんな観察者たちにシャドウたちはいっそ優しいとすら言える声をかける。
「先日、ここを訪れた使者について何か知らないか?」
その言葉にウァーテル上層部の目とでも言うべき連中は表情を固定し平静を装った。
もっとも旋風閃で身体強化を行っている。呼吸法など大半は扇奈が指導したが、仕上げの視力全般や魔力感知はイリスに教えてもらったシャドウたち。
彼らにとって格下の密偵が表情を取り繕うが三文芝居にも劣る不快極まりないモノであった。
「安心していい。尋問も拷問も俺たちの役目ではない」
そしてシャドウたちはロープを使わず生き残ったウォッチャーたちの逃亡を封じた。
ダガーで一刺し。あるいは撲殺という暴力をふるい続けたゴロツキたちでも見たことのない惨状が路地裏に広がる。瞬時に自らの危機を察した盗賊ギルドのメンバーたちは仲間を見捨てて逃げるべく辺りを見回した。
「「「「「・・・・・」」」」」
「っ!?」
そしてシャドウたちの冷たい視線にさらされる。
シャドウたちはシーフたちの頭を飛び越えてウォッチャーたちを先に攻撃した。そして戦場の情報を持ち帰るのが最優先である連中はいつでも離脱できる場所に位置取りしている。
よってウォッチャーの殲滅は退路・拠点への道を塞ぐのと同義だった。
「逃げられるとでも思っているのか?」
それに対する返答を待つことなく下級シャドウたちは格下と言う価値もない連中との間合いを詰める。
本来ならこんな殺戮行為を姫長・扇奈はともかくイリス様が許すはずがない。
にもかかわらずイリス様はウァーテルを襲撃した。弱いヒトの領域ど真ん中に位置する悪徳都市の占領を狙いあげく戦闘力でゴリ押しする。占領後の反発が増大するリスクを百も承知で計画の前倒しというのもアレな速攻に出た。
「待てっ!降伏するぞ!」
「捕虜にっ、いや奴隷になる。だからいのっ!?」
それに対するシャドウたちの考えは一つ。
「(妹君たちの復讐をするならこのドサクサしかない)」
「そういうことは毒のナイフを捨ててから言ったらどうだ?」
かくして殲滅が再び始まった。
ちなみに双子座は協力・分業の人類史革命だと推測します。
忌み子として扱われることが珍しくない双子。しかも双子座に至っては片割れだけが半神という不公平の極みです。戦国時代・宮廷の権力争いでなくとも血の雨が降りかねません。
にもかかわらずカストル・ポルックスは戦場で背中を預け、人間の血が強い片割れが戦死した時、半神のジェミニは悲嘆にくれました。これを兄弟愛、戦友の絆と言って敬意をはらうのもいいでしょう。
ただ私としては半神、人間という完全に格の違う双子の兄弟が協力・役割分担をして成果を出せた。そんな偉業を天にかかげたのではないかと思います。
すみません。これだと素晴らしいギリシャ神話ですね。一騎掛けは戦場の華ですが、暴走する英雄よりジェミニのほうが立派でしょうか。




