374.閑話~シグルスという街の片隅
ギリシャ神話の『スフィンクス』『オイディプス』の神話において。
不可解なのは『イオカステー』の存在です。
古代では珍しい『高齢出産』を行ったのに加え。
『スフィンクス』と同様に”自害”したこと。
そして『近親婚』『神託・予言』の成就が、”自害”するほど嫌だったなら。
〔そもそも再婚しなければよかったのでは?〕と、思うのは私だけでしょうか。
もちろん前夫の『ラーイオス』にうんざりしていて、『再婚』が嬉しかったと推測しますけど。
ですが『予言』に抗いたいなら、せめて『オイディプス』の生い立ちは調べるべきだった。
『捨て子で、実の両親が不明』の生い立ちを知っていれば、『再婚』は避けたと思うのです。
閑話、イリスからの【依頼】が行われるようになった、時間軸に戻ります。
シグルスという街がある。どこにでもある主要街道から外れた小さな街。
そこでは凡百でまっとうな領主ザリウスは「街を発展させるぞ」と、年中行事のように言っていたものだが。
「いったい、どうすればいいのだ…」
ザリウスは現在、悩み困惑していた。
混成都市ウァーテルから大量の『投資』が行われ。
〔このままでは街の経済が乗っ取られてしまう!〕
〔まさか・・そのようなこと、あるわけ…〕
〔ご安心ください。私たちC.V.に領土的野心などございませんし。
ノルドラ王国の(はした金な)経済など、欠片の興味もございません〕
〔キサマッ…何者だっ!!ここを領主様の執務室と知っての狼藉か!〕
〔無論、承知しておりますし、無礼に関しては謝罪いたします。
ですが状勢の変化は急速であり、例外を認めていただきたいのですが。
もちろん、お認めいただけないなら、速やかに退出いたしましょう〕
〔・・・それはっ〕
〔失礼いたします〕
こうしてC.V.からの使者は退出したのだが。
領主としての勘・経験が、これから降りかかる苦難を予想させ。
〔やっぱり引き止めればよかった〕と、後悔するまで時間はかからなかった。
領主貴族としてザリウスは血筋・慣習を大事にする。”混沌・暴力”の横行する世界において、それらが『秩序』を維持するために必要だからだ。
しかしこの世には『戦争・権力争い』というものがあり。それらは『秩序』を破壊するか、”寄生”してねじ曲げる。
そして混成都市ウァーテルが大陸経済を牛耳っている、現在の情勢において。
一領主の『儀礼』が強者に通用するわけがなく。
〔一大事ですっ!!騎士団が―ーー〕
〔・・・-…〕
(黒霊女)騎士を侮辱した。彼女たちが後援している、冒険者にちょっかいをかけた。
黒霊騎士団の情報を、他領に流そうとしたあげく。それをとがめた黒霊騎士団と、衛兵たちで争いになり。そこから騎士団にまで飛び火して・・・
〔殺されたのかっ⁉?〕
〔いえ、重軽傷を負いましたが、命は助かっています〕
〔そうか…〕
騎士?C.V.たちが血に飢えた、”魔女”の類でなくて本当に良かった。
しかし領軍の主力が当分の間、使い物にならない『戦況』は、領主にとって悪夢でしかなく。
〔急ぎ会談の場を設ける。C.V.殿に使いを出せっ!〕
〔ええっ…⁉(誰を、どこに向かわせれば?)〕
〔・・・・・(そこから調べる必要があるとっ⁉)〕
黒霊騎士団はシグルスの街に滞在?しているものの。
その数はわずか50名前後にすぎず〔複数の冒険者パーティーが集まっているだけ〕と、言えなくもない。
そして半数以上が郊外に野営し、数人が街の高級宿に泊まっている。泊まっているのは騎士団の幹部だけでなく、騎士系C.V様.たちの持ち回りとなっており。
〔黒犬C.V.だから、狩りができる野営のほうがいい〕
〔宿泊代よりも、素材・書物に予算をかけてください〕
こういう変わり者をのぞき、黒霊騎士様たちはシグルスの街で、大量の買い物をして金を落とし。治安を乱す言動は一切せず。
大剣・全身鎧の武装を外し、平服で歩いている。重武装の集団で練り歩き、街の雰囲気を悪くすることもないという。
その言動はシグルスの街に所属する領軍よりも、規律が守られていたが。
同時に従順・無抵抗とは真逆の存在であり。”侮辱”に対して寛容なほど、穏健でもなかった。
『ダークスマッシュ』×10
騎士団詰め所の壁が、轟音と共に砕け散る。深夜に行われた、その暴威は騎士たちを叩き起こしたあげく。
「何事だっ!」「なっ⁉…貴様らは・・」「ヒィ・・」「*;//ー…」
「武器を持ってこい!!」「鎧はっ⁉防具をつけ・・・!*;+」
一目見ただけで、田舎騎士たちに敗北の確信をもたらした。
同士討ちのリスクを承知で、決死の『夜襲』を行う。日が暮れたら陣に戻って、今日の『戦』は終わりにする。
そういう人間の『戦の常識』とやらは、闇属性C.V.たちに一切通用せず。
夜目がきき、魔力を感知して、夜間訓練・実戦の両方を行っている。
精鋭の黒霊騎士たちの威容は、田舎騎士との実力差をつきつけ。
「今までは大目に見てきましたが。シグルスの騎士は『ムチ』でたたかれないと、礼節一つ守れない様子です。
よって今後は容赦なく制裁を行うとしましょう。
まずは容疑者のヘイダルを出してください」
黒霊騎士たちは容赦ない、恫喝と降伏勧告を行ってきた。
領地を治める勢力の許可なく、他の勢力が武装して集団を作る。
貴族のように強権・特権をふるい、貴族自身の犯罪捜査を免れるのは日常茶飯事だが。武力・魔術によって罪人を探し、勝手に捕縛を行うのは”越権行為”であり。
上級貴族どころか、王族ですらできない強硬手段を平気で行う。
そんな黒霊騎士様たちはシグルスの街にとって”侵略者”であり、街の秩序を破壊する怪物に等しく。
騎士たちが黒霊騎士様たち恐れ警戒し。ストレスに耐えかねて”悪口”の一つもつぶやくのは、仕方ないだろう。
一方の黒霊騎士たちからすれば。強力な騎士C.V.なのに〔相応の敬意をはらわれていない〕と、いう不満がある。
冒険者ギルドに訓練場兼『闘技場』を建設することで、シグルスの街にも利益をもたらし。建築資材の売買や工事など、ちょっとした特需をもたらしている。
それに伴って荒くれ者たちも移動して、シグルスの街を闊歩しているが。
彼らが乱暴狼藉を働かないよう、試験でふるいにかけたり。『魔術』を使い、外注まで行って不祥事を起こさないよう、手間をかけている。
”冒険者の家族には借金がある。その借金を減らしてほしければ、言いなりになって闘技場の建設を妨害しろ!”
”荒くれ者たちが増えて、『食糧』の値段が高騰する。それを見越して食糧を買い占め、大儲けするぞ!その邪魔となる『輸入食糧』は山賊に襲われたり、毒虫がつくだろう…”
”淫売C.V.は男娼を求めて、シグルスの街にやって来た。ならば適当なオトコをあてがい、その財産を根こそぎ奪う~^;+*:Zーーー”
”暴言”というか、”侮辱”と言うべきか?戦闘力で劣る弱い人間どもが、こんなことを言ったあげく。利権に”寄生”して、余計な負担をかければ。
もう少し人間に敵対的なC.V.ならば、最初の”暴言”が発された時点で無礼打ちを行い。黒霊騎士団はシグルスの街を壊滅させていたかもしれない。
とはいえイリス様の領土で、勝手にヒト族を攻撃すれば、黒霊騎士団が制裁されかねず。
黒霊騎士なりの外交を行っているのだろうけど。
このまま放置すれば策略家の望む通り、不毛な争いが始まりかねない。
ユングウィルはいやいやながら、仲裁?を行うことにした。
「フリス、フルル・・頼む」
「了解です(よ)、ユングウィル様・・・『バルカンフラワー!!』」×2
「「「…ッ⁉」」」「散開っ!」「くっ・・」
「落ち着きなさい・・っ!」「「「・・-・:・」」」「威嚇か…」
夜空に無数の火花が散り、打撃音が響く。メイガスメイド2人の「術式」が交錯して、『術式弾』が空中でぶつかりあい。
降り注ぎはじける『火花』が、 黒霊騎士様とシグルス所属の騎士たち、両者の意識をこちらにひきつけ。
「申し訳ございませんでしたーーー~」
ユングウィルは地面に額をこすりつけた。
平伏とは明らかに異なる、頭を地面にこすりつけるフォーム。
〔気に入らず、お怒りでしたら。頭を踏みつけにしてもらって、かまわない〕と、いう意思を胸中に押し込めつつ。巌の決意をもって、身を低くする。
「「・・・*・:」」
そんなユングウィルの動作に反応したのは、メイガスメイドの二人だった。
ユングウィルの後方から熱波が発せられ。不満・不本意の怒気を帯びた、『焔』を視なくても感知できる。
今にも必殺の『バーストフレア』を発動する、寸前の緊張感が漂い。
「…・・・ッ」「全員、急いi…」
『ダウンアーマー』×8
次いで黒霊騎士たちが、『魔力の鎧』を解除していく。重厚な装甲が『魔力』の泥と化して、暗い地面に同化していき。
そこらへんで、ようやくシグルス領軍の騎士たちが動き出す気配を発し。
「申し訳ないが、今日のところは退いてください。
謝罪の意思と『カエルの型』を土産にして、後日に問題を解決しよう!!」
「それは、ヨロシイお考えかと」
「炎熱C.V.班の名代として、全面的に同意イタシマス」
「「「「「・:・:~…・」」」」」「「「「「・-・…;*」」」」」
察しのよいフリスとフルルの制圧射撃によって沈黙する。
無論、ユングウィルは最近まで『射撃』の二文字など知らなかったが。
親しくなった、火属性の女性たちから丁寧に教えてもらって、知識を得ており。
「騎士のミナサンは領主様に、ご報告してね^~^… 」
「私たちは『フロッグアクション』について、詳しくお尋ねすることがありますから。
『影に灯る、刹那の鼓動よ 瞬間の熱と成れ!
イグニッション(トーチ)!』」
その後、招集をかけられた炎熱C.V .班5人を交えて、ユングウィルは丁寧な説明会を開き。
土下座にも『技』があり。謝罪にも美学・拝謁の儀礼が存在した。
〔そもそも、幻想物語には『カエルの王様』と、いうのが存在し。
俺はそれに登場する『カエル』をイメージして、幸せになるつもりだ!!〕
そういう説得を懇々と行い続け。
〔それでは私たちに謝罪の意思を見せる時は、『フロッグアクション』は無しでお願いしますね〕と、いう通告をされてから。
「…・…;・どうも・;」
「お待ちしておりましたユングウィル様」
退いた黒霊騎士たちを束ねる、ナイキスの待ち伏せを受けることになり。
領主ザリウスからの使いは、職務放棄を行って置物と化した。
単純に考えて、『イオカステー』は都市ヘレネの有力者or名家の血筋であり。おとぎ話の王女様と同様に、結婚すれば都市ヘレネの権力もついてくる。
あとは美魔女だから年の差婚も問題なかった・・・と、いうどこかのドラマと同様では、単なるスキャンダルで終わってしまいます。
『イオカステー』に関して、他にも注目すべきは『自害』の早さです。
〔敗北・落城して身を汚されるくらいなら、自害する!〕と、いうならともかく。
『イオカステー』の自害は、止める間どころか、兆候すら感じられない。
『ひどい内容の神託どおりに、なってしまい絶望した』と、いう面はあるでしょう。
しかし4人?も子供を残し、高い地位にある『イオカステー』が、そうあっさり自害できるでしょうか?わずかでも逡巡があっていいと、思うのですが。
それらしき兆候はなく。
そこで私が連想するのは、謎を解かれてしまい、やはり『自害』した『スフィンクス』です。
『女王神ヘラ』に命じられて、山に座していたのに。詫びの言葉すらなく、あっさり『スフィンクス』は自害してしまい。『スフィンクス』が山に座していた『目的・使命』も、明らかにされていないという有り様です。
怪人スフィンクスや一部のファンタジーだと、『スフィンクス』は多芸な魔獣ですけれど。
ブレス・魔術に身体スペックなど、『スフィンクス』の力は後世に追加された。ギリシャ神話では『謎かけ』以外、『スフィンクス』の能力は明記されておらず。
〔二度の偶然はない〕と、どなたか言ってますが。同じ神話で、短期間に『自害』が続くのは不可解であり。
『イオカステー』と『女性型スフィンクス』には、何らかのつながりがあった。唐突な自害を、単なる『絶望』の二文字で片付けるのは、どうかと愚考します。