368.閑話~炎熱C.V.の虹珠(ベリル)
ギリシャ神話の『スフィンクス』は、守護神獣だった。
〔物騒なテーベに侵入する侵入者を排除していただけなのでは?〕と、愚考するのですが。
その根拠の一つが、『スフィンクスの謎かけ』です。単なる人食い魔獣なら、『謎かけ』をする以前に、『話し』たりしません。
上位魔神?な『テュポーン』『エキドナ』はともかく。
同格な血族の『キマイラ』『ヒュドラ』や『ケルベロス』すら会話していないのです。
それと『神話』ということで、認識してませんでしたが。神の加護を受けた『英雄』、高度な教育を受けた王侯貴族ならともかく。
『まともな旅人』は魔獣と話しませんし。『謎かけ』の内容を正確に伝える、『言語』を『まともな平民』は理解できないと愚考します。
古代ギリシャの平民は、安易に旅などできませんし。他都市・他の地方の『言語』を、学ぶ機会などあるでしょうか?
そしてローマ帝国に支配されたギリシャ人なら、かなり教養もあり。他国の言語を話せる、旅行者もいるでしょうけど。
それと『スフィンクスの謎かけ』を解けるかは別問題であり。
異国の人から『謎々』を出されたら、普通に難易度は跳ね上がる。
外国語を誤訳したら、その時点で謎解きできませんし。他国の文化を半端に理解して、誤認しても詰んでしまう。
そして『誤訳・誤認によって解けない、謎々を出して旅人を喰う』卑劣行為など、女王神ヘラに仕える眷属として、許されることではなく。
〔旅人に通じるよう、謎かけを行う『スフィンクス』の知力・学識は、けた外れなのでは?〕と、愚考します。
『救援』だと思っていたC.V.戦士は、『ゲームの盤面』をひっくり返す『業火』だった。
そして遠くの他人事ならば、〔興味深い〕オハナシですむけれど。
〔冒険者たちを雇って、連れてきてくれ〕と、彼女に頼んだのはユングウィルであり。今さら、知らぬふりなどできないし。
ほんの少しえでも解決の可能性がある問題に、取り組むべきだろう。
「あァ~…よく来てくれマシタ、冒険者の皆さん。
これから依頼内容の説明をする」
「「「「「「「「「「・・-〇…・」」」」」」」」」」
〔この野郎・・…〕×10の白い視線が、ユングウィルへ向けられる。
それに気付かないふりをしつつ、ユングウィルは冒険者ギルド職員として話しを始めた。
「もう話は聞いているだろうが。
黒霊騎士団長様が、冒険者ギルドに闘技場の『興行』を企画したのは、一儲けするためではないし。ましてや賭け試合にのめり込んで、『依頼』をおろそかにするなど論外だ。
このことは承知しているな?」
「それは、まあ・・・」「「「・・・:・…」」」
「だったら口で言えよ・・」「「「「「・・・〇ッ・…」」」」」
「ささやかな『娯楽』と『臨時収入』をもたらし、冒険者の実力を底上げする。
それと武力に特化した冒険者が、称賛される場を作り、自信をつけてもらう。
これらが闘技場の運営をする目的だ」
冒険者が称賛されることは少ない。
命がけで依頼を成功させても、ギルドの受付嬢から〔すごいです。ご苦労様でした〕と、言われるのが大半であり。
怪物を退治して巨大な素材を持ち込んでも。見物している冒険者・スタッフたちから〔おおっ、すげぇー!〕の一言で終わってしまう。
稀に吟遊詩人などを雇って、名声を広めたり。パレードなど『催し』を開いて、称賛される場を作る冒険者もいるそうだが。
これらは冒険を成功させたうえに、儲けを独占して、利権を確保するのが必須なのに加え。
〔面倒な『駆け引き』をする必要がある。オレには無理だな〕と、ユングウィルは考えている。
『冒険者が名声をあげる』=『権力者の面子をつぶす』と、言ってよく。
冒険者が表立って称賛されないのは、〔権力者に睨まれないよう、自衛のため隠れている〕と、いう面もある。
少なくない貴族が”二枚舌”のうえに、”二重基準”な権力の亡者であり。
”闇討ち・裏切り”で利益を得ると、人肉の味を覚えた”ケダモノ”のように、他者を食い物にする。
これに〔しきたりだ。プライドのため〕と、言って”おぞましい悪行”を正当化するのが、害悪貴族のスタンダードであり。
〔功績をあげたら、冒険者も讃えられるべき〕と、いう〔信賞必罰の正論〕は、”奴らに”一切通じない。
そのためキルド施設の『外』で、冒険者が讃えられ『名声』を得るには、いくつか条件が必要であり。貴族に許可をもらい、利益を提供して、”難癖”をつけられないよう『備え』がいる。
例えば『戦争に勝利して、戦勝パレードをする』時は、軍勢の指揮官もセットで称賛されるため。冒険者もパレードへの参加が許される時もあるが。
〔間違っても”山賊・盗賊ギルド”を野放しにするような。軍事力が低い貴族に、冒険者を称えて、取り立ててくれ〕と、交渉するだけ無駄というもの。
仮に単なる手数料を払うなどして、大っぴらに冒険者が称えられれば。
”平民ごときが生意気だ!”と、後日に難癖をつけられるか。
〔骨の髄までしゃぶられるだけだろう〕と、没落貴族は確信している。
そのため冒険者ギルドの内部限定とはいえ、闘技場および『興行』には細心の注意が必要であり。
〔賭け試合の儲け・一般市民の入場料で、闘技場を経営するのは厳しい〕と、考えている。
そしてユングウィルとしては〔黒霊騎士団にだけ頼って、『経営資金』を出してもらうのはやめるべきだ〕と、いう意見を持つ。
何故なら『騎士団』が仕えているのは【魔王様】であり。
シグルスの街を一応、占領しているわけではない。そんな黒霊騎士団は、魔王様のご命令でいつ撤収するか、知れたものではなく。
さすがにナイキス様をはじめとした、何名かの黒霊騎士様は駐留すると、信じたいが。後ろ盾として頼るのは、リスクがあると推測しており。
無論、これらの無数にある”厄介な事情”を、普通の冒険者に話せるはずもなく。
だからユングウィルは胸を張り、自信をもって宣言した。
「冒険依頼が優先だから、闘技場で大ケガをしてもらっては困る。
だが完全にケガをなくすのは不可能だし。治療費・クエストができないときの生活費も、稼がないといけない。
この理屈はわかるな?」
「「「「「ああ…」」」」」「・・それで?」「「「「・・:…ー・」」」」
「だから闘技場で負けた者には、強制依頼で闘技場の『運営費用』を稼いでもらう予定だ。
フリスとフルル。この二人が作る『絶品料理』を完成させて、それに伴う諸々で稼ぐため。
貴重な野菜を育てたり。家畜を太らせる『大量の穀物』を畑に植えたい。
そのために作物を成長させる『肥料』を作る。その各種業務をあんたたちに依頼する」
「ユングウィル様っ⁉」「ふ~ん・・・」「なっるほどね^~^」
ユングウィルの依頼に、フィニーとメイガスメイド2人が驚きつつも、その提案を受け入れ。
「肥料作りだとっ…⁉そんな(糞尿をあつかう)汚れ仕事を…」
『・・・ー・^・^』×2
「ああっ…もう、ユングウィル様ったら勝手に決めて^・^・・」
不平のつぶやきを、C.V.三人の闘気が圧殺する。
『火属性の身体強化』に伴う魔力が、せっかくの長話で忘れかけた、敗北の記憶を強制的に再燃させて。
「まあ、直接『肥料』を作るだけでなく。野菜を育て運搬したり。農家と交渉したり、臨時でお手伝いをする役目もありますよ^・^」
「大丈夫、ダイジョウブ、大・丈・夫だから。
ボクたち戦争種族C.V.だし、『お仕事』なら汚れもいとわない。
『消臭の術式』もあるし、冒険者の皆さんにも教えてあげる。
授業料は、タダに等しい大サービス!^!」
「ありがとうございます、旦那様。これで懸案が一気に解決できます」
「「「「「「「「「「・・・・・…;」」」」」」」」」」
C.V.一人だけでも、人間数人を火だるまにする『魔術能力』が使える。
そこにメイガスメイド2人が加われば、多少の不満はあったとしても、冒険者たちが逆らえるはずもなく。
〔その代わり意地でも、冒険者たちに利益を提供する。悪いが、しばらく我慢してくれ〕
そんなことを考えつつ、ユングウィルは依頼の条件をつめていき。
さらにフィニーに指令を出した者として。
ユングウィルは〔どうやって冒険者たちを連れてきたのか?〕と、いう事実の確認を行い。
「・・・ー・*・…・」
そう思ったが、後の祭りだった。
数時間前のこと・・・・・
『昔々、あるところにキツネ、サル、ウサギが仲良く暮らしていました。
そんな三匹のもとに、一人の老人がやって来ます。三匹は老人を世話することに決め、それぞれ食糧を獲りに行きました。
キツネは魚、サルは木の実を獲りましたが。
ウサギだけは何一つ、取ることができず。
ウサギはたき火の中に身を投じ。その身を糧とするよう告げました』
こういう『犠牲を尊ぶ』話は、世界各地の聖典に記されていますけど。
時間軸によっては『普通の昔話』として、知見の浅い『幼子』に語られることもあったとか。
しかも聖典だと焼ける前or焼かれずに、ウサギは讃えられるのですが。
アレンジされて、『ウサギが本当に焼死してから、魂が・・・』と、いう内容を無邪気な子供に、語られる事例まであり。
〔世相によっては、若いC.V.が過激な思考をするかもしれない〕と、炎熱C.V.班を率いるフレイシアは考えたことがあった。
〔・・・-ーーッ・⁉〕
まさか班の前衛が、そうなるとフレイシアは夢にも思わず。見覚えのある後ろ姿から、糸のように細い煙が立ち上る。
それを目の当たりして瞬きの間、呆然としてしまい。
その間に『秘奥の禍歌』は完成した。
『妖狐は肉を 魔猿は果実を されど白兎がもたらす糧はなく
ただ火の祭壇で踊るだけ
毛皮は焦げ 赤色は脂と交わり 瞳の潤いすら、渇くけれど
妖狐の後悔、魔猿の嘆きが 消えない慟哭を、静謐に刻む
虹珠の鮮血!!』
「「・・、ッ⁉」」「「「*!‐‘…ー―;ーーー」」」
「ヒぅw?*」「ギwィーー!;!」「「ホぉgオ+ン―ーー⁉」」
フィニーの『魔術能力』が闘技場の冒険者たちを侵蝕していく。
一応、女性冒険者がいない時を狙う、損得勘定は残っているようだが。
「「「「「「「「「ガぁ⁉*;―-‘-…」」」」」」」」」
男性冒険者たちの『体熱』を視るまでもなく、残された時間が少ないのは明らかであり。
フィニーの『切り札』を解除すべく、フレイシアも『奥の手』を瞬時に発動させていく。
『私の焔よ…熾火より燃え上がれ 虹珠の火成!!!』
『役目』のために蓄えていた『魔力』を開放する。
その『焔』は速やかにフレイシアの身体を覆い、『魔導能力』の芯となる『核』を形成し。
『・ー・・*+』
「…っ⁉」
そしてフィニーの『無茶』に間に合わなかった。
荒くれ者たちを炙っていた『魔力』が、フィニー一人へと回帰していく。
たった今、フレイシアを一時的に変性させた『ベリルバース』が、”低温の燐火”に感じる『禍々しい怪火』をフィニーは受け止め。
平素と変わらず話し始めた。
「リーダー、小言は後にしてください。
ボクは冒険者のみんなに、とっても大事な依頼をして・・・
それから闘技場の支配人である、最強の黒霊騎士様に〔ゴメンナサイ〕をしてきます」
「なっ…!:?」
驚愕するフレイシアを無視して、異なる『暴虐』が炸裂する。
『膨大な魔力』によって物理法則をねじ曲げ、蹂躙しながら重装備の黒霊騎士が高速で闘技場に出現し。
「フィニー殿の謝罪を受け入れましょう。
とはいえタダで許して、貸し借りを作る”おキゾク様”のようには、なりたくないですし…
様々な悪事を働き、害悪をばらまき・・・私の友人を悲しませた”(誘拐魔の)賊”に対し、ご挨拶をしてきてください。
私が行けば簡単なのですけど。せっかく闘技場を建てた場所を、更地にしたくありませんから…」
「「「「「「「「「「・・・●:〇…」」」」」」」」」」
「「「・・+・+・」」」
冒険者たちの視線に対し、その場にいた黒霊騎士3名が、無音の答えを返す。
その恐ろしい返答内容に、誰もが絶望したものの。
フレイシアは今度こそ遅れることなく、難事の対処に動き出し。
「無駄に『ベリルバース』を発動してしまったわ。
せめて武勲をあげたいから、”賊”の壊滅ぐらいは私にさせてくれるかしら」
「いいんですか?」
「ええ、かまわない。
冒険者への『お願い』は、ユングウィルさんに頼まれたのでしょう?」
「ありがとう、リーダー!」
この短いやり取りの間、正式な依頼も説明もされていない、冒険者たちは口をつぐみ続け。その後は抵抗することなくフィニーに従い。
禍々しく、膨大な『魔力』を感知しているはずなのに。他の黒霊騎士やシャドウ一族の双方とも、現れることは一切なく。
〔やっぱり『ベリルバース』は必要だったわね〕と、フレイシアは数日が過ぎてから結論づけた。
『謎かけ』をして、解けなかった者を『スフィンクス』は喰らってしまう。
この『神話』で、最大のツッコみどころは何でしょう?
私は『謎かけをしていることが、何故バレてるの?』と、ツッコみたいです。
何とか『スフィンクス』から逃げ延びた者が伝えた?
感知に秀でた者が、『スフィンクス』を調べた?
そんなことは絶対にありえない。
何故なら『謎かけ』の問題が知られたら、その答えを調べられるから。
別にクイズ番組に出場しているのでは、ないですから。賢者に尋ねるなりして、『謎』の答えを知り。その答えを暗記して『スフィンクス』の謎かけに答える。そうして英雄になることも、できるはずですが。
そういうパラレル『神話』すらなく。
そもそも権力を司る『女王神ヘラ』の眷属を、そういう策で退治したら、普通に報復が怖いでしょう。『神託』で他のギリシャの神々に、答えを教えてもらうのも同様であり。
『スフィンクス』が『謎かけ』をしていることを、知られている。知れ渡っているのは不可解なのですが。
〔『スフィンクス』の協力者。もしくは別の『女王神ヘラ』の眷属が、意図的に情報を流したのかな~〕と、愚考します。
そして、そんなリスクを冒す理由は一つしかなく。
〔主な女神の意向にそって〕だと、思うのです。