367.閑話~炎熱C.V.の前衛
ギリシャ神話の『スフィンクス』。その両親は諸説あり。
テーバイ王が父親だと、その息子(血族?)のオイディプスに謎かけをしたあげく、自害した。
骨肉の争いをした、スキャンダラスな『魔獣』になってしまいます。
そのため『スフィンクス』の親は、『エキドナ+オルトロス(orテュポーン)』の説を推したいです。
そして同時に『スフィンクスは山を守った神獣なのでは?』と、推測します。
繰り返しますが、古代世界の『旅人』というのは、事情により村・都市で暮らせない人々であり。一概に”罪人・山賊”あつかいするべきでは、ありませんが。
生きていくため盗賊に身をやつしたり。権力争いに負けた者が、復権する力を蓄えるため、”山賊行為”を行いかねない。
現代の観光客、出張するサラリーマンどころか。中世の行商人と比べても、古代世界の旅人は物騒な存在であり。
『武力を持つ王族が、旅する勇士を客人としてもてなす』と、いうのは例外的な話と言ってよく。身を守る武力に劣る、一般人にとって古代世界の旅人は、危険な来訪者という面もあり。
わざわざ『旅人』を襲うスフィンクスは、座している山・その周辺を守っている『守護獣』の面もあったと愚考します。
冒険者はプライドの高い職業です。
たとえ世間・権力者たちから称賛されることがなくとも。自らが成し遂げた冒険を、誇りに思っているし。
同業の冒険者から下に見られることは、我慢ならず。他者から”弱者”と侮られる、セリフをけっして許さない。
そんな冒険者たちに、一定の地域から認められる『功績』をもたらす、【依頼】が立案されたのに加え。
〔『手札』が一枚では困るよねっ!〕と、いう御意向もあり。
冒険者の『訓練場+闘技場』の試作が行われたはずなのですけど。
その計画は混成都市ウァーテルの支配から、大きく外れつつあった。
「だ・か・ら‼
何でこんな『兜』をかぶって、『決闘』しなくちゃならないんだ!:?
熱いし、視界はふさがるし、ロクなことがねぇぞ!!」
「それは黒霊騎士団長が、お決めになったから。
闘技場で興行するたびに、頭が割れたり、大ケガをしていたら。本業に差し障るでしょう?だから闘技場では、『兜』をかぶってもらっているの」
『騎士大剣の念動手!!…ッ!』
「その程度っ…」「なめるなぁーーッ」
「グくッ*:`…『ダークノヴァ!』」
「「・・・-;*、――ー…⁉」」
「「「「「・・・;…:・」」」」」
冒険者ギルドの訓練場のすみっこ。そこでは数人の冒険者たちが、炎熱C.V.をつかまえて、要求を述べつつ。
恐ろしい黒霊騎士C.V.様たちの、実戦に近い演習にまきこまれないよう、そろって身を縮めていた。
〔〔〔〔〔あんなの『兜』をかぶっても防げるはずがねぇ…〕〕〕〕〕
こんな正論を言っても、虚しいだけであり。
〔それじゃあ、『兜』を外したら黒霊騎士様に勝てるの?〕
〔理不尽な暴虐に一矢報いるのは不可能ですが。冒険者が黒霊騎士様の一人を倒したら、『兜』を外して『闘技』を行ってもいいですよ〕
フィニーがこんな現実を告げれば、よくて冒険者だったモノが転がり。
普通にプライドの高い冒険者との間に、”遺恨”ができるだけでしょう。
だからフィニーは用意していた『正論』を述べる。
「『冒険』とは過酷で、不測の事態が起こるものなのでしょう?
だったら訓練で『兜』をかぶり、限られた『視界』でも戦えるようにする。
耳を半ばふさぎ、不自由な『聴覚』でも周囲を警戒できる。
〔そんな修練を行ってください〕と、いう上位C.V.様のお気持ちを、蔑ろにするのですか?」
「「「「「滅相もございません」」」」」
心を一つにした、冒険者たちのセリフが重なる。
とはいえ、それで冒険者たちの不満や『渇望』が消失するわけではない。
普段、称賛されることの少ない冒険者たちが、大勢から、文句なしの、称賛を浴びれる。
『個の強さ』を示し、荒くれ者が自らの武勇を誇れる。
そんな貴重な舞台である、『闘技場』で戦う機会が巡って来たのに。
〔『兜』をかぶって、正体を隠して戦いなさい〕などと、いう規定に従えるはずがない。まして普段、『兜』をかぶっていない者たちからすれば、『視覚・聴覚』を制限する『枷=兜』をつけるなど論外であり。
〔『兜』を外し、闘技場で全力を発揮して戦いたい〕と、いう主張をするのも無理はないけど。
〔闘技場は冒険者の皆さんに、『高揚感』と臨時収入を提供するための場所であり。闘技場のバトルに熱中して、冒険がおろそかになったり。
ましてや戦いの”遺恨”を引きずる可能性は、少しでも減らしたいですわ〕と、上位C.V.様が仰られたら、下位C.V.は御命令に従うしかない。
一応、〔闘技場での戦いを、外に引きずることのないように〕と、諭せばいいのでは?・・・そういう意見もあったのですが。
〔騎士団長の立場としては、神聖な決闘で『賭博』をするのはやめてほしいのですが・・・それを強制するのは反感が大きいでしょう。
そして『賭博』が行われる以上、闘う闘士役に暴言を吐いたり。
勝敗の『結果』を操ろうと、干渉してくる者が必ず現れる。
そういう”騒音”から、少しでも冒険者を守るために、闘士役に『兜』を装備してもらうのです〕
C.V.ならば(女の戦いを除き)、決闘ルールが定められており。暗黙の了解を破れば、袋叩きにあうリスクを、誰もが理解している。
だけど困窮して、将来に不安を抱き、大事な者が危険に瀕しているなら。
臨時の闘士役に〔闘技場ルールを死守してください〕と告げるのは、おそらく死刑宣告にも等しく。
〔それを防ぐ布石の一つが、闘技場で装備してもらう『兜』よ〕
『兜』で耳目を制限し、観客が野次る言動を、闘士に届かないようにする。
そして何より『兜』の中身を探る手間を、不届き者たちにかけさせ。
〔手間と利益を天秤にかけ、謀略を断念するなら、それでかまいません。
ですが、しつこく『兜』の中身を探るモノを捕捉したら…‘・^〕
〔…ッ!!私の力で成敗しますっ!〕
〔そんなに肩ひじを張らなくて大丈夫ですよ、フィニー。
黒霊騎士団には『追跡が得意な者』もおりますし。腹心が『こういう事』に強い者と取引をしています。
炎熱C.V.班は、このことを頭に入れているだけで、大丈夫ですから〕
〔ハイ。承知シマシタ〕
この瞬間に炎熱C.V.班は、全力で別のアプローチを行い。
闘技場の『健全化?』に取り組むことを決意した。
『魔術』が飛び交う幻想世界において、『肥料』が使われることは少ない。
『肥えた土』を地属性の『魔術』で創ることは、稀にあっても。
『錬金術』・『賢者の知恵』で『錬金肥料』を製造する者は、皆無に近い。
何故か?
理由は様々でしょうけど。
『面倒な魔術世界』の場合は、『錬金肥料』のデメリットが大きいから。
『肥料』の栄養が強すぎて、土地・作物を焼いてしまう。不毛な焦土を作ってしまう危険があり。
加えて『肥料』の毒性によって、焼くどころか土地を汚染してしまう。
『怪植物』が生えたり、モンスターを呼び寄せかねない。
そのため、まともな『地・樹属性』の術者がいれば、『肥料』の錬成・製造など許さない。『腐葉土・排泄物』を材料にした、ささやかな肥料ならともかく。
モンスターの捨てる素材を利用して、『肥料』を『錬成』することは、本来なら禁じられているのですが。
〔『肥料』は禁じるのに、『魔薬』の製造はお許しになると?〕
〔許してなどいない!シャドウ一族に命じて、しっかり取り締まりを…〕
〔言い訳は、けっこうです。
本来、”禁忌の品”を量産するヒトは、拠点もろとも殲滅する。
5級C.V.様がふるう、地形破壊クラスの『魔導能力』によって、殲滅して見せしめにするのが『通例』だったはず〕
〔・・・-・…ッ〕
〔その『通例』を果たさず、混成都市を建設なさったのですから。
私たちも『通例』を破って、『肥料』の錬成を行う、許可をいただきとうございます〕
そもそも〔毒だからダメ!〕と、言うなら『弱い毒』の調合も、同様に禁じるべきであり。
1)『肥料』を生産・流通させ、商機を得る。
2)『肥料』によって、作物を増産し。『開拓』の効率をあげる。
3)『肥料』の材料となる、『傷んだ魔物素材』を買い取り。冒険者の『所得』を増やす。
〔これらのメリットを捨ててください。
だけど混成都市は運営する。C.V.の伴侶となる(かもしれない)人間を『魔導能力』で、虐殺するのは許さない。
闇討ちされたC.V.の復讐で、”盗賊ギルド”関係者を皆殺しにすることは、禁じます〕と、仰るならば。炎熱C.V.班が所属する、C.V.勢力の憤懣はどこにぶつければいいのでしょう?
かなり省略した『交渉』の内容ですが。大まかに、こんな感じのやり取りがなされ。
何とか『錬金肥料』の製造が認められたものの。失敗は許されない案件であり。
「『実力者』に協力を求めました。
そうして私が『豊穣神の季節』で肥料をコントロールすれば…」
「うるさい、うるさい、ウルサイッ!なんで、そんなことができるの?
『釜戸女神の魔導』は、貴女の憧れだった!それを何で私に譲渡できるの?」
〔『魔導能力』が占める容量の問題で、『ヘスティアゲーム』の精度・強制力が維持できませんから〕
そういう正論が通用しない、火花が文字通り散っており。
ハーレムの主?にすえられたユングウィルは、メイガスメイドの二人が言い争う部屋で、貝のように身を縮め。
〔頼むぞ、フィニー・・〕
救援が来るのを待ち続けた。
「お待たせです、ユングウィル様!フィニー、只今到着しました」
「おおっ…待ちかねたぞっ!!」
スラム街の一画。わりと平民の居住区に近い廃屋に、明るい声が響き。
「「・ー・‥〇+:…」」
殺気だったメイガスメイド2人が、色のない視線を一瞬だけ送ったものの。
再び『火の魔力』をぶつけ合い。それぞれの主張を押し通そうと、文字通りの『火花』を散らせた。
そんな二人の様子など、気付いてないようにフィニーはふるまい。
「例の件ですが、契約を結べました。
それでは皆さん、よろしくおねがいします!」
「「「「「「「「「「ウwぇ~---ィ」」」」」」」」」」
くたびれた雰囲気で、衣服の所々を焦がした、ならず者たちが歩いてくる。
その目に光はなく、負け犬のようだった。
「・・・いったい、どんなご用でしょう?」
「私たちは今、少々立て込んでおります。用件は、お早めに仰ってください」
「・・^…^」
「「「オイソガシイところ失礼シマス」」」
「「フィニーさんに呼ばれて、来たんです」」
「「「「「どうか、俺達を雇って、ここで働かせてください」」」」」
「「・*・ッ⁉」」
そして真正の負け犬だった。
「オイオイ、フィニー…いったい、オマエは何をしタンんだイ?」
「別に大したことはしてません。
ただ闘技場に少しルールを追加しただけ・・闘技場のチャンピオンは『兜』を外して、強者の栄光を享受してかまわない。
だけど敗北したら、いくつか『選択』してもらう・・・というルールを追加しただけです」
「「「「「「「「「「…;…・ッ」」」」」」」」」」
フィニーの言の葉に、荒くれ者たちがわかりやすく反応する。
怯えて震え、表情を歪め、歯の根が合わない者すらおり。敗残兵どころか、溺れて棒でたたかれた、犬以下の様相だった。
〔〔まさかっ…・⁉〕〕
「もちろんお忙しい冒険者の皆さんを、”借金苦”に陥らせたりしませんし。
禁酒などの禁欲を強いたりなどしていません…・・^:^」
「「「「「「「「「「…・ー・-;…*ッ」」」」」」」」」」
〔あっ、コレ聞かないほうがいいハナシだ〕
ユングウィルは胸中で、そう確信したものの。
可愛らしいフィニーは言の葉を続け、惨事の詳細を禍歌で再現し。
『妖狐は肉を 魔猿は果実を されど白兎がもたらす糧はなく
ただ火の祭壇で踊るだけ
毛皮は焦げて 赤色は脂とt/*m!!:? 』
「チょ*と、待てェー―~‐ーー」
ユングウィルの蛮勇によって、禍々しい『旋律』は止められ。
当然、フリスとフルルも争っている場合ではなくなった。
ギリシャ神話の『スフィンクス』は、『女王神ヘラ』に命じられて、フェキオン山に座していました。
そして『旅人』を襲い、近隣の『テーバイの住人』を苦しめていました。
この神話だけ読むと『やっぱりスフィンクスは人食いの怪物だ』と、なってしまいますが。
まず言いたいのは〔『女王神ヘラ』をなめすぎ〕と、いうこと。
〔どこの世界に、単なる人食いをやらせる、主神の正妻女神がいるんだ!〕と、申し上げたい。
まあ”ギリシャ神話…異教のくせに人気あって、絶対に中傷したいマン”の思考では、〔嫉妬深い女神ならやりかねない〕と、言うでしょうけど。
しかし迷惑を被ったのが『テーバイの住人』と、いうのが重要です。
『テーバイ』は様々なギリシャ神話の舞台となっていますが。その内容は悲劇・惨劇にあふれており。
『星座はもちろん、子供の読むギリシャ神話では紹介できない』と、いうレベルの凄惨な戦記です。
そのため『古代世界の旅人を、自由にテーバイに入れたら、ますます政情不安になる!』と、権力を司る女神が考えるのは、当然のことであり。
『スフィンクスを配置して、旅人をふるいにかける。怪物に無謀な挑戦をする、危険人物はテーバイに入れない!』
『女王神ヘラ』が、そういう考えに至り、『スフィンクス』を山に配置する。
古代の権力者としては、そう非常識な采配ではないと愚考します。