閑話~メイガスメイドの情熱
岩山から作られた『ギザのスフィンクス』ですが。
ピラミッドとセットで有名になり過ぎてしまい。他のスフィンクス像をマイナー化させたと愚考します。
それは考古学的・ファンタジー的に、大きな損失であり。都市によって微妙に異なる『エジプト神話』と同様に、色々な『スフィンクス像』が存在する。とても興味深いと思うのですが。
おそらく世知辛い理由で、『ギザのスフィンクス』以外は無視されていると推測します。
その理由はオブラートでくるんで言えば『人気がない』ため。身もふたもないことを言えば『金にならない』からではないでしょうか?
他にいくらでも高く売れる『宝飾・美術品』があり。パピルス・石板に書かれた古代文字を解読する方が、考古学の発見につながるでしょう。
それに対し大半の『守護神獣』は、かさばるうえに重くて、運ぶのも大変であり。
しかも各地方都市の特色で、『スフィンクス』は色々とバージョンがありますが。それは『エジプト神話』が、各都市の都合で書き換えられた『黒歴史』でもあり。
『他の神話のように、地域・時代によってアレンジされた』と、いうレベルではなく。覇権を握った都市の王・文化に都合が良くなるよう、『エジプト神話』を改ざんした。
その証拠が『様々なスフィンクス像』であり。『エジプト神話』における神秘・神聖さを、大きく損なっている。
〔そのため大半の『スフィンクス像』は人気がなく、高く売れない〕と、いう当てずっぽうな妄想をしています。
退治した魔物の身体部位で、普通は廃棄している身体部位も、火属性メインの『錬金術』で『塵・灰汁・炭』へと変え。
そこから『煙玉・消臭剤・触媒』など換金できるアイテムを、メイガスメイドのフリスは黒霊騎士と協力して造り。
「煙玉は・・万が一にも(賊の逃走に)悪用されたら困ります。
これを売るわけにはいきません」
「そんなっ⁉」
「強敵のモンスターから逃げるために、『煙幕』をはる道具は必要なんだ!」
「魔物素材を提供したのは俺達だ!当然、その成果を得る権利が…」
「代わりに、こちらの『消臭剤』に『洗剤・石けん』をつけましょう。
無論、誤用を防ぐため、使い方を練習する試用品をつけて…」
「「「・^ー^…・」」」「「「・●・●・」」」
「男性冒険者の皆さんには金銭の報酬を渡しますので、ご遠慮してくださいね」
「「「「「・・・;・ハイ、ワカリマシタ」」」」」
こんなやり取りの後に、『美容』に関する錬成物は、根こそぎ女性たちが持ち去っていったものの。それ以外の取引は、穏便に進んでいき。
「これでよかったのですか?ユングウィル様…」
「ああ、大成功だ。ありがとうフリス」
炎熱C.V.班のメイガスメイドと冒険者ギルドの自称アドバイザーは、豪華な屋敷の離れに、二人だけでいた。
〔今回は、ありがとうございます。報酬の一部として、この離れを好きにおつかいください〕
『魔女の巨釜』を構築した術式。『魔物を燃やし、できた灰』からアイテムを作る『錬金術』を教え、その実演を行い。
黒霊騎士C.V.に魔術?を教えたフリスは、黒霊騎士団の客人・教師として迎えられていた。
〔宿屋・ギルドの施設では、何かとご不便でしょう。
よろしければ、こちらに滞在なさってください〕
そう告げられて黒霊騎士団が押さえた複数の屋敷のうち。
美しい庭園のある『離れ』をフリスは譲渡され。
〔お話ししたいことが、あります〕と、フリスは依頼人を『離れ』に呼び出していた。はた目には『睦言の誘い』のようだが。
メイガスメイドの身分で、妖精霊騎士を差し置いて抜け駆けをするほど、フリスは無謀ではない。
この離れに呼び出したのは、『結界』をはって内緒話ができるから。
〔あくまで依頼の情報交換を行うのが目的です〕と、自らに言い聞かせ。最低限のもてなしの準備を、フリスは整えてから。
「『火属性の錬金術』なら紅石など、もっと高価なアイテムを錬成することができました。
何故、あのような安いアイテムを、冒険者たちの眼前で錬成させたのです?」
〔『フリスの錬金術』としては、失敗品を作った〕と、言って過言ではない。
『魔女の巨釜』で『塵・灰・炭』を錬成するのは、材料費こそ安いものの。
フリスはともかく『黒霊騎士C.V.』様たちが4人も集った、『人件費』の面では完全に赤字であり。もう一度、同じことを行うのは難しい。
優しい黒霊騎士様の善意にすがることは、可能でしょうけど。それは健全なつきあいとは言えず。
お客様を迎えるメイドとしては、避けたい事態だった。
口頭での質問とともに、不満の意を目線で伝える。そんなフリスに対し、ユングウィル様はゆっくりと口を開き。
「今日、フリスたちにやってもらったこと。これから、やってもらいたいこと。
それは冒険者に必要な『モノ』を提供する。
『驚き・感動』という、冒険者の士気を高めるため、必要な『モノ』を提供してもらいたい」
「『サプライズ』・・・でございますか…?
それは誰にとっても嬉しく、『心』に必要なものだと思いますが・・・」
「確かに誰にとっても『サプライズ』は嬉しいものだ。
だが冒険を行う荒くれ者たちにとって・・・正確には冒険に疲れた者にとって、『サプライズ』は特に必要なものだ」
冒険を成功させ、報酬をもらい、宝を得る。その報酬を使い、リフレッシュできる、余裕のある冒険者はいい。
だが大半の冒険者は、その日暮らしの者が大半であり。借金の返済・装備の手入れ・買い替えなどで、苦しい生活を送っている者が大半だ。
もちろん〔冒険者は自己責任だ!〕と、いうのが原則であり。
〔成功を収めるまで、苦労するのは、どの職業・階級でも同様だ!〕と、いう意見はユングゥイル様も否定しない。
しかし、この世界には冒険者以外に『騎士・傭兵』という、戦闘を担う『職業』があり。
加えて〔”賊の魔手”を考えれば、ギルドから冒険者へのサポートは必須だ〕とユングウィル様は仰られるが。
「・・・騎士は国の権力者に、傭兵は属する集団に従うもの。
一方で冒険者は最終的に『個人』で、身の振り方を決めます。
『自由』がある分、冒険者がリスクを負うのは、当然だと思いますが…」
「確かにまともな『自由』があるなら、冒険者がリスクを負うのもやむをえないだろう。
しかし、その『自由』が偽りで、『報酬』も不公平だったとしたら?」
「それは…」
『騎士・傭兵』のどちらも、戦場では”略奪暴行”の人身売買が許されている。
加えて対人の戦場で不利になれば、”敵前逃亡”すら許されており。
どちらも収入・生存率の数字は、冒険者たちよりはるかに高い。
善良な冒険者だけが、一方的に損をしているのが現実だ。
「・・・さすがに騎士様を侮辱してると思いますが」
「それはまあ、フリスたちにとって、騎士と言えば『黒霊騎士?』が基準だろうけど。
実際の騎士は、功績争い程度ならマシなほう。普通に権力争いしてるし。
面子やら勘違いで、キレて刃物を振り回す”気狂い”もいる。
だから身分が低い、勇敢な奴を”捨て駒”にしたり。重税を浪費して、戦争を仕掛ける。
そういう傭兵より質の悪い騎士団なんて、いくらでもいる」
「なるほど、私が不勉強でした」
〔そしてユングウィル様は、そういう”騎士の横暴”に苦しめられたのですね〕
フリスは推測を口にすることなく、胸中にとどめるも。
ユングウィル様のため込んだモノは、止まることなく。
「C.V.の皆さんが知らないのは、無理もない。
何しろ騎士団は『広報』も得意で、”不祥事”の隠蔽・ねつ造はお手の物だから・・・」
その後、しばらくユングウィル様による、”騎士団=性悪な騎馬隊”のハナシは、延々と続き。その本音が発露されるのを、フリスは辛抱強く聞き続け。
「・・・とまあ、こういう風に『騎士・傭兵』のどちらも悪辣な戦争屋だ。
不定期な報酬を収入のメインにしている。運が良ければ、『お宝・素材』の臨時収入が得られる程度な、冒険者と待遇面で”不公平”なのは明らかであり。
冒険者ギルドは、善良な荒くれ者たちにサポートを行い。この”理不尽な不公平”を、少しでも軽減する必要がある!!」
「ご立派なお考えだと、思います」
ユングウィル様のお話を要約すると。
冒険者は『怪物暴走への対策』『貴族からの依頼』という、『逃亡禁止なうえに、未知の危険に対処する』ことを強いられ。
”略奪・誘拐”が厳禁なため、活動の『経費』をまかなう、『報酬』を得ることが困難であり。
そして最重要なことは、冒険者の【自由】は”詐欺”に近い。
「放浪の英雄・金持ち冒険者ならともかく…日々の暮らし追われる、冒険者は簡単に活動地域を変えられないし。依頼も決まりきった、定番内容に陥る。
下手に冒険をして、負傷・装備の破損をするとシャレにならない。
加えて戦力が欲しい領主は、冒険者がホームから出ていくのを、よしとせず。冒険者が老いて、引退するまで、引き留め『工作』を行う」
「…⁇ですが、魔王様の側室が主導している、各種ケアが施され。冒険者の皆さんは疲労が軽減され、移動力も上がりました」
〔マッサージ・香りのケアによって、冒険者たちの身体能力が底上げされ。
それには冒険者ギルドも関わっています。シグルスの街では、闘技場の計画も進められていますし。
これ以上ユングウィル様たち、冒険者ギルドが働く必要はないのでは?〕
屋敷を維持し『安定』を求める、メイドの端くれとして、フリスは視線で問いかける。
それに対し炎熱C.V.班の旦那様は、自らの夢を熱く語り。
「冒険者、独自の『文化交流』ですか・・・」
「そんな、大したものじゃない。
ただ命がけで依頼をこなしている。冒険とは名ばかりの『定番な依頼』をしている、冒険者たちの気分転換になるよう。
飢えた住人に『炊き出し』をするのと、比べるのは何だが・・・〔楽しい冒険をできない者たちが喜ぶ、異国のネタで祭りをしよう〕と、いう計画だ」
〔ついでに、それで新しい商売が始まったり。引退する冒険者の働き口を、少しでも作れればいいんじゃないか・・・というだけの話なんだが〕
〔儀礼にうるさい騎士、山賊兼業の傭兵を見返したい〕
そういう心情が発端でも、旦那様の考えはC.V.の宿願である、『異文化連合』の先駆けであり。フリスたち炎熱C.V.班やその姉妹たちにとって、魅力的な作戦だ。
その旦那様に侍る自分を思い浮かべると、フリスの心に熱いモノがわいてきて。
「なるほど、理解しました。
私の『スカーレットアルケミー』は、冒険者の皆さんを驚かしつつ、ニーズに合ったものを錬成する。
それでいて『異文化』の接触に伴う、悲劇など起こさないよう。
低コストな嗜好品・小道具を、祭りなどの催しとして、提供すればいいのですね」
「ああ、その通りだ。理解してくれて…ンn^⁉」
会話を遮ってフリスは、人間でいうところの『人工呼吸』を行う。
唇をあわせる、浅い接吻とは違う。フリスの『熱・魔力』を口腔を通して、ユングウィル様の身体に吹き込み。
「!^?…いったい、何をする!」
「『魔術師』メイドのたしなみですわ。
”賊の悪行”を考えれば、連中は変化を嫌い、善人に害をなす。
”毒殺”への対抗策として、身体を芯から『強化』するのは、私の大事な役目なのですから・・〇^…どうか身を任せてください・・・」
「だからって、ちょっ…急に^-^・」
言の葉とは裏腹に、ユングウィル様の抵抗は弱まっていき。
「一応、メイガスメイドの秘術ですから…はしたない不意打ちになることを、お許しくださいませ」
そう告げながら、フリスはいっそう『体熱』の移譲を進めていく。
〔あくまで『人工呼吸』です♡〕と、押し切れる範囲内で・・・・・
『エジプト文明は膨大な量だから、ギザのスフィンクス以外を紹介している、余裕はない』
『いや、お前が知らないだけで、他のスフィンクスを紹介している番組は、いくらでもある』
『小さくてもスフィンクスは石像だから、博物展に展示できない』と、いうように。
『ギザのスフィンクス』以外を紹介しない、正当な理由はいくらでもあるでしょう。
そもそも『番兵』の身分は低く。日本でも『狛犬』の美術的価値・人気は低い。『仁王像』も、他の仏像と比べれば評価は低く。
〔持ち運べるサイズの仁王像を造って、各地に展示しよう。仁王像をお寺の本尊にしよう!〕と、いう話は聞いたことがなく。お稲荷様の門を守る『狐像』も、いまいちな感じです。
そういうわけで、他地域の神話と同様に『門番だから、スフィンクスの地位も低い』と、いう可能性もありますが。
せめて『ギザのスフィンクスだけが、唯一のスフィンクス像だ』と、いう誤認をしてしまう。そういう『図』を世界史の本に、掲載するのは勘弁してほしいと愚考します。