閑話~メイガスメイドの錬金術:スカーレットアルケミー
『スフィンクス』それは、とてもネームバリューのある稀有なモンスターです。
ピラミッドを守る、王家の守護神獣であり。エジプトのピラミッドを知っていれば、『スフィンクス』もセットで知ることになる。
岩山を彫って製作された、『スフィンクス』の威容は圧巻であり。屋外にたたずむ、類似のものがない唯一つの姿は、見た者の心に深く刻み込まれます。
とまあ『ギザのピラミッドを守護するスフィンクス』は、エジプト文明を知らない、素人の私ですら知っている。かなりメジャーな存在ですけど。
『ファンタジー』『エジプト文明』全体を考えると。
『ギザのスフィンクス』はメリット・デメリットの両方を、等しくもたらしていると愚考します。
『倒したモンスターから素材をはぎ取る』
言うは易しだが、それは極めてリスクが高い行為であり。
『素材をはぎ取れない、冒険者は未熟だ』と、いう言動・報酬の支払いは”冒険者に死ね!”と、言ってるに等しい場合すらある。
少なくとも『魔術は物理法則を無視できない』と、いう面倒くさい世界では命懸けだ。
戦場において、もっとも『隙』が大きいのは『討った敵の首を、切り落とす時』と、いうのがある。
物理的に首を切るため、『しゃがんで』いては視界が狭まり、動作も制限される。加えて心理的に〔手柄首を得られる〕と、いう『歓喜』が警戒する『感覚』を、曇らせ狭めてしまう。
かくして戦場で『敵の首を切り落とす』行為はリスクが高く。
モンスターから素材をはぎ取る行為は、これと同様のことが発生する。
しかも『草食獣』が主流な、平和な山野ならともかく。『肉食獣』より狂暴な『魔物』が棲息する、フィールドはさらに過酷でリスクも高く。
『素材をはぎ取るときは、パーティーメンバーが護衛につく』としても、経験の少ない冒険者では”欠員”パーティーの防御陣しかしけず。
そもそも『素材を傷つけないよう、魔物を攻撃する』など、若手の技量では”浅い攻撃を放つ”自殺行為に等しい。
そのため『素材剥ぎ取りの授業料を、命で支払う』と、いう危険はかなり高いです。
〔そもそも戦士には『適性武器』というものがある〕
〔然り。重量武器をふるう勇敢な戦士が、魔物に大ダメージを与えて、『素材』の売却益を得られない。
それに対し事実上、報酬・評価を低くするギルドは”命がけで素材をはぎとれ”と、言ってるに等しい”物欲”の権化だ〕
〔そこまで言っては、善良な商人・解体作業員の皆様に失礼でございます。
ですが飢えた住民の命をつなぐ『炊き出し』があるように。
命をかけて戦いながら、それに見合った報酬を得られない。
そういう困窮する冒険者の皆様が一息ついて、『臨時収入』を得られる。そんな『限定の期間』があっても、いいと思いますわ〕
〔ほほう、興味深い。教えてくれるかしらフリス殿〕
〔〔〔〔〔・・・-;●…・〕〕〕〕〕
冒険者ギルドの受付で、兜だけを外した黒霊騎士たちと炎熱C.V.の一人が集い。誰はばかることなく、こんな内容の会話を交わし。
「冒険者ギルドに『特別依頼』を、お願いしたいのですが…」
「どうぞ二階の客室に、おいでください」
受付嬢は迷うことなく、上司へ案件を押し付けた。
『魔術は物理法則を無視できない』と、いう法則が存在するものの。
この世界にも『錬金術』はあり。
『魔力を認識し』『戦争の一環として、知識を継承する』C.V.たちが、独占して『錬金術』の恩恵を受けている。
そして大半の狂戦士より『力』が強い黒霊騎士ですら、簡単な『錬金術』を行使でき。
彼女たちに『火術を器用に使うC.V.』が加われば、簡易錬成の『魔術陣』を構築するなど造作もなく。
「姐さんたち、ご到着!!」「「「「御苦労様でございます‼」」」」
「「・+・-ー…⁉」」「「「よっしゃー^~‼」」」
人が乗らない古代戦車を囲んで、騎乗した黒霊騎士たちがやって来る。
そんな彼女たちを魔術・権力のどちらも嫌っていた、荒くれ者たちが歓声をあげて迎え。
「場所は空けていますか?」
「へい、フリスの姐さんっ!こちらでございます」
チャリオットに積まれた『錬金の触媒』に起点にして、『魔術の大火』が地面に広がる。それは『魔術円』を描き、『紋様』を刻み連ね。
ひと際大きな『火球』と化してから、積層の魔術陣と成り。
「それでは各パーティーの『戦果』を投入してください」
「任せてくだせぇ!」「「「「がってんで、ごぜぇやす!!」」」
「「そぅらぁ~^―-!」」「「・・^:^~…‼」」
フリスの支持に従い、討伐され積み上げられた魔物が、『火術の巨釜』へ投じられていく。
血抜きもされず、申し訳程度に『肉・骨・臓物』に分けられた、塊が宙を舞う。それらは素材どころか、廃棄物としても敬遠される、悪臭を放ちそうだが。
『無臭の息』 『業火の燐』 『濁流の滴』 『窯の灰』
四人の黒霊騎士C.V.が『火術の巨釜』を囲み。『触媒』を使いつぶして、風火水地の魔力を不器用に送り。
『『風は回り、火は上り』』 『『水気は静かに、地伏は厳かに』』
『『『『天の片鱗を借り、ここに灰塵の輝石を照らす』』』』
『『『『[スカーレットアルケミー!!]』』』』
黒霊騎士C.V.4人の魔力を凝縮させた『魔術陣』に、火属性の術士C.V.フリスが仕上げの『点火』を行う。
それによって『魔力量』で物理法則をわずかに曲げる、『真紅の錬成術』が発動し。
「そら、かき出せ!」「一粒も残すなっ!!」「「「オラ、そら、ホラッ…」」」
ベテランで体力のある冒険者たちが、長柄武器を使い『火術の巨釜』から、『錬成された物』をかき出す。
それはほとんどが『黒い灰・塵・炭』であり。どう見ても価値がある『物体』には見えなかったが。
「「「「「・・-;…・・」」」」」
小銭で雇われた孤児たちが、ゴミにしか見えない、それらに群がり。渡されたスプーンで、可能な限り仕分けして、袋に詰め。
「おら、ガキども働けっ」「落ち着けよ…急ぐと火傷するぞ」
「そうだ、その調子で・・」「欲張るな!仕上げは姐さんがなされる」
『工房・魔術塔』どころか『魔女の庵』で造られる、『錬金アイテム』の輝きは一片もない。
しかし軽い『塵』からは、『煙幕』が作られ。『灰』は消臭剤・合金の触媒に使われ。『炭』は特殊な鍛冶で使う魔石と化す。
それら一つの価値は、たいした金額ではないものの。
廃棄するはずだった、モンスターの遺骸が『換金』され。
さらにモンスターを倒すことを最優先にして、『素材』どころか肉もとれないものの。討伐数を稼ぐのを優先したため、文字通り〔塵も積もれば山となる〕という状態であり。
「皆さん、お疲れさまでした。
今日、この場で『黒灰』に錬成したものは、分量に応じ食糧・お酒の引換券を渡します。
加えてこの場に持ってこれず、土をかぶせた魔物の死体も、シャドウの方に確認していただき。皆さんは合同で討伐を行ったと、冒険者ギルドは認めました」
「「「「「・・・^-^・」」」」」「「「「「・・:・^…」」」」」
「よってマッサージをはじめとする各種ケアを、シグルスの冒険者ギルドでも行い。その働き手を広く募集いたします。
皆様はふるって、ご参加ください」
フリスの宣言に、冒険者たちが歓喜の叫びをあげ。孤児たちは働き口ができるかもしれないことに期待をよせる。
そうして、その勢いのまま『宴』が始まった。
ネタバレ説明:『スカーレットアルケミー』について
火属性なメイガスメイドのフリス一人。それに闇属性の黒霊騎士4人がアイテムを使い、『錬成の魔術陣』を組んで、『触媒となる灰・塵・炭』を造った。
C.V.の文化だと『大量の魔力で、物理法則をねじ曲げる』と、いう術式です。
今回は火属性のフリスが主導しているため、『スカーレット』という名称ですが。
他属性のC.V.が錬成の要になれば、『エアロ』『サファイア』など、術者のイメージする名称がつく。
C.V.にとっては『キャンプで少し凝った料理を作る』と、いう『作業用の術式』にすぎません。
とはいえ、それは『魔術文明』に優れた、C.V.の感覚であり。
人間の魔術師が同じことをしようとしたら、宮廷魔術師が集まる必要がある。
『火属性を要に、物を燃やしたから、灰の錬成物ができた』と、いう魔術法則の理解から始めねばならない。
物を燃やしたの熱量の割に、周囲への熱波が少なく。毒の煙も出ていない。
C.V.のフリスたちが思っているほど、『力技』の錬金ではない、急造の『魔女の巨釜』です。
なお『安全第一』『みんなで灰のアイテムを造る』『冒険者たちにサプライズな錬成を魅せる』と、いう目的があり。
『灰のアイテム』以外、フリスたちは作る気ありません。
『ギザのピラミッド』を守護する、岩山から作られた『スフィンクス』。
そのデメリットは『他のスフィンクスの存在』を消していること。
他国の『スフィンクス像』はともかく。『エジプトにある他のスフィンクス像』まで、マイナー化していることだと推測します。
正直に言って『エジプトのスフィンクス』=『ギザのピラミッドを守護するスフィンクス』と、私は考えていましたが。『検索』すると他にも『スフィンクス』の別バージョンは、エジプトだけで無数にあり。
それらの存在を覆い隠していたのは、『ギザのスフィンクス』のネームバリューだと愚考します。
それと人のせいにして、申し訳ありませんが。教科書・TV番組やコミックなど、あらゆる娯楽メディアで『ギザのスフィンクス』以外を、紹介していなかった。
『エジプトの遺跡』=『ピラミッドの秘密』という感じであり。日本でいえば『狛犬像』と同様にエジプトの聖域を守っているのが、『スフィンクス像』なのですけど。
『ピラミッドに比べれば、スフィンクスは無視されているに等しい』
『様々な神獣文化があるのに、もったいない』
『ミイラ・王家の呪いを散々ネタにしたんだから、スフィンクスをファンタジーに取り込んでも問題ないよね!』と、愚考するのですが。
私の知る限り、他のスフィンクスの出番は少なく。
『英雄大戦で、スフィンクスを使役する英霊大王が、小説にいた』『漢な大武会でエジプト武術団に、ダブルスフィンクス像がいた』と、いう程度であり。
『ギザのスフィンクス』以外、世界中でエジプトの『他のスフィンクス』は認識されてない等しい。それらがマイナーで不人気なのは、考古学の損失であり。
『ギザのスフィンクス』がもたらすデメリットだと、愚考します。