閑話~メイガスメイドの働き
『双頭犬』をはじめ、双頭の『モンスター』は少ない。いても三頭・多頭の『モンスター』より数・強さやネームバリューで劣ると愚考します。
『双頭のウロボロス』などは超越の存在ですけど。それは後世に付加された『伝承』にすぎず。
頭が一つの『北欧の地獄の番犬』・三つ首の『ケルベロス』どちらと比べても、『オルトロス』は格落ち感があるように感じます。
検索すると『オルトロス』は、三つ首の巨人に仕えているとのことですが。
〔全く聞いたことない巨人だな~〕と、しか言いようがなく。冥府の番犬とは、比べるべくもないと愚考します。
戦争種族であるカオスヴァルキリー。
人間の世界で活動するC.V.にとって、最重要なのは身を守れる『戦闘力』であり。
その次に重要なのは【円満な結婚生活】を送れる、『対応力』だと考察します。
『入り婿・身分差のある結婚』は、最悪の場合『逃げ場のない、生き地獄』になることがあり。それはC.V.との『異種族婚』も例外ではありません。
加えて世の中には『連鎖』というものがあり。
例えば『敵討ちをする忠誠心は、すばらしい!』と、讃えると。
連鎖で『敵討ちされた”奴”は全てが悪い…』と、中傷され名誉が貶められる。
同様に『C.V.の文化では、これが正しい!』と、主張すると。
『人間のやり方はダメだ』と、いうプレッシャーを人間男性にかけてしまい。
これでは【円満】な結婚生活を送るなど、不可能になるでしょう。
「そういうわけで…黒霊騎士団の皆様には、早急に人間の食事に適応していただきます」
炎熱C.V.班の一員、メイガスメイドのフリスが発した口上に対し、C.V.騎士団の面々は反論してきた。
〔血抜きするなど、栄養を捨てるに等しい〕
〔母体が望む、料理を作るべき〕
〔獲物を狩ってくる、C.V.が味付けを決めたいわ〕
要約すると〔強いC.V.が好きなものを食べたい!〕と、いう主張になるが。
〔皆様は、そんなに一夜妻にされたいのですか?〕
〔な、何を言って…〕
フリスの”一言”で、黒霊騎士団の面々はひるんでしまう。
〔単なる交配ならケダモノと変わらず・・・『霊薬・詐術』など様々な手段を、お使いになればいいでしょう。
ですが皆様が求めるのは、多重婚のご家族であり。互いに不足している部分を補い、脅威に対抗する『連合』を組むことのはず。
”蟲”のように作業するなど論外でしょう〕
〔それは、そうだけど‥〕
〔それと食事を『人間文化』に合わせるのと、どう関係するというの?〕
〔黒霊騎士団の皆様は、大半の殿方より戦闘力が高いのに加え。
全身鎧をはじめとする、重量装備を維持する『財力』もございます。
男性社会において、『武力・財力』両方で優っている女性など、”嫉妬心”をあおる火種も同然であり。最悪、”嫉妬心”のあまり、”(男性が)立たなく”なることも考えられます〕
〔〔〔〔・・・-・ッ!!〕〕〕〕
フリスの説明を聞き、黒霊騎士C.V.の面々はようやく危機意識を持つ。
まあ実際のところ。
貴族・騎士家への『入り婿』たちは、『財力・家柄』で優っている『家』の一員になるわけで。しきたり・マナーを覚え、自らの有用性を示すために、彼らは心身をすり減らすそうですけど。
炎熱C.V.班たちが警戒しているのは、黒霊騎士たちの”悪評・破局”のとばっちりを受けることであり。
〔旦那様と仲直りするため、協力して~;~〕と、いう訴えを極力減らすよう。
騎士C.V.の皆様にはぜひとも円満な結婚生活を送っていただきたい。
(そして黒霊騎士様たちがハーレムを形成する際の問題点は、『武力・財力』ではございません)
端的に言えば『剛力』に伴う、『大食い』が問題であり。
黒霊騎士団の面々は全身鎧・大剣という、超のつく重量装備を身に着けているのに加え。
『デュラハンチャレンジ』という。『防御力が増大するのに伴い、重量も増していく』と、いう物理法則を考えた『魔術能力』を運用しており。
〔黒霊騎士様たちの『筋肉量・食事量』は、ここの文化圏では受け入れがたいものでしょう〕
人間の大女・女戦士なら、普通に家庭を持っているが。
異種族で、多重婚で、”賊”・『モンスター』と戦い続けている。
フリスが確信しているだけでも、黒霊騎士C.V.と殿方の結婚生活には、これほどの困難があり。
この状況で『食事内容でもめる』のは、破局の未来に進むことを意味する。
〔隠れて、男子禁制の場で『栄養補給』するのは、かまいませんが。
『食事』など譲るべきところは、譲っていただかないと・・・〕
こうしてメイガスメイドによる、『食事の講習』は続いていき。
『食事の講習を』を狂戦士の集団に行った、メイガスメイドのフリス。
貴重な時間を”浪費”してフリスが出した結論は〔妥協点を見出しましょう〕と、いうものだった。
この世界には『魔術といえど、物理法則を無視できない』と、いう法則があり。〔『講習』ぐらいで(凶暴な戦士の)『食文化』を変えることは不可能!〕と、いう結論をフリスは出す。
〔『術式』で味覚を変化させれば・・・〕
〔食事の分量が少ないから、栄養素を『圧縮』して・・・〕
〔飢えれば、どんなものでも美味しくなるわ!〕
『円満な結婚生活のため、人間の食文化に適応しなければ!』と、いうことを説いた。
フリスの『講習』は、黒霊騎士団のC.V.たちに”無駄”な努力をさせてしまい。
〔味覚を司る舌の表面は、再生しません。安易に『術式』でいじれば、それらが破壊されます!〕
〔ああっ⁉『圧縮の術式』で台所の設備が破壊されて…〕
〔断食するのはけっこ・・・・・迷惑です!情緒不安定になるくらいなら、食事をとってください‼〕
〔そんなぁ…私たちは、ちゃんとおとなしく・・〕
〔空腹の不機嫌を、訓練で爆発させたり!・・殺気を飛ばしたり!・・大量に買い食いされると!・・普通に買い物をされる方々に迷惑なんです‼〕
あまり裕福とは言えないシグルスの街において、市場に流通する『食糧』の分量は限られており。
〔断食が終わった。任務のため栄養を摂ろう〕と、黒霊騎士が購買を行うのは、事実上の”買い占め”であり。
〔市場に食糧がない⁉〕〔大食い魔女に売るため、食糧を買い占めよう〕と、いう悪影響をもたらし。”物価を高等させ、市場を混乱させる”と、いうはっきり、間違いない、迷惑をもたらした。
様々な迷惑をもたらす黒霊騎士C.V.たち。だからと言って、彼女たちを追い出すわけにはいきません。
何故なら黒霊騎士団は”侵略”をしてないから。
本来、たいていの魔王軍は、もっと人間勢力に敵対的であり。
〔力こそ正義なら、我らが侵略をしても、文句はないな!〕と、いう理屈で『宣戦布告』を平気で行ってくる。そんな中で『冒険者ギルド』『闘技場?』の利権だけで、おとなしくしている黒霊騎士団は穏健派であり。
〔メイガスメイドでも対応できる問題で、険悪になるわけにはいかない〕と、いうのが上位から兵卒C.V.までの一致した意見です。
「そういうわけで、黒霊騎士団の皆さんには、策を弄して『補給』を行ってください」
「…策を弄して?」
「はい、騎士団の皆さんが摂る『食糧』の大半は、混成都市から買い付けを行い。シグルスの市場と切り離します。
加えて野獣レベルのモンスターを近隣で狩るのも、おやめください。生態系が破壊されますので」
「おもしろくないわね。それでは檻に閉じ込められ、エサだけ与えられるようなものだわ」
〔貴女たちの『燃費』が良ければ、必要のない処置なのですけど〕
そんな本音を胸の中に封じ、フリスは話を続ける。
「不満は、ごもっともでございます。そこでスラムの住民を利用する。
スラム街に住む者の中でも、立場の弱い者を利用し、対応させていただきたいのです」
「・・・まずは話を聞きましょう」
こうしてフリスの交渉は続き。
「それでは、今日も元気に働きましょう!!!」
「「「「「了解です、フリス殿!」」」」」
8級C.V.の中では低位のメイガスメイド、ほぼ9級C.V.に等しいフリスに対し。
戦闘力では事実上6級な、黒霊騎士C.V.たちが頭を下げる。
魔王軍として他勢力を圧倒してきた、精鋭たちが魔力の低いフリスに従属する。C.V.の階級制度において、その光景は本来なら有り得ないのだが。
「…;・・」「・・・ぇ;」「みんなっ;(働きに)行こう」
「慌てないで!まずは仕事を覚えなさい」
「体調が思わしくない者は、申し出るように・・」
「3ヶ月だ!辛くても3ヶ月だけ耐えれば、別の仕事を紹介するぞ!!」
「「「・・+・ー・…」」」
全身鎧をはじめとする、武装を全て外しているとはいえ。
訓練された身のこなしに、ゴロツキを子ども扱いする黒霊騎士C.V.が、『モンスターの加工所』で汚れをいとわず働く。
長身とはいえ女性たちが、男の力仕事を行う光景は、人間の常識を外れており。
モンスターの『解体所』ですら、スラムで暮らす子供たちは知らないのだ。
突然、建造された『モンスターの全身を、消費するための加工所』も含め、幼い彼ら彼女たちが戸惑うのは、当然のことだろう。
〔だけど私たち身分が低く、『ハーレム』の下層に属する者にとって、『子供たち』が必要なのです〕
戦争種族C.V.のハーレムは、男性ヒーローが一応中心になっている、恋愛パーティーではない。
『身体強化』『魔術能力』の使用により、『生殖能力』が低下してしまう。そんな上位C.V.の次代を、産み育てることが最優先のスタッフチームだ。
〔そんなハーレムを形成する下位C.V.が「子供の世話をできません」などという、未熟・無能を許されると思っているのですか?〕
〔それはっ・・騎士C.V.は戦うことが役目であって…〕
『バルカンビート』
〔何をするっ⁉〕
言の葉に動揺して、フリスの『火弾術式』程度に黒霊騎士様がおののく。
しかも話し合いの最中に、無礼打ちされても文句の言えない、『攻撃術式』を放ったにもかかわらず。おののく騎士C.V.様から殺気・威圧の魔力は発せられず。
既に問題点を理解している黒霊騎士様に、フリスは『事実』をつきつける。
〔戦場とは対人・対モンスターのフィールドばかりではございません。
上位C.V.様、そのご友人のお子様を育てる環境を整えること。
静養所となる別荘を建て。煩わしい権力争いの相手を惑わす、『偽装拠点』も作らねばならないでしょう。
当然、拠点には食料が蓄えられ。最低限の子守ができるC.V.を確保できる、『状況』を維持しなければなりません〕
〔〔〔〔・・・-・…〕〕〕〕
はっきり言えば〔戦闘狂なので子守ができません。『身体強化』の力加減を間違えて、幼子を✖**✖〕などと、やらかす下位C.V.は万死に値する。
そして黒霊騎士団を束ねる、シャルミナ様の本当の実力を考慮すると。
フリスよりはるかに格上な黒霊騎士C.V.たちも、育児の初歩ぐらい習得しておくべきであり。
〔それでフリス殿は、何か妙案があるのか?〕
〔人間の・・・スラム街の子供たちを利用して、育児の練習をいたします〕
〔それは、孤児院を経営するという意味かしら?〕
〔いいえ…私たち戦争種族は、開戦した場合の『招集』が有り得ます〕
信用できる人間を雇い、孤児院の運営を任せる。その手伝いを通して、C.V.は育児体験をする。
そういう手もなくなないが、C.V.は”盗賊ギルド”にとって仇敵だ。
C.V.が『招集』などで一時的にでも姿を消せば、親しい孤児院が”賊”の報復で火の海になりかねない。
少なくとも炎熱C.V.班・黒霊騎士の手練手管では、そのリスクを軽視できないでしょう。
〔では、どうすれば・・・〕
〔期間限定の作業所を築き、その利益でスラム全体を買収します。
スラム街を解体する、作業所は人間のシャドウ一族が建設しているとのこと。
その類似の施設で子供たちも働かせ、皆様にはまず子供従業員たちへの接し方を学んでもらいます〕
〔なるほど…期間を区切った『契約』で、『加工所』を運営する。
『招集』によってやむを得ず『加工所』を閉じる場合、金銭で補償すると『契約』を結べば・・・〕
〔貴重な体験?をさせてくれる、幼子たちには絶対に幸せになってもらうわ。
『加工所の仕事に必要だから』と、言って年長者に読み書き・算術を教え。身元を保証し、『仕事』を紹介すれば、相応の対価になるわ〕
狂戦士のウワサとは裏腹に、一度流れができれば黒霊騎士様たちは、次々と計画を練っていき。
こうして『モンスターの全身を魔力?で破砕し。肥料・モンスター用の撒き餌を作る加工所』が、期間を定めて建てられ。
「お願いです、フリス様!!どうかお兄ちゃんを助けてください…;+;」
「落ち着いて、話しなさい」
メイガスメイドは想定外の事態により、『バンシー』C.V.との争いに引き込まれた。
しかし神話・考古学や『古代文化的』に、『オルトロス』はそんなに捨てたものではありません。
そもそも『オルトロス』の神話において、『島で三つ首の巨人に仕えていた』際の役目は『牛の番をする』ことでした。
古代世界において『牛』は重要・神聖な家畜であり。特にギリシャ神話においては『大神ゼウス』の化身・シンボルでもあります。
そして某ネゴシェーター物語の中で『インドのカースト制において。神聖な牛の世話をする平民は、戦士に近い身分になる』とのこと。
これらのことを統合すると、『オルトロス』は家畜の番をする『犬』だとしても、準神聖な『守護獣』の類であり。死に近い『ケルベロス』はともかく。死をまき散らした『ヒュドラ』よりも、人間・神様サイドのモンスターであり。
『12の試練』を成すためとはいえ、『オルトロス』を瞬殺し『牛』を巨人から奪った。
〔『ヘラクレス』の所業は、現代モラル的にまずいのでは?〕と、愚考します。もちろん『女王神ヘラ』に逆らうことは、当時の半神ヘラクレスにできるはずありませんが。
『オルトロスを瞬殺』した一件は”海賊行為”であり、『ヘラクレスの名声に傷がつく』と、愚考するのです。
ただし『ヘラクレス』が島に上陸したとたんに、『オルトロス』が襲い掛かった。血族の『ネメアの獅子』『ヒュドラ』の仇を討つため、問答無用で『オルトロス』が襲い掛かったのなら。
現代モラル的に『ヘラクレス』の正当防衛?が、成立するかもしれません。神話から、その詳細を読み解くのは難しいと推測しますけど。