閑話~魔王の黒霊騎士~魔王の文武官
一応、知識として『僧医』がいた。僧侶が医者を兼ねていた時代があるのは、知っています。
しかし『僧医』で有名どころの名前が、全く思いつかない。
各宗派の開祖・道鏡・武蔵坊・僧侶の相談役・・・西郷隆盛と一緒に身投げした坊さんetc.
たまに大河で祈祷する僧侶が出てきますけど。〔時代劇に僧医は登場してないような?〕と、思うのです。昔話を調べれば、妖怪退治をした坊さんがいるでしょうし。開墾・洞窟工事に携わったお坊様もいたでしょうけど。
私はどうにも僧侶=医者のイメージがつながらない。
その理由を〔時代劇・教科書に出てこないから!〕と、他人様のせいにするのは簡単ですけど。
私は他にも原因があると考えます。
『仮面をつけた冒険者vs.仮装した疑似モンスター』と、いう冒険者ギルドの闘技場で催される興行。
シャルミナの提案した、それは驚きをもって迎え入れられる。
もともとはユングウィルの『熟練冒険者の手の内を隠し、敗北しても面子がつぶれないよう。正体を隠しつつ、未知の(疑似)モンスターと戦う訓練を行う』と、いう計画だった。
炎熱C.V.たちにも面子があるし、『竜角鬼』には相応のコストがかかっている。タダ同然の報酬で行う以上、訓練する冒険者たちに〔花を持たせる・勝ちを譲る〕わけにはいかず。
そのため『火の攻撃魔術』『身長のある妖樹鎌切からの攻撃』を、冒険者たちに防御させるだけの訓練になっていた。
訓練とはいえ、ほとんど反撃できない内容であり。少なくない冒険者たちが、うっぷんを蓄積していったのだが。
「S級冒険者はともかく・・・A級以下の中堅冒険者には伸びしろがあり、修練をおこなうべきです。手札を隠すため、閉じこもったり。手頃なクエストが来るまで、呆けているヒマなどございません」
〔A級冒険者は上級冒険者です!〕
〔シャルミナ様は、何をなさるつもりだ?〕
〔ご安心ください。
事前に確認して、まっとうな人間には(おそらく)被害は出ません〕
冒険者ギルドの訓練場が、盛んに使われるようになった。
シグルの街にある冒険者ギルド、その最奥にあるギルドマスターの部屋において、話し合いの場が設けられていた。
魔王の側室にして、黒霊騎士C.V.のシャルミナ・ヴァイ・ローウェル様が中央に座し。
その両脇を、ユングウィルとC.V.ナイキス殿が固め。C.V.の部下・人間の助言者として、シャルミナ様をわずかでも抑える布陣を作り。
その対面で哀れなギルドマスター、プラシル女史が精いっぱい身を縮めている。
最近、前ギルマスが突然の退職をしてしまい。
急遽、昇格したギルマスのプラシルさんは、理不尽な魔王騎士に挑む勇者のようだった。同時に立場・戦闘力で、はるかに勝る格上C.V.様に蹂躙される、敗残兵でもあり。
そんなプラシルさんに対し、過酷な交渉を押しつけるのは忍びなく。
『疑似モンスター』の提案をした冒険者ギルドのスタッフとして、ユングウィルは口を開く。
「シャルミナ様・・本当に『賭け試合』をなさる、おつもりですか?」
「ええ、そのつもりです」
「それは『盗賊ギルドの利権を奪う』と、いう解釈でよろしいのでしょうか?」
悪徳の都を滅ぼして、混成都市ウァーテルを築いた。冒険者ギルドから『山賊討伐』の依頼が消えるほど、『山賊蹂躙』を行っている。他にも『暗殺ギルド』『密偵組織』を滅ぼし、『多数の教団』を壊滅させた。
直接的な恩を受けてないユングウィルたちにとって、それらは『武勇伝』と言うより、『魔王軍の侵攻』を連想させ。
〔盗賊ギルドの二の舞になるかもしれない〕と、いう恐怖をいだくのと同時に。
加えて〔C.V.勢力に組みすれば、盗賊ギルドと敵対したあげく。シーフに襲われかねない〕と、いう予想をユングウィルはしており。
状勢からいって、冒険者ギルドはC.V.様の勢力につくしかない。〔中立外交など、不可能だ〕と、いうことを理解しているものの。
『盗賊ギルド』の利権を奪い〔暗殺者なシーフたちと、敵対関係を決定づけるのは避けたい〕と、いうのが本音であり。
「そんなことをすれば、『賭博』で生計を立てている『裏社会の住人』たちに、不要な血を流させてしまいますわ。『賭け試合』をすると言っても、その『客層』は選びます
無論、”奴隷・麻薬・魔薬”の売買や”陰謀・山賊稼業”に携わっている。直接・間接的に他者の生き血をすすっている、”盗賊ギルド”の者たちには”害悪モンスター”と同様に、冥府に逝ってもらいますけど。
ギャンブラーたちを巻き込んで殺す、”侵略”をする気はございません」
〔もっとも、こちらに手を出してくるなら、容赦しませんけど〕
「「「・・・-・^」」」
シャルミナ様の言葉はユングウィルたちにとって、好ましい返答だった。
人間のユングウィル、プラシル女史たちにとって、余計な血を流さず済むのは嬉しく。
ハーレムを形成したい妖精霊騎士のC.V.ナイキスたちも、”凶悪なC.V.”という悪評が広がるのは避けたい。”盗賊ギルド”と争うのは〔混成都市ウァーテルを支配している、C.V.勢力で行ってもらいたい〕と、いうのが本音であり。
〔侵略をする気はございません〕と、いうシャルミナ様の『言質』は、誰もが望む言の葉だった。
「とはいえ『ギャンブル』は楽しく長く、賭けてもらわないと、軍資金の見積もりができません。だから様々な『遊戯盤』を作り、季節限定のイベントを開催する。
ユングウィル殿の『疑似モンスター』は、そういう催しの幅を広げると考えますわ」
「素晴らしい、お考えかと」
「将軍の、お考えに同意します」
「『仮装』することで、冒険者の士気が上がる。『着ぐるみ』を作る仕事を出したり・・・・・」
「良い提案です。これは私のところで、止めていい施策ではないでしょう。
当座の資金は、私が出しますけど・・いずれ混成都市の宰相と面会の場を設けることになりますわね」
今は夢物語だとしても、みんなが幸せになる『企画』が次々と出され。
ギルドマスターの部屋には、和気あいあいとした空気が流れる。ユングウィルたちは明るい未来を想像し〔『企画』が成功して報酬を得たら、何をしようか?〕と、夢想の翼を広げ。
「それでは『ギャンブル』で、ヒトを食い物にする”連中”には、速やかに滅亡してもらうとしましょう」
〔どうせ暗闘を仕掛けてくる敵対勢力・・・”害悪”な連中ですし。表裏・物心の多面から包囲して、すり潰してさしあげます〕
「「「・・-・・~`」」」
笑顔のまま魔王の側室が発する『言の葉』に、ユングウィルたちは
硬直する。
否、何となく黒霊騎士様の『意向』は察していたものの。
三人とも〔このまま『穏健策』だけで幸せになりたい〕と、いう『希望』にすがっていたかったのだが。
「我々、三位一相のC.V.も、お供いたします。何なりとお命じください」
「どうせ中立を宣言したところで、奴らの復讐対象になるだろうしな~」
「ううっ・・;冒険者ギルドも協力いたします。【依頼】の流れを止める要素は、排除しないと」
妖精霊騎士C.V.ナイキス様、冒険者ギルドの助言者とギルマスのプラシル女史、三人はそれぞれの思惑から協力を申し出て。
「まあ、私が『剣』を抜けば、奴らなど粉微塵になるのですけど」
「「「絶対におやめください」」」
手始めにシャルミナ様を制止することから、協力を開始した。
それから数日後・・・
「キサマらっ・・・許さん、ユルせん、許すものかァーーー」
「「「「「・・+;・」」」」」
冒険者ギルドに、殺気ダダ漏れの連中が押しかけて来た。
頬はこけ、肌に艶はなく、頭髪からは異臭が漂う。それでいて目ばかり爛々と輝いている、紛う方なき不審者なのだが。彼らは騎士・魔術師として、地位を持つ者であり。
彼らがしばらく前に、冒険者ギルドに押しかけ圧力をかけてきた。
要は〔冒険者ごときが、騎士団ですらできない『訓練』を行うなど分不相応だ〕と、いう”難癖”をつけられる身分を持っており。
その後、炎熱C.V.たちに迎撃され、『決闘』で白黒つけることになったとはいえ。その時点では、普通に闘争心があった。
壁をぶち抜いたフレイシアたちに、内心では怯えていたものの。
〔魔女C.V.たちなど、我々の敵ではない!〕と、いう”侮蔑の色”が表情にあったのだが。
現在は〔名誉ある『決闘』を行おう〕と、いう気概はなく。
余裕に至っては絶無であり。彼らの瞳にあるのは、悲壮感と絶望の色だった。
「そんなに血相を変えて、いかがなさったのでしょう?」
「〔いかがなさった〕・・・だと?キサマらのせいでぇ~-~」
こんな奴らの対応を受付嬢たちに、任せるわけにはいかない。
そう判断したギルドマスターのプラシルが接見をするも、連中が殺気を抑えることはなく。
「財貨をっ・・・我が一族の誉れを返せ!とっとと決闘をするぞ!!」
「よせっ・・まずは交渉を行い、話し合って・・」
「それをやって、こうなったとナゼ、理解しない!?もう決闘で勝つしか・:・」
「事情がわかりません!説明は奥の部屋で、お願いします」
「ギルドマスターの仰る通りですわ。熱意ある冒険者の皆さんに迷惑をかけないよう、お静かに説明してください」
「「「・・・*+~;」」」
「あの~、シャルミナ様?」
〔いつの間に、彼らを破滅させたのですか?〕
うっかり疑問の声をあげそうになって、プラシルはそのセリフを呑み込む。
世の中、知らないほうがいいコトは多く。ましてやギルドメンバーもいる、この場で『暴露』を行われれば。
〔まっとうな冒険者たちまで、陽の当たらぬ世界に引きずり込んでしまう〕と、いう確信をプラシルはいだき。
〔新米で臨時?のギルマスなのに、どっぷり物騒な世界にはまっている〕
その事実を自覚して、プラシルは秘かに泣いた。
各メディア・作品で僧侶兼医者のキャラクターが登場しない。
RPGな西洋『クレリック』系は癒やしの力をもっていますけど。昨今のラノベどころか時代劇ですら、病人の頭を冷やす坊さんが稀少という有様であり。
江戸時代の時代劇に登場する『医者』は、医者業務が専門の髪をのばしている者が大半です。
その理由は『寺社への法度』によって、『僧侶』の行動・業務が定められ。〔『僧侶』と『医者』の兼務が難しくなったから〕と、いう理由もあるかもしれませんが。
私は『医術外交』をやり過ぎて〔『僧侶』の信用がなくなった〕と、愚考します。
”汚物を傷口に塗る”と、いう類の”迷信治療”を放置したため。”迷信治療”がバレると〔ナゼ、本当のコトを教えてくれなかったんだ!〕と、患者たちが激怒してしまい。傷口が膿んで苦しむ人々から、薄情な”ヤブ医者・破戒僧”あつかいされた。
加えて『薬草・医術知識のある忍者』たちが、医者に転職したり。薬を売買する商人・問屋が開業した。こうして医者を専業とする者が増えたため、『僧侶兼医者』はいなくなったと推測します。