閑話~訓練場の表裏
それなりにメジャーな双子神である『多芸神アポロン』と『月神アルテミス』
その誕生神話は、すさまじく過酷な内容であり。
『女王神ヘラが出産を妨害し。「全ての大地で出産を禁じる」と、いう呪縛?・神の権力を行使してくる。
そのため女神レトは、新しくできたばかりの「島」で出産を行った』
『女王神ヘラ』が行った、出産を妨害した手段の中でも、最も壮大な内容であり。小心者としては論評したくない、ハードな神話です。
〔全ての冒険者に修練が必要だ〕
こんな正論だけで、冒険者たちが熱心に『訓練』をできるなら、苦労しない。
食うや食わずの冒険者たちにとって〔修練をしているヒマがあるなら、依頼の一つもこなして稼ぎたい〕と、いうのが本音であり。
依頼を成し遂げるため〔準備を行い、情報を集める〕ことこそ、冒険者パーティーの利益になるのが、実情だ。
他にも〔実戦こそが、あらゆる訓練に勝る〕〔不測の事態が発生した際に、訓練場で行った訓練など役に立たない〕〔他人に手の内を見られるのは、避けたい〕と、いう様々な理由により。
中堅冒険者たちは『自主トレ』こそすれ、冒険者ギルドの訓練場を使用することは皆無だった。
そして〔依頼をこなして欲しい〕と、思っている冒険者ギルドも、それを認めている。
しかし『依頼料の分割払い』に伴う、様々な変化により。
C.V.様、シャドウ一族様から多大な援助をもらい、【重要依頼】を任された。その状況下では〔“依頼書の奪いあい”をしているヒマがあるなら、訓練で実力をつけろ!〕と、通達されており。
〔冒険者は自由だ!〕〔俺には、オレのやり方がある!!〕
〔そもそも『手の内』がバレて。闇討ちされたら、どうしてくれるっ!!〕と、いう理屈を並べる者も少なくなかったのだが。
〔後学のため、“見世物”ぐらいは観てください〕
半ば強制依頼に等しい言葉に従い。訓練場を囲むように作られた観覧席に、中堅冒険者たちは座らされ。
『お前たちが、「訓練」に反対する冒険者ですか?』
「『水那』さん。そんなことを言っては、いけません。
彼らは【依頼】をこなしてくれる冒険者さんたちです。まずは穏便に話し合わないと」
そこで待っていたのは平民の服に身を包んだ、女性?二人であり。名乗りもしない“無礼者”であり。
そして冒険者たちの勘が、警鐘を鳴らす『ナニか』であった。
「あんたらは何者だっ!?」
「これは失礼いたしました。
私の名はアン・グリュールヴ。6級水属性のC.V.です」
『私の名は「水那」と言う。姉様の「魔竜鬼」であり、兄様の「ドゥーガ」を兼ねる。よろしくね、冒険者の皆さん』
そう告げたC.V.関係者の二人は、わかりやすく『冷気』を放ってきた。
〔理論上、人間ではかなわない戦闘力を持つ〕と、言われる6級C.V.の『魔力』で訓練場を覆い。広がる濃霧に巨大な『蛇影』が投影され、冒険者たちの心胆を寒からしめる。
〔〔〔〔〔勝ち目など、欠片も無い〕〕〕〕〕
魔力量・その展開速度に精密なコントロール。どれをとっても人外のソレであり、束になってもかなわない。彼女たちと自分たちの間に、それほどの実力差があると、冒険者たちは察したのだが。
「それでは皆さんに『見世物』を披露いたします」
『楽しいタノしい「茶番劇」を観て。ワタシの「手札」を目の当たりにして。
その秘密が役に立つか、教えてください。お代は、それでけっこうです』
口上と共に、不穏な妖気が発せられる。
訓練場を水流が撫でていき、泥沼と化した地面から『歪な氷柱』が浮かび上がった。
「「「「「・・・~・ッ」」」」」
『氷像から出でし、水の雫 覚醒をもたらす、清涼の霧
氷晶の明かりは、夢幻を溶かし 海鳴りの魔女は旋律を唄う
ブルーセイレーン!!』
アンと名乗ったC.V.が呪文を唱える。水流・妖霧と輝く氷の三つが、『氷柱』に降りかかり、通り過ぎていき。
「なっ!?三重で魔術を発ど`・-・・」
「「「「・・・-ー ̄ー~ーー」」」」
『見世物』とやらを見物していた、冒険者たちを絶句させた。ただしそれはアン様の『魔術能力』に対してではなく。
『歪んだ氷柱』に見えていたモノが、凍らされていた『大蛇』であること。突然、怪物が解放され、かま首をもたげ。獲物の物色をするべく、辺りを睥睨していることに対してだ。
その開いた瞳孔は人間を獲物とする、捕食者のソレであり。中堅冒険者たちは恐怖しつつも、生き延びるために武器をかまえようとして。
『そろそろ、食べていいですか?』
「いいですよ。『ヒュドラ』に食べさせてください」
『・・・・・・・・・・・・・承知しました。「分身蛇竜」の養分にします』
『Gy;`-/!*:g・a*・~:?;//!!』
理解したくない『捕食の光景』を観て、 冒険者たちは硬直する。
『蛇影』と思っていたモノが、三つに分かれ。
『大蛇?』のかま首にかみつき、胴体にからみ、尾から呑み込んでいく。わずかな抵抗は、蛇頭を地面に叩きつけられて終わり。
泥沼と化したはずの柔らかい地面に、『水?』が破裂した音が響く。
「「「「「・・+;ー`-・」」」」」
「お目汚しをいたしました」
凍りついた荒くれ者たちに、6級水属性のC.V.様が話しかけてくる。
「これにて『見世物』を閉幕といたします。
迷宮・魔境の奥には、このような『モンスター』が棲まい。経験の少ない勇者の皆様では、(貴方たちのように)驚愕で隙をさらすことになりかねません。
どうか経験を積んだ冒険者の方たちには、驚愕を少なくするための『訓練』に、ご協力をお願い申し上げます」
『・・^ ̄^・お願いします』
そう告げるアン様にならい、水那様も頭を下げてくる。
それは『巨大なボスドラゴン』が、地面にアゴをのせているような。身体構造的には平身低頭しているのに、無謀な人間たちを見下ろしている。
そんな幻視を冒険者たちはしたものの、C.V.様は間違いなく頭を下げており。
「「「「「全力をつくします!:!!」」」」」
冒険者たちは生存本能の命じるままに返答をする。
それと同時に、周りでうごめいていた『多頭蛇竜の影』も、訓練場から霧とともに消え去っていった。
冒険者は忙しい。いきなり〔修練をしてください〕と、言われても。その時間を確保するのは難しく。何より自分の戦闘スタイル・受けた依頼の冒険に、『修練』の内容が役に立たなければ。
食うや食わずの冒険者たちは、依頼を探して成し遂げることに、時間をかけるのは当然のことだろう。
「だけど、それでは【依頼】を達成することはできない。ちょっと『攻撃魔術』を放たれたくらいで、動揺しペースを乱す。
そんな『魔術』への恐怖を払拭するために、これより『訓練』を行う!」
『連火烈弾!』×5
「どわぁー:~!!」「へぶっ!?」「あだ、ダ、だダァっ!?」
筋力を高める。武術の動作をくり返し、身体に動作を覚えさせて、戦闘力を高める。
そういう『修練』の結果は、一朝一夕で結果は出ず。加えて冒険の最中、未知の脅威に遭遇して動揺すれば、何の役にも立たない。
逃げ足のほうが、生存率を高める。
「ほらほら、どうしたっ!火属性の『攻撃魔術』とはいえ、威力を抑えられた、必中効果もない『術式』だぞ。
避けて、防いで、耐えてみろ!:!」
『バルカン!』×2、『バルカン!』×3
教官を務めるユングウィルの言葉に応じ。火属性の下位C.V.たちが『バルカン』の火弾を拡散させて放つ。それによって冒険者たちは半包囲されるも、『バルカン』の圧・威力は下がり。
「この野郎ぉ・・・」「避けてみせるっ!」「うぉおおーーー!!」
冒険者たちは、それぞれの特性を活かして、『バルカン』に対抗する。
盾で防ぐ者、跳躍して回避を試みる者。そして『バルカン』の圧力が小さいところに、突撃を仕掛ける者までおり。
それはわかりやすい『訓練』の成果であった。
人間は未知を恐れ。恐れは動揺につながり、実力を発揮できなくなる。
それを防ぐため『騎士』たちは厳しい訓練を行い。指揮官の命令で、命がけの戦いができるよう『心身』を鍛える。
ただしそれは『領地からの税収』を得られる。軍資金で『装備』を整え、『訓練』に集中できる。
権力者とその家臣だからこそ、可能な『訓練』であり。
少しばかり収入が安定・増加した程度な、冒険者たちには不可能な『訓練』だ。
「そうだっ・・敵を観察し、状況を把握して、覚悟を決めろ!!」
『バルカン!』×3
『フレイムシールド・・・っ』『ヒートクロー!!』
『バルカン』の連発に対応し始めた冒険者たちに対し、C.V.たちも瞬時に対抗策をとる。
『術式』を再び集束させ、それを『火炎の盾』で守り。遊撃役のC.V.が、牽制しつつも隙をうかがう。
ならば冒険者たちの『訓練』は、手札の多さで行う。
様々な『魔術文化』を持つC.V.様とのつながりを活かし。戦争種族であるC.V.様に『訓練』をつけてもらい。
色々な『術式』に攻撃される、『体験』を行い。冒険で不測の事態が起きても、対応できる。動揺を最小限に抑えて動けるようになる、『経験値』を『訓練』によって得る。
それが冒険者ギルドの『訓練場』を活かす方法であり。
「そこまでっ・・!」
「どうだっ・・+まいったか!」「これが冒険者の実力だぞ^!」
「へへっ、俺たちも捨てたもんじゃねぇ・・・」
「「「「「・・・-^・」」」」」
『訓練』とはいえ、勝利によって冒険者たちに自信をつけさせる。自信によって、実力を高めさせることを狙い。
「それでは次の『訓練』を開始する。準備をしろっ!!」
「「「・・・えっ」」」
『ドラゴンホーン・・ホーンスラッシュ・・・スラッシュマンティス!!』
ユングウィルの号令とともに、『魔道具』に込められた『呪力』が発動し。それは『訓練場』に埋められていた触媒を、『竜角鬼』へと変化させ。
「待てっ・・オレ等は戦い終わったばかR-ィ*//」
「ぎゃブっ*?」「うわぁ~---」
得がたい経験をさせ。厳しく理不尽な冒険を、死亡するリスクが少ない疑似体験をさせ。さらに『自信』が“自惚れ”に変わった、荒くれ者たちの鼻っ柱を折れる。
【依頼】を達成するために必要な、努力を“怠ったり”。不誠実なコトをしたり、裏切ればどうなるか、わかりやすく心に刻み込む。
『フレイムバイザー setup●ー●インフェルノボール!!』
『ッ!!K・*\sh/ァ*:**』
「「「・・・-;・」」」
火属性の下位?^?C.V.様が本気を出して、『竜角鬼』を爆散させる。
それによって学ぶことの多い、今日の『訓練』は終了し。
明日からは中堅冒険者たちが、教師として後輩冒険者たちを『訓練』する。
そんな交渉がとてもスムーズに進められた。
『女神レトは、新しくできたばかりの「島」で出産を行った』
その神話の別バージョンとして『新しい島』ではなく、『海中を漂う浮島』で出産した。
女神レトは女神様ではなく、『人間の王女』としてあつかわれた・・・・・などがあります。
『検索』で軽く調べることは、できなかった時代のこととはいえ。『アポロン、アルテミス』二柱の母神として、ローマ時代にも信仰されていた。美術品も数点ある『女神』が『人間』に格下げされていた。
私は基本的に『文化の伝播で、誤訳されたり。間違って伝えられることもある』と、考えており。凡人として『間違って伝えられることもあるさ』と、思っていますけど。
『女神レト』をはじめとした“人間に格下げされた女神の神話”に、関しては例外であり。
『女神とその子供・神格』を貶める。“デマ・中傷”の類だと思っています。
そのため、それらに関しては〔文化の伝播だな~〕と、呑気に楽しむことはできず。『考古学』などで、『神格』が復権することを願います。