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34.アクセルブレイカー  アルゴスver.

 加速能力。数ある異能・魔術に未来錬金術の中でもそれは極めて有用な能力です。

 遅い相手を安全に一方的に攻撃できるだけではありません。危機回避、逃走に偵察と個人・軍団戦のどちらでも使える。伝令、配達はもちろん作業も高速化できれば平時も路頭に迷うことはありません。

「死ねぇ❕イリス・レーベロア❕」


 それは魔力のこもっていない叫び。だが必殺の意思をこめた咆哮だった。それゆえカオスヴァルキリーにも通用する遠距離攻撃となる。


 「何っ!?」

 

 その咆哮に反応してイリスは発生源に頭を向ける。その顔に突風が吹きつけてくるような気迫と殺気がたたきつけられた。同時に投擲される無数のナイフ。高所から投げられたそれらは魔力も帯びているのだろう。矢と同等の威力でアビスドライブをさばいたばかりの剣姫に降り注いだ。

 

 「くっ!」「このっ!」

 

 それとタイミングをあわせてウルカとサキラ。護衛二人のシャドウにもシーフたちの襲撃が仕掛けられる。それも大通りを塞いでいた傭兵や腕自慢のゴロツキではない。

 彼女たちが陣取っていた屋根上に跳躍してくる身体能力を持つ者たち。

 「フォールンブレイバー!!」

 英雄になれなかった堕ちた勇者たち。あるいは悪徳都市ウァーテルの英雄とその配下の集団。彼らの攻撃がイリスたちに襲いかかった。


 程度の差こそあれC.V.は全員がマジックユーザーだ。そのため魔術戦闘の経験値が桁違いであり、人間の魔術などものともしない。うわさでは魔力が視えているため人間の魔術を解析、簒奪もやりたい放題だとか。

 だからと言ってC.V.は無敵ではない。思考の隙間はあるし、不意を衝くことも可能だ。半神の感覚・豪運はC.V.の標準装備ではない。〈魔法戦士タイプ〉のC.V.なら人間の魔術師が物量で〈攻撃魔術の撃ち合い〉を制することは理論上可能なのだ。

 何よりC.V.は不死身のモンスターではない。通常武装で殺せるし毒への耐性はウァーテルの住人より劣る。ならば人の悪意や堕ちた勇者の力で殺せないはずがない。



(((殺った)))

 胸中でそう確信したフォールンブレイバー3人がイリスに殺到する。アビスドライブで消耗させたあげく大喝、ナイフ投擲によって意識を十分にひきつけた。

 そこから跳躍して空中から仕掛けるものが一人。そして地上から2段構えで気流攻撃する要員が二人。これだけでも必殺の連携だが彼らはフォールンブレイバーだ。


 迷宮の試練を乗り越えた勇者にして、現実を知り裏世界の力も得た闇の魔剣をふるう真の強者だ。手抜きをして獲物を逃すようなヘマはしない。

 『ラピッドガイスト』   『『スピードブーツ』』

 身体強化の能力を発動。それによって加速した3人は殺気をも残像にしてイリスとの間合いを瞬時に詰める。その攻撃はたとえ獲物のC.V.が万全の状態でも確実に葬れる必殺のフォーメーションであった。

 というより完全にオーバーキルである。何故ならイリスは今だにソーサラーの長ともみあっている。気配から察するにソーサラーの背中越しに魔槍使いの用心棒とやりあっているのだろう。


 彼ら二人の安全を優先すれば肉壁への対応も考えなければならない。だがここは悪徳都市だ。無能な駒が生きていける温室ではない。





 『アルゴスアイズ』

 口頭で術式能力を発動している暇はない。そう判断したイリスは〈いつも〉どおりまぶたと眼球運動で能力を使用する。まばたきの速さで動くための身体強化の能力。それを発動したイリスは思った。


 (おおかた必殺の連携とでも思っているんだろうね)と。

 自分たちは神血統の英雄ではないし戦闘民族やその友達ではないのだ。よって能力の使用には相応の代償が必要となる。


 そんな思考が終わる前にイリスは長剣を手放した。そうして発光の術式を二つ展開する。

 一つは牽制として魔槍を持つゴロツキの片目に。もう一つは加速してもっとも速く接近する、堕ちた元勇者候補の進路上に放つ。それは魔術を知る100人が見れば全員が無害と断定する初歩の魔術だった。


 「なっ!これはっ!?」

 だが加速して視界が狭まっている者にとっては白い闇をもたらす呪いだった。動揺した男は闇を探ろうと右手を伸ばし。そのままバランスを崩して派手に転倒した。

 伸ばした右手は地面を探り当てるも、加速中の身体をとどめるスパイク役は果たせず。一撃必殺を狙ってナイフより速く疾走した男はその勢いのまま転がり跳ねた。


 急造の加速能力者がライディングメイルをまとっているのは賢明である。もし鎧のサポートがなければ拡大した死角という闇の中で暴走することは必至だ。自爆するだけならまだいい。だが周囲をまきこんで店頭・暴走となれば即、英雄失格だろう。


 (チィッ!)

 そんな一番槍の男が身体をひしゃげさせながら転がるのを横目に、彼の背中を追随していたフォールンブレイバーは軌道を不規則に横っ飛びを交えたものに変える。

 蛇のように。あるいは雷が空を切り裂くかのように爆走する。そうすることで回避と牽制を同時にこなす彼の目的は一つ。

 (行けっ!殺れっ!)

 本命である空中からの攻撃を援護することだ。



 そんな二人の思惑。大声をあげた者も含めればまだ三人。連中の動きをイリスは完全に読み切っていた。その手段はアルゴス能力による感覚や魔術光の探知だけではない。

 身体強化能力の欠点を視ているのだ。

 (ヨッと)

 (へっ?)

 二流強化はステータスを増大させるのと同時に表情筋や動作の前兆まで大きくする。

 その理由は強化に必死で平静を保つ余裕がない。加速戦闘の経験が少なくてその欠点に気付いていない。もしくは圧倒的な連勝で増長したバカがイロイロ怠っているなど様々な原因がある。

 (バッ、ガァ!?)

 いづれにしろ[これから○○します]と宣言しているも同然の攻撃をさばくなど多少速くてもイリスにとって造作もないことだった。靴先から飛び出た毒刃の飛び蹴りを片手でそらす。

 それだけで本命の一撃は石畳と脚を同時に削っって血脂をまき散らした。地面だけを削るなどライディングメイルでも装着していない限り堕ちた勇者には不可能である。


 (なっ、なっ、なっ)

 (あとはキミたちだけだね)


 言の葉を口に出すより雄弁にイリスは冷たい視線で伝える。その意思に心を折られた連中に逆転の芽などあるはずがなかった。



 身体強化能力は間違いなく有用な能力である。接近戦をメインとする英雄なら必須に近い。そのため無敵に近いイメージを持たれて短所を想像するものは少ない。


 しかし断じて無敵の能力ではないのだった。

 

 



 

 

 とはいえ実戦で使えるレベルの加速能力はいくつか条件があると思います。

 空気抵抗によるダメージを軽減する体毛やプロテクター。神や守護獣の加護。あるいは戦闘民族のクールさやオゥラで表情を隠すなど様々なものが必要だと思います。

 最低でも訓練をする戦友は必須でしょう。模擬戦によって加速のリスクや自分のスペックを把握する。そうしないと範囲攻撃に毎度返り討ちにあう残念加速になってしまうと思います。

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