閑話~弓兵シャドウのダイショウ
一長一短、メリットとデメリットは表裏一体であり。それは『多芸神アポロン』の手札の多さも、同様だと愚考します。
何故なら手札・権能が増えると、既存の手札が『忘却』されるから。
昔の日本だと『アポロン神』は『竪琴』を携えた二枚目神様として、描かれていましたが。昨今の〔『弓』を射る『アポロン神』は、『竪琴』を持たない傾向がある〕と、推測します。
逆に『太陽神ヘリオス』の知識によって、『アポロン神』から『太陽の権能』が否定されると。代わりに『預言』をはじめとする、『多芸の権能』が追加された。
よく言えば『アポロン神』は、時代・地域によって多彩な変化をする神格であり。悪く言えば、『権能を追加され、削られる。かなりいい加減なあつかいを受けている神格』だと、愚考します。
『吹き矢が装填されない、吹き矢筒』=『風術によって、怪音を発する魔笛』と、いう『旋矢笙』の術式を、弓兵シャドウのタクマは“放火魔シーフ”たちに『付与』していき。
『特殊なゾンビ』『シャドウの弓術』も併用して、破壊工作を企てた“シーフ”たちを、闇夜の中で次々にタクマは惨殺していった。
そんな盗賊狩りの詳細な情報は、秘匿される予定だったのだが。
「・・・・-・」
「クスクス・・・“シーフ”どもの悲鳴は、よく響くわね」
『水属性の遠見術式』によって、タクマ殿の盗賊狩りを観ていた。
上位C.V.であり、混成都市の魔導士団長を務める、クララ・レイシアードは笑みを深めていた。
何故なら『水』を穢す“盗賊ギルド”の連中が、地獄に堕ちていく。
外交・誓約など諸々の理由で、クララたちが直接、手を下すわけにはいかない。そんな”賊”たちが『怪音』によって、精神を削られたあげく。『屍体』に怯え、複数の『旋矢』によって徐々に射抜かれていく。
あげくに『旋矢笙』という拡声器の術式によって、その醜態が街中にさらされるとなれば。”盗賊ギルド”の面子は丸つぶれだろう。
「”賊”を待ち伏せする、近辺の『家屋』を『魔笛』に見立て、『旋矢笙』を仕掛ける。
そして“敗れた賊”が悲鳴をさえずり、命乞いを初めてから。それらの声を巨大な『旋矢笙』で、夜の街中に拡散してやる。
大きな『悲鳴』で起こされた。住民たちは、さぞかし驚き、『怪音』を忘れないでしょう」
「面子を大事にする。最近、面子と命も潰されている、”賊”たちにとっては大変でしょうね」
邪鬼C.V.と言うには丸くなった、遙和の言葉に対し、クララはゆっくりと首を横に振り。
「『大変』で済めばいいけど・・・『死活問題』になりかねないわ」
「・・・:・?」
「”賊”たちは、『旋矢笙』を自分たち(だけ)にかけられた『呪い』と認識しており。魔術使いですら、戦場だけを覆う丸・四角型の結界だと、勘違いしているわ」
実際のところ『大きい方の旋矢笙』は、『戦場+周囲の建物+通り道』を利用した、巨大な長方形型であり。限定的な『戦場』にしか、気を配れない術者が、その正体を看破できるはずがなく。
「”賊”たちが、即座に情報を集め。街中に響いた悲鳴・命乞いを偽装する、手を打てれば、傷口は浅くなる可能性もあるけれど」
弓兵シャドウから逃げるのがやっと。自分たちに仕掛けられた、『小さな旋矢笙』の正体すら把握できていない。
そんな“負け犬”どもが、クララですら感心する『タクマの悪意』に、気付いて対抗する。それを成せたら〔まさに奇跡を起こした!〕と、言えるでしょうけど。
「・・・・・バカなの?:?」
「いかがしました?」
「仮にも前線に出た“連中”の口封じを始めたわ。
そして、その屍体を『アンデット』に変えようとして・・・失敗してるわね」
”盗賊ギルドの指揮官”は〔敗北も想定内だ!〕〔逆転の秘策がある!!〕と、いうイメージを抱いて、指揮をとっている”つもり”なのでしょうけど。配下たちは、空しい”非道”を重ねながら、さらなる墓穴を掘っていた。
そもそも『灰鳴千弓』は『一夜限定ゾンビ』を造るのと同時に、『アンデット封じ』に応用できる効果も兼ねており。邪法使い”ごとき”が手に負える、『魔術能力』ではないのだけど。
「タクマ殿の実力も知れたことだし・・・もう観る価値はないわね」
「気晴らしに、お茶はいかがでしょう?支度をいたします」
「いいわね。羽矢弥殿の『雷鷹鳴羽』を、改良する気分でもなくなったわ。
藤次殿は、三日後に連れてきなさい」
「かしこまりました。(旦那様を)よろしく、お願いします」
そうしてクララは遙和が『茶』を煎れるのを、ゆっくりと待ちつつ。
不毛極まりない”内輪もめ”を始める、連中を映す『レインバイザー』を解除した。
『戦争』とは理不尽だ。
平時に人と殺せば殺人犯だが、戦場で人を殺せば英雄になれる。戦時の略奪暴行に“放火”の類は、軍事行動として認められているが。平和な時に行われれば、許されない凶行として罰せられる。
ならばC.V.様の勢力と盗賊ギルドが、暗闘?を繰り広げる、現状において。”放火”の企みは、どう扱われるべきだろう?
答え:弱い盗賊ギルドが、大幅に譲歩するしかない。
「このたびは、御迷惑をかけてしまい、申し訳ございませんでしたーー;~」
混成都市ウァーテルの一画。かつては盗賊ギルドの隠し部屋だった一室で、外交担当のシーフが頭を床にこすりつけ。
それを弓兵シャドウのタクマ様たちが見下ろしている。
わかりやすく力関係が示された光景なのだが。実情はさらに過酷であり。
「気にしなくていいぞ~。今回の件は、オレは何の損害も受けていない。
”賊”が先走って、ミンナが迷惑した。そう上の御方たちも解釈なさっている」
「格別のお慈悲を賜り、感謝いたします!」
仮にも『外交官』を迎え入れる場所が、盗賊ギルドの隠していた『秘密部屋』という時点で〔公平な外交をする気がない〕と、宣告しているに等しいが。
C.V.様の勢力に降伏した、元盗賊の知るかぎり。タクマ様たちは『外交担当』ではなく、実働部隊であり。しかも〔昨今、昇格したばかり〕と、いう幹部?でも新参者だったはず。
〔幹部に昇格する際の『試験』として、この交渉??を任されたのだろう〕と、バッケムは胸中で念じ、その光景を見守る。
「「GぉPo、ポ;pu・・!・;」」『・*+*●:・』「コ`//;r:・シ・」
床に転がる”放火”を企てた元シーフたち。文字通り、誇張なく半死半生の連中を、視ないようにしながら。
バッケムは盗賊ギルドが事実上、降伏する”茶番”を見守る。
〔悪が絶えることはなく、歴史から戦争がなくなることはない〕と、訳知り顔でのたまい。〔盗賊ギルドは不滅だ!〕などと、夢を見るシーフは少なくないが。
戦争種族であるC.V.様は、善良には遠く、むしろ残虐であり。
あげくに善行・善政を施して、半端な悪党が寄ってきたところを、待ち伏せして殲滅する。シーフなど、もはや経験値以下としか認識してない。
そんな無情な現実を受け入れるため。バッケムは盗賊ギルドとC.V.様の勢力を仲介して、和平条約を結ぶ。
放火魔など、平時に破壊工作を行う連中を切り捨て。代わりに盗賊ギルドの利権を認めてもらう。
そして〔皆殺しだけは、勘弁してください〕と、強者に哀願しているのだが。
『水蛇、海蛇、虹の蛇っ^~`ー。きょ~うの獲物は、なっにっかなー』
「静かにしてください『水那』殿。タクマさんが、昇進試験を受けています」
「そこは一応〔交渉?を行っている〕と、言うべきでしょう。
盗賊支部とはいえ、ガンバッテ混成都市まで、来訪した者なのですから。最低限の礼節は見せないと」
「「・・・-;・・」」
情け深い乙女たちの御言葉に、バッケムたちは泣きたくなった。
『怪音』が鳴り、幻聴に怯える日々が過ぎ。盗賊ギルドの水場から、『水蛇』の群れがわき出て、渇きに苦しみ。そこから逃げれば、『妖犬の影』に散々、追い回され。
あげくに、それらの醜態が、街中の市民にバレていた。
シーフたちの面子を守るため、必死に隠蔽工作を行っていた。その努力が『旋矢笙』の術式によって、ほぼ最初からムダだった。
〔それを知らされた、あの絶望から解放される。逃れられる。一時でも忘れられる〕
そんなことを考えていた、バッケムと交渉人?に対して、嬉しいお知らせが告げられた。
「それでは契約通り、シーフがこちらの利権を侵さないなら。
オレは『旋矢笙』の術式を封印する。
『怪音』を鳴らして、ノイローゼに落としたり。恥を『風術の拡声』で暴露するのは、控えるとしよう」
『兄様、それはっ!?』
「せっかく編み出した『術式』です。この連中のために、封印などして、よいのですか?」
「・・・・・タクマ様の決断を尊重いたします」
ウワサに聞くだけでもバッケムたちに、恐怖をもたらした。そんな『旋矢笙』が封印され、消えて、使われなくなる。
その宣言に、シーフ寄りの人間として、バッケムは歓喜につつまれ。
「別に『旋矢笙』を使わなくとも、”賊”を殲滅することなど造作もないからな。
万に一つも悪用されないよう、『旋矢笙』は封印しよう」
「「『それもそうですね』」」
「「・・;-・^・」」
『厳然たる事実』に打ちのめされる。
その後、〔『旋矢笙』を使用禁止にした〕と、いう偽りの功績をバッケムは与えられ。
『水蛇』『妖犬』が全く封印されていない。
〔そもそも『旋矢笙』以外の風術で、『怪音・拡声』を行ったとしても。
『和平条約』を破ったことにはならない。シャドウ様の損は、欠片も無いのでは?〕と、いう身も蓋もない現状に、思い至ったものの。
「どうにもならんな」と、いう結論を出すしかなかった。
エピソードの「ダイショウ」は、大小であり。封印の代償?でもあります。
私にとって『アポロン神』は、『竪琴を持つ美形の神様』であり。モテない男にとっては、『二枚目の気にくわない神格』と、言えます。
ただし断じて”邪神”ではなく。
求愛をして、女性にふられる『神話』が多い。神の地位・権能をふるって、強姦を行う、どこぞの”神”とは違う。あるいは”どこぞの神”を批判しつつ、自らも●●をやらかしていた”生臭神官?”と一緒にされたくないのですが。
ところが『アポロン神』が『弓矢』に関わると。ルーツとなる『疫病神』の神話も引っ張り出され、悪評になりかねない。『弓矢の神』など世界中にいくらでも存在しますが。何故か『アポロン神』だけが『疫病神』と紐付けられてしまう。
それを防ぐため。『多芸で幸をもたらす』『太陽神として、恵みをもたらす』という、プラスイメージを併せ。ファンタジーの『アポロン神』には〔弓矢を慎重に扱って欲しい〕と、愚考します。