閑話~弓兵シャドウの邪法:灰鳴千弓
〔『多芸神アポロン』は『医術』を司っている〕と、いうのは不思議な話です。
『神秘の超越者』である『神様』なら、『祈祷・御利益によって、病を癒やした』と、するほうが信仰を集めやすく。実際、『神官・聖職者』は、そのようにしています。
ケルト神話の『ディアンケヒト』など、『医術を司る神格』は世界中を見渡せば存在します。とはいえそこそこ珍しい神様であり。『神秘の聖なる力で癒やす』神様のほうが、圧倒的に主流でしょう。
それなのに古代(の神秘が色濃い)ギリシャ~ローマで信仰され、『預言』という特別の神秘を司どっていた。そんな『アポロン神』がいくら多芸とはいえ、神秘と相反する『医術(知識)』を司る。
不自然というか、首をかしげる神話だと愚考します。
スラムの解体:貧民街の住人に、まっとうな雇用を提供する。上下水道の工事を行い、区画整理を執行して、治安を向上させる。
そんなことが容易に可能ならば、二流どころの領主たちも、スラム解体を行っているだろう。だが実際は名君の王でも、スラム解体は困難であり。
アホ貴族・バ家臣たちが、間接・直接の両方からスラムを破壊している。『スラムを解体して住民を活かす』ことを、”スラム住民たちを直接・間接の両面から殺す”ことと一緒くたにしているのが、大半であり。
〔またスキャンダルで貴族が没落するらしい〕
〔酒・女に賭け事に溺れたのだろう〕
〔愚かな貴族の秘密はバレやすい。何でかな~^・~〕
別に善良誠実に〔民のために尽くせ〕と、バッケムは権力者たちに要求しない。
ただ〔破滅したくなければ、スラム街にも配慮しろ〕と、思い知らせるだけだ。
過去形である。
聖賢様、シャドウの皆様たちの大器は、ケチなゴロツキが想定する、遙か彼方にあり。早期に降伏したバッケムたちは、混成都市ウァーテルの近隣都市で、ある任務を与えられていた。
「混成都市に行くだとっ!?あそこは魔性の力で、半ば魔界と化しているぞ・・・」
「ウァーテルに行くなら軍資金が、必要だろう。
どうだ?一勝負していかないか?」
「仕事が欲しいなら、この町で冒険者になってもいいだろう。
文字の読み書きができるだとっ!?だったら、うちで雇うぞ」
こんな風に、流言・甘言を弄し。何らかの技能を持つ者には、働き口まで紹介する。そうして硬軟×表裏の様々な手段によって、バッケムたちは人の流れをコントロールしていき。
「こちらが、今月の成果でございます」
「・・・ご苦労様です。こちらが報酬になりますので、ご確認ください」
「ありがとうございます」
報酬の中身を確認することなく、バッケムは侍女C.V.様に平伏する。
C.V.様の報酬は、常にバッケムたちにとって、満足のいくものであり。そもそも無惨に狩られていく古巣を知っていれば、〔報酬をもらえるだけありがたい〕と、いうものだ。
「『開拓地』の整備が進みました。今後、農業ができる人々は、そちらに誘導してください。
それと賭け事・借金で他者の行動を縛る“行為”は、徐々に縮小していき・・・」
侍女C.V.様のメッセージに、バッケムはいちいちうなづき、記憶力をフル回転させる。
普通に機密のため、書類にすることは許されない。かと言って“忘れました、間違えました”と、いう戯言が通用しない世界であり。
バッケムは必死に頭を働かせた。
かつて盗賊ギルドに所属していた、バッケムたちが行っていることは二つ。
一つは旅人・スラム街の住民も含めた『住民情報』を作成すること。それもまっとうな住民たちに不安を与えないよう。金貸し・投資を通して、あくまで合法的に『住民情報』を得る。
〔貸した金を返せる見込みがあるか。売買・従業員の情報を見せろ〕と、いうように穏健な手段で情報を集める。
しかしバッケムたちの主要任務は〔『人の流れ』をコントロールすることだ〕と、確信している。
混成都市ウァーテルの人口増加を抑制する。夢をいだき、暮らしに困った人々が一気に流入して、スラム街が肥大化しないよう。
かなり強引な手段も使い。バッケムたちはウァーテル周辺都市の、裏社会を牛耳ることになり。
あの“謁見”によって、重要任務が何か、心に刻まれた。
「キサマたちへの任務は、都市ウァーテルへの人口増加を抑制すること。そのために商会を作って、働き口を用意しつつ、情報を集め・・・」
「ボ~クっは、カッワいいメっイドっさん~^・^
よっごれったとっころを、掃除するー~・-」
「「「「・・・;+*ー・~ー」」」」
「あne・・太守様!お戯れは、ほどほどになさってください」
「戯れじゃないよ、イセリナ。
大事なお仕事を任せるから、外見に惑わされない人材か、ちょっと確認しただけだから」
「「「「・+・;・」」」」
〔〔〔〔ウソだっ!失敗したら始末するって、脅しに来たんだ;!〕〕〕〕
一瞬、そんな考えがよぎるも。
「クスクス・・^~^」
「まあ、理解があるのは、良いことよ」
バッケムたちの背筋に冷たいものが流れる。
奇天烈メイドの視線、今は撫でるように操作された殺気、バッケムたちの思考が見透かされているコトなど。恐ろしいものはいくつかあるが。
〔何でアンタが憐れみの目を向けるんだ・・・〕
都市ウァーテルの中でも有数の権力を持ち、財力を誇り、【上の御方】を諫められる。そんな上位C.V.のイセリナ様が、バッケムたちに“カワイソウナ者”を見る目を向けている。
その視線に反発心を抱けない。
いつの間にか折られている、自分たちの心に、バッケムたちは絶望した。
”スラムの解体”を行う。頭がお花畑な、魔女C.V.たちの考えそうなことである。
そもそもスラム街に堕ちた連中など、古傷を持った敗残兵も同然であり。古傷をえぐり、追い打ちをかける。どちらの方法でも、破滅させ餌食にするのはたやすい。
「ならば、C.V.勢力もろともに、破滅させてやろう」
酒・クスリやギャンブルに溺れさせるか。恋に狂わせ、殺しの快楽を思い出させてもいい。魔女C.V.たちを巻き込むなら、スラム街の連中に濡れ衣を着せる。
冤罪で苦しめ〔権力者に裏切られた〕と、貧乏人どもに思わせれば。あとは流言・飢えを使って、奴らを再び転落させてスラム街を復活させる。そうすればわずかな報酬で『捨て駒』になる連中を、組織することも可能だろう。
「おっと、その前に軍資金を稼がなければ」
スラム街のガキどもで、欲望を吐き出させれば、貴族どもにもコネができる。悪徳の都ウァーテルが陥落し、奴隷の『供給』が滞っている。それは奴隷の『需要・値段』が高まっているのと、同義であり。
解体された”元スラム”とやらに放火して、孤児が増えれば、一石何鳥にもなるだろう。
何より、多大な手間をかけたであろう”スラム解体”が、台無しになってしまう。それはウァーテル占領から負け知らずな、“シャドウ一族”に一矢報いる、大きな転機になるだろう。
そんな自らの勝利を確信して、シーフキングのダビルは矢継ぎ早に命令を下していった。
『リィ・・リィ-、リィン・・Rye`リィーーー』
日が暮れた都市に、『術式』による鈴の音が響き渡る。穏やかで、心の安らぐ風の調べは、人々の心を安らげ。
「ひぃッ!?」「聞こえるっ!またまだ聞こえっ・・!**」
「ヤメろぉーーー/*」
ボンクラ鼠賊どもの心をえぐっていた。
正確には『術式による怪音』でノイローゼに陥らせ、不眠症にしたあげく、破滅へのカウントを行っているのだが。
順次、破滅していく連中には、どうでもいいことだろう。
少なくとも術者の弓兵にとっては、どうでもいいことだ。
『ピィー`ピィー`ピィー`ピィー`』
「「「「-・*;・・・ーーッ」」」」
『鈴の音』が『呼び笛』の音に変わる。まともな衛士が仲間を呼ぶ際に使う、合図の『笛の音』であり。悪徳の都によって骨抜きにされていた、汚職官憲が使うことなどなかったモノだが。
「イヤだっ、死にた/-」「「・・*+ッ/-」」
「逃げろっ、逃ゲ/ェ-」
現在は『旋矢』で射殺す、“賊”の人数を知らせ。
「おい、しっかりしろ!」
「;+*:・・・」
「よせっ、そいつは、もう!」
「アニキを見捨てろって、言うのか!こんな矢傷ぐらいで・・・」
うるわしい兄弟愛が披露されているが。”放火魔・水源を穢す連中”の愁嘆場なぞ、タクマにとって一顧だにする価値すらなく。
「ガッ、Ha,ハSee--Y-s-』
「アニキっ!?」「伏せろっ!」「「「いやダーー;-」」」
『吹き矢を放てぬ、楽の笙 魔笛の連なる、妖鬼の調べよ
不安を弦に、不眠を鈴に、不審を旋律と化し
静寂すら安らげぬ、一夜の狂宴を矢玉で彩れ!! 灰鳴千弓』
“盗賊ギルド”に属する連中の、聞くたえない断末魔が、路地裏に木霊する。
本来、『灰鳴千弓』の“邪法”は封印・死蔵すべき類のものだが。
散々、川・ため池や上水道に『毒』を投じる、企てをシャドウ一族は返り討ちにした・・・にもかかわらず、この後におよんで“放火”が通用すると考えられる。
「そういう“オメデタイ”連中に友愛を説いてもムダよ・・・こちらも『狂気の邪法』があることを示す必要がある」
そういうシャドウ上層部の意向を受け。タクマは『旋矢笙』を仕掛けて、『灰鳴千弓』を発動させた。
これから“盗賊ギルド”のアジトは、この世の地獄と化すだろう。
「まあ放火魔・毒殺魔のたぐいが、“共食い”をするだけか」
そう告げて、タクマは『呪力の矢』を弓につがえた。
ネタバレ説明:『灰鳴千弓』について
正式名称は『怪冥閃弓』という『魔術能力』であり。上位C.V.のダレかが開発に関わった、『死霊術』です。
発動条件は『タクマが呪力を込めた矢で、射殺す』または『旋矢笙の応用によって、呪力を蓄えさせた悪党を用意する』と、いうものであり。
効果は『一夜のみ限定で使役できる、ゾンビを作る』と、いうものです。
『魔力』が高いとは言えない、タクマの術で『強力なゾンビ』を創造?・使役することなど、本来は不可能ですが。
『ゾンビは一夜のみの使い捨てにする。日が昇れば、ゾンビに頼った戦い方はできない』と、いう誓約を課すことにより。
本来なら、有り得ない耐久性・速さや器用さを持つ『ゾンビ』を、タクマの『魔力』で使役できる。
加えて日の出とともに、その『醜聞』を処分できる。敵のネクロマンサーが使う『アンデット』を一時的にでも、『タクマのゾンビ』にしてしまえば。『日の光』によって、『そのアンデット』を燃やしてしまえる。
『ネクロマンサー』の神経を逆なでする、裏技が使えます。
さらに『吹き矢筒』に風術で呼気を送り、口をつけることなく『吹き矢』を放つ。隠し武器・ギミックのような『旋矢笙』にも裏技があり。
「『吹き矢』を放つよりも。『怪音』を発する笛を吹かせるほうが有用だろう」と、いう意見が出されたあげく。
「『針』サイズの『吹き矢筒=魔笛』を造り。地面・着衣や人体に、それを刺して、嫌がらせの『怪音』を発しよう」と、いう悪用をタクマが思いつき。
『灰鳴千弓』と『旋矢笙』が掛け合わされ、凶悪な『魔術能力』が編み出されます。
その方法とは『灰鳴千弓』によって『強力なゾンビ』を創り。『そのゾンビ』を利用して、『旋矢笙』を使うというもの。
『ゾンビ』の身体から『怪音』を発したり。『針サイズ』の『吹き矢筒=魔笛』を、他者になすりつける。そうやって『怪音』をさらに発したり、『ゾンビ』を増やす条件を満たすべく、対象を疲労させる。
『邪法』どころか“テロル”を行う、『魔術能力』であり。
〔放火・水場に毒を入れるテロを行うなら。こちらも『灰鳴千弓』のゾンビで、やり返すぞ!〕と、言ってるに等しい。
不毛な武力外交を行う、危ない『魔術能力』です。
ちなみに検索すると『アポロン神はかつて疫病神だった。それが転じて医術を司る』『アポロンの矢が病をもたらし、それが転じて医術を司る』と、のことですが。
私はこれらの説は疑わしく思っている。はっきり言って否定したい。
何故なら神秘があふれ、命が軽い『古代世界』において。神が怒って『疫病』をばらまく神話など、珍しいことではなく。『疫病神』が転じて医術を司るならば、世界中の神話に『医術を司る神』で、有名な神格が存在するべきであり。
〔『医術を司る神』が珍しい〕と、いう現状と相反しています。
『矢=病→医術』の話も同様であり。その理屈だとアポロン神以上に弓矢と関わりの深い、『狩人女神』も医術に関わる。弓矢に関わる世界中の『神々・英雄たち』が、『医術』に関わっているはずですけど。
現状は改めて、述べるまでもないでしょう。
一応、古代世界において、『矢傷』『弓矢』の殺傷力は凶悪なまでに高かった。現代人が読む『戦記・歴史物語』には、雰囲気がぶち壊しになるので、まず記されないでしょうけど。
わざわざあつかうリスクの高い『毒矢』など用意しなくとも。『矢じり』を汚す小細工をすれば、『破傷風』という恐怖の病をもたらす、”病毒の矢”ができてしまう。
それが命の軽く、医術知識の『蓄積』が難しい。”略奪暴行”が当然な古代世界というものであり。
『矢=病だから、医術も司る』という〔アポロン神の権能は不自然で納得いかない〕と、愚考します。