閑話~魔導士C.V.の錬金
太陽を司る『アポロン神』は多芸な神格であり。同時に『動植物』とかかわりの深い神でもあります。
検索すると『カラス』の神話があり、他にも複数の獣を従えているとのこと。さらに複数の女性に求愛しては振られたあげく、彼女たちは『植物』に変じています。
そんな『アポロン神』の神話を読むと〔情けない、ナンパな神〕と、たいていの人が考えるでしょうけど。子供の時ならともかく、オトナになって安易に『アポロン神』を軽蔑するのは、短絡的だと愚考します。
せめて『アポロン神に求愛された女性が、逃げることができた』イコール『アポロン神は上位者として、手加減していた』と、いう評価はしてもいいと思います。
古今東西、『神』に求められれば、身分が下の者に拒否権などなく。『アポロン神』に求められた女性たちは、逃げる以前に『拒絶』すらできないでしょう。
まして弓を射て、拳闘もできたという『アポロン神』が本気を出していれば。武芸の心得もない女性たちが逃げられるはずもなく。そんな女性たちが逃亡・拒絶して、『植物』と化した。
次々と女性を妊娠させた『大神』と比べれば、ずっと『アポロン神』はマシだと愚考します。
シャドウ一族の羽矢弥から『雷鷹鳴羽』の術理を、C.V.の一員である遙和は献上され。彼女がまっ先に行ったのは、面会を申し込むことだった。
「それで?いきなり尋ねて来て、私に何の用かしら」
「都市ウァーテルの魔導士団長のC.V.クララ・レイシアードではなく・・・貴女様の【本業】から、見解をうかがいたい。
この『術理』を、どう思われます?」
ごう慢で残虐にヒトを狩る、邪鬼C.V.が『魔力』を整える。C.V.の礼節において、事実上の平伏を行い。遙和が面会しているC.V.の名をクララ・レイシアード様という。
都市ウァーテルに在住するC.V.の中で、最も魔力の高いC.V.ではあるものの。現在は陸戦師団副長のガルド・ログナーと『事実婚』をしており。
若い8級C.V.からは〔“色ボケ”ている〕などと、陰口をたたかれることもある。〔目立った功績のない、7級水属性C.V.〕と、いうことになっているC.V.夫人なのだが。
「・・・穏やかではないわね。
私は今、任務から外れて休眠しているのだけれど」
言の葉と並行して、『魔導能力』が構築されていく。『魔術・魔術能力』の原典であり、蹂躙もする理不尽の極み。遙和たちが使う“ザコ狩り魔導”とは、隔絶した力を持つ。真なる『魔導能力』が、全てを見透かし。
「『身体強化』に伴う『疲労』を利用して、心身を休め回復させる『眠り』をもたらす。『ホムンクルス』を創造・調整する『水筒槽』の術理を、『微弱な電流』によって代替する・・・と、言えなくもないけれど」
〔そんな認識をできるのは、貴女様だけです〕
遙和は胸中で突っ込みつつ、沈黙を保つ。
『霊液』で満たされた『水筒槽』には、『ホムンクルスの神経系』を刺激する『微弱な電流』が流れる。その術理を知識として、遙和も知ってはいるが。
『ホムンクルス』を創造する、『術者』の9割9分は『水筒槽の中身は生命のプール』と、認識しており。
〔『微弱な電流』によって、『ホムンクルスの体内電流』を構築しよう。神経系から『五感』を組成して、感情を抱き・・・〕と、いう『先』を見すえる実力を持つ者は少ない。
そんな『はるか先』を見ているクララ様だが、『錬金術師』は数ある副業の一つに過ぎず。稀に有望な人材へ、助言したり育成をなされる。
「??・・『金』が欲しければ、『水』から抽出する。もしくは『海底の鉱山』を掘ればいいでしょう。アルケミストの技で『金』を組成したら。入手する『金』より、『触媒』のほうが、かかってしまうわ」
「普通の『錬金術師』は、『錬金』を為しただけで、多大な名声を得られるのです。
そして『金』のコストは、『材料・触媒』だけにとどまらず。実験設備や、それらを維持管理する資金・警備など、莫大なものになるのです」
「なるほど。人間のアルケミストは大変なのね」
「・・・・・いいえ。私と契約している、中位C.V.アルケミストの話でございます」
それから遙和は〔ヒトの錬金術師は、そもそも『金』を錬成できない〕と、こんこんとクララ様に説明し続け。
〔人間のアルケミストに貴女様が、なりすますのは不可能です〕と、いうわかりきった事実を、とても苦労して教え込んだ経験がある。
よってクララ様の〔『水筒槽』=『雷鷹鳴羽の術理』〕と、いう認識は〔魔術の摂理から、逸脱している〕と、遙和は断言するが。
『氷霊を厭い、霊液を疎む者に 私は霧雨を、もたらそう
知恵の水を盃に 水の杯を宴の卓へ
異郷の酒毒をもって、その水と百薬を束ね 英知と愚劣の輪をめぐれ!
蜜酒の宴会』
「・・・・:・:・-・」
その『魔導能力』が常識の枠を改変して押し流す、『理不尽』であることは疑いなく。
「こんなとこね・・・『イリスの魔導』で名前がかなり灼かれたし。
羽矢弥さんの構築した『術理』は、そんな灼かれた『心』のすき間に、定着するでしょう」
「かたじけのうございます」
クララ様の『精神干渉の魔導』によって、人間どもの心が書き換えられる。
『魔術』への嫌悪・嫉妬をはじめとする、悪感情が『思考の海』深くへと沈められ。代わりに好奇心・興味や、『術理』を活かす最低限の知識が、意識の表層に浮かびあがる。
羽矢弥殿の『術理』が活かされる、『文明を作ろう』という暗示が、この『大陸の一部』に拡散していった。
それを『天啓』と崇める者もいれば。”魂を弄ぶ外法”と、罵る者も多い。
いずれにしろ『特定の人間』・その知人としか、誠実につきあう気がない。
”邪魔者”は『貴族の処刑』と同様に、連座で殲滅する遙和たちにとって。
〔流血の少ない『処置』をしてやるだけ、ありがたく思いなさい〕
〔愚か者の”差別・迫害”を迎撃するほど、ヒマではないわね〕
〔〔『精神干渉』を防げない、“弱者”の尊厳などないわ!〕〕と、いうのが本音であり
「あとは『監査』と『処分』ね・・・遙和!」
「かしこまりました。私にお任せいただければ・・・?:・・?」
『刻印』をあらかじめ仕込んでおいた、”盗賊・山賊”たちの『命脈』が尽きている。それどころか現在進行形で、何者かに討ち取られ続けており。
「これはいったい・・・何者っ!?」
「落ち着きなさい遙和・・・『レインバイザー』」
クララ様が『遠見の魔術』を発動する。『水属性の魔力』を知覚しつつ、遙和の『刻印線』を追って解析していき。
「あらあら。人間もなかなか、やるわね。
遙和、ここは譲りなさい。『面白い』ことになっているし、私たちは静観しましょう」
「かしこまりました」
殺戮の邪鬼C.V.としては、面白くないが。上位C.V.のクララ様に逆らう、”自殺行為”などする気はないし。
何より『雷鷹鳴羽』の術理を編み出したのは羽矢弥殿だ。ここはC.V.陣営で遠慮するのが、筋というものであり。
〔仕方ないから、藤次にかまってもらいましょう〕
こうして幹部シャドウの眠れない夜が確定し。遙和の『尋問』は、朝まで楽しく継続した。
そもそも超常の存在で、信仰の対象である『神の交わり』というのは、『文化・勢力』の融合など。歴史上の出来事を、暗喩したものであり。現在進行形でやらかしている連中に、“ナンパな神”あつかいされたくありません。
それはともかく。
双子女神の『月神アルテミス』のように、『獣+自然(森・山・大地他)』を司っている『神格』は、世界中に見られる。『植物』だけを司る神・精霊なら、珍しくありませんけど。
『獣+特定の植物』に関わりの深い神話を持つ『神格』は稀少であり。さらに『お釈迦様』のように、全てを司る『主神級』ではなく。多神教の一柱で、『アポロン神』レベルのネームバリューを持つ神格は、かなり稀少だと愚考します。
もちろん〔異郷の主神級だった『アポロン神』が、『ギリシャ神話』に取り込まれた〕と、いう理由で『失恋の神話』があったり。〔元主神級だったときの名残で『動物+特定の植物』に関連する神話を持っている〕と、いうだけの話かもしれませんが。
私は『アポロン神』が『医術』を司っている。『医術』で重要な『調合・薬作り』に関連して、『獣+特定の植物』を『アポロン神』が司っていると愚考します。