33.影と光と闇を混ぜて
水属性と火属性を掛け合わせたらどうなるでしょう?
「何だ、何を言っている!?」
「黙っていろ!この言葉はこ奴の魔術根幹。一文字たりとも聞き逃してはならんぞ!」
「ん~~」
ソーサラーとそれ以外ではイリスが言ったことの重みにかなりの温度差があるようだ。
そしてこの時点で温度差を感じられるのは、情報の伝達がうまくいっていない。正門前でアルゴスゴールドを使い〔わざわざ魔術式への干渉〕などというショーを披露したのにそれが周知されていないというこのありさま。
「もしかしなくても【ボクが攻撃魔術を使えない】ということもお爺さんは知らないのかな?」
「「「ハァッ!?」」」
知らないようである。情報が命の盗賊、アウトローが支配しているはずの悪徳都市でこの無様。イリスは改めてウァーテル占領を急いだ自分の判断が正しいことを確信した。
本来ならイリスの地位・本業で宣戦布告の使者など務めるはずがない。実際、扇奈や騎士の妹には散々止められた。
「せめて影武者をマスター!」
「否、あの愚か者の知性ナシどもにそもそも宣戦布告の必要などありません!」
そう言って必死に止める二人を説き伏せたかいがあったというものである。
そんなことを思い出しながらイリスは自分に向けられる殺気と視線を再確認する。どうやらもう少し雑談を続けたほうがよさそうだ。
「光ある限り闇も消えない。どこかの魔神が闇の不滅を自慢げにさえずったセリフだね。
だけどこんなのはコインに裏表がありますと言っているのと同程度のこと。真理ではあっても自慢げに話せるようなことじゃない」
どうやらウァーテルの悪あがきはまだ続くようだ。あるいは外道による逆転劇の夢か。はたまたシーフの最強戦力が切り札を出すのか。
「巨人の体が世界に変わってそこに太陽が輝いて生物が産まれた。だけど灼熱の日差しだけでは世界は砂漠よりもひどい煉獄の焦土と化してしまう。だから巨人の体はのたうち回転し始める。
そうして世界には影が生まれ安息の夜が訪れた。つまり世界の影こそ夜闇の正体ということだよ」
『アルゴスアイズ』
口でそんな説明をしつつもイリスは身体強化の能力で加速し跳躍する。傾聴していたソーサラーたちがその動きに反応できるはずもなく、イリスは容易に間合いを詰めた。そうして闇の魔力とやらを束ねた大剣をあり得ない速さで振り上げる。
「だけど影ができるには光が必要。そもそも影があってもその中は光の干渉を完全に防げるわけではない。不可視光線が走っているし、反射した光を使えば影も瞬くし濃くなることもある」
振り上げた闇の大剣は斬閃を走らせソーサラーの体に吸い込まれていく。そうして鳴り響く金属をこすり合わせ打ちつける音。それを聞いた大半の者が術者にもかかわらず鎧をフードの下に着ていると考えただろう。悪徳都市で用心し過ぎるということはないからだ。
「要するに地水火風よりも闇属性はボクの光に近しい【大事】な存在なんだよ。だから闇の攻撃魔術はたいてい無効化できるし。
こうやって他属性より器用に干渉できるというわけだよ」
そう口舌で話ながらイリスは瞳に魔力を流し続ける。目蓋と眼球運動により術式を組み立て闇の大剣を変質させていく。
その結果、大剣は。大剣を形作る闇の魔力は元の持ち主であるアビスドライブを放ったソーサラーに僅かな痛痒のみを与えてその体を貫通した。
「なっ!?」
「バッ、バカッ!?ガハァ!?」
とはいえ闇の魔力が傷つけないのはあくまで元持ち主と操作を行っているイリスのみ。
いつのまにかソーサラーの長の背後にまわり魔槍の構えにはいった男。不届きな企てをしていたアウトローの喉を容赦なく貫いた。
「何だっ!いったい何が起こっている!?何故わしにダメージがない!?」
「まあそんなに難しく考えることはないよ。
影があるからキノコが育つ。昼と夜がバランスよく回るから草花が育ち御飯も食べられる。
そうして色々混ぜれば治療薬もできてみんな幸せになれるというわけ
闇と光の戦いなんて・・・・・」
『死ねぇ!!!!!イリス・レーベロア!!』
そしてイリスの講釈は遮られた。
答えはお湯ができます。くだらないとは言うなかれ。
お湯こそが安全・容易に食料を調理する魔法液です。切る、焼くの調理法はそれなりに技術と時間がかかるでしょう。
お腹の弱い幼児、老人や傷病人に栄養を取らせるポーションこそお湯。人間が火の扱い、鍋製作に続いて得た技術革命はお湯を沸かすことではないでしょうか。錬金術・霊薬調合の始まりもお湯を作ることから始まっていますし、始めなけれなりません。
対〇滅・〇ドローアに水蒸気爆発と考えたかたもいるでしょうが、これらは魔王に生存を祈られ、大魔王に感心されるレベルの魔術師・賢者?でないと使いこなせないでしょう。そういう暴走確定のチートは回答として不適切だと個人的には考えます。関東以北に住んでいると特に。




