閑話~落鷹と水蛇
『(フレイヤの)戦車をひく猫』:これを初めて知ったのは、某アクションRPGのアマゾネス王女に、召喚された『チャリオット』でした。ヒロイン王女の人気とセットで〔『戦車をひく猫』も人気がでるかな~」と、思ったのですが。
私の知るかぎりでは、駄目っぽいです。
やっぱり日本ファンタジーにとって、『北欧神話』の『フレイ・フレイヤ』は人気がない。
神格なら『オーディン・トール・ロキ』が主流であり。怪物なら『フェンリル・ヨルムンガンド』の兄弟がメジャーですけど。
『フレイ・フレイヤ』の双子神も推したい。〔『ケルト・メソポタミア神話』よりも『北欧神話』を!〕と、思うのですが。
『クーフーリン・ギルガメッシュ』の二大英雄に圧倒され。〔奔放な女神なら『イシュタル』のほうがいい〕と、思われているのか。
某RPGヴァルキリーの『フレイヤ』が、“やらかした”ために不人気になり。“首飾りを造らせるため、一夜をすごした”と、いう神話の悪評が響いているのか。
『フレイヤ』の神具・騎獣である、『猫がひく戦車』は全く見かけない。アマゾネスランサー善の『召喚獣?』として、登場してから出番がなく。
〔もったいないな~〕と、愚考します。
『旋矢笙の誓約』を使い、『水那』は潜入密偵を探し出し。そうして存分にその戦闘力をふるい、密偵組織に大打撃を与える。
“潜伏密偵”を送り込む組織の構成員を、生かしたまま大半を捕らえ。様々な『外交カード』として、連中を利用できる。
本来、その戦果は誇っていいものなのだが。
「戻りましたか、『水那』」
『水属性の魔竜鬼、水那・アーシェル。御命令に従い、帰還しました』
『鷹の目』を持つ羽矢弥様の顔を目の当たりにして、『水那』の手柄を立てた喜びも霧散する。
ユリネ姉様の妹である『水那』にとって、羽矢弥は格下のシャドウにすぎず。
そればかりかイリス様のお気に入りであるのをいいことに。その『威』を借りる“キツネ”のような存在なのだが。
「それでは約束通り、私に協力をお願いします」
『承知いたしました。私は「何」を為せば、いいのでしょう』
戦闘・『水属性魔術』に秀でた『魔竜鬼』にとって、羽矢弥様は交渉に秀でた『人間』であり。『水那』の放つ冷気・魔力や蛇影に怯えない、その態度は評価に値する。
〔私は聖賢の御方様から、『特権』を与えられています〕
〔だったら、『特権』を使い、『水那』に言うことを聞かせればいいでしょう〕
〔しかし『特権』を乱用すれば、反感を買ってしまう。
『水那』に対し、『特権』で命令すれば。ユリネ様を含め、たくさんの人から反感を買ってしまう。
それは私の望むところでは、ありません〕
〔ふん・・・だったら貴女は、なにを望むの?〕
〔私が望むのは、『水道』の整備に協力してもらうこと。時間があるときに、スラムの水事情を改善することに協力してもらいたい。
その代わり、私は貴女にコネを提供しましょう。
それと『特権』で強制されることなく、『取引』に応じてくれた。貴女にとっては、珍しい『実績』もおつけします」
『・・・スラムには「水道」を建設しているのでしょう。水那の協力など、必要ないのではありませんか?』
そもそも『水那』は、『水道』の整備などしたことはなく。『水事情を改善』と、言われてもピンとこない。
一応、『水道・水の浄化』に関わる機会もあったのだけど。
愚かな“貴族のプライド”とやらに阻まれ、その機会は失われ。その後は“盗賊ギルド・密偵”や『モンスター』の討伐に明け暮れていた。
それゆえ『水那』は、やんわりと羽矢弥様の提案を断ったのだが。
「そうですか。それなら、ぜひともスラムの『水道整備』に協力してください。
そうして休眠していた『水の浄化』を取り戻す。そのために必要な『知識・経験』を、スラムでの活動を通して、得てください」
「っ!?」
〔貴女は何を言い出すの?〕と、いう動揺を『水那』は何とか呑み込む。
天才賢者でもあるまいし〔水道工事をしよう!〕と、いう『かけ声』一つで水事情を改善できるわけがない。まして戦闘経験に偏っている、今の『水那』が工事をしても、失敗するのは確実であり。
『「知識・経験」を得るというのは、失敗して試行錯誤すること。だけど、それでは迷惑がかかってしまう。ワタシは水属性だけど、水道工事の名人ではありません』
〔私では『水道工事』などできない〕と、告げる『水那』のセリフに対し、羽矢弥様はにこやかに微笑み。
「ぜひとも試行錯誤を行い、失敗を繰り返してください。
それをもって、スラム街に上下水道を建設する『対価』となし。将来への布石にいたします」
「・・・・・そこまで仰るなら、協力しましょう」
こうして羽矢弥様と『水那』の『契約』が結ばれた。
「やれやれ、今日も一日中、働いたな~」
「さて、『シャワー』を浴びるとしよう」
「オレは『風呂』だ。しっかり身体を洗って、歓楽街にいくぞ!」
『『『『『『『・・・-・』』』』』』』
「お~い。水はまだですか~」「今日の夕食が楽しみだ」
「労働の汗を流す『シャワー』は、どうしてこんなに気持ちいいんだ」
「早くっ、早く『バス』を済ませて、彼女に会うんだ!!」
『『『『『『『豊水流』』』』』』』
「「「「ふぉおお-^~^--」」」」
かつてスラムだった、ウァーテルの一画。
そこでは【公平感】のある、区画整理が行われ。『スラム街の解体+街の建造』という、『雇用』によって、住人たちは活気づいていた。
働く気さえあれば、仕事が斡旋され。一定期間、勤め上げるなど、いくつか条件を満たせば。さらに待遇の良い、仕事を紹介される。努力が報われ、食うに困らず、チャンスまでもたらされる。
そんな『楽園』が作られたのには、『水那』の存在があった。
『こんなの「水那」の「力」じゃない!!
私が了承したのは、「上下水道の工事」に協力することよ』
「貴女は『上下水道の工事』に協力しているわ。
乾燥しているスラム街の『湿気』を調節し。スラムに住む人々の『水瓶』を、条件つきで満たし。何より工事で働く人々の身体を洗い、清める『温水』を提供している。
これ以上ないほど『工事』に協力しているでしょう」
『ちっがーーう!ワタシがすべきことは、「水」で地面に穴を穿ち、地下水路を作ること。
「水道管・建材」に「防水」の付与を行って、「迷宮」を建造することよ!』
それを今やられると、迷惑だから。探索に挑んだスラムの住民が、『迷宮』で殺されないよう。商都ウァーテルにとって、デメリットが大きい『地下迷宮』を造らないように。
羽矢弥は『水那』に対し、労働者たちへの多岐に渡る『サポート』のみに従事させ。
〔まともに働けば、楽しく暮らせる〕
〔犯罪を行えば、水蛇の制裁が待っている〕
そういう〔アメとムチ〕をふるい、羽矢弥は精神面からもスラムの解体に取りかかっていた。別に善意からだけではなく。
羽矢弥の『使い魔鷹』が、十全に力を発揮できる。それとおバカな旦那が比較的、安全に点数を稼ぐ。そういう『打算』もあって、羽矢弥はスラムの解体に取りかかっており。
「まあ一通り、『上下水道』を造る目処は立ったことですし。
そろそろ当座の『資金』を調達しましょう」
『当座の資金ですか・・・“海賊”の宝を奪うか、海中の「鉱山」でも掘るのでしょうか?』
さすがはユリネ様が家族に決めた、稀少な魔力集合体である『魔竜鬼』だ。
どちらも人間の『魔術士』には不可能な芸当であり。『海中の鉱山』など、羽矢弥にとって想像の埒外だった。
そんな胸中をおくびにも出さず、羽矢弥は『水那』との会話を続け。
「『水那』には、ささやかな『催し』に協力していもらいたい」
『ソレってまっとうな「催し」なんでしょうね?』
「もちろんよ。日頃、酷使されている作業員たちに、ささやかな『憩い』を提供する。それだけの単なる『祭り』にすぎないわ」
『・・・-・』
そう告げる羽矢弥の言の葉を、『水那』はじっくり考えていた。
とはいえ『猫好きの人』から見て、重い戦車をひく『猫たち』は虐待に見える。そういう認識なら、今後も『フレイヤの戦車』は封印されるでしょう。
個人的には『征服大王が駆る、神牛の戦車』と同様に、『飛翔する魔法戦車』なのでですから。『猫たち』への負担は少ないと、愚考するのですけど。
〔恐ろしい戦場に、【猫ちゃん】を突進させるなど論外だ!〕と、言われれば。〔おっしゃるとおりでございます〕と、しか言い様がなく。
万が一にも『聖剣の光』で吹き飛ばされる、リスクを考えれば。
〔現代のファンタジー作品において、『フレイヤの猫がひく戦車』は封印するしかない〕と、いう結論に至ったと推測します。
他にいくらでも魅力的な『騎獣・乗機』があるのに、無駄なリスクを犯す必要も無いでしょう。