32.イリスの闇属性
子供のころ、初めてダークエルフを知った時の感想。
「暗黒神は墨汁じゃない。むしろ光のない世界で暮らす生物こそアルビノになるのでは?」
などと思ったものです。深海魚を見る限り体色は多様ですし、邪神だからと言って黒一色などということはありません。黒白と言ってるようでは駄目だということですね。
メラニン色素を聞きかじった子供の単純な考えです。
『『『アビスドライブ』』』
複数のソーサラーが力を結集させて放った攻撃魔術。対カオスヴァルキリー用として編み出された人の叡智が咆哮をあげる。その魔術砲撃は一瞬にして光属性のC.V.を飲み込んだ。
「「イリス様!?」」
護衛役を放棄していた二人のシャドウ。屋根の上から援護するよう命じられていたシャドウ二人の叫びが響く。
だがその叫びをかき消す大音声が周囲を圧して放たれた。
「グングニル・ジャベリン!」
アビスドライブだけでも石畳を削り粉塵をまき散らすほどの破壊エネルギーを放出した。だがそれに被せるように魔槍の穿孔が魔力の嵐に投じられる。
万が一にも無双を仕掛けるような小娘を生かして帰さないように。必滅の意思をこめた主神武装のレプリカが投擲される。
「それは悪手だよ」
しかし魔槍の一撃は粉塵から出現した黒い大剣によって弾かれ宙を舞った。
観客と化してそれを見つめるウァーテルの精鋭たち。彼らがその事実を認識する前に大剣は追撃をかけるため跳躍し模造武装を金属片に変えて堕とす。
「追尾効果のある魔の投槍は便利だけど〈狙って追いかけます〉って宣言しているようなものだからね。対抗する術がない相手ならともかく、ボクの能力とは相性が悪いよ」
「「イリス様!!」」
「馬鹿な。闇属性の攻撃魔術だぞ。ただの上級魔術ではない。ヴァルキリーすら屠る特級の魔導なんだぞ。なのに何故貴様は生きている!」
「そんなこと言われてもね。見てよこの髪。先っちょが少しこげたじゃない。
髪は女の命と言うし。扇奈がこれを見たら大騒ぎすること間違いなし!
人間としてはお爺さんたち腕がいいソーサラーだと思うよ」
そう告げるイリスは焦げ目よりも髪についた粉塵を片手ではらうことのほうが重要なようだった。
「ふざけるなぁ~!!」
「そんなこと言われてもね。ボクの能力は『アルゴス』って言ってるんだけれど」
アルゴス。古代神話の一説で神々の女王に仕える多目の巨人。その女神は結婚・権力を司る。同時に大地と闇の力を持つ地母神でもある。主神の夫が妊娠させた浮気相手に対して出産できないように大地に呪縛をかけた逸話があるほどの大地母神だ。
その忠実な眷属であるアルゴスが闇属性に弱いなどということがあるはずもない。
「ふざけるなっ、ふざけるなっ、ふざけるな~
今の今まで光剣をふるい、アルゴスの鎧も霊気もない。そんな〈ヴァルキリー〉が闇の魔術を無効化できるはずないだろうがぁ!!!」
すさまじい剣幕でまくしたてるソーサラーたちの長はイリスを呪い殺さんばかりの眼力でにらみつける。その形相に対し「カオスなヴァルキリーだからできるんだよ」とおちゃらけて告げるほどイリスは非道ではなかった。
けっしてイリスの持つ黒い魔力の結晶である大剣に視線をよこさない年長の術者。おそらく彼も理解しているのだろう。
自分が今まで学び練磨してきたソーサラーの魔術を崩壊させかねない『呪言』が放たれると。
「君たちが思っているほどこの世に闇はない。あるのは巨人の影と安息の夜。
そして四元の光だよ」
ですがその単純な考えで、竜槍やゴールドリングのような古典RPGは敬遠するようになりました。
とはいえ自分で小説を書いてみましたが褐色肌のキャラは現状、全く考えついていません。クロスケ邪神をあれこれ言えるような見識はなかった。というか現在もないと恥じ入るばかりです。




