閑話~歓楽の街~コイントスの結果
昔の人は『獣肉』を食べることを“忌まわしい事”としていましたが。
飢饉・戦乱に重税で、食糧が無いときに、そんなことを言ってられるはずもなく。心身ともに消耗して、追い詰められて“牛馬(??)のニク”を食べるくらいなら。
〔農作物を荒らす『害獣』を狩ったほうが百億倍マシだ〕と、私は愚考します。
もっともそうやって『猪』を食べていくと。『猪』が『妖怪・山の神様・眷属』の、どれであっても人々は困るわけであり。
大昔、『猪』を狩る『罠・狩猟道具』を作り、入手するのが困難だった。そういう文明レベルの時は『猪を神格化・妖怪化』できていたでしょうけど。
農耕が盛んになり、『猪』は完全に害獣あつかいされ。猟師が『鉄砲』を撃ち、高性能な『罠』を作れるようになり。〔食べる『猪』が『怪異』では困る〕と、いう心情が『妖怪イノシシ』を消していった。
『イノシシ妖怪』が登場する『昔話・伝承』を、失わせていったと愚考します。
『投げたコインの裏表によって、物事を選択する』
競技者・一般人にとって、『コイントス』はそういう運試しゲームだが。聖賢の御方様がおっしゃる『コイントス』に、運試しと呼べる要素はない。
人間とコインぐらい『格』が違う。聖賢の御方様が、身分の低い者から『言霊』を得て。その『言霊・情報』を触媒にして、『予知の奇跡』を発動させる。
『未来をかいま見る魔導を発動させる』と、いう『隠語』であり。
間違っても下級シャドウごときの〔意見を奏上するチャンス〕などと、考えてはいけない。そういう“私欲”は『魔導』の中で、裁断されてしまう・・・以前に聖賢の御方様を不快にさせかねず。
〔無心だ・・頭は空っぽ・`・私欲を捨て・-・交渉術を忘れて・・+・〕
『滝行』を行ったときの記憶を、サヘルは引っ張り出し。己の思考が『瞬く光』のように、平静になることをイメージした。
〔お祈りする娼婦・男娼たちの心の平穏のために、戦はおやめください〕
〔神殿の被害者たちと、C.V.と、ボクの心の平穏のほうが大事かな~〕
〔神殿勢力は侮れません。犠牲を考えれば、戦争は悪手かと〕
〔それは悪徳の都ウァーテルを陥落させる前に、言うべきことだよ〕
〔神殿を攻撃したら、魔女王などの“悪名”を広められます!〕
〔もう、広まってるね。お返しに『愚r~璃ーγーm』で、名前を灼いたけど〕
説得失敗の『やり取り』しか、サヘルはイメージできなかった。
そもそも聖賢の御方様は、戦争種族C.V.の中でも最上位の『規格外』であり。
感情・損害に広報戦など、あらゆる戦場で勝ち抜いてきた。今さらサヘルごときが口出しできる隙などなく。
神殿攻略をやめる条件で、サヘルが提示できる取引材料もない。
〔いっそのこと『ライターライト』を取引材料にするか・・・?〕
『色事』の才能がない者たちに、『筆者光術』は『写本』という職をもたらした。それを脅かしかねない『交渉の材料』にするのは不本意だが。サヘルが頭を下げれば、許してくれるだろう。
無論〔転職のフォローは確実に行う〕と、いう条件をつけてだが・・・・・
「・・・^:^・」
「・・・-・っ!?」
聖賢の御方様が、にこやかに微笑む。
だがその『目』は笑っておらず。そもそも聖賢の御方様は、サヘルに表情を読ませるヘマなどしない。にもかかわらずサヘルに『目』を読み取らせた理由は一つ。
〔駄目だ・・・『ライターライト』は使えないっ!〕
サヘルへの『警告』だろう。
弱小のサヘルが地位を維持できるのは〔契約を守っている〕と、いう信用・面子があるからであり。既に『転職のネタ』に使った『ライターライト』を、別の者との取引材料にできない。
『写本』という転職に、希望を見出した者たちを不安にさせる。そんなことをやらかせば〔ボクも同じように、強権を使おうかな~〕と、おっしゃられ。サヘルの小細工な『術式』など、全て没収ということになりかねない。
「・・-・冒険者たちを使った・・・『足』を改善しつつある、冒険者たちと協同で行っている【計画】に万が一があってはなりません。
そのため神殿の殲滅は、ご容赦いただけないでしょうか」
「ふ~ん、サヘル君は【計画】に支障が出ると思っているのかな?」
メイド姿から、軽い口調で問いかけが行われる。
だがサヘルにとっては、生殺与奪を握っている『天上の宣告』に等しく。一言一句を慎重に選びながら、返答した。
「〔支障が出る〕と、までは思いませんが。〔【計画】に伴う『利益』は減る〕と、推測いたします」
「・・・・±・」
「聖賢の御方様がお立てになった【計画】は、善良な者たちに幸福をもたらし。
荒くれ者な冒険者たちに名誉を与え、まっとうな領主たちはチャンスを得るでしょう。
しかし聡い者たちは警戒して、それらの『財貨』を受け取らない。受け取っても、素直に活用しないでしょう」
例えばの話をしよう。迷宮・魔境の最前線で『治療手段』が皆無のところに、傷病を癒やしてくれる『人物』が現れたなら。患者はその『人物』にすがり、『聖者』と崇めるかもしれない。
たとえ、その『聖者』が人を撲殺できる、人外の心身を持っていても・・・だ。
しかし、ある程度の平穏な生活を送っている者たちにとって。そんな『人物』は『異分子・脅威』でしかなく。
〔治療をしてやるから、並んで待て〕と、言われても。〔何かよからぬ、たくらみがあるのではないか〕と、警戒してしまう。
ましてやその『人物・所属組織』が〔今まで崇拝してきた『神殿』を滅ぼした〕と、なればなおさらであり。
「せっかく【計画】したのに、運んだ『物』を受け取ってくれない・・・ということになれば。事実上、広報戦で神殿に敗北するのと同義だね」
「無論、危機的状況になれば受け取りはするでしょうけど。その状況では『不測の事態』が起きるリスクも跳ね上がります」
そもそも“危機的状況”を防ぐため、サヘルたちは【計画】に協力したのだ。
“それ”が起こってから【計画】を実行しても意味がない。
そんな風に聖賢の御方様を説得しつつ、サヘルの心情は〔薄氷の上を渡る〕気持ちだった。サヘルの言ったことは正論には違いない。
だがその内容は〔戦闘と癒やしの『魔術能力』を併せ持つ。戦い続けたC.V.様が、弱い男に『誘惑・求愛』するのは不気味だ〕と、いうようにC.V.様が解釈・意訳してしまうリスクがあり。
錬金光術使いなど、100回殺してもおつりが来る。主君の『逆鱗』にふれてしまう。
そんな内心の恐怖を押し隠しながら。サヘルは聖賢の御方様への説得を続け。
「有意義な『コイントス』だった。『魔術能力』に表裏を求める、ボクたちにとって、サヘル君との会話はためになるよ」
「おありがとうございますっ!!」
何とかサヘルは命を拾った。そして感触として〔神殿と仲良しになろう〕と、まではいかないが。“盗賊ギルド”と同じあつかいで〔光神殿に関わるモノは、全て滅ぼす〕と、いう選択はなくなったような気がする。
そんな風に胸をなで下ろすサヘルに、イリス様はにこやかに告げた。
「ところでサヘル君は、よく『コイントス』の内容を知っていたね^・^
ボクは一言も〔継続して神殿を攻撃するか、否か〕なんて質問をしてないけど」
「・・^・;ー~・:ー・」
一瞬で血の気が引いた。
「まあメイドさんの服に浮かれて、ボクがどっかで口を滑らせたかもしれないし。
地獄耳なサヘル君が、それを耳にしたのかな~^ー?」
そんな恐ろしいコトは万に一つもなく。もしあったとしたら、手段を選ばずサヘルは己の記憶の抹消している。
「まあ誰にでも間違いはあるし。
以前から言ってたけど。サヘル君には護衛を務める、戦闘力があるC.V.や。社会的立場があって、外交ができる(ハーレム)メンバーが必要だよね」
マリーデ、ルサーナ、エレイラたちの戦闘力など、イリス様にとっては『護身術』以下の『手習い』でしかなく。
サヘルの目から見ても、彼女たちの人脈は限定的だ。エレイラならば、人脈を広げる礼法・財力を持てるだろうけど。盗品をあつかう“故買屋”を憎む感情を優先するため、“略奪上等”な連中とは接触させられない。
「扇奈には話を通しておくから。
サヘル君は人員を受け入れる準備をしておいてね」
「かしこまりました・・・+;・;」
「そうだ!お祝いに『認識変動』で、何人か技能の底上げをしよう。
『ライターライト』専属の人員と・・・・・・」
サヘルの手が届かないところで、事態が押し進められていく。それを意識の表層で認識しつつ、サヘルは心の奥底で考えた。
〔イリス様が本気で神殿を潰す予定だったなら。ウァーテル陥落の際と同様に、数日で本神殿を掌握していたのでは?〕・・・・・と。
昔の日本は〔『獣肉』を食べるのは、忌まわしいこと〕と、されていたとのこと。
しかし現代人の我々が、安直に〔迷信深い、愚かな事だ〕と、“侮蔑”するのはどうかと愚考します。
我々は知識を仕入れて〔『獣肉』は、速やかに血抜きしないと、臭くなる〕と、いうことを知っていますが。昔の人々が、その『知識』を学ぶ機会があったのか?
『知識』があったとして、それを活かす『道具・環境』を得られていたのか?私ははなはだ疑問だと思うのです。
ファンタジーなら『獣』を解体することは、マホウのようにできますが。昔だと『獣』を解体する『刃物』は貴重であり。さらに『イノシシ』の巨体を吊るして運ぶ、『縄』を用意するのも難しい。
そもそも現代の狩猟は〔『銃』で急所を撃ち抜けば、『猪・鹿・熊』の巨体を一撃でしとめられる〕わけですが。
昔の『火縄銃』の命中率・貫通力で、『獣』の巨体を一撃で仕留めるのは困難であり。これが『弓矢』『槍』を使うとなれば、さらに『獲物』を仕留めるのに時間がかかり。
美味しい『獣肉』を用意するのは、不可能に近い。『臭くて不気味な妖怪の肉?』しか得られなかったと愚考します。
さらに“生臭坊主”が戒律をふりかざし。
『獣』を狩る力がない『武士』以上の階級が、身分の低い狩人の『名声』に嫉妬する。
“身分の低い狩人ごときが『山の神』を倒す。そんな武力を持つなどけしからん。秩序が乱れる”と、いう類のことをのたまい。
そういう連中が〔獣肉を食べるのは、忌まわしいこと〕と、いう“迷信”を守った。そんな妄想をしていますが。信用できる『資料』がない以上、これらは“誹謗中傷”に等しいハナシですので。
〔昔は色々と文化・事情があったんだな~〕と、ぐらいに考えてくださるよう、お願い申し上げます。