閑話~歓楽の街~ライターライト::
〔大国の脅威に対し、小国が同盟を結んで対抗する〕と、いうのは歴史において、よくある定番の『外交』と言えます。
しかし我々、現代人のイメージする『連合』と、戦乱の時代における『連合』は異なっている。
現代人なら〔大勢力に滅ぼされたくなければ、小勢力は『連合』するしかない。そうして『連合軍』で大国に抗うしかない〕と、考えます。
ですが、実際にそんなことができたなら。大国の侵略に対し、小国家群による『連合軍』はもう少し対抗できたはず。たった一代の英傑が率いる軍によって、複数の国・同盟軍が敗れることはなかった。敗れるにしても、1回ぐらい大国の攻勢をはねのけても良いと思うのですが。
歴史を読むかぎり。たいていの連合軍は、勢いに乗った大国に敗れ去っている。落ち目の帝国に反乱を起こし、滅ぼすことは可能でも。
〔連合軍は『侵略』の勢いを止められないのでは?〕と、愚考します。
『商人』、それは歴史上で“卑しい者”あつかいされた職業の一つだ。
“右から左に、品物を動かすだけで儲ける”“暴利を貪る、金貸しと変わらん”“戦場に出ることなく、土にまみれることもない”等々。
“無知・偏見”によって『商人』を下に見る。そんな愚かな事をやって、財政難に陥り、補給を途絶えさせる。最低限の『富』すら環流せず、貧困・飢餓に苛まれる“生き地獄”を引き起こす。そんな連中は枚挙に暇がない
「つまり?」
「聖賢の御方様が支配なされる、『流通・交流』の場である都市ウァーテルにおいて。商売を侮る“愚行”は許されない。だから配下の末席を汚す者として、『ちょっとした術式』を開発しよう・・・という話だ」
都市ウァーテルの一画、娼館の『隠し部屋』の中で、下級シャドウのサヘルは、C.V.ルサーナと『魔術陣』の研究・構築をしていた。
『淡く瞬く、妖精の筆』 『多色の交わりにして、不変の影色』
『小さき箱にて、流転は遊び』 『広大なる図書に、静かを刻む』
『『知識の光は、陰影と連なる 筆者光術!』』
サヘルの『イメージ』を、ルサーナが『神秘ではない魔術』へと変換する。虹属性C.V.の『地水火風と闇』を内包する魔力に、錬金光術を使うサヘルが『光属性』を追加し。
娼館の『隠し部屋』に、『ライターライトの結界』が展開した。
「・・・大丈夫ですね。『ライターライト』は問題なく発動しました」
「よし。それじゃあ早速、試してみよう」
そう告げてサヘルはペン・インクと紙を用意し、速記で適当な文章を書いていく。
『ライターライト:紙とインクに光術付与を行い。誤字を消し、文章を書き直せる結界部屋を作る。
文盲(文盲)の者には、文字を覚えるまで練習できるように。学ぶ者には、習熟の機会をもたらし。書物の書き手には、熟考の書斎を提供しよう』
そうしてインクで記した術式の内容を、一瞬で消去したり。一応まだ機密の『光術付与』『結界部屋』だけを消し、その部分から『紙の材質変化』を解析したり。
華やか?な『錬金光術』とは異なる、実験データの資料を作成し続け。
「・・・そろそろ、お時間ですサヘル」
「もう、こんな時間か。それなら最後に『灼き付け』のチェックをするぞ」
そう告げてから、サヘルは『食事の献立』が記された『紙』を、『隠し部屋』から持ち出し。
「行きます・・ー・『ワンダーヴェノム!』」
ルサーナの『魔術能力』によって、『酸・溶解液』が、小さな『触手』の形を取り。『紙』の文字を消すべく、複数の触手を伸ばしたものの。
「・・・よし!」
「おめでとうございます、サヘル」
『ライターライト』を発動した『隠し部屋の中』では、たやすく消されていた『文字』が魔力の光を帯び。ルサーナが操る『(紙ごと)インク消し』を、はじいて輝き続けた。
〔床を溶かさないでください!〕と、娼館の上級娼婦たちから、こってりしぼられた。
物理法則を無視できない。物理的に難しいことは、『魔術』でも困難になってしまう。不自由で面倒くさい『この世界』において。
紙・インクに筆に至るまで、『無料』などということはなく。貧しい者は地面を紙代わりにする。水で変色する石盤・お盆に砂を敷きつめるなど、『代用黒板?』で字の練習を行っており。
加えて『誤字』が皆無で、文章の練り直しをする必要が無く。一筆で完全?な『書類・書物』を記せる賢者など、サヘルはお目にかかったことはない。
そして“略奪上等の山賊予備軍”な諸勢力の中心に位置する、混成都市ウァーテルに居住し、禄を食むサヘルとしては。
〔誰にでも間違いはある。詩人のように、推敲するのが大事だ〕と、いうように歓楽街の『存亡』に関して、悠長なことを言ってるヒマもない。
バカ領主が失政をやらかし、難民が出れば。都市ウァーテルに負担が押しつけられ。スラムは広がり、治安が悪化してしまう。
〔ウァーテルは善政がしかれ、食うに困らない。ちょっと“魔女”が怖いのを我慢すればいい〕
こういう“安直な話”を信じて、やって来る人々の面倒を見る、余裕などあるはずなく。
〔彼らには生まれ育った地域で、暮らしてもらいたい〕と、いうのがシャD・・サヘルの都合だ。
『ライターライト』が完成する、数日前。サヘルと火属性C.V.のエレイラは、茶を楽しみつつも、考察を行っていた。
〔都市が大きくなれば、スラムができる。都市が大きくなるうえで、それはやむを得ないことなのでは?〕
〔エレイラの言うとおり。スラムが出来上がるのは、都市が大きくなる際の確定事項かもしれない。
だが、それは穏便に言って、“都市の洗礼”を受けた。はっきり言えば“性悪商人の餌食にされ、進退窮まった”という面がある〕
かつて『商人』は“卑しい職業”としてさげすまれた。その原因は〔人々の無知・偏見によるもの〕と、いう意見にサヘルもほぼ同意するが。
〔悪辣・未熟な商人が、【信用】を切り売りした〕と、いうのも商人の評判を悪くした原因だと、サヘルは考えている。
ある程度までなら〔安く仕入れ、高く売る〕と、いう『商売の基本』を悪し様に言う気はないが。
“『契約』に疎い者を罠にはめる。算術ができない者を、餌食にする”と、いうのはダメだ。
〔『投資・掛け金』などで、“詐欺”を行うのですか?〕
〔そんな金持ちを相手にした“詐欺”ではなく・・・“計算ミス”を装って、カネをむしり取る。
最低限の計算しかできない者が、カウントできない速さで計算するなどして、“空手形”を売りつける。これを“賊”まがいの“自称商人”が、やらかしていたらしい〕
〔・・・・・最低ですわね。「算術に疎い狩猟民族に対し、そういう“強盗詐欺”をしていた」と、いう史料を読んだ事はありますが・・・(今も、都会で“ソレ”が続いていると)〕
魔術文明を持つC.V.にとって、読み書き計算は『標準装備』の知識であり。“契約を破る・詐欺を行う者=戦場で信用できないモノ”と、して制裁の対象となる。
そのため商人系?のC.V.エレイラは、人間の経済について学んでいるものの。“悪辣商家”の非道っぷりなど、想像の埒外であり。
“盗品売買を行う故買屋”を憎む、エレイラにとっては〔“新種の暴行亜人”を見つけた〕と、いう心情なのだろう。
〔そういうわけで、オレはルサーナと一緒に『結界部屋でのみ、インクの文字を修正できる術式』の構築に取りかかる。そうして『識字率』をあげてから・・・
その間、商売のほうはエレイラに頼みたい〕
〔承知しましたわ、サヘル様。財政の重要性は認識できても、文盲・未熟な算術に『危機感』をいだいてない。(未熟な算術が、確実に“間接的な死”をもたらす、という危機感が足りない)
私では『インク文字を書きなおす』術式を、開発する願望に欠けるでしょう〕
〔・・・:・〕
エレイラの怜悧な美貌に、陰がさす。
その陰を払拭するべく、サヘルは説明をつくし。『遊戯盤』に興じ、夕食を共にしてから、秘蔵のコレクションを徹夜で眺め。
〔『次の術式・商い』は、必ずエレイラと協同で行う〕と、いう約束を交わすことに、相成った。
ネタバレ説明:『筆者光術』について
本来は消せないインクを、消せるようにする。それを可能とする『結界部屋』を構築する『術式』であり。同時に『結界部屋』から出した書類・インクの文字を、『光術付与』によって保護する効果もあります。
複数の『術理』によって、既存のインク文字を消してしまう。書類・書物や手紙を『白紙化』する、『イレースノート』とは異なり。
〔文字を練習しよう〕〔誤字を修正しながら、書物を記せる〕と、いう創作活動を目的とした『術式』であり。
『既に書かれた契約書を、結界部屋に持ち込み、サインを消す』と、いうような『白紙化』は行えず。
1)あくまで『結界部屋』で書いたインク文字のみ、消して修正できる。
2)『結界部屋』から出た・書類は『光術付与(プチ錬成)』によって保護される。
3)一度『結界部屋』から出た書類は、再度持ち込んでも、その『インク文字』は消せない。
『結界部屋でのみ使える』『結界部屋の外で記された、書物のインクは消せない』『結界部屋から、一度でも出た書物・インクも修正できない』と、いう制限を課すことにより。
『イレースノート』のように、『手紙を白紙化』する。そういう『書の抹消』に使えないのが、『ライターライト』の『術式』です。
なおこの世界の『魔力』には、意思のようなものがあり。『印刷』『歯車』『蒸気機関』などの、文明を飛躍的に発展させる『モノ』を腐食させてしまう。文明を停滞させる、『霧状怪物』が世界中にいるのも同然であり。
『ライターライト』を編みだし、〔文字修正を行うのも一苦労〕という有様です。
大国の侵略が、連合軍を圧倒できる。その理由は大国の強さもありますが。
控えめに言って、『連合』している各国の王・諸将が情報弱者だから。はっきり言えば〔『忍者・密偵』の重要性がわかっていない〕と、言うレベルの愚王・凡将だらけであり。
せっかく『連合軍』を結成しても、“戦後の利権争い”をやっているならマシなほう。手柄争いに不毛な軍議をくり返し。略奪・暴行のタイミングをうかがい、『兵糧・軍資金』を他国からせびるのに忙しい。
〔『連合軍』の盟主は、『名家』の血統たるわしがふさわしい〕
〔名ばかり名家は黙っていろ。『戦』に強い我が指揮をとるべきだ〕
〔誰が『補給』をしていると、思っているんだ〕
〔盟主を名乗るなら、『恩賞』を出してもらおう〕
こんな感じに、様々な面で争いあい。この状態に敵の大国が『離間工作』を行ってくる。
さらに家臣・部下からは〔弱腰では困る。恩賞(+略奪)をくれるのか〕と、いう突き上げが行われ。
この状況で、『連合軍』をまとめられる『将』など、歴史上に何人いるでしょう?
世界史を見渡しても、数人しかいないと愚考します。
そして『第一次織田信長包囲網』において、本願寺顕如は『包囲網』をまとめたのでしょうけど。二番煎じは通じなかった。『第一次包囲網』で『恩賞・領地』を得られず、“略奪・暴行”の旨みも少なく。
あるいは権力を握った一向宗の『坊官』が堕落してしまい。
「仏敵を討たねば、地獄に落ちるぞ!」
「オマエみたいな生臭坊主が言っても、説得力はねぇ!!」と、いうようなやり取りが行われ。
〔その後の『包囲網』は破綻したのかなぁ~〕と、妄想します。