閑話~グローリーゲーム::
戦国の覇王『織田信長』は、戦国大名たちに包囲され、たびたび危機に陥りました。
その原因は、信長と不仲になった『足利義昭』が、各地の大名に『檄文』を送ったから。
〔信長を討つべし〕という、書状を送ったからと、言われていますが。
名ばかり『将軍』の、紙切れ一枚で『織田信長』に攻撃を仕掛ける。お家の存亡を左右する戦いを、戦国大名が行う。
そんなことが可能なら、そもそも戦国時代になっていない。『室町幕府の将軍』の命令で、“応仁の乱”をはじめとする、略奪暴行の乱行は抑えられたでしょう。
私は本願寺、一向宗の『顕如』こそが、包囲網の立役者だと推測します。
〔情報を制する者は、戦も制する〕と、いう言葉は誰のセリフか?
今でこそ『軍学書』における定番の内容だが。聖賢イリスの一族であり、副官を務めるC.V.イセリナ・ルベイリーの意見は少々、異なっている。
〔物品に『時価・相場』があり。戦に『戦機』あり。人に『格付け・信用』があるように。
『情報』にも『相場・時機』があり。それを用いる者には、相応の力が求められる〕と、いうものだ。
要するに支部の『情報網』を使い、“神殿”が好き放題をやらかすことが可能だったのは。『国境・領境』を越えて機能する、同様の『情報網』が存在しなかった。
貴族・各種ギルドや商人たちが、目先の利益に執心し。小規模な『情報網』しか構築できなかった。神殿の『情報網』が一人勝ちだったから、“好き放題”が可能だったわけであり。
一見、国境を越えていると誤認されている、他国を探る『情報網』は、高コストの『密偵』を送っているに過ぎず。首都など、一部の要衝を除き〔ザルに等しい〕と、イセリナは言いたい。
それに対し神殿は〔信仰のため・心をケアするため〕と、いう『教義・建前?』をふりかざし。『巡礼・神学の探究』などの影に隠れ、各地の神殿支部によって集められた『情報』を、本神殿だけが統合できた。
〔神殿だけが『国境・領境』を越えて、情報収集・分析が可能だった〕と、いうだけの話であり。
聖賢の担い手たる姉上が動きだした以上〔神殿の『情報網』は速やかに寸断し、破壊すべき〕と、イセリナは考える。
本来、相容れないはずの“盗賊・密偵組織”を、各国の勢力図を越えて連合させた。その原動力となった“光神教団”の『情報網』は、イセリナからすれば“寄生虫”の耳目に等しく。
身内の『信徒』に犠牲を強いて、食い潰す。その“教義・狂信”が、かけがえのない家族・友人に向けられるまで、座視していられるほどイセリナは寛容ではない。
〔奴等には、ここで必ず引導を渡す。そのためなら私hぁ、#`!?〕
「こ~らっ!イセリナ。怖い顔して、目尻にしわができているよ」
「姉上・・私の思考と『瞳』を読むのは、おやめください」
姉上がイセリナの頬を引っ張り、首に腕を回してくる。都市ウァーテルの権力者にあるまじき姿だが、イセリナにとってはかけがえのない時間であり。
他の姉妹C.V.と、この時間を共有するためにも。“盗賊ギルド”と“黒幕”には、永続的にこの世から退場してもらわねばならない。
「心配しなくても『グローリーゲーム』は、“光神教団”の敗北を確定させた。あとはもう『詰み』の段階だよ」
「ですが・・・」
「イセリナも知っているでしょう。『グローリーゲーム』はボクにとって、『アルゴス』と同格の『魔導能力』だよ。
まともに『戦い』を経験している連中なら、ともかく・・『情報網・神聖術』の二つに依存して、横暴の限りを尽くしてきた。【彼ら・彼女たち】を、利権を脅かす『魔女』として嬲り殺しにしてきた、連中なんだから。
そろそろ惨めな終わりを、迎えてもいい頃だと思うんだよ」
そう告げる聖賢イリス・レーベロアの瞳孔は、開ききっており。明るい姉の気配に代わって、『最悪の凶戦士』と言われる、『本業』の思考が見え隠れしていた。
それに比べれば、イセリナの怒りなど〔愛玩犬が甲高く鳴いている〕に等しく。
そう考えたとたんに、都市ウァーテルの文官トップは冷静さを取り戻して。
「お任せください、姉上様。
7級光属性C.V.のイセリナ・ルベイリーの名にかけて、“光神教団”にはふさわしい最期を迎えさせます」
「・・・,・おっと、ゴメン。
いくら邪魔者でも、“賊”みたいに“神官”たちを斬り捨てるわけにはいかないからね」
主君であるイリス・レーベロア様をいさめる、家臣の言動をイセリナは行い。姉上を正気に戻しつつ、確認を行う。
「承知しております・・・ですが本当に『準備された光術』だけで、よろしいのですか?
お命じ下されば、『魔導王の黄金』を、再び発動いたしますが」
『シャインマテリアル』は、状況に合わせた『光属性の術式』を急造する、『魔術能力』にすぎず。〔しかるべき手順を踏めば、人間の術者でも模倣して、対抗策を練れる〕と、イセリナは分析している。
同じ『魔導能力』でも、『ソロモンゴールド』と比べ、『シャインマテリアル』の格はだいぶ落ちるのだが。
「大丈夫だよ、イセリナ。
適材適所!今回は『シャインマテリアル』が、神官たちを破滅させる。本神殿に不様をさらさせるには、『アレ』がいいんだよ」
「姉上が、そう仰るなら・・・『ソロモンゴールド』の休眠を続けさせて、いただきます」
こうして姉妹の時間はすぎていき。
神殿の落日は、確実に迫っていた。
〔堕天のヴァルキリー、イリスとその一党を今こそ討ち取れ!!!〕
光神教団の本拠地ルシスリア。その最高権力者である大聖神官は、『聖戦』の呼びかけを各地の貴族たちに発し。
〔堕天の者によって、聖地は大きく汚されたとか。今は戦力の立て直しを、優先すべきかと〕
〔小数で『都』を落とす、“堕天の者”に対抗する術を見出さなければ!〕
〔我が町も『都市ウァーテル(+ルシスリア)』の二の舞にならないよう、防備を固める必要がある!〕
そういうもっともらしい言い訳で、『聖戦』への参加を拒む貴族は、まだマシなほうであり。
〔我が一族に仇を為した、“賊”を討ち取った勇者に対し、聖戦などっ・・・〕
〔我が領は、不作でして・・・今回の参陣は難しいかと〕
〔もう少し通達が早ければよかったのですが・・・先代当主が『不戦の約定』をウァーテルと勝手に結んでしまいまして・・・(当代の私が『約定』を破っては、信用にかかわります)〕
〔・・・・・ふざけるな、不信心者がぁー~-!〕
こんな返答に、神殿の使者たちは〔激情のままに怒鳴りつけ、説教をしたい〕と、いう誘惑にかられる。
神殿の大恩より、“堕天ヴァルキリー”の暴虐を勲と讃え。餓死者どころか、身売りすら出ない状況を〔不作に苦しんでいる〕と、のたまう領主がいる。
あげく『先代との約定』は、代替わりを理由に“破るモノ”であり。
そもそも急襲でウァーテルを陥落させたばかりの時は、イリスたちこそ“賊”あつかいされていた。そんな時期に〔先代が条約を結んだ〕などと、いうことが本当にあったのかも怪しい。
しかし神殿の使者としては、こんな不信心者たちにかまっている場合ではない、事態が発生しており。
〔神官殿が説かれる『説法』こそが、『神の福音』だったのですが・・・〕
〔下級貴族の『うわさ話』のほうが、早くて有益などと・・・・・〕
〔これからは俗世にかかわることなく、信仰の道を歩まれるとよろしい〕
少なくない有力貴族が神殿の使いに対し、こんな態度を取っている。由々しき未曾有の事態であり。一刻も早く、大聖神官様にご報告しなければならない。
「ご報告、いたします!!!」「一大事でございますっ!!」
「緊急だ・・キサマたちは後に`・・」
そうして帰還した神官を迎えたのは、焦燥感のにじんだ声音が反響する神殿だった。
『精神干渉』と『催眠術』は、似て異なる者だとイリスは思っている。
『精神干渉』は、術者の意のままに『精神を誘導』できるのに対し。
『催眠術』系統の『魔術能力』は、『欲望』を増大させることで、『精神抵抗』を弱める。〔『精神抵抗』をする必要が無い〕と、被術者の『意識』に誤認させる。
そうすることで、ようやく他者の心に軽く『干渉』を行う事が可能となるわけで。
〔不当に『情報』を奪った被術者から、『精神干渉』で『情報』を奪い取ってしまう。
イセリナの『魔導王の黄金』に比べ、ボクの『グローリーゲーム』は強制力が弱いんだよね~〕
そうつぶやきつつ、イリスは“使い魔”たちに『魔力信号』を送り、広報戦を仕掛けていく。『吸血鬼人』が、『吸血した人間』を操るように。
〔有益な情報を知りたい・話したい〕と、いう欲望にとらわれたロゴニア子爵家の派閥に、『情報』を脳裏へ送信してやり。
『栄光の宴にして、愚弄する盤上よ
名誉は斜陽の刻限に薪と成り 名声は夜の宴と共に、酒精と消える
されど虚栄は戯れに駒を進め
悪辣なる遊興は、知識を玩弄の檻へと貶める
グローリーゲーム`!!^』
イリスの『呪力』が、プライドが高く信仰厚き“神官サマ”の『名声(言霊)』を、『魔力』へと変換していく。
それは〔古い情報を忘れたい〕と、いう人々の『欲望・本音』を刺激していき。
〔大聖神官の次は・・・どの名前を忘却させようかな~〕
『愚弄する遊戯盤』の悪意を、神殿の結界へと浸透させていく。老若男女どころか、善人・悪人の区別いっさいなく。
“生贄たち”を忘却どころか認識すらしない。そんな神官・信者たちの『記憶』を『魔力』へと変換していき。やがてそれらを『残留魔力』と同様に霧散させていった。
ネタバレ説明:『グローリーゲーム』について
『言霊・呪文』には『魔力』が宿っており。『言の葉』で伝えられる『名誉・伝統』は、権力者に富や権威をもたらす、重要な要素です。
イリスの『グローリーゲーム』は、そういう『名声』↔『魔力』の変換を行い、両方に干渉を行う。その時期・状況にあわせ『名声』↔『魔力』の変換を行う、独自ルールの遊戯盤を、広域に展開する『魔導能力』であり。
悪徳の都ウァーテルを陥落させた際も〔“盗賊ギルド”を小数で退けた〕と、いう類の余計な『名声・武勇』が広まらないよう。貴族・民衆に〔イリスたちは脅威だ〕と、認識されないよう干渉を行ったり。
加えて逃げた“盗賊”たちの『悪名』を矮小化することで、チンピラが集まらないようにしたり。
本来は『都市』の範囲でしか作用しない、イセリナの『ソロモンゴールド』を周辺勢力へと、範囲拡大を行っていたりと。
神殿から〔オマエにだけは、言われたくない!〕と、いうレベルで“やりたい放題”を『グローリーゲーム』は行っていました。
一応、『百眼巨人』由来の『魔導能力』であり。
〔『女王神ヘラ』の配下であるのに、『アルゴス』には勇ましい『神話』がなく。『海竜母神』のように怪物を産んだ、『女怪エキドナ』を退治した神話もマイナーという有様で〕
〔『伝令神ヘルメス』に首を斬られ。死後は忠孝を讃えられることなく。『眼球』は孔雀の羽根を彩るのに、使われてしまった〕
『名声』とか以前の問題で。『尊厳』すら怪しい、『アルゴス』の神話に作為を感じたイリスが〔名誉・評判が不当にコントロールされているのでは?〕と、神話を認識してしまい。
〔“流言・陰口”や“洗脳”で、他者を貶める“連中”に反撃しよう。他者の生き血をすする“連中”を、惨めに破滅させたい〕と、いう願望によって『グローリーゲーム』は編み出されました。
なおイリスは〔『ソロモンゴールド』のほうが強力だよ〕と、いう“戯言”を述べていますが。
そもそも『ソロモンゴールド』の原典は、『グローリーゲーム』であり。他の妹分C.V.たちに『精神干渉』の『魔術能力』を会得させる、魔導書に『グローリーゲーム』はなっています。
『催眠術』の制限があるのは、様々なルール変更が行われる『理不尽チート』を使いやすくするためであり。
〔名声欲しさに闇討ちしてくる、“武芸者の名”を抹消するための能力なんだけど〕
〔“盗賊ギルド”の面子も、抹消なさいましたね・~・・〕
〔私としては余計な争いを避けられて、ありがたいかぎりです〕
〔とりあえず『無詠唱』で『グローリーゲーム』を発動するのは、ご容赦ください(普通に怖いですから)〕
『アルゴス』系の『魔導能力』が、局地戦の勝敗を左右する『戦術能力』とするなら。『グローリーゲーム』は戦争の勝敗すら左右しかねない、戦略級の『魔導広報』であり。
戦後にまともなつきあいをする『者・勢力』には、使用を控えるべき『大魔導』です。
以上、『グローリーゲーム』のネタバレ説明でした。
古代中国の『秦』・ヨーロッパの『ナポレオン』に対する包囲網は、『外交官』が同盟を結ぶよう。各地の国王へ交渉を行いました。
しかし『足利義昭』に、そんな『外交』をできる配下がいたでしょうか?仮にいたとしても『明智光秀』のように、『織田信長』に取り込まれていた。『信長』や織田家家臣がマヌケでなければ、『足利義昭』を監視していたはずですから。使者を務められる、名のある武将は動けず。
〔それじゃあ『忍者』や身分の低い『武士』を、『使者』として送ろう〕と、いうのは無理があります。『檄文』とはいえ、『尊い将軍家』の書いた書状であり。使者にも、それなりの『格』が求められる。
〔お家の存亡をかけて、『織田信長』と戦え〕と、記しているに等しい書状を、安物の紙に書けないように。それを運ぶ使者にも、相応の『格』が求められます。
監視の目をかいくぐって、『檄文』を運ぶ実力があり。最低限の身分がある者でないと、『包囲網』への参加をうながす書状は運べない。
この二つの条件を満たすとなると。
各地で一向一揆を起こしたり。一向宗の拠点を、行き来する『坊主』を従えていた。寺の坊さんという、『権威』のある者を通じて、書状を大名に渡せる。
『本願寺』の連絡網なくして、『信長包囲網』は形成されなかったと愚考します。