31.アビスドライブ 表と裏
『魔女』あるいは『魔術師』。彼らは聖職者全般から、忌まわしい『魔物』と同レベルの存在と見られています。その理由は大半が“差別”や“偏見”であり。“狂信・生臭い欲望”を満たすためというのがほとんどでしょう。
とはいえ『魔女・魔術師』を攻撃する正当な理由が、皆無というわけではありません。
その理由とは『精神干渉・記憶操作』の魔術がある場合です。自らの信仰が“邪法”によって歪められかねない。聖職者にとって、その可能性があるだけで万死に値するでしょう。
そのため明らかに不公平な商取引を『魔術師』がしたり。捨て駒を瞬時にいくらでも用意する『異能』を、神官は邪悪の権化と認定します。
自分たちの所業は都合良く、記憶の彼方に抹消しているようですけど。
『アミュレットダガー』
そう告げて小娘剣士が魔術の光を帯びた『短剣』を構える。その短剣は闇属性の『攻撃魔術』を遮り受け止め。そうして持ち主の手を離れ、宙に舞った。
「ほほう。なかなかやりおるわ」
それを見た『邪術師』の隊長ロドネルは称賛の言葉をつぶやく。
ダガーに『魔術』をかけて護符と化したのか。必殺の『攻撃魔術』をしのいだ、その技量はたいしたものだと言える。少なくとも悪徳都市にはびこっている、強盗共には不可能な芸当だ。
部下の邪術師たちにしても、何人が『魔術』を防げることやら。魔術『抵抗』はできるだろうが、蛮族と同レベルに体力を削られるのを防いだとは言わない。
さすがはカオスヴァルキリー。混沌に沈んだ『戦乙女』を名乗るだけある。
「だがそれゆえに惜しい。自らの能力を過信し、浪費しようとしておる」
『キャプチャーヴェノム』
『フォトンコート・・・・・リリース』
今度は軽鎧に光の装甲をまとわせる。そうして大きく広がった『魔術の網』に捕らわれる瞬間を、飛散させた『魔術装甲』を身代わりに離脱した。
それらはロドネルたちの知らない魔術であり。神官や賢者気取りの“愚か者”どもが使えるはずもない。カオスヴァルキリー独自の『魔術』だった。
その知識はまさに『秘宝』と言ってよく。真に『魔導』を究める自分たちこそ、得るべき『魔導書』だ。愚かなゴロツキどもの“慰み・はした金”にしてよいモノではない。
邪術師の総力をあげて刻み、シルし魂の一片まで貪りつくす。そんな『知恵の果実』をもぎとるべく、邪術師は掌中の魔力を伸ばしていく。今度は『網』などという“世俗の道具”を模倣したモノではない。
闇の回廊を構築し、地獄の檻に捕らえる『大魔法』だ。光属性のカオスヴァルキリーが逃れられる『魔術』ではない。
「発動せよ『アビスドライブ!!』」『『『・:-アビスドライブ』』』
精鋭の配下・弟子たちのロドネルに続いて唱和する。それによって政庁に続く道に充満していた『闇の魔力』は誘導され、破壊の経路を進み走った。
『アミュレットダガー』(アルゴスゴールド 照準干渉)
イリスは数打ちのダガーに『発光術式』をかける。同時に闇属性?の『魔術』が狙う対象を、そのダガーに書き換え。
イリス自身は余裕を持っての回避を行う。
〔失敗っと〕
しかしソーサラーの『攻撃魔術』に対する、イリスの『干渉能力』は低下していた。『魔力』の濁流と言うべきもの。人間ソーサラーたちが言うところの『闇属性?』の魔力が、向かい風となってイリスに吹き付けてくる。それは明らかにイリスの『干渉能力』を遅滞させていた。
〔時間をかければなんとかなる〕などという“楽観”は実戦において破滅に等しい。よってイリスは『アルゴスゴールド』の使用を断念して。
ダガーが攻撃魔術をうけた瞬間に、トカゲの尻尾よろしく投擲・身代わりにする。同時にダガーの破損を『解析』して、闇の『魔術』を唱える連中の程度を再確認した。
『キャプチャーウェノム』
「『フォトンコート・・・・・リリース』〔いくら何でも、こんな戯言信じないよね〕」
そんなことをイリスは考えつつ。ソーサラーたちが人間・知恵者の意地をみせることを期待した。
イリスは『アルゴスアイズ』による『感覚』の加速・情報の精査を並列で行いつつ、周囲の状況をも把握する。
片手間に組んだ〇ャストオフもどきの『光片』が、魔術の網にひっかかった。それを見て勝利を確信し、表情を歪める者がおり。こちらを睥睨している老人は、この状況で自分たちの優勢を信じて疑っていない。
「発動せよ『アビスドライブ!!』」『『『・:-アビスドライブ』』』
そしてここが勝負時と確信したのだろう。『魔力』を高め、集団の力をかき集めた中の下『魔術』を発動してくる。
これが『ブラフ』だとしたら、〔ヒトのソーサラーも大した役者だ〕と褒め讃えてもいい。一応のヴァルキリーとして、イリスも〔強者は魅力的だ〕と考える文化圏で育ったのだ。
“愚かな一騎掛け”をしてみせている。能力は手抜きで“傲慢”なウァーテル侵略を行っている。
そんな自分の足元をすくう人材は大歓迎したい。
「扇奈たちの言う通り。これはダメだね」
まあその期待は、かなえられそうも無いようだが。
そんな魔術の世界で『魔術師』と『聖職者』が仮初でも信頼関係を築く。そんなことがあれば極めて稀な奇跡と言える。
うっかり宝石商が英雄殺しのカードをひいてしまうくらいに、『奇跡』と言えると愚考します。




