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30.アルゴスアイズ 2

 『身体強化』の魔術。それは『英雄・勇者』の標準技能でしょう。


 『英雄』を称えるのは大衆であり。民にとって健康な体こそ、日々の糧を得るのに必須なもの。そのため健康な肉体を、十全に活かし強くする『強化魔術』は彼らの憧れであり。


 それこそ民衆が〔自分も使える可能性がある〕と夢を抱き、憧れる『術理』ではないでしょうか。

 『攻撃魔術』とは恐ろしいものだ。戦闘領域の中ならほぼ『必中』などという、飛び道具はチートもいいところであり。加えて初見で未知の『魔術』はイコール“恐怖”と言っていい。

 〔魔術が呪文の暗記で発動する〕という世界ですら、敵の魔術は未知であり驚きをもたらす。その『驚き』は敵にストレスを与え、“恐怖の火”を増大させる油と化すのだ。


 ならば悪徳都市ウァーテルの政庁を守備する。ソーサラーたちが放つオリジナル『魔術』はどれほどの恐怖をもたらすことか。

 『秘術』の開帳は不本意ではある。だがその威力を目の当たりにすれば、敵味方を問わず思い知ることになるだろう。誰が賢者で『神秘』を行使しているのか。


 ゴロツキや傭兵くずれを撃破してきた『カオスヴァルキリー』を討ち取る。

 その功績は〔『神秘』の行使者が誰なのか〕を知らしめるのに、ちょうどいい戦果だった。


「『アビス・ドライブ』発動!」

 『ダーク・レイ』『シャドウ・ヴェノム』『カース・ジャベリン』


 儀式魔導『アビス・ドライブ』:それは凡俗の唱える魔術を超えた魔導の秘術だ。

 まずは半結界の『指定領域』に、下位魔術を連発し魔力を充満させ。それによって固定型ではない流動する『混沌領域』を形成する。その後に『混沌領域』を一定方向に暴発・移動させて、半結界の内部に『破壊の経路』を作る。


 混沌領域は形成された時点で有害な『魔力』のあふれる結界だが。本命はそれが晴れて平常の空間に戻る時に発生する『揺り戻し』だ。

 周囲の魔力が“有害魔力”を打ち消すべく、急速に集まり弾ける。


 その際、発生する『魔力の嵐』こそが、戦乙女を自称するC.V.魔法戦士を討ち取る『呪い』と化すのだ。あの小娘どもは中立か光よりの属性であり。多少の魔術耐性があっても、防げる『暗黒魔術』ではない。


 「もっとだ。もっと闇の魔術を唱え続けろ〔そしてカオスヴァルキリーとやら。生贄の義務として前奏の魔術で倒れるな〕」


 そんなソーサラーを束ねる長の願いは、今回も成就する。



 『アルゴスよ。瞼を閉じて』


 イリスの求めにより強化された『感覚器』が閉鎖されていく。それに伴い『大量の情報』という炎熱も遮断された。


 だがそれはイコール休眠やアナグマの守りに入ったのではない。

 イリスは現在、戦闘中であり。魔の旋律に侵され、屈したのならともかく。自殺行為の睡眠をとる気はない。

 記憶した大量の『情報』から戦闘に有用なものを取捨選択する。その刹那の間、目をつぶることで『魔術抵抗』を一時的にでも高めようようとしただけであり。

 そもそも全身に無数にあるとイメージした『光術の瞳』は、一律すべて閉じたわけではない。


 弓の弦をひくように。力を溜めるのに必要な身体操作の補助として、順々に閉じられていき。


 『アルゴス。その目を開いて』


 そして再び巨人の眼は開放される。蓄えた力と、誰からも侮られる『発光の魔力』を解き放ち。

 そんな『身体強化』の魔術ですが、魔術師との相性は悪い系統だと思います。軍事・近接戦闘をこなすことが求められた、魔術師・熱血漢は『強化魔術』を会得していますが。それは少数派であり、主流ではない。


 その理由は様々ですが。『神秘』を追い求める魔術師の場合、肉体という現実・枷を見たくないからだと愚考します。『自然界・錬金』などの神秘を観ていたい。三大欲求に縛られた肉体・俗世は超越したい。


 そういう無意識が『強化能力』を魔術師に忌避させるのだと愚考します。

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