魔鏡鳴鍾::
『日本神話』における〔スサノオが八岐大蛇を退治する〕逸話について。
まず一つ断っておきますが、私は『スサノオ』が好きであり。破天荒で戦闘に優れた神格である、『スサノオ』を好ましく思っています。そのため『八岐大蛇』を退治した伝承を、立派な武勲だと断言したい。
ただし〔八岐大蛇を退治する〕伝承には、ある『盲点』があり。それを認識すると、もっと伝承が面白くなると愚考します。
世の中とは不条理です。
武勇に優れている者が、わかりやすい手柄を立てると賞賛され。財政・外交や広報等々、国を治めるため様々なことを行う姫長が〔後ろから命令するだけ〕と、凡夫愚劣に陰口をたたかれる。
かと言って、アヤメたちがこの事を声高に叫べば。凡夫の“妬心”はともかく、若者の向上心を奪いかねない。
〔だったら私だけでも『名声』をコントロールしてみせる。姫長の栄光を、安息を、覚悟を、守るよう立ち回ってみせる!〕
そう考えてアヤメは一つの術式を編みだした。他者の『耳』が、どのように『情報・名声』聞いているのか。『耳』を解析し、『鼓膜の振動』に共鳴して、『体内電流』を感知する。
そうして『一線』を踏み越えた。
〔ソレをやったら『遠見・透視』や『読心』の魔術を乱用しているのと、同じだよ。
魔術で見透かした『者』が、“モノ”に見えてしまう。他者を『記号・素材』と認識してしまう。
“ヒトデナシ”への道へ、まっさかさまに墜ちるだろうね〕
〔ソレは困ります。
でしたら私はイリス様と同じ『H~l-^;o』になりましょう。
『静かな嵐』となって、シャドウの領地を守ってみせます〕
〔・・-・・あの『術式』をモノにすれば、それも可能だろうけど。
あまり賢明な選択とは言えないかな~・-〕
〔イリス様は後悔なさっているのですか?〕
〔・・・愚問だったね。それじゃあ『いいこと』、教えてあげる〕
こうしてアヤメは“バケモノ”と化した。
ロゴニアの夜空に、十数本の『矢』が放たれる。射られた場所は“盗賊ギルド”のアジトであり。半日の間に二度も壊滅させられた、拠点だった場所だ。
いまだ死臭が漂っており。まさか三度目の『襲撃基地』にするとは〔思考の盲点をつかれた〕と、言えなくもないが。
〔まあ「だからどうした」と、いう話だけど〕
『矢』の軌道を読みつつ、アヤメは射線から逃れ。続けて羽矢弥や味方の重騎士へと向かった『矢』を、跳躍して切り捨てる。
「羽月っ!『霊符』を放って・・場所は壊滅させた“賊のアジト”でお願い」
「はいっ、ただ今!!『霊鳥符』」
そして侍女シャドウの羽月に、二重に高価な『呪符』を放たせる。それはロゴニアの町中を飛翔し、様々な注目を集め。
泥酔した者の濁った瞳。窓の隙間からのぞく不安げな視線。様々な住民の感覚が、飛翔する『霊鳥符』へと向けられ。
同時に第三波の攻撃を行う“賊”たちが、安直な情報収集を行ってくる。
『霊鳥符』を目で追う者、『感知術式』を唱える者たちは、アヤメにとって『大声』を上げているに等しく。気配を消している暗殺者モドキは、『呼吸する水分』として察知され。
周囲の魔力に溶け込んでいる『腕利きの刺客』たちは、『基本風術』の突風に反応する。
『強化』と『障害』が荒れ狂い、リズムを奏で。そんなアヤメの『風術』は周囲に同化した、『仮死状態』の刺客を覚醒させてから、浅い眠りに堕とす。
その結果、腕利きの刺客たちは軽くても酩酊状態に陥ってしまい。
『旋風閃!』
「っ!*?」「ガGg:*」「・/-*/-」「おの*`・・!」「;+・*ー」
アヤメの高速機動に、まともに対応できる者はいなかった。ただでさえ『隠行術』は体温を下げるため、『血行』を穏やかにして鎮める。そんな寝ぼけた身体で、『身体強化』の急襲を迎撃できるはずもなく。
「Hyぅ:ー*・ッ!?」
「貴様がこの部隊の指揮官か・・残存兵力はどのくらい?作戦内容は?」
アヤメは最後に残した刺客の喉笛をつかみ、片手で持ち上げる。アヤメの強化した力では持ち上げるのがやっとだが。
「:・誰がイ^;*+ー*」
アヤメの魔力を付与した『空気』は、“賊”の『肺腑』に一切吸われることは無く。空しく胸部を収縮させる者に、アヤメの手を振り払う力はない。それから間を置かず弱々しい痙攣を始め。
『ファントムk;ール`*』
断末魔とともに、『魔術警報』が響き。
先刻の数倍もの『矢』が、夜空へと射出された。さっきと同じように、パーティー会場とその周辺を狙って『魔矢』が放たれ。
先程とは異なり『仕掛け矢』が、町中の命を奪うべく闇夜にばらまかれた。
『天秤の皿をゆらす突風 玉座の両輪を砕く鳴動
迷路で惑い、十字路で交錯し 鏡の狭間に捕らわれしモノを、冥府に誘う魔鍾を鳴らせ
魔鏡鳴鍾!!』
勇士英雄の『飛び道具』ならともかく。“賊”の『姑息な策』に感心していられるほど、アヤメは暇ではない。
パーティー会場の標的を狙った『矢』は、わずかであり。大半がロゴニアの町中に死をばらまくように、四方八方へ飛び交い。暗い空を『山なりの軌道』をえがくとなれば、なおさらだ。
だから容赦のない『魔導』を放つ。かつて各船長室にいる“海賊たち”を抹殺した。姫長の扇奈が使う『魔鏡鍾』、本来の姿である『野外の広域魔導』を発動させ。
「「「「「「「「ー~・*/+;ー*!!+*」」」」」」」」
『『『『『『『『『『G.g-d-+lh:-g+v-gy*』』』』』』』』』』
生物の『鼓膜』・仕掛けの『歯車』と風属性の『魔力』。それら三つを揺らし、震わせ、飛散させる。
『魔鏡鳴鍾』という嵐をアヤメは吹き荒れさせ、“賊”の軍勢を徹底的に殲滅していく。
『G~~^g0:ee-*-ー―』
「『シャドウの弓術』を真似したつもり?・・・なめてくれたものね」
もっともアヤメに敵を殲滅した、高揚感はない。
何故なら二度も壊滅させたはずの“盗賊ギルド”のアジトから、『矢』を放った手段をアヤメは『感知』しており。
それは『弓型ゴーレム』を多数、潜ませた。『隠し戸棚』の中か『予備の武器』として鎮座していた、『弓型ゴーレム』が動き出して攻撃を行った。
ロゴニアの町で眠っている住人に、無差別殺戮を行う『ギミックアロー』が射かけられたのだ。
今後、類似した“策”をとられることを、侍女頭は想定しなければならず。少しばかり戦闘力が高くても、安易な勢力拡大はできないということだ。
アヤメとしては“盗賊ギルド”にプライドと『住民たち』を事実上、売り飛ばした『領主貴族』にはこの世から退場してもらいたい。少なくとも都市ウァーテルの周辺、及びシャドウの『利権』がからむルート上の土地からは抹消したかったのだが。
「ままならないものね・・:-ッ!?」
「これでっ・・-『雷輪電昇!!!』・・・・・:-/・!?・‼`^!^・ー・」
「・・・っ!・・・ー・:^・・^・!!」
「これは…上手く行ったという事かしら・`・?」
愚弟の魔力がひときわ高まり。間を置かず、歓喜の声が聞こえてくる。
その話の内容を聞こえないように、聴覚を操作しつつ。
アヤメは秘かに安堵のため息をはいた。
ネタバレ説明:『魔鏡鳴鍾』について
壁越しの『透過衝撃』によって、部屋・屋内の『空気成分』に干渉し。(術者の得手不得手や状況によって、いくつかアレンジ有り)部屋の中の標的を、事実上の窒息死させる『魔鏡鍾』という術式があります。
その『魔鏡鍾』を、広範囲に野外で発動する。風属性が得意とするフィールドで、容赦なく敵軍を殲滅するのが『魔鏡鳴鍾』です。
シャドウ一族のツートップである扇奈とアヤメが共有している『魔導能力』であり。『魔力量』が多い扇奈と、『感知能力』に秀でたアヤメでは用法・効果に差異があり。別の『魔術能力』と誤認されがちです。
なお『魔鏡鳴鍾』の定義は〔気圧を操作する〕〔空気の成分を変化させる〕〔それら+αで呼吸器・感覚器官を攻撃する〕の三つであり。
『+α』で加速攻撃を行おうが、『火炎を消去』しようが術者二人の勝手です。他からあれこれ言われる筋合いは一切ありません。
ちなみに今回、アヤメが行った『魔鏡鳴鍾』の効果は次の三つであり。
1)隠密活動をする連中の『鼓膜』に干渉し、聴覚神経から『脳』に干渉する。呼吸を妨害する。
2)ギミックを構成する一部の部品に、『振動』を付与して誤作動させる
3)『矢羽根』に加速or減速の『付与』を行い、『矢』の本体を失速・墜落?させる
本来のアヤメの魔力量では、これらをロゴニアの町、全てに及ぼすのは不可能なのですが。
イリスの『本業』に協力する『契約』によって、魔術の『干渉・強制力』を高め。
〔事実上の悪政を行っている、ロゴニア子爵家に町の統治を任せておけない〕と、いうシャドウの(身勝手な)ルールによって大気中の魔力を『条件付き』で利用し。他にも『旋風閃』の機動力で、ロゴニアの町を移動することにより。
どうにかアヤメの『魔鏡鳴鍾』は、ロゴニアの町全体をカバー?・・・しています。
この通り綱渡り状態で、アヤメは『魔鏡鳴鍾』を行使していますが。
彼女の『魔鏡鳴鍾』で今回一番厄介なのは1)『鼓膜』に干渉して~のところです。
アヤメにとって『鼓膜・鼻の粘膜』は、『目の結膜』と同様に表皮とは異なるものであり。人・獣型の生物なら、『目』の位置から『耳・鼻』の場所も計測できてしまう。『風の魔術』で解析し、干渉できる『感覚器官』の一つにすぎません。
そのためロゴニアの町中に『魔力の旋律』を流す必要などなく。
屋外にいる者・『アヤメが回った盗賊ギルドのアジト』にいる者の耳に異音を聞かせ。その時の『鼓膜』を観測することで、アヤメは人物の正体を看破する。
耳鳴りからの難聴・幻聴に激しい頭痛をもたらし。さらに空気に『魔力付与』を行って、肺から酸素を摂取するのを妨害する。
万が一、それらに抵抗した者に対しては、アヤメが『身体強化』で加速して強襲をかけます。
以上、今回のアヤメ単独による『魔鏡鳴鍾』でした。
〔八岐大蛇を退治する〕伝承において、『スサノオ』と同等の役割を果たした者たちがいます。彼らは他の昔話と同様に、無力なイケニエの関係者とは異なり。しっかり『八岐大蛇』の打倒に協力しました。
それは『奇稲田姫』の両親です。この二人は『スサノオ』が来るまで、嘆き悲しんでいましたが。スサノオの言葉に従い〔大量の酒を用意して〕おり。これは古代世界において、奇跡に等しい大魔法ではないでしょうか。
まず『日本神話』の話をすると。『八岐大蛇』の大きさは、大江山の『酒呑童子』と比べ、圧倒的に巨大であり。当然、用意すべき酒も大量になります。そんな『大酒』を1日足らずで、二人だけで用意するなんて『補給の神様?』と、問いたくなる。
そして歴史リアルの話をすると。古代世界において、まず『酒』を造る時点で困難であり。醸造技術は低く、『お酒』以前に味噌・醤油すらなかった。そもそも飢饉・戦火に天災などがあり。酒の材料となる『お米?』を用意することが困難です。
そんな貴重なお酒を、『八岐大蛇』が満足するだけの質・量を一日たらずで用意する。『スサノオ』どころか、日本神話の神々が集っても困難であり。
〔天岩戸をこじ開ける、宴会の『酒』を用意した。天津神の補給担当に匹敵するのでは?〕と、愚考します。