微風の計算
日本には『衾』という、人の頭に覆い被さる『布?』のような妖怪がいるとのこと。
妖怪バディに登場する『衾』は飛行機を襲うとかで、その迫力は今でも印象深く。〔あれだけ頑丈なら『白九尾』を、そこまで恐れることも無いのでは?〕と、子供心に考えました。相性が悪いのか、痛恨の一撃でも受けたのでしょうか。
さてそんな妖怪『衾』は、概念の妖怪だとのこと。『一反木綿』のように『布?』の妖怪なわけですが、襲われた者は『衾』の身体に視界・顔面をふさがれてしまい。ただでさえ困難な妖怪の姿を視ることが、益々難しくなるでしょう。
実に想像力をかき立てる妖怪です。
“怪物行進”を撃破したアヤメは、パーティー会場の防備を救援すべく『飛翔』する。
しかしその途中で、黒霊騎士C.V.のシャルミナ様から呼び出され。
〔イリス様たちが使う『光術』に対抗する、『遮光眼甲』の販売に協力しませんか〕と、いう誘いを受けた。
別にイリス様たち光属性C.V.に叛意をひるがえす気など欠片もなく。『ゴーグル』の遮光・耐光の効果を破る手段や段取りはできており。C.V.勢力が『素材の相場』で荒稼ぎするのに〔協力してください〕と、いうありがたい申し出なのだが。
〔メリットは大きいのよね・・・〕
二流の『術式使い』にすぎないシャドウ一族にとって、『耐魔術』を知る。『攻撃・障害』などの魔術干渉と、『レジスト』の攻防を経験できる。
それは得難い経験であり、シャドウ一族の技量を高めるチャンスだと思う。
〔それに〔『ゴーグル』で術式を防げる〕と、勘違いした敵を打ち破れば。敵の戦意をくじき、しばらくは平穏が得られるかもしれない〕
さすがにそろそろシャドウと“シーフ”の実力差・相性の悪さに気付く者が現れてきた。
その結果、亡国の騎士などに資金・武装を与え。国の再興をエサに、奴等をC.V.勢力にけしかける流れがある。
〔このままだと政敵・邪魔者を抹殺するための死地として、私たちが利用されかねない〕
数多の冒険者を呑み込む『絶望の迷宮』よろしく。
〔ダメ元で邪魔者をシャドウ一族にけしかけ。万が一にもシャドウ一族に痛撃を与えられればヨシ。予想通り返り討ちにあえば、失態を追求して邪魔者を攻撃する〕と、いうようなことを考える連中がおり。
〔『ゴーグル』の売買を利用して、財政に打撃を与える。前線に出てこない策士・文官たちを攻撃する『手札』を得られる〕
他にも『ゴーグル』の製造・販売には様々な旨味があり。
C.V.イセリナ様が行うなら『報酬額』は期待できる。『身体強化』が不得手な、一族の者に活躍の場を与えられる。『ゴーグル』に関連して発生する問題を解決する(という建前の)ために、行動範囲を広げられる。決戦の場で『ゴーグル』を購入・装備した敵軍を返り討ちにする。
アヤメがこの場で考えただけで、これ程のメリットを思い浮かべられるのだ。姫長の扇奈のところに持ち帰って協議すれば・・・・・アヤメの脳裏に様々な利益が思い浮かび。
〔綺麗な大量の水を使って、料理・お風呂を楽しみましょう〕
〔術式の糸を世界中に広めるの〕
それら利益を水底に沈める、『濁流』が流れた。
状況判断は甘く、時勢を読み取れず。“愛人のほうが正妻より美しくなる”と、いうお家騒動を顧客に引き起こし。
せっかく【どぶ川のお掃除】をして、『水を綺麗に』の術式を売りさばく計画を台無しにしてくれた。身の程知らずに侍女頭に挑む、侍女シャドウ・・・水蛇の姉妹たちが思い浮かび。
アヤメの返答は確定した。
「どうやら結論は、出たようですわね」
「はい、シャルミナ様。ですが結論に至った理由を説明するために、少々お時間がかかります。
ゆっくり話せるように、“雑事”を済ませたいのですが」
「もちろん、かまいませんわ。魔力で呼びかけ。アポなしより酷い、会談の申し込みを行ったのは私のほうなのですから。しっかり『二つの用事』を済ませてきてください」
「‥`お心遣いありがとうございます」
『外交』の作法では〔会談に応じたのは、私ですから。どうかお気になさらず〕と、返答し。〔お互いに非はありません〕と、暗に告げるべきなのだが。
アヤメは思わず一歩引いた、立場の弱い返答を言ってしまった。心中の動揺を吐露してしまう。
あげくに〔やはり私に外交は向いてないわね〕と、胸中でつぶやき。さらに一歩下がってしまう。
「それならば、私たちが同行いたしましょう。ロゴニアの町に巣食う“賊の残党”を狩るならば、お力になれると思います」
「「・:-ー^ーッ!!」」
一応の助力を名乗り出たのは、シャルミナ様に従う三名のC.V.だった。
〔正式な『契約』を結んでいない人間の一族を威圧しよう〕〔交渉で有利に立つため、貸しを作ろう〕と、いう外交では珍しくもない行動なのだけど。
「・・・+・・、・・:・+:ー・・・・」
どうやらC.V.三人の勇み足らしい。シャルミナ様の魔力を通じて、謝罪が行われ。
アヤメの後退は〔なかったこと〕になり。
「わかりました。“賊”を狩ることには御助力いただきます」
「「「承知しました。哭霊騎士のシャルミナ様に勝利を!!」」」
「・・ー+・・ー・」
「・^+^+-・・・」
アヤメは同情の『風術信号』を送り。シャルミナ様は『表情筋』を固定して、何とか『魔力通話』を返してくる。
そうしてアヤメは軽快なステップを踏みつつ、掌から地面へと『遠当て』を放ち。
“雑事”に引導を渡すため、シャルミナ様の『結界』から跳躍した。
「ちょっと・・!」「お待ちくださいっ」『悲嘆の妖精・`・』
ロゴニアの町並みを見たアヤメは屋根上に登り、即座に疾走を開始する。
C.V.三人組と距離をあけるため。ただし見失わないよう、距離を調節して高所を疾駆して。
『奏竜の喉笛は、響く魔鍾に 焦爪は磨かれ集い、仮初めの鏡に変わり
扇の威を示す奇貨と成れ 魔鏡変鍾!!』
『奏竜焦爪』の残留魔力を、文字通り消費するため。そして“賊”の後詰を務める『弓兵』を始末するための『風術式』を変成していく。
それによりロゴニアの町に点在する、“盗賊ギルド”のアジトに『魔力の風』が吹き込み。
“雷鳴”によって壊滅させられたはずの部屋から『酸素』を奪い。場所によっては『一酸化炭素』を錬成して送り込んでいく。
かつて悪徳の都ウァーテルを攻略した際、姫長の扇奈が使用した。港で船の中にいる船長たちを窒息死させた、『魔鏡鍾』を改良・模倣した『風術式』が再び鳴り響き。
「「「・:*・‘~・ッ*」」」「「「「*:+*:・~」」」」「B;a`*ー*ッ」「「ヒュ;・g*」」
「〔なかなかやるわね〕と、言うべきかしら」
「「「・・・;・」」」
今度こそ完全にアジトを沈黙させる。ついでにC.V.たちの口も閉じさせた。
囮の兵を下級シャドウに討ち取らせ。〔死体が転がる元アジトになった〕と、思わせた場所に『狙撃手』を配置する。
ある程度の時間がすぎないと、そもそも伏兵がやってこない。〔アジトを壊滅させた〕と、いう勝利の美酒に酔う。その油断をつき、地下から『狙撃手』を送り込んだようだけど。
〔『奏竜焦爪』は震動によって地下の走査も行う。惜しかったわね〕
いつまでも〔屋内・迷宮では使えない〕と、いう『風属性』では役立たずの代名詞だ。それ以前に出番すらなく、嘲笑の的にすらならない『風術士』もいるとか、いないとか。
しかしシャドウ一族は、そんな後塵に排する気など一切なく。
姫長である扇奈・セティエールが得るべき利権は決まっているのだ。そのために敵勢力の耳目となる偵察・伝令兵や密偵の類は狩りつくす必要があり。
「すみません、C.V.様」
「「「・・ー・ッ!?」」」
「せっかく“雑事の処理”にご協力いただきましたが。追加の伏兵は討ち果たしてしまいました」
「・・・そのようね」「お見事です」「・・・;・っ」
アヤメの慇懃無礼なセリフに反論の声はない。彼女たちは戦闘力を中心に判断を行う。シャルミナ様の崇拝者なのでしょうけど。
「とはいえ更なる伏兵が襲来しないともかぎりません。皆さんには敵拠点の封鎖と見回り。アジトに漂う『毒気』をはらっていただきたいのですが・・・」
「「「承知いたしました、アヤメ様!!」」」
この場で最も強いのはアヤメであり。それは戦闘至上のC.V.たちを一時的に指揮する、条件を満たしたことを意味する。
「それではよろしくお願いします」
そう告げてC.V.チームを送り出し。アヤメは大事な【用事】を済ませるべく。
『旋風閃‼!』
飛翔の速さで、疾走した。
妖怪『衾』の正体として、有力なのは『濃霧』『煙』や『薄い空気』などでしょうか?刀で切り裂くことができず。顔面をふさぎ、人の命を奪うことすらある。
『殺生石』は火山性ガスが噴出して、周囲の生物を死に至らしめたわけですが。“よくない薬草”を燃やした空気が、局所的にたまったり。『一酸化炭素』の中毒を知らない、人々が物を燃やし。その『煙』がいくつかの条件を満たし、たまった物を吸った人が昏倒する。
これが妖怪『衾』の正体なら良いと思います。現代なら〔毒煙を流すな〕と文句を言えば済むことですから。
私が引っかかっているのは、『衾』の弱点が『お歯黒』だということです。上記のものが『衾』の正体なら、『お歯黒』が弱点などということは無いはずで。さらに『お歯黒』の成分が妖怪に効くならば、もう少し『お歯黒』が苦手という怪異がいてもいいと愚考します。
妖怪『衾』の正体で、私が疑っているのは“人買いの袋”“拐かしで使う布”です。
以前、私は妖怪の『狢』を〔女衒や色狂いの男なのでは?〕と、考えたコラムを書きましたが。〔戦国時代の“人盗り・人身売買”の類が、江戸時代になって都合良く消滅する〕ということは、残念ながらないと愚考します。
何しろ五代将軍の頃にもなって、首斬りをやらかす。あげくに、その連中を忠臣と讃える世論・娯楽文化があるくらいですから。
“誘拐によって人身売買を行う組織”も、いくつかは存続したでしょう。とはいえ“誘拐魔”も手当たり次第に“拐かし”を行ったわけではなく。誘拐を行う対象には、いくつか条件があった。
その中で『お歯黒』をつけている者は、対象外にするという『掟』があり。『遊女・お歯黒をつけられる金持ち』など、誘拐すると厄介事が発生する者は避ける『掟』があった。それが妖怪『衾』の弱点が、お歯黒になった由来だと妄想します。
それと念のために断っておきますが。妖怪『衾』『凶悪な一反木綿』は、一ヶ所だけでなく日本の離れた複数の地域に出没しており。それら妖怪に苦しめられた被害者は、【出没地域の住民】です。
そのため“性悪妖怪”の正体が“誘拐魔”の場合、連中は他所の地域から『遠征』してきたと考えており。出没地域の住民たちを“性悪妖怪”あつかいしないよう、伏してお願い申し上げます。