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29.アルゴスアイズ 1

ギリシャ神話の『女神ヘラ』は人気のない女神です。夫の『大神ゼウス』が手を出した女性を次々と殺害・呪い破滅させていった。嫉妬深く狭量な神の代名詞であり。そのため世界中の神々が集う系統の『遊戯』では、全く出番がないということも珍しくありません。


 とはいえ人気が存続を左右する『遊戯』で、わざわざ嫌悪される『女神ヘラ』を登場させても不毛なだけであり。登場させるか、どうかは作者の自由でしょう。私も登場の予定は皆無です。

 『アルゴスアイズ』


 イリスの使うこの『魔術能力』は、感知に優れた『身体強化』がメインとなっている。

 魔術書に載っていない。魔術師ギルドの紹介で学ぶこともできない。


 ただしこの世でイリスしか使えない、『固有能力』というわけでもない。前述の『魔術』より手間はかかり、代償も必要とする。

 だが一定の素養を持つ者が、死ぬ気で努力すれば会得可能という。レアな『魔術能力』にすぎない。


 そもそもイリスは『騎士風の軽鎧』をまとった小柄な麗人(自称)だ。『多眼巨人アルゴスと契約などしておらず。『霊気・化身鎧』をまとい戦う、神の星鎧拳士ではない。

 『アルゴスアイズ』はあくまでイリスが自らの才能を鑑み、修行の集大成として編み出した。カオスヴァルキリーのイリスが立つ、『主戦場』において勝利を得る。そのために【必要】と考えた、『武術・武装』のようなものだ。


 


「『アルゴスアイズ』発動」


 イリスの宣言で両の目に『魔力』が集中する。だがその魔力は少しの『術式』を形成して、眼球から拡散していった。目から瞼に。瞼から顔の表皮に。そして顔から全身の皮膚へと魔力は伝播していく。


 『アイズよ瞬け』


 そうして伝播していった『魔力』は瞼の動きを、体表に連動させる疑似神経を形成する。全身の『|皮膚感覚(触覚)』を、『視覚』なみに鋭敏な感覚へと強化していき。

 その『触覚』で得た情報を、瞬時に処理・対応するイメージで全身を強化していく。まるで全身に『瞳・瞼』があるかのような、化け物殺しの『ℌ〇〇〇〇ー〇』に成り。


 イリスは戦闘状態に『心身』を移行していく。


 本当に全身に『眼球』が発生しているわけではないから、異形と化す『変身』ではなく。『魔術鎧装』を具現化してまとう『戦装束』とも異なる。だいたい全身を『眼球』で覆われるのは『アルゴス』ではなく。『百目・太歳』とかいう東方系の怪異や眼球強盗の邪鬼だ。


 『アルゴス』の目はすべて瞼があり、目を閉じて休むことができる。それは魚やトカゲの開きっぱなしの『目』とは違うものであり。

 それらが単なる『不眠の見張り』と考えるのは、『女王神』に仕える眷属を侮りすぎ。あるいは〔異教の“中傷”に踊らされている〕と言うべきか。


 『瞬きは輝いて、輝きは煌めいて、煌めきはケンの閃きと化し、絶望の刃を振り下ろせ!!』


 周囲の人間が止まって見える。そんな中で動こうとするウルカとサキラたちに、散開するようイリスは『光術信号フォトンワード』で伝達する。


 それと並行するように『膨大な情報』の奔流が、イリスの全身を焼いてきた。

イリスを見据える『視線』と、それらにこめられた感情が『灼熱』のイメージと化し。兵士たちの挙動に様々な『魔力』の流れ。さらに気温、湿度に地面の状態など。『環境情報』が奔流となってイリスの神経に流れこんできた。

 適切に処理すれば、戦闘に有用な『情報』ではある。だが多すぎる情報の濁流は、イリスの『思考』を溺れさせる危険なものだ。


 『アイズよ閉じろ』


 それに対しイリスは『強化状態』に制限をかける『イメージ』を思い浮かべる。

 それは神話の〔アルゴスが眠った〕と言われている状態を想起させ。『瞳と瞼』がセットでなければ不可能な、『感覚の調整』により情報の取捨選択を高速で行っていく。


 『再び瞬け。瞬き閃け』


 そして蹂躙が始まった。

 

 とはいえ微妙なインテリにとって、『女神ヘラ』は重要な女神です。それは結婚を司る『権力の女神』であること。他所の神話に登場する主神の妻・女王とはそれが一線を画すと愚考します。


 前章でも書きましたが古代世界は極めて残酷で命が軽い。『人権』の二文字など存在しない、某世紀末な地獄でした。


 そんな世界において『結婚・権力』を司るということは、イコール『婚姻外交』を守護し平和をもたらしたということです。現在の紛争をみればわかりますが、『会議・書面』の停戦がいかにたやすく破られ戦火が再燃していることか。『政略結婚』こそ奴隷狩りや疫病を止めうる【希望】であり。

 殺戮地獄を止める『大魔導』だったと愚考します。


 そんな魔法を“色魔”ごときが、自らの欲望を満たすため脅かしたら。『婚姻外交』による和平を台無しにする、“浮気”の風潮が流れたら。

 綺麗ごとを言っている場合ではなく。『女王神』として嫌われようが、強硬手段をとるのもやむなしだと愚考します。

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