微風と梟(フクロウ)
昔の勧善懲悪の時代劇とは異なり。最近の時代劇は、武士の経済事情を題材にした作品が作られるようになりました。『参勤交代』『国替え』や『倹約』を題材にしたものなど、財政が重要な時代劇があります。
そうして色々と興味をもって資料を読むと。色々と『不都合な真実』が露わになってきました。
その一つが江戸時代における『藩の改易』について。“不祥事”・『跡継ぎがいない』などの理由により。もっと言えば『養子縁組+その届け出をする外交』に失敗すると、武家は容赦なく取り潰されます。
そして『ハローワーク』の有無以前の問題として、身分制度が強かった時代のこと。路頭に迷う武士は、現代人の想像するよりはるかに多く。〔第二の人生だ。内職で何とか暮らそう。用心棒になろう〕と、言ってられる者は当座の生活費を確保できたもの。武芸に秀でるなど、恵まれた一部の『強者』だけであり。
『上士と下士』というように身分差別がひどい『藩』は、そのまま蓄え・退職金も大きな差別があり。子供・老人や病人などの弱い者から、死んでいくという“現世の地獄”が始まる。
婦女子にいたっては、男性武士のヘマで“苦界に落とされる”という有様であり。封建時代に現代の『男女平等』をふりかざすのは、無理があるにしても。
〔ものには限度がある〕と、言いたくなります。
『怪物暴走』を悪意を持って引き起こし、術者の手駒として使い潰すのが“怪物行進”だ。
その脅威に対し、侍女頭様と配下の木乃美、志乃美たちは迎撃を行う。『奏竜焦爪』の結界によって、モンスターの『感覚器・濡れた表皮』から水分を奪い。『感覚器官』を乾燥させ、出血を強いることで『モンスターマ-チ』を混乱させ、消耗させていった。
〔このままいけば、ロゴニアの町を守る任務は達成できるでしょう。だけど“怪物行進”を返り討ちにするだけでは、戦略的に敗北してしまう〕
倒したモンスターの死骸を処分する。アヤメ様の魔術能力である『奏竜焦爪』の情報隠蔽を行う。
大量にモンスターの討伐を行ったことに伴う、環境の変化を観察し対処する。
まずは『モンスターマーチ』を撃破したことによる、不利益が出ないよう。事後処理を着実に行うことも大事なのですが。
〔それよりも重要なのが、この邪法を引き起こした連中を逃さないこと。確実に奴等を討ち取り、引導を渡す。そうして「“怪物行進”は今後、二度と行われない」と、宣言しなければ。
この戦いで勝利したとは言えないわ〕
大群のモンスターを誘導し、軍勢のように使役できる“モンスターマーチ”は邪法だが魅力的な力だ。悪党にとっては邪魔者・敵勢力を抹殺できる“暴力”であり。善人にとっても厄介なモンスターを誘導し、有利な地点で待ち伏せを行える。
いずれにしても“モンスターマーチ”を引き起こせる術者・所属勢力の声を、領主貴族たちは無視できず。本来なら“モンスター(に住民を喰わせる)マーチ”など論外であり、暗殺の対象でしかないのですけど。
〔都市ウァーテルを陥落させ、周辺に勢力を広げようとしている。そんな魔女C.V.から『貴族家』を守るため。『モンスターマーチ』を使うのも、やむを得ない〕と、いう大義名分を“性悪貴族”たちは振りかざしかねない。
〔それを防ぐためにも。“怪物行進”を引き起こす術者には今夜、この場で確実に討ち取る!〕
〔〔かしこまりました、アヤメ様!!〕〕
こうして侍女シャドウの木乃美、志乃美は『旋風閃妖』の術式を発動させた。
『h`・・^~・・』『k`・:・^・~--』
翼を広げれば、彼女たちが両手を広げたのと同じくらい。小型ではないものの、『猛禽の使い魔鳥』の中では力・速さは下から数えた方が早い。
木乃美、志乃美たちが使役する『使い魔梟』の性能は、その程度にすぎず。加えて『霊鳥・悪魔鳥』のように、特別な『魔術』を行使できるわけでもない。
手妻も同然の『幻術』を操るのがせいぜいであり。『巫女の鷹』のように体当たりなどすれば、自らも無事ではすまない。攻撃の要は『爪』で、『嘴』が割れたら頭部にまでタメージが通るという有様です。
有り体に言って戦闘力に劣る『フクロウ・コノハズク』が、木乃美と志乃美の『使い魔鳥』だ。
『『深山の枝葉から、見渡す双眸 夜陰の空を、見透す眼光
その翼は狭間を飛び その爪は、静寂の鎌をふるう
そしてこの日、この時、この場でのみ 英知と奸知の表裏は、侵略の魔手に悪夢をもたらす
旋風閃妖!!』』
それは『言霊』によって、性能の『増幅』を行っても同様であり。せいぜい飛距離と『疑似知性』が伸びるだけだった。
「少しぐらい、空から強襲とかしてみたいんだけど」
「そういうことは羽矢弥さんにでも頼みなさい」
「こらこら、志乃美ちゃん。羽矢弥姉は今、『八鷹輪舞』を試しているんだから。強襲なんてできないわよ」
「・・そうだったわね。勘違いしたわ」
雑談を交わしながら、侍女シャドウの姉妹は『非力な使い魔鳥』を飛ばし。その『爪』で様々な標的を引き裂かせた。
「準備はまだ完了せんのか・:-・」
「「「「「「--^+;・・・」」」」」」
『万魔連合』の大幹部にして、ロゴニアの町を破壊する『モンスターマーチ』を率いる。『魔獣使い』であるドルアグの苛立った声に、答える部下はいない。
『切り札』の準備にとりかかって、既に長い時間が浪費され。“敵軍”が何らかの妨害工作を行っているのは、想像に難くないものの。
〔敵勢力がどんな妨害をしているのか、わかりません〕
〔そもそも『切り札』が無事なのかも不明です〕
〔『切り札』を使っても、魔女C.V.の配下にすら通用するかも怪しい〕
こんな返答をしてドルアグが激怒することを、側近の部下たちは恐れており。目線でけん制しあい、“危険な返答役”を押しつけあっていた。
ドルアグとしては、そんな部下たちに見切りをつけ。普段なら迷わず『魔獣』のエサにしているところだが。
〔劣勢を挽回するため、手駒を無駄に殺すわけにはいかん〕
生きた盾・トカゲの尻尾に囮と、利用方法はいくらでもある。いつもどおりに“ヘマをした部下”を、見せしめに殺す気など無く。無駄に殺していい戦況ではなかった。
そんなことを考えていたドルアグの聴覚が、騒がしい足音をとらえる。
「一大事です、ドルアグ様!」
「何事だっ・・」
「空を飛ぶ『怪鳥』によって、『旗』が次々と引き裂かれています。これでは『モンスターマーチ』に指示を出せません・;・・」
「何だと・・・」
〔『旗』が引き裂かれる〕と、いう知らせはかなりまずい内容だった。
そもそも『ケモノ』は実力主義であり、暴力が重要だ。そのためいったん『使役』したからと言って、永久に『ケモノ』を従えられるわけではなく。『ケモノの群れ』がボス争いを、定期的に行うように。『獣使い』も群れのボスと同じように力を示し続けねばならない。
それは『モンスターマーチ』を率いるドルアグも同様なのだが。ロゴニアの町を滅ぼし。それを妨げる敵勢力と交戦する際に、背後から襲われる。疲弊したところにボスの座を狙う『反逆』を仕掛けられてはたまらない。
そのため『魔術造物』の支配を強める、『呪縛の枷』をつけさせたのだが。
「愚かな連中だ。暴走したモンスターが真っ先に何を狙うと、思っている・・・」
「「「「「「・・^:^・ー・」」」」」」
中ボス・隊長役の『魔術造物』が万が一、ドルアグの支配から逃れても。『飢え・欲望を満たせ』と、いう暗示をかけており。怪物たちはロゴニアの町を、真っ先に襲う『怪物暴走』と化す。
ドルアグたちが襲われるのは、その後であり。『魔獣使い』であるドルアグにとって、疲弊した『魔獣』たちを再び支配しなおすことなど造作もないことだ。
〔だが『呪縛の枷』の情報を、シャドウたちはどこから得た?奴等は『遠見・透視』の魔術を、“魔女C.V.の誓約”によって禁じられている。
ならば“裏切り者”が『旗』の情報をもらしたのか?〕
表情を消してドルアグは、部下たちを観察する。同時にまだ破壊されていない『旗』を通じ、『モンスターマーチ』の後詰めに進軍を命じ。さらに最も損耗の少ない、地中を進軍する『ワーム・モールや怪樹』などのモンスターに矢継ぎ早に指令をくだしていき。
「もう一つの『切り札』をきる。『宝珠』を出せっ`!>/:*」
その瞬間、ドルアグの求めてやまない『答え』が飛来した。
『旋風閃影!』
その『答え』は死神の影を、ドルアグに連想させた。
つまり難癖をつけて、大名家を取り潰すのは。間接的に、確実に大勢の武士・その家族や家来の生活を崩壊させるに等しく。明らかに“改易”をやり過ぎた、徳川綱吉は殺人者・暴君の類だと愚考します。
そしてそれは“忠臣蔵”に出てくる47士も、けっこう同レベルであり。
“討ち入り”のため浪費した『軍資金』を、もっと活かしていれば”“キレて赤穂藩を潰す、忠誠を尽くす価値のない元主君”の財産を活かしていれば”身売りをしないですんだ、武家の婦女子は少なくなかったと愚考します。
さすがに〔元赤穂藩の財産を、全員で公平に分けよう〕と、社会主義者のようなことを言う気はありません。ですが『退職金』を貧しい身分の低い武士に多くなるよう、大石内蔵助が配ったとしても。
改易された他藩のように、元赤穂藩士の再就職に注力していれば。“仇討ち・討ち入り”へ向けたリソースを、藩士の生活に振り分けていれば。
〔きっと助かる命・守られた尊厳は増えただろう〕と、愚考します。