奏竜焦爪:その1
“吉良が謝礼を要求するのはワイロ。赤穂藩が再興のため、金銭で工作を行うのは運動だ”
“他藩が健康問題・批判的な言動で、改易されるのは仕方ない。浅野家が刃傷沙汰で改易されるのは、幕府の横暴だ”
“忠臣蔵”の赤穂浪士の胸中は、こんな感じでしょうか?“二重基準”もいいところであり、単に〔田舎領主が、都会のルールを知らない〕と、いう程度ではなく。
“浅野家以外の他藩・幕府の都合や尊厳など、知ったことではない”と、いう身勝手なヤクザの思考です。
こんなものが通じるのは〔浅野家と吉良家が物語の中心だ。幕府・諸藩は脇役にすぎない〕と、いう時代劇だけでしょう。
そもそも徳川綱吉が将軍のころは、理不尽に『諸藩・旗本』が取り潰され。大勢の武士と家族が、路頭に迷っていました。そんな“暴君の綱吉”が誕生した理由は、いくつかあるのでしょうけど。
私が推測するのは〔大老の堀田正俊が、江戸城内の刃傷沙汰で“刺殺”された〕と、いう事件であり。
そんな時代に、江戸城内で【再び】の“刃傷沙汰を起こす浅野内匠頭”が現れたらどうなるか?
暴君・奸臣に名君のいずれかだろうと、厳罰をもってのぞむのが当然であり。〔暴君綱吉なら、怒り狂って裁定を行う〕と、いうのは権力に関わる者なら予想して然るべきでしょう。
赤穂浪士がよく言う『ケンカ両成敗』『浅野内匠頭の即日切腹はヒドイ』などというのは、そんな当時の状況を無視している。非常識な独善を宣言しているに等しく。
“吉良家と赤穂藩のみしか、存在しない異次元”でしか、成立しないと愚考します。
『奏竜焦爪』
侍女頭のアヤメが発した言の葉により、穏やかな風が吹き渡る。それは異臭のしない清浄な風であり。
同時に凶悪な殺気が込められた、殺戮の嵐でもあった。
「「「「「・~:-*」」」」」「「・*-~」」
「なっ!?」
空から悪魔像が落下して地面にめり込み。魔術で『透明化』していた怪魔人が、転倒した姿を晒してから断末魔の痙攣をする。
その光景を目の当たりにして、虜囚となった“盗賊ギルド”の連中が凍りついた。
「何だ・・いったい、何をした!」「・;・+`」「「「-・:ー;」」」
まだ偵察役のモンスターを始末しただけなのに、“賊の邪法使い”たちが息をのむ。
それを見て〔そろそろ“シーフ”が苦戦するモンスター≠シャドウの脅威〕と、いう戦力差を理解していいころだと、アヤメは思ったが。
不毛な思考をやめ。アヤメは群れの本体を殲滅すべく、改めて『詠唱』に取りかかり。
『双竜の爪に指あり 指の元に手 手をたどれば腕があり その狭間に、風巻く蛇体あり
されど蛇体は竜の暴威をふるわず ただ渇きの風を携え、水気を奪い、焦土をえぐる
百毒と雷火を堕とす 迷霧の旋律を、つま弾くために 奏竜焦爪!』
アヤメの『詠唱』によって、『双竜爪』を構成する『地滑る小風刃』が円を描く。波状の『小風刃』が連なり、重なり、舞い走り。流動する花弁の『結界陣』を構築していき。
それは先程までロゴニアの町を覆っていた、『八鷹輪舞の風術結界』を削りながら、巻き取り吸収していった。
よく誤認され、忘れられるが。
生物の『呼吸』とは、鼻腔から『酸素』を取り込むことでは無い。その『酸素』を肺→血中→各細胞に運び。さらに『二酸化炭素』を排出して、ようやく『呼吸』は完了する。
さらに生物は『皮膚呼吸』というものをしており。『カエル』と『トカゲ』では、生存に必要な『皮膚呼吸』への依存度は異なるものの。
『感覚器官』において、『皮膚呼吸』の有無はその精度・鋭敏さを左右する。『人間の目・獣の鼻』などは、常に湿り気を帯び『皮膚呼吸』を行っており。それによって『視覚・嗅覚』の性能を維持しているのだ。
そのため『空気に偽装した風霊』が、『皮膚呼吸』という体の出入り口から侵入すれば。〔『皮膚呼吸』など知らん。くだらない。どうでもいい〕と、“侮る怪物・暴行亜人”がシャドウ一族に敵対すれば。
連中は文字通りの『地獄』を味わうことになる。
人間たちが作り、住まう町へ怪物の群れが行進をする。“盗賊ギルド”に所属する『錬金術師』・邪法使いたちが、あらゆる禁忌を犯し。『ヒトと生命』の尊厳を踏みにじって、混ぜ合わされた『魔術造物』が野生モンスターの群れを乗っ取り、行軍を命じる。
それらは“捨て駒”にすぎないものの、死兵の一種であることは確かであり。凡百な子爵が治める領地など、短時間で壊滅させられる戦力であることは間違いない。
『『『ゲ、げェ!?・*~*G;g-*-』』』『『『Lォ~-*+*`~*ー』』』
その群れで、真っ先に異常が現れたのは『両生・水棲』のモンスターだった。カエル・イモリなどの、表皮が常に濡れて『皮膚呼吸』をしている怪生物が悶絶し。
ローパー・スラッグや魚人など。本来は沼沢地に棲息し、侵入者を底なしの沼に引きずり込む。複数の『触手』を持ち、毒の体液で獲物を絡め取る怪魔たちが、不穏な痙攣を始める。
それらは口・口腔にあたる部位から血泡を吐き出し。移動速度が落ちたところで、後続のモンスターたちに踏み潰され。あるいは行軍中の糧食として、消費され。“禁忌の魔術造物”が力を高める、増強剤・魔薬として呑み込まれていった。
『ギャw!?--~-~:*k・Ky~*』『『『『『Ky`?・?*--;*』』』』』
次に苦悶の叫びをあげたのは、獣モンスターたちだった。
毛皮に覆われた身体は、『皮膚呼吸』をほとんど必要とせず。野生の勘と俊敏な動きは『広域魔術』を察知し、避ける確率を高めるのだが。
“禁忌の魔術造物”に操られたゆえに、野生の勘は鳴りを潜め。
さらに『旋風閃影』や親友の術理から、侍女頭のアヤメは『匂い粒子』を認識しており。『魔力を帯びた粒子』が獣モンスターの鼻腔に侵入していく。敏感な鼻の粘膜から、『毛細血管』を侵蝕していき。
刺激臭など比較にならない『臭いの激痛』を、獣の心身に刻み続けた。
『ゴVa・^-ガルG+^』『ヒ、Hi、卑-^-^~』『オオぉー^ーー~!!』
そんなモンスターたちの醜態を目の当たりにし。『魔術造物』たちは訳もわからず、不機嫌になり凶暴性が増すも。与えられた命令を忠実にこなすべく活動する。
ひたすらロゴニアの町へと歩み続け。さらに『敵』を討ち滅ぼす戦力を得るため、倒れたモンスターの死骸を貪り。まだ生きているモノからは、『吸血』によって魔力と『経験値』までも吸い取る。
それによって『クリーチャー』たちの身体は急激に膨れあがり。
『『『・*--?:*^*:*+**/**;*』』』
全身から体液を噴出させた後に、醜く無惨に爆散した。
“魔薬”によってヒトが怪物化するのを、観察すれば一目瞭然だが。『急成長・超進化?』の類は、その身体を作り替えるにあたり。
身体の大部分を『赤子』のみずみずしいそれに変えたり。表皮を溶かし筋肉を膨張させてから、半ば自壊した器官・骨格を『急速再生』したり。取り込んだ“新鮮な肉”をエネルギーに変えるべく、血流を活性化させる。
いずれにしても代謝を促進するため、大量の酸素を必要とし。『呼吸法』も知らない連中は、極めて雑な『皮膚呼吸』を大がかりに行う。
『奏竜焦爪』の放つ風属性の魔力を、大量に吸い込み術中にはまる。
『『『;±`*--^:!*?』』』
酸素を、大気中の『魔力』をいくら吸っても、体細胞にそれらが届かない。届いてもエネルギーを燃焼させる『触媒』に使うことを、『奏竜焦爪』は許さない。そうして恐ろしい『窒息状態』に陥った“禁忌のクリーチャー”は、『酸素がある(かもしれない)細胞』から『大気中の魔力』を奪おうと。墜ちてはいけない、負のスパイラルに陥ってしまい。
正視にたえない“共食い・自壊”を繰り返した後に、最期まで『空気』を得ることはなかった。
ネタバレ説明:『奏竜焦爪』について
『風術』を皮膚に付与することにより、『皮膚呼吸』を止める。『風術付与』の代償で、肌を乾燥させ。鼻の粘膜・口舌・鼓膜や結膜(目)を渇かせて、感覚器を血だらけ・機能不全に陥らせる。
アヤメが使う『結界の魔術能力』です。『結界』は『双竜爪』の術式で華状に描かれ、最終的に球状になる。『地中の空気』にも干渉を行います。
そして天候・風向きにもよりますが。『奏竜焦爪』の結界を起点(砲台)にして、一定範囲に窒息・渇きの突風を吹かせることも可能です。
『使用制限・誓約』があり、『まっとうな外交』を行う相手・勢力には使えません。モンスターや、それと同レベルに殺戮を行う外道を殲滅するためにしか、『奏竜焦爪』は使えないのです。
なお“盗賊ギルド”には穏健派も、一応は存在し。C.V.勢力と和平を結ぶ、交渉を行おうとしている派閥もあるのですが。
イリスもアヤメも、盗賊の『隠行・変装』が透けて感知できる。皮膚の緊張・眼球運動に虹彩など。偵察兵どころか、一般的な『感知能力者』でも不可能な、シーフの『察知・看破』を行うため。
交渉とやらを適確かつ迅速に行わないと。シーフの戦力・幹部に偵察要員が、次々と抹殺されていっているのが現状です。
なお『奏竜焦爪』には、『双竜爪』を省略した。『無詠唱・静音詠唱』で発動する簡易版もあり。
もう少しだけ、恐ろしい『魔術能力・結界』になります。
〔それでも浅野内匠頭をかばう、幕臣がいた。彼らも非常識な人物・武士だというのか!〕と、いう意見を言う方もいるかもしれません。
返答させてもらうと、〔浅野内匠頭に下す裁定を、時間をかけて行うべき・・・と主張した幕臣はまともな人物だ〕と、愚考します。
そして『公平な裁き?』を求めた。〔裁定に時間をかけるべき〕と、主張した幕臣ですが。彼らは『武士の情け』『司法』のためだけに〔裁定を慎重に行うべき〕と、主張したのでしょうか?
私はそうは思いません。彼らが望んだのは〔(暴君)綱吉の短気・勘気で、裁定が下される『判例』を作りたくない〕と、いう。『江戸幕府』という権力争いが行われる場で、自分たちの『お家』を守るために『必要なこと』を行ったと愚考します。
そもそも〔幕府をなめきって、江戸城で再び刃傷沙汰を起こす。勅使の饗応を台無しにする“逆賊”など、磔か斬首でいいだろう〕と、いうように“内匠頭”を攻撃する幕臣がいてもいいはずですが。そういう話は、少なくとも耳にしない。
その理由は“内匠頭を攻撃したら、忠臣蔵のファンにたたかれる”と、いうのもあるでしょう。もしくは赤穂浪士の標的にされるリスクを避けるためかもしれません。
しかし、もっと切実な理由として〔明日は我が身だからだ〕と、愚考します。〔将軍(暴君)綱吉の怒りで首を斬られる前例がOKなら。明日は自分が斬られかねない〕と、いう。その危機感が“刃傷沙汰の現行犯”をかばわせ。出世にマイナスになってでも、『慎重論』を諫言したと愚考します。
そういう『打算』が幕臣たちにゼロならば。〔吉良家の屋敷にいた『男』を皆殺しにしたあげく、吉良上野介公を“斬首”した。どっかの浪人共に名誉の切腹などさせるな〕と、言いたい。
“徒党を組んで屋敷に押し込み、殺戮を行った罪人にふさわしい処刑を行う”ことで、二度と同じことが繰り返されないよう。厳しく処断すべきだったでしょう。




