小者の雷~強襲の後に
昔の転生ゲームに頭一つだけのアレンジ『ケルベロス』を従える主人公がいました。その時は〔かっこいいけど、こんなのケルベロスじゃない〕と、思ったものですが。
今の時代でも三つ首『ケルベロス』を従えるのは楽じゃない。『使い悪魔』として、書くのも動かすのも苦労すること、確定なのに加え。
どういう戦闘スタイルなのかも、いまいち定かでなく。とりあえず『ブレス』は吐くにしても、魔術型ではないでしょう。
だけど『重そう』な頭三つに、敏捷性の高そうな細い狼?の脚を持つ。そんなちぐはぐ『ケルベロス』の戦闘シーンを、私の頭では万能型とはイメージできず。
現世に出現した使い悪魔な『ケルベロス』を〔頭一つの悪魔犬にしたのは英断だなあ〕と、考えます。
羽矢弥から送られた『術式メッセージ』を、下級シャドウのライゾウは読み。ロゴニアの町に潜り込んだ“盗賊”のアジトを、ライゾウは次々と強襲する。元々、地力が違うのに加え、壁を破壊して突入する『雷臨電翔』の猛威に、シーフ共は対応・迎撃できず。
ライゾウはわずかな時間で、“盗賊ギルド”の拠点を壊滅させ。
「次だっ、次に行くぞ!!」
主君が外交を行っているはずの、ロゴニア子爵家の屋敷に向かう。そこには羽矢弥が『八鷹輪舞:終局』を発動させた場所であり。『術式』の負荷・消耗によって、彼女が倒れふしているはずだ。
〔いったいイリス様は何を考えておられる‥-〕
そしてライゾウにとって、不可解なことが起きている。本来なら【聖賢の御方様】と敬意をこめて呼ぶべきお館様が、羽矢弥を“捨て駒”にするような指揮をとっている場所だ。
侍女シャドウは一族の中で、中級以上の『地位』を持っている。とはいえ、その選考基準は〔お館様・姫長様にお仕えする〕ための技能・精神を持っていることであり。侍女シャドウの大半は〔戦闘力の高さ〕を、それほど求められていない。(上位三名+1を除く)
〔それなのに羽矢弥を一人を、屋敷の外で警備をさせるなんてっ・・〕
『八鷹輪舞』は、それなりに強力な『術式』ではあるものの。あくまで『援護』を行うための『術式』であり、単独戦闘などもってのほかだ。相性によっては格下に敗れる可能性もあり、〔『防御・再生力』に秀でたタイプの敵を殺しきれない〕と、ライゾウは分析している。
〔そんな羽矢弥を一人で外の警備をさせるなんて。いったいイリス様は、何を考えているのだ!〕
そんな不満を抱きながら、ライゾウは所定の位置につき。
『雷臨電翔-・ーっ!!』
「っ!?--Tェ`
「ふっ・:~・
『雷臨電翔』による奇襲を、軍勢らしき連中に仕掛けた。騎士の装備をまとい、訓練された動きで、陣形を組んだ騎士たちは集団の力を発揮しており。背後を突いた、ライゾウの突撃にも対応して見せる。
警鐘を発し、精鋭が迎撃の構えを取り。術者が素早く『魔力』を高め。
*/⋰っ!」
・//:*」
次々とライゾウに急所を粉砕される。警戒の声を発する口は、顔面ごとライゾウの『双短棍』によって砕かれ。迎撃のため、背後・頭上にふるわれた槍は空を切り。ライゾウの放つ逆撃の蹴りが、精鋭の腹部をえぐる。
「おのれぇー~-っ」「バカなっ!」「あれほどの修練を積み重ねた、我らが瞬Sぁ`*+;」
達人・英雄の域に至った者なら、ともかく。俗物の騎士レベルでは訓練したこと以上の動作など、まず不可能と言っていい。ましてライゾウの『狙いを定める』行程は、羽矢弥から借りた『八鷹輪舞』の支援によって完了しており。
〔『突撃』→『勢いで攻撃』→『標的の物色』→『照準』→『攻撃』〕と、いう『奇襲』をイメージしている騎士たちに対し。
〔『標的の物色』→『照準』→『突撃』→『予定した攻撃』→『戦況に応じて追撃』〕と、いう流れの『襲撃』をライゾウは行っており。
この『奇襲』と『襲撃』のイメージ差は、戦闘時に致命的な『差』となる。単騎の不利をひっくり返す、『戦闘開始の差』となってしまい。
『雷鈴鐘!』
「こんな所でソルナス王国が・`;バk/*・~*gァガガ・・」
指揮官らしき騎士に『双短棍』が叩きつけられ、そこからさらに『雷鈴鐘』の術式が流し込まれる。それは無防備な『神経繊維』を灼き、精鋭部隊を完全に沈黙させた。
『無双』:それは気持ちのいいものである。数段、格下のザコたちにしか行えないが。己の実力を実感し、敵の努力を踏みにじる。もちろん友人・まっとうな人間相手に、そんな『無双』をできるはずもないが。
〔暴力の住人で、己の正義・欲望のために他者を踏みにじる。“暴行亜人・賊”と同レベルの連中なら問題はない〕と、ライゾウは考えており。そんなルールの観点からすると、今回の亡国騎士を強襲したのは、ライゾウにとって〔とても楽しかった〕と、言える。
以上、楽しい思い出に逃避する時間は終了した。
「御迷惑をかけ。大変、申し訳ありませんでしたぁー;~!」
「いい加減にしろよ、てめぇ^・・」
文字通り地面に額をこすりつけるライゾウに対し、重騎士隊長のゴルン殿は苛立ちを隠そうともしない。
それは〔何度も同じ失敗を繰り返す、愚か者の謝罪に対し。迷惑をかけられ続けているゴルンが正当な怒りをいだいている〕と、いう光景であり。
本来なら敵地であるロゴニアの町で、その中心部にあるロゴニア子爵家屋敷の門前で行うべき、行為ではないのだが。
ひどい迷惑をかけているライゾウとしては、土下座一択しかなく。重騎士隊長のゴルン殿としてはシャドウ一族との『権力バランス』を保ち。部下たちに『特殊外交』を教導するため、こんな“茶番”につきあわなければならなかった。
〔スンマセン、すいません、ゴメンナサイ、申し訳ない!!〕
無論、ライゾウとしては心の底からゴルン殿の部隊に謝罪している。シャドウ一族・・のライゾウと羽矢弥の問題に、まっとうな重騎士たちを巻き込んでしまい。資産・労力や助太刀で償えるなら。ライゾウ個人は、いくらでもそれらを差し出すつもりだ。
「まあまあゴルン隊長、ライゾウさんもこうして謝っているわけですし・・・」
「そもそも騎士が婦女子を守るのは当然のこと。羽矢弥殿が無事でよかったではないですか」
「「・・:・^・・・」」
当たり障りのない言の葉を発しつつ、二人の重騎士が『光術信号』で、ライゾウたちを諫めてくる。それらはごもっともな正論なのだが。あいにくこの状況では通用しない、まっとうな意見であり。
「・・・まあ、良い機会だ。貴様等も知っておけ」
「そうだな・・詳しく説明するよりも、実際に目の当たりにしたほうがいいだろう」
〔〔そもそも『口』で説明するなんて、イヤだしな~〕〕
「「・`・・?」」
首をかしげる重騎士二人の眼前で、ライゾウは魔力を改めて高める。
同時に羽矢弥から半ば押しつけられた、『八鷹輪舞』の効果を放棄した。
・・・とまあ、先人のセンスを讃えるのは、これぐらいにして。
個人的に『ケルベロス』には、もう少し強力な魔獣になってほしい。大英雄とはいえ『ヘラクレス』の戦利品あつかいされたり。ラスボスかと思ったら、不様に敗北する金ぴか『ケルベロス』モドキを、初めて見た時は面白かったのですが。
ギリシャ神話を読んで、ファンタジー好きになった者としては。それらの『ケルベロス』のあつかいは、大いに不満であり。
〔もっと『ケルベロス』を強力で、格の高いモンスターにしたい〕と、考えると。『ケルベロス』の血筋と、日本ではマイナーな外見を活かすしかない。
〔『蛇竜・女怪』の系譜と、『尾が蛇・身体に蛇がからまっている』というケルベロスの外見を活かすべき〕と、愚考します。