重騎士の難事
最強の『犬科(オオカミ)』モンスターが『天狼・氷狼?』ならば。古今東西で最強の『犬』モンスターは『ケルベロス』でしょうか?
冥界の番犬にして、三つ首をもつ大魔獣であり。〔他の『犬』魔獣とは一線を画する〕と、言っても過言ではないでしょう。
人間にとっては脅威の黒犬よりはるかに巨大であり。ヘルハウンドとは比べるのもおこがましい。双頭獣より頭が一つ多い分、ケルベロスが兄貴分な感じがする。
北欧の地獄の番犬である『ガルム』なら、(テュール)神殺しも行っており。『神話』では同格以上かもしれないですが、ネームバリューでは圧倒的に『ケルベロス』が上でしょう。
『フェンリル』が狼モンスター最強なら、『ケルベロス』こそ最強の犬魔獣だと愚考します。
羽矢弥の『風術結界』が崩壊した際。彼女の『八鷹輪舞』を構成する光・音の『信号』によって、ライゾウはロゴニアの町に関する情報を得て。町に潜り込んだ『盗賊ギルド』の拠点を次々と襲撃する。
それはライゾウにとって、無双の気分を味わえる。『合成鹿獣』と戦った時のような、命の危機に瀕することなく。シャドウ一族の戦闘担当として、実力を充分に発揮できる。
はっきり言って楽しい時間だった。
「ッ!?」
『ブライトボール』×2 『ブライトボール』 『ブライトボール』×3
ロゴニアの町に複数の『光球』が打ち上げられる。それらは一見すると、『信号弾の連射』に見えるが。重要なのは本物の『ブライトボール』一発だけであり。
「これは・・やべぇっ!」
なおした田舎チンピラの口調が、ライゾウの口からこぼれ出る。だがライゾウにとって重要なのは『ブライトボール』の符丁が意味する内容であり。
〔急いで援軍を求める〕と、いう内容を目の当たりにし、ライゾウの背中に冷たいものが流れ。
『雷臨電翔・`』
勝利の高揚感から突き落とされる、怖気がライゾウの心胆を寒からしめる。同時にライゾウは迅雷となって、パーティーが開かれている屋敷へと駆け戻った。
ゴルンたち重騎士が聖賢閣下と呼ぶ、C.V.イリス・レーベロア様は間違いなく名君と言える御方だ。
明朗快活にして容姿端麗であり。博学多才でありながら、それを鼻にかけて傲慢になることもなく。
戦場では無双の勇士を圧倒し、策士の奸計を手玉にとり。そして配下の軍団には金で得られない、『恩賞』を惜しみなくお与えくださる。
シャドウ一族が『聖賢の御方様』と呼んで讃えるのに対抗し。陸戦師団も『聖賢閣下』と敬意を込めて、お呼びすることが決定した。
聖賢閣下こそ、理想の主君と言えるだろう。
「「・・・:-・」」
そう告げた時、イセリナ団長と姫長(の扇奈)様たち、二大巨頭お二人の目が泳いだ。
「その忠誠、まさに騎士の鏡と言えますわ」
「‥?・恐れ入ります」
そして見かねたように、黒霊騎士シャルミナ様が割って入り。
「ですが完璧な者など、この世に存在しません。私の魔王様とて全知には遠く。
イリス様にしても、常にあなたたちにとって理想の大将軍・女帝ではいられません」
「それはっ・・・」
聖賢閣下は常人には見えない、未来を見据えている。凡夫のゴルンとは見識の次元が違って・・・
「そういう知力の差について、私が言うことはありません(私は愚かな戦士ですから)」
「ではシャルミナ様は、何をおっしゃりたいのです!」
「イリス様は『ある事』に関して、最優先に行動する。備え・謀り・思案し、考え続ける御方なのです。ですから『ある事』を左右する事案が発生したら。
貴方たち重騎士は、全力で理不尽に抗わなければなりません」
「・・・・っ」
イセリナ団長よりも優雅な立ち居振る舞いをなさる。明らかに貴族階級C.V.のシャルミナ様が、不興を買うのを承知で忠告された。
その言葉はゴルンの胸に棘のように刻まれ。
ロゴニアの町に来て、その忠告を思い出していた。
〔ボクの護衛任務を現時点で中止!重騎士のみんなは、屋敷の外にいる侍女シャドウの羽矢弥ちゃんを守ってあげて〕
〔何をおっしゃいます!御身は我々の・・・〕
〔議論している暇は無い!7級光属性のC.V.イリス・レーベロアの名において命じる!!〕
〔〔〔〔ハハァーー!!〕〕〕〕
こうしてゴルンたち重騎士は、パーティー会場の屋敷から半ば追い出されるように、出撃を命じられ。
主君を敵地に残し、不穏を確信しつつ、羽矢弥殿の護衛をするという、(理不尽な)命令を聖賢閣下から下された。
聖賢閣下をもてなすため、ロゴニア子爵家が開催したパーティーの会場。その屋敷の外では侍女シャドウの羽矢弥殿が消耗して倒れ伏しており。彼女を護衛すべく陣形を組んだ重騎士たちは、襲撃者の猛攻にさらされていた。
『グランドバルク!』×3
『ランドランダー!』×3
敵方の重戦士が『怪力の身体強化』を唱え、重量武器をふるってくる。
それを迎撃すべくゴルンたち重騎士が『重騎士の身体強化』を発動させるも。
不可解な命令によって、士気は上がらず。死に体の羽矢弥殿を、抱えて後退することもできない状態であり。そこに堕ちた元騎士たちが殺到してくる。いかに重騎士といえど、苦戦は免れない。
「・:-:・」
大規模な『魔術能力』の結界を展開させ、意識を失った女性シャドウ殿が倒れふしている。本来なら彼女を護衛するのは騎士の誉れであり。戦友の盾となることに否やはないのだが。
〔イリス様はご無事か・・・やはり俺だけでも、戻って・・いや、敵の撃破を優先すべきか〕
様々な不安が脳裏をよぎり、その対応プランがグルグルと回る。
迷って何も決断できない自分に、ゴルンは情けなくなるが。仮にも子爵家が催すパーティーに同行するだけでも、重圧を感じたのだ。こんな戦況の変化に、脳筋な重騎士が対応できるはずもなく。
「・・・やむを得ん。『ブライトボール』を打ち上げるぞ!」
「何を言っている。援軍に来られる重騎士の部隊など、いるはずが・・」
「我々、陸戦師団ではない!彼女の騎士サマに来てもらい、問題を解決してもらう」
「「「・・:・`・」」」
色々と言いたそうな仲間の視線を無視して、ゴルンは術式の準備にとりかかる。本命の『信号光球を打ち上げるため、魔術陣を展開し。
『迷宮の灯火よ 迷路を照らし影を伸ばせ
伸びた影は惑いて踊り 灯火の迷路に愚者を誘う ダミートーチ』
念のために偽の『ブライトボール』を用意して、偽装を行い。そうして〔フォローたのむ〕というメッセージを送りつつ胸中で思う。
〔お前らいい加減にしろよ〕、と。
もっとも神話において『ケルベロス』は番犬の役目をたびたび失敗しており。現代の作品に登場するケルベロスも中ボスだったり。中の下モンスターあつかいされることが少なくありません。
竪琴の名手オルフェウスの演奏で眠らされたり。大英雄ヘラクレスの最終試練では、虜囚の憂き目にあっています。あげく〔好物の『菓子パン』を貪って、生者を通してしまった〕と、いう断罪されても文句の言えない失態を数回も犯しており。
その失敗の数々が、日本の作品に登場する『ケルベロス』にも反映されているようで。
私が印象深いのは妖怪先生のアニメ『第一話』で、十二使い魔物たちにボコボコにされてしまった『ケルベロス』です。尻尾が『蛇』の外見は立派な『ケルベロス』だったのですが。まだ8人以下なうえに、未熟な使い魔物たちにやられた『ケルベロス』は大いに格を下げてしまい。
後の作品に登場する『ケルベロス』は、そこまで弱くはありませんが。三つ首の合成犬獣が自称『ケルベロス』を名乗っても気にならなくなり。『冥界神ハデス』が悪者だと、それに伴って『ケルベロス』の格・外見も下降していったと愚考します。