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攻城外交

 仇敵『吉良上野介』の首を切り落とすのは、遺体を辱める凶行であり。それを主君の墓前に捧げるのは“カルト宗教”の儀式でしょう。

 殺し殺されの戦国時代なら。あるいは吉良家が主動して、浅野家・“浅野内匠頭”を辱める狼藉を働いたなら、『倍返し』もありかもしれませんが。史実は〔泰平の世に、徳川幕府が処罰した〕、というものであり。『倍返し』はオーバーキルもいいところ。


 四十七士は『ヤクザ映画』ですら、やらない凶行をリアルで行った連中であり。もはや編集では足りず。シーンをカットしないと、“忠臣蔵”は映像化できない有様です。


 さてそんな四十七士の怒りを正当化するネタに、『密偵』の存在があります。〔吉良家が忍者を送って、赤穂浪人を暗殺した〕、という説がありますが。


 もしそんなことを『吉良家・・・』がやっていたら、かなり暗愚でマヌケな一族でしょう。


 江戸時代は『藩』という半独立国家の集合体であり。徳川幕府以外の勢力が〔密偵を送った〕、ということがバレれば外交上の大失点です。

 京・大坂や江戸の三大都市で、情報収集を行うぐらいならともかく。『吉良家』が他所の領国に密偵を送るなど、バレたら宣戦布告とみなされかねない。


 元赤穂藩の領地に密偵を送るのは、吉良家にとって不利益どころか危険ばかり多いと愚考します。

 キマイラエルクの群れを処理した後、イリスは重騎士たちに命じてロゴニアの町を強襲する。

 外交・契約重視などの理由で、今まで見逃していたものの。さすがに魔獣の群れ(キマイラエルク)を創り、けしかける。それに協力するロゴニア子爵の行動は一線を越えており。

 戦争種族C.V.として、イリスは制裁・制圧に取りかかる。


 そうして助かりたければ〔三日後のパーティーで満足するもてなしをしろ〕、と無茶な要求をふっかけた。



 「お願いでございます、イリス太守様!どうかロゴニア子爵家にお慈悲を・・」


 「・・・・・」


 そうしてイリスはロゴニア子爵家の重臣ペテルスの訪問を受けていた。最上級の宿を貸し切りにしたスイートルームの中で、命乞い・家の存続などの様々な『お願い』をされているわけだが。


 イリスたちからすれば〔『キマイラエルク』がもたらす殺戮のリスクを、タダでなかったことにしてくれ〕、という“あつかましい”内容であり。

 〔“侵略者の悪名”に伴うデメリットより、ロゴニア子爵家を見せしめにするメリットが大きい〕、というイリスの考えを変えるモノではなかった。


 〔必要ならばロゴニアの町を破壊し尽くしてもいい〕、という覚悟と選択肢があったイリスにとって。ペテルスの哀願は“厚顔無恥”としか言いようがない。

 何故なら『キマイラエルク』が一体でも、イリスたちの討伐から逃れていたら。大勢の人々が命乞いをする間もなく、蹴り踏み潰され。冒険者がその討伐を行えば、多大な犠牲を伴っただろう。


 イリスにとってロゴニア子爵家(ペテルス)の懇願は〔自分たちだけは助けて〕、という身勝手な要求にしか聞こえなかった。


 「盗賊ギルドが支配する都市ウァーテルに隣接する領主にとって、彼らに逆らうのは破滅と同義です。イリス太守様には、そこのところをご配慮いただきたく・・・」


 『弱小勢力の悲哀』というものがある。『歴史書』を読むだけ(・・)の者にとって、『弱小勢力』の〔長いものには巻かれろ〕という行動原理は“卑劣・姑息な裏切り”に聞こえる。

 とはいえ小領主たちも生き残るのに必死であり。上の都合で“捨て駒”にされる下位貴族にとって、自らの家を守る事が最優先だ。彼らからすれば〔忠誠を得たいなら力と器を示せ〕、と言いたいだろうが。


 「別に小領主の『生存戦略』をあげつらう気はないよ。〔“盗賊ギルド”に従っていた事は不問にする〕


  だけどたった一夜で敗れた、わかりやすく弱い(シーフ)ギルドに迎合する。趨勢すうせいの判断はできない。ボクたちC.V.勢力が甘ちゃんだと考え、侮るなら。

  “見せしめ”が必要じゃないかな」


 「「「「・・^:^・・!!」」」」


 「--:・~・・ッ」


 イリスの言葉と同時に、護衛の重騎士たちがペテルスに威圧をかける。

 その威圧・・にペテルスはひるまなかったものの。重騎士たちに主君イリスの意向を止める気がないことを、まざまざと見せつけられ。

 ロゴニア子爵家の危機的状況を改めて、思い知らされた。


 そんなペテルスに対し、イリスはチャンスを与える。


 「まあいきなりやって来て〔三日後にパーティーでもてなせ〕、というのは無礼な行為と言える。

  だから特別にパーティーの猶予は七日後にしてあげる」


 「七日・・・っ」


 『魔薬』・『大量殺戮キマイラエルク』に関するペナルティを中心に考えるなら。〔即日、攻め入ってロゴニアの町を落としてもいい〕、とイリスは考えている。

 しかし上は国王、下は村人の『人間』たちは、それを聞いてどう思うか?


 おそらく〔『キマイラエルクの群れ』が襲いかかってくる〕、という話は“侵略の口実”と考えられる。

 そもそも『キマイラエルク』の屍体(物証)は地面の中に埋めたのに加え。現在進行形で、人間社会ロゴニアに攻撃を仕掛けているのはイリスであり。既存の秩序・権力者の地位を脅かすのもC.V.勢力イリスだ。“盗賊ギルド”や魔獣の屍体では無い。


 「三日の期限が、倍以上の七日に増えたのだから。当然、パーティーでのもてなしぐらい、成功させられるよね?」


 「・・・もちろんでございます。イリス太守様のお慈悲に感謝いたします」


 だからイリスは配慮をしなければならない。非戦闘員が逃げて、財産を持ち出せる時間を与え。

 

 

 ロゴニア子爵が『契約』を破って醜態をさらす。無駄な抵抗を行うための〔準備期間を得られた〕、と思わせる必要があった。







聖賢の御方(イリス)様に忠誠を誓い、お仕えしているシャドウ一族。敏捷性・感知能力に優れた者が大半を占めており。その能力は荒事・汚れ仕事をこなすのに向いている。


 〔ボクはみんなに“汚れ仕事”をさせる気はないよ〕


 ただし聖賢の担い手である、お館様の決定により。シャドウ一族は暗殺・陰謀の類を実行することに制限をかけられていて。その力は“盗賊ギルド”の“悪辣な企て”を打ち破ることに終始している。


 “鬼畜っ、悪魔っ、間接的に陰b`*-~ーギャ/*!”


 “陰謀”を破られた“シーフ連中・負け犬”がナニかをさえずっていますが。“二重基準ダブルスタンダード”で〔騙されるほうが悪い〕、と言っている“連中”の戯言など聞くに値せず。

 ソレらは反面教師として、シャドウ一族は〔襟を正して〕いくべきでしょう。


 とはいえ〔全く“陰謀”に関わらない〕と、いうのはいくさにおいて不可能な話であり。



 『疾風の爪にして刃の狩人  空陸水の場で狩猟を行う、自在の空舞い


  八の葉より出で来て廻り  槍より速く、獲物を狩りし飛矢を追い抜け!・:・・八鷹はちよう輪舞りんぶ


 侍女(中級)シャドウである羽矢弥はやみの『詠唱』によって、空に刹那の『ゆらぎ』がうまれる。そこから一陣の風が吹いて、『旋風』となり。『風属性』の魔力を帯びた、数羽の鷹の『使い魔』を出現させた。


 『この町から出る、小さな獣を全て仕留めなさい』


 『『『『ー/-・~:ッ!』』』』


 羽矢弥の命令に従い、『使い魔(タカ)』たちはロゴニアを囲むように配置され。手紙を運ぶ『伝書の鳥獣』を狩るべく、その目を光らせた。



 『伝令・伝書の鳥獣』を狩りほふる。それはシャドウ一族に例外的に許された『裏の仕事』の一つだ。


 都市ウァーテルに巣くっていた“盗賊ギルド”。その正体は各国の“裏組織”が連合した集団であり。一時的にウァーテルを軍事力で陥落させても、即座に周辺勢力から袋叩きにされてしまいます。

 そのためシャドウ一族は徹底的に『伝令・伝書鳥狩り』行い。各国の組織が連絡・連携するのを、少しでも遅らせるべく奮闘しました。


 『八鷹輪舞』は、その際に編み出された『術式』の一つであり。訓練された『伝書鳥』や『伝書使い魔』を始末することに特化した、『使い魔(タカ)』を創り、操り、輪舞させる『術式』です。


 

 〔とはいえ『鷹』たちに、頼り切りというわけにはいきません〕


 ロゴニアの町に侵入した時点で、羽矢弥は『馬』の数・厩舎を調べ上げており。その次に伝令を務められる『馬術』を会得した者の目星はつけた。


 『-/-・・:ッ・』


 あとは『使い魔鷹』たちの知らせを待てばいい。


 羽矢弥は『結界陣(この町)から出る、小さな(伝書)獣を全て(探し)仕留めなさい』、と『八鷹の式神』に命じた。

 それは『使い魔鷹』たちがロゴニアの町を『狩り場』としている。鷹の目で隅々まで見渡し、小さな動き・獣すら見逃さない『監視網』をしいているということであり。

 そのため手頃な獲物(小さなケモノ)として大きな獣を襲いはしないものの。伝令に走る『早馬』を見逃すはずが無く。


 『加速の身体強化(センプウセン)!』


 「・・-/*/ッ」


 “山賊”のように『伝令の早馬』を強襲し、切り裂き、懐中を探る。そうした“汚れ仕事”を羽矢弥は数回くり返し。


 「聖賢の御方様。こちらが今日の『獲物』でございます」


 「・・・ありがとう羽矢弥。『奇跡』を期待したけど、結論は出たかな」


 そう告げて、お館(イリス)様は悲しそうにまぶたを閉じた。






 そして数日が過ぎた、約束の期日。


 「ようこそ、お越しくださいましたイリス太守様!!今宵は良い夜を、おすごしください・;っ」


 「「「「・・-+・・」」」」


 ロゴニア子爵が開いた、精いっぱいのパーティー。それは予算の少ない葬式のように、うらぶれた雰囲気が漂っていた。

 

 「ふ~ん、これが子爵家のパーティーかぁ。もう少しぐらい、豪華なのを予想していたけど。

  だいぶ質素な集まりだね」


 「聖賢閣下の仰る通りでございます」「このようなパーティー、お館様にふさわしくありません」

 「「「「・`・`・・・」」」」


 イリスの言葉に重騎士たちと羽矢弥が迎合する。もっとも彼らは人種族(ひとしゅぞく)の貴族パーティーに出席したことなどなく。本音は主君イリスが“毒殺”されるのを警戒して、“悪口”を並べ立てているにすぎない。


 〔まあボクは“毒物”を視れるし。みんなに『毒味』をさせる気はないけど〕

 

 イリスは『内緒話』を行い、精密・迅速な用兵を可能とする『光術信号フォトンワード』の術式があるが。

 人間を含め、特化型の感覚能力を持つ獣をあざむく『術式』は『フォトンワード』だけではない。

 何故なら普通の生物が視認できる『色素』は少なく。イリスはその『視認できない色素()』で、いくらでも『術式』を構築できるのだ。瞬時に、無詠唱(瞬きの『静音詠唱』)で、多段並列の『魔導』を行使できる。


 そのためたいていの“毒物”なら『解析の光術(アルゴスアイズ)』で看破できるし。万が一その解析を逃れても、稀少で強力な『毒』は独特の魔力を帯びたり凝縮している。それらを視れば“毒殺”は不可能であり。


 「みんな、警戒しすぎだよ。ロゴニア子爵は貴い血族なんだから、“卑怯”な手を使うハズないじゃないか。〔まあ配合によって毒素を発する錬金物質は、いくらかあるけど〕」


 「お館様が、そうまで仰るなら・・・」「では失礼して、毒味役を務めさせていただきます」


 「「「・・・・-っ」」」「無礼者めらが・・」「“魔女”の取り巻きごとき・・+;」


 そんな陰口をたたく連中の顔色は青い。彼らはロゴニア子爵家の陪臣なのだろうが。

 『伝令狩り』を行う、羽矢弥の『八鷹輪舞』によって驚かされ。〔ロゴニア子爵家に関わる者は、絶対に逃がさない〕、という通告を行う重騎士たちによって、逃走手段を破壊されてしまい。


 彼らは嫌々、このパーティーに出頭したのだろう。そんな連中が出席する宴が平穏に終わるはずもなく。


 〔八鷹輪舞〕


 羽矢弥の『使い魔鷹(術式)』が窓枠をかすめる。それは不毛な暗闘の始まりでもあった。

 では、どの勢力が『大石内蔵助』の周辺に探りを入れたのか?断言したらブチ切れ浪人と同レベルになってしまう。それは嫌なので、『元赤穂藩の領国に、人を送ることが可能な組織』、を推測・・のみします。


 まず本命は『江戸幕府』でしょう。忠臣蔵の討ち入りの後に、“士道不覚悟”と難癖をつけて『吉良家』を取り潰した。『吉良家』が邪魔だったのか、領地が欲しいのか、その両方+αなのか。

 知る術はありませんが、“徳川綱吉”にとって“討ち入り”は嬉しいことであり。“カルト儀式”までやらかした四十七士に〔武士として死ねる切腹〕を命じています。

 まあ密偵を送った証拠はありませんが、さすがにクロすぎるでしょう。忍者を送って、大石内蔵助を挑発した可能性は高いと愚考します。



 そして対抗馬は『浅野家本家』でしょうか。同じ浅野一族なわけで、人のつながりから探りを入れても問題なく。〔“討ち入り”はテロルな違法仇討ちだ〕、というまともな裁定が出ていたら。“四十七士”は磔になり〔『本家』は監督不行き届きの“まきぞえ”で罰せられてしまう〕、という危機感から忍者を送って探りを入れていた。


 もしくは浅野分家が再興した場合、本家に監督責任がのしかかってくるのを嫌がった。別に職務怠慢とかではなく。〔お家の安全・名誉=やらかした藩の監督責任〕などというものは、本家だろうと背負いたくないわけで。


 密偵忍者を送った容疑者勢力は、この二つであり。『吉良家』を犯人とするのは、“大石内蔵助”の思い込みだと愚考します。

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