キマイラの代償
“忠臣蔵”を正当化する際の主張に〔ケンカ両成敗〕、というのがあります。
そして私の推測ですが〔赤穂浪士と吉良上野介との『戦』なのだから。装備に差があり、奇襲を仕掛けるのは、戦場の流儀だ〕、という考えで四七士は動いており。〔敗北したら、何もかも失ってしまう〕、という強迫観念もあったと愚考します。
“忠臣蔵”を否定する者としては〔それなら同じコトをされても文句はないですね〕、と言いたいですが。今日はそれをこらえて、四七士を【告発】します。
劇・小説において。程度の差こそあれ、赤穂浪士たちは礼節のある“配慮の士”と扱われていますが。そんなことは絶対にありえない。
四七士、あるいは四十六士は、越えてはいけない“一線”を踏み越えた。〔ケンカ両成敗〕の理屈を自ら否定する、“カルト儀式”をやらかしています。
『キマイラ』:それは厄介な魔獣だ。三つある各頭部から、多彩な攻撃を行うのも脅威だが。
厄介なのは、その“屍体処理”である。金銭に縛られず、素材採取が『神秘』の域に達している『英雄大戦』の人物ならともかく。
只人にすぎない勇者・冒険者たちは、下手に『キマイラ』の体を解体するわけにはいかない。肉の臭みが三種・三乗倍なのはともかく。三種類の異なる頭部を合成している体液は『混沌』の溶液であり。
採取のリスク・難易度に比べ、利益は微々たるものだ。はっきり言えば菌類・毒素の『キマイラ』が誕生するリスクを考えれば、早急に処分するのが賢明な判断と言える。
そのため各領域のダンジョンでボスを務めることは無く。知名度に比べ、使役されることは極めて稀なレアモンスターと化している。
それは亜種の『合成鹿獣』も同様であり。
「そういうわけだから『キマイラエルク』の屍体は、地中深くに埋めてしまうよ」
「「「「「「「「「・:・-・・」」」」」」」」」
「なりませんっ!イリス様!!」
C.V.イリスと陸戦師団の重騎士たちは『キマイラエルク』の群れを撃破したものの。その屍体の処理は滅却一択であり。しかも万が一にも屍体が地中で『融合』などしないよう。複数の穴を掘ってから、地中に屍体を一体ずつ『封印』する必要があり。
「急いで『キマイラエルク』の屍体を埋めないと、夜になってしまう。
だったらボクも汗を流して・・・」
「「「絶対に駄目です」」」「言語道断でございます」「この命をかけてでも、お止めする・・!」
〔将自らが部下たちと一緒に、穴掘り・埋設作業を行う〕、という意向は重騎士たちに総出で止められ。イリスは仕方なく、地面の掘削を監督する。
〔まあ、重騎士の疲労がピークに達した隙をつく。日が落ちてきたら、胸をはって手伝えばいいか〕
「皆の者、覚悟はいいかっ・・」「「応っ!!」」「「「「「「「やるぞっ・^・!!」」」」」」」
そんなイリスの不届きな思惑を察したのだろう。円陣を組んだ重騎士たちの半数が、腰のポーチから『魔術薬剤』を取り出し。
「「「「「後は任せろ・・」」」」」「頼んだっ!」『『『『ベースビルダー!!:!』』』』
「ちょっ・・!?」
イリスの知らない『身体強化』で、重騎士たちの身体が膨らむ。筋力を最優先に『強化』したのは明白だが。
『アルゴスアイズ・-:』
その術式にイリスは素速く『解析』をかけ。『身体強化』の反動予測に一瞬、顔を引きつらせた。
「だいぶ、筋肉痛(及び腰痛)になる術式だけど・・・この仕込みは義妹かな?」
「滅相もございません。土いじりぐらいならばともかく。
【旗頭】が“邪妖獣の腐毒液”に触れるなど看過できません」
『『オオッ!!-・!』』『『:・-エスッ!!』』『『オオッ!!-・!』』『『:^・エスッ!!』』
『ランドランダー』よりも、さらに建設工事に特化した『身体強化』が地面をえぐり。それで出た土砂を相方の巨漢が、一箇所に積み上げていく。
それを目の当たりして、イリスは『術式』を発動する。
「『アルケミックライト』・・この『術式』はサヘル君が一番、使えることにしていたかったのだけど」
「サヘル殿にかぎって、聖賢閣下に不満をいだくことなどございますまい」
「ボクが『錬金光術』の〔盗作はイヤだ〕、と言ってるの。こういうのは手順や対価を払って、コピーさせてもらいたいんだけど」
そう言いつつ、イリスは周辺の『物質』に次々と『比重操作』をかけていく。『キマイラエルク』の体液が、気化・飛散しないよう『光子』を付与し。
掘削する『土砂』は運搬しやすいよう。石と砂礫が分離しやすいよう『浮遊する光』をかけて一部を軽量化させ。さらに『キマイラエルク』の神経系を『フォトン』で覆い、バラバラにした『合成獣』の再結合を阻害する。
『視覚』メインの『光術能力』を使うイリスだが、『神』に請い願う『神聖魔術』は一切使えず。『アルケミックライト』の乱発という、一時的な『封印』しかできない。
「今はまず君たちのことだよ。『認識変動』をかければ、すぐに『ベースビルダー』のコツを『認識』できるけど。
そういうのはイヤそうだから。痛い思いをして身につけるのを、見物してあげる」
口で重騎士と話しつつ、イリスは『瞬き・眼球運動』で『アルケミックライト』の術式を紡ぐ。『視線』はイリスが認識した、『キマイラエルク』の急所に精密な『光子付与』を行い続け。
「一気に作業をこなす。日没前に片付けるぞ!!」
「「「「「「「「「オオォッーー!!!」」」」」」」」」
重騎士隊長の号令によって、さらに作業ペースがあがり。
時を置かず、イリスたちは野営の準備にとりかかった。
都市ウァーテルの近隣にあるロゴニアの町。その門前は突然の来訪者たちによって、不穏な空気が漂う前線と化した。
「何者だっ、名を名乗れェ-・・」
「聖賢の担い手であるイリス・レーベロア様の来訪である。門番共よ、速やかに門を開けぇー!!!」
「「「ヒィっ・:`」」」
ただし前線ではあっても戦場ではない。勝敗は既に明らかであり。あきらめの表情で陸戦師団の指示に従う門番はマシなほう。
腰が引け、腰が砕け、腰が抜けそうな者たちは、無意味な命乞いをつぶやいていた。
「・^・・-・・」
しかしイリスに重騎士たちの強行を止める気はない。ロゴニアの町は『キマイラエルク』を始めとする、“魔薬関連”の流通拠点であり。外交上の理由で見逃してはいたものの、今回の『キマイラエルク』の件は越えてはならない“一線”をこえた。
『キマイラエルク』の群体は、老若男女を問わず殺戮を行う怪物暴走も同然であり。それに関わった領主一族は、“見せしめ”になってもらわねばならない。それが戦争種族C.V.の『○ーL=:~*』であるイリスの判断であり。
その『制裁』の序盤戦を重騎士たちに命じた、イリスが止める理由などなく。
「ア、アァッ・-;・」
「・・・なんだその槍は?我らの行動を妨げる。領主との面会を妨げるつもりかぁ?」
「ち、違・;・・」
「消えてっ:+失せろぉーー!!!」
「ひィっ・~*ー」
『無双』などという、ご立派なものではない。古代軍師が“下”とした〔百の力で敵を蹂躙し圧勝する〕、という愚行をイリスは重騎士たちに命じ。彼らはそれを忠実に実行した。
そうして警備兵に続き。騎士が率いる部隊も、瞬時に壊滅させ。
「お初に、お目にかかります。(一応)7級光属性のC.V.イリス・レーベロアと申します」
「・・+;・我がロゴニアを治める、領主のメイツェン・ロゴニア子爵である」
そして数分後・・イリスは外交で使う『口調』で、領主との面会をはたしていた。
逃げる間も与えず、屋敷を囲み。護衛を蹴散らし、執務室の扉を蹴破ったものの。勝者が〔面会〕、と言えば“脅迫外交”も『面会』となる。
「まずはこんな野蛮な手段で、執務室に押し入ったことを謝罪します。
なにぶん急を要する話でしたし。どこに“盗賊ギルド”の密偵が潜り込んでいるか、知れたものではありませんから。
少しばかりなでて確認しました。これは些少ですが傷ついた兵隊への見舞金です」
そう告げてイリスは金貨の袋を渡すも、ロゴニア子爵の表情は青ざめたままであり。
そんな領主貴族が望むモノを、イリスは与える。
「心配なさらずとも、兵士たちの命に別状はありません」
数ヶ月の療養が必要で、今日の敗北がトラウマになってしまい。
加えて兵隊に紛れ込んだ“賊”は、しっかり斬り伏せ“血の海”ができたけど。ロゴニア兵士の命だけは助けている。
「-・:`〔役立たずどもがっ!〕」
「おそれながら聖賢閣下。メイツェン殿が欲しい言葉は、別にあるようでございます」
「ンーー^~ああ、領主の地位が大事なんだね。心配しなくとも、正式な領主が治める町を、安易に侵略なんてしない。もちろんオマエの“首”に興味なんてないよ」
領主の『目』から心情を読み取ったイリスは、外交用の言葉づかいを投げ捨てる。そうして“この事態”を引き起こした元凶に、敗者の立場をわからせる“横柄な口調”に切り替えた。
なお都市ウァーテルは“弱肉強食”に支配されていたから、イリスも強攻策をとったが。『契約』を重視するC.V.としては“力こそ正義”などと言い放つ気はない。
古代軍師ではないが、イリスもまっとうな人間に対しては〔五分、六分の勝ち〕をよしとする。
「・-^:^そうか。どうやら互いに誤解があったようだ。これを機会に、イリス殿とはよしみを結びたいのだが」
「「「「・`:^・・・」」」」
ロゴニア子爵の“戯れ言”に、護衛の重騎士たちが半眼になる。
この後におよんでコイツは“盗賊ギルド”との同盟がバレていない。“魔薬の材料”やら諸々の悪行に〔C.V.は気付いていない〕と思っているようだが。とっくの昔に義妹の『魔術能力』によって調べはついており。
いづれ処断する予定が、『キマイラエルク』の“件”で今日に早まった。その状況を“暗愚な領主”は理解しておらず。
イリスはあきれかえったが、同時に粛々と報復を執行すべく、動き出す。
「ところでロゴニア子爵。悪事に手を染め、周囲の“穢れ”を集めた“小者”には、くだらない『天罰』が落ちるとか。オマエのトモダチとか、同じ穴の狢でしょうし。
『気をつけたほうが、いいだろうね』」
「無礼なっ・・少しばかり勝ったからと言って、調子に:+・」
「「「「・・・・」」」」
重騎士たちの威圧に、ロゴニア子爵の言の葉が尻すぼみになっていき。
「まあ、くだらない話はこれくらいにして・・・仲直りの『パーティー』でもやってみようか。
貴族は『パーティー』を開いて、己の権勢を誇示するとか。ボクにそれを見せてみてよ」
〔パーティーで力を誇示できたら、見逃してあげる〕
「「「「・?・・-??」」」」
イリスの意向を察した重騎士たちは首をかしげるも。ロゴニア子爵は藁をもつかむ思いで、それに賭けるしかなく。
「よかろう、パーティーの日を楽しみに待っているがいい!」
「ボクも暇じゃないから。三日後でお願い」
「なっ・・・」
こうして『狂宴』を開く約束がとりかわされた。
赤穂浪士四十七士がやらかした“カルト儀式”とは、“吉良上野介の首を切り、主君の墓前に捧げたこと”です。
殺し殺されの『戦国時代』なら。“放火・連続殺人”を行った凶賊ならば、斬首のうえ“さらし首”も江戸時代の『刑法』なら仕方ないかもしれません。
しかし“浅野内匠頭”は松の廊下を血で穢し。勅使の饗応を台無しにしかけ。泰平の世を台無しにしたかもしれないのに〔辞世の句を詠んで、切腹した〕、という最期です。
それに比べ〔吉良上野介が寒空に殺された〕、というのは百万歩譲って武家社会の理不尽と考え。吉良上野介が屋敷の防備をしっかり固めなかった、落ち度・諦念のためだとしても。
他の『仇討ち法』に則った、正式な仇討ちならあり得ない。“敵を斬首する”“その首を墓前に捧げる”などという蛮行は、許されざる“邪教の儀式”です。
そもそも“死体に鞭打つ”のは忌避される凶行であり。憎い仇でも、『埋葬』は普通に行われるよう。〔仇の髪を切って、持ち帰る〕のにとどめるのが『節度』というもの。
何より江戸時代は『風習・縁起』が山ほどある太平の時代であり。『呪術・霊的』におぞましい、“首斬り”“墓前に捧げる”など許されない凶行です。
まあ色々と理屈をこねましたが、シンプルに想像してみましょう。自分の大事な恩師・ペットや身内の『首』を斬られ、持ち去られたら。〔首は後で返したから問題なく埋葬できるな〕、と言われたら。私なら激情のまま動きたくなります。
“忠臣蔵”では紳士的な、誇り高い『武士』として“赤穂四十七士”は描かれていますが。まともな武士なら(吉良家の息子が養子に入っている)近くの上杉家の屋敷に、吉良上野介の遺体を引き渡す。引き取らせるべきであり。
吉良上野介の『首』を切り落した時点で〔四十七士は忌むべき“独善のテロリスト”に墜ちた〕、と言わせてもらいます。