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27.侵略の条件

 人間の属性による制限はゆるい。私がそう考えたのはある魔術師を知ってからです。


 その魔術師は自己申告では才能に乏しい『火属性』だとのこと。

 それなのに後継者の娘に対し、魔術で宝石の加工・変形を余裕で披露して見せた。ほぼ最強と言える半神を召喚する『キーアイテム』を見出し、その行動をそれなりに誘導してみせた。


 火属性の凡庸な魔術師。〔そんなわけがあるか〕と思いました。

 『魔術』が世界を動かし、人が『術式』を使える世界において。盗賊たちの地位は低い。

 いくら忍び足を使っても『魔術結界』を抜けることはできず。そして『透視・遠見』の魔術を使われれば、シーフはたやすく捕捉されてしまう。

 『魔物』を使役されれば、それら前述の二つに加え。追跡・逃げ足に夜間の行動まで、圧倒的に不利になってしまう。

 さらに密偵職が常に命がけなのに対し。魔術師は再戦の機会がある状態を、“不利”という表現ですませられる。


 

「目標捕捉」「ターゲットのカオスヴァルキリーを結界路に誘導」

                  「C.V.の属性が光である確率95%」

「『闇属性』の魔石を術式砲に装填せよ。攻性術式ダークボルトの詠唱を開始します」


 そんな世界において、悪徳の都ウァーテルを築き上げれたのは奇跡に近い。周辺各国のパワーゲームに干渉して。利害を調整して飴とムチを巧みに操り。呼吸するように脅迫とワイロをばらまいて、ウァーテルの存在を貴族どもに認めさせる。


 その結果、暗黒街の盗賊ギルドこそがトップに立つ不夜城が完成した。


 「ダークボルトの詠唱を完了。壊陣魔導アビスドライブの完成まであと3分!」

 「もっと急げ!このC.V.が移動系能力の持ち主ならば、回避・逃亡の可能性があるぞ‼」


 その不夜城では金、奴隷と情報を操る、闇のボスこそが帝王であり。『魔術師』は傭兵の一兵種に過ぎない。金と触媒を融通する、盗賊ギルドの下で働く『護衛』の一員だ。

 そんな魔術師や騎士くずれを利用し、彼はC.V.数十人を時には暗殺し。ある時は破滅させ、奴隷へと貶めた。


 人の力、闇の住人の力を知らしめたのだ。


 「アビスドライブの構成が完了。いつでもいけます!」「照準を上方に修正。売女が跳んで逃げるぞ!外すなっ!」


 だから今もこれからも勝ち続ける。その決意と未来を夢見て彼は『闇の魔術』を撃ち放った。






 『発光』による通信を行う、『フォトンワード』という術式がある。特定の『術者』同士と一定方向・位置からしか、意思疎通ができない。『秘匿会話』をイリスとその護衛二人(ウルカ・サキラ)は交わしていた。


 〔『イリス様・・本当になさるのですか?御力の『アルゴス・ゴールド』を使えば、もっと安全に勝てるでしょうに〕


 〔『アルゴスゴールド』はもちろん使うよ。だけどボクたちがウァーテルに居つくならば。

  少しぐらいのリスクは許容しないとね〉


 イリスとその配下であるシャドウたちは、都市ウァ-テルに侵入した。そんな彼女たちがこの都の支配者となるためには、いくつか達成すべき条件がある。

 その一つは【名声】だ。それも騎士が誇る【名声】では足りない。住人に認められる種類の強さ・『戦闘方法』を見せつけ(・・)なければならないのだ。


 だから護衛を装いつつ、ウルカたちは素手による戦闘方法をメインとした。本来の武装である『東方曲刀・魔術能力』の類を封印し。血の海を作るのは最小限に抑える。盗賊の上位互換を装いつつも、“刺客・アサシン”と混同されないよう。シャドウ一族たちは素顔までさらした。


 〔だけどここで広域魔術を使われて死体の山ができればそれらは全て無駄になる。

  

  [『広域魔術』を使ったのは魔女C.V.だ。それを迎撃するため、やむをえず禁断の力を使った]


 こんな“捏造流言”だけで、十分ボクたち侵略者は悪者になるよ〕


 〔そうでしょうか?確かに一時的な悪評は流れるでしょう。ですがそれはあくまで一時的なもの。

  御身の『聖賢』をふるわれれば、民の暮らしも向上し。不満をさえずる者など消え去るでしょう〉


 確かにウルカたちの言う通りkもしれない。

 『攻城戦』において〔攻め手が勝利する〕。〔イコール“略奪・暴行”の始まり〕というのが、この世界の戦争だ。

 それに対しイリスたちの所属する軍勢は“略奪”禁止どころか。〔山賊の凶行は唾棄すべき愚行だ〕という教育が行き届いている。補給・恩賞の心配もないため、“略奪”を行って糧を得る必要がない。


 〔だけどこれは戦争だからね。盗賊ギルドに隙は見せられない。というより盗賊連中の思惑を外し、度胆を抜くぐらいでないと。


  奴らが予想する範囲内で動いていたら。一時的な攻撃をしのげても、延々と今まで通りの“共食い”戦争を続けるだけ。“闇討ち”・間接的だけど確実に大勢が破滅する“陰謀”を乱発し続ける。


 その“鎖”はここで断ち切らないと〕


 『光術信号フォトンワード』で発せられる、イリスのセリフに音はない。だから『声の調子』でウルカ、サキラに訴えかけるのは、物理的に不可能であり。説得は難しいはずだった。


 〔〔かしこまりましたマスター!微力ながらお手伝いさせていただきます〕〕


 にもかかわらず二人はイリスに従う。敗北・破滅のリスクを百も承知しながらも。危険の先にあるモノを求め、彼女たちはイリスの援護に入った。

 まあその魔術師は裏切りによって敗北するのですが、アレを見破るのは誰でも無理でしょう。未来から過去を観測でもしない限り。

 ただ「戦いの勝敗は準備段階で既に確定している」という言葉が絶対なら、彼は勝利し望みをかなえ・・・・・られそうもありませんね。魔術師・怪物との抗争なら勝てたでしょうか。うっかりがなければ。

 そんな理不尽を教えてくれた物語でした。

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