策謀の種火:ペットガーデン
『かぐや姫』はしつこい貴族たちの求婚を断るため、難題を出しました。
それらは古今東西の『結婚の試練』とは大きく異なる。
〔穀物を種類ごとに分けろ〕〔度胸を見せろ〕、という感じに個人の知勇を試すだけ。周囲・都市を巻き込まない試練と違い。
周囲を巻き込むほどの災いをもたらす『秘宝』を、かぐや姫は求め。それを求婚者たちはノコノコ集めにいくという。正気を疑いたくなる内容でした。
そんな試練の中でも、『仏の御石の鉢』と並んで災厄をもたらすのが、『龍の珠』でしょう。そもそも『珠』を持つ龍となれば、上位『龍』であり。『水』を司る超常の神秘です。
物語では求婚者の一党が舟に乗り、『龍』に挑んで返り討ちにあっていますが。もし『龍』を本気で怒らせたりしてれば、港・沿岸部も巻き込まれ。
加えて億に一つでも『龍神』から『珠』』を奪っていたら。『龍神』は水を司る役目をはたせず。日本中に“水難・干ばつ”をもたらす大災厄を引き起こしかねない。
かぐや姫の出した『試練』は、そういう類のモノだと愚考します。
都市ナーガムにある冒険者ギルドの建物。その要である『アルケミックホイール?』『壮健の杖?』は、冒険者たちの肉体疲労をケアする。足の遅い職種を思いやり、蓄積した疲労を排出させ。冒険者たちに活力を取り戻させる。
〔ですが両方とも『遺跡・迷宮』を探索して得られた、神秘の秘宝ではなく。あくまでシャドウ一族の侍女頭様、上位C.V.様たちによる合作にすぎません〕
そしてお二方にとって『職人』は本業ではなく。維持・整備については、ポプリスたち下位C.V.や冒険者の人脈に委ねられており。
現状、眷属C.V.のポプリスが中心となって、『アルケミックホイール?』の維持管理を担っている。
『犬たちの駆ける草葉は 日の匂いと微風に舞い
猫たちの休める木陰は 安寧の闇に微睡む種よりいずる
されど疲労の泥水は回り巡り 一時の庭園にあるのは、刹那の場所のみ 犬猫の幻影庭園!!』
こうやってポプリスの『魔術能力』を『アルケミックホイール?』の魔術円に充填する。そうすることで『芳香療法』の結界を、冒険者ギルドの一棟を占める『保養所』にはり。
音波・電磁波や振動でマッサージを行う、『壮健の杖』による効能を増幅させるわけだが。
〔お許しください、最上級のC.V.様。この『保養所』を成功させ、軌道に乗せるため。コレはどうしても必要なことなのです〕
胸の内でそう唱えながら、ポプリスは『アルケミックホイール?』の記録を閲覧する。本来は肉体疲労を垂れ流し過ぎて“ショック死し”ないよう。
『安全装置』を発動させるための記録なのだが。
『壮健の杖』によって奇声を発し、肉体の疲労を排出したものは問題ない。そんな冒険者たちの身体情報を流し読みにして、ポプリスはその記録を抹消していく。
〔これはっ・・・見つけたわよ〕
まずは『芳香療法の結界』に抵抗して、緊張をしたままの冒険者を割り出し。そこから肉体ケアの数値を精査していく。
脈・発汗の量に、魔力量など、精査すべき情報はいくらでもあり。そこから不自然な数字を割り出して、本物の冒険者なのか見当をつけていく。
〔薬物・魔術による抵抗を行っている者。たいした疲労も無いくせに『壮健の杖』を受けて、探りを入れる者。
この記録だけを信じるわけにはいかないけど、密偵をあぶり出す目安にはなる〕
“盗賊ギルド”の密偵だけでなく。軍隊・魔術師など『壮健の杖』に興味を示す勢力はいくらでもあり。それらの“ちょっかい”に対し、後手に回っているようでは冒険者ギルドの実力を疑われてしまう。(はっきり言えば、ただでさえ低い信用が最底辺まで落ちてしまう)
だからイリス様が『遠見・透視』による“のぞき見”を嫌っており。プライベート情報をあさることを禁じていても。
〔弱い冒険者ギルドが、少しでも対等な交渉を成立させるために。これは必要なことなんです〕
イリス様の制裁に怯えながらも、ポプリスは胸中で〔必要なこと〕、と唱え続け。怪しい冒険者をピックアップする。
その結果、持病・古傷に【妊娠】など身体的な問題?が判明し。“薬物の摂取”が疑われた者も、精神が肉体に影響を及ぼしているという、貴重なデータが取れた。
「・・・・・それで?」
「お叱りは後で、いくらでも受けます。どうか私の提案を聞いていただく、猶予を頂きとうございます」
「覚悟ができているのなら、時間を与えましょう。ただしくだらない内容ならば、制裁はより苛烈になると心得なさい」
そうしてポプリスは、『アルケミックホイール?』の記録から読み取った内容を、黒霊騎士様へ報告した。
「これは、いったいどういうことだ!」
都市ナーガムの地下牢の一室。窓のない小さな灯りがあるだけの牢獄で、厳重に拘束された賊の参謀が困惑まじりの怒声を放つ。
「どういうこともなにも・・・キサマ等“賊”は冒険者ギルドの所有する『アルケミックホイール』を利用して詐欺を企てた。『壮健の杖』に多額の出資をなさった上位C.V.様に不利益をもたらし(かねなかっ)た。
何よりそれらの術理を利用した領主様の香水ビジネスを妨害したんだ。重罪人として地下牢に閉じ込められるのは当然だろう」
「なっ!?そんな話は聞いていない・・・」
「当たり前だ。なんで“賊”に大事な機密を知らせなければならない」
実際のところ、表と裏社会が不毛な争いをしないよう。情報交換を行うのは暗黙の了解なのだが。
悪徳の都ウァーテルを侵略したC.V.勢力にとって、“盗賊ギルド”はタチの悪いモンスターあつかいであり。
シーフ連中が降伏し、慈悲を乞い、頭を下げてくるならともかく。〔“盗賊ギルド”の武力・陰謀を脅威に感じ、『和平』を結ぶ〕、という選択肢などシャドウ一族にはない。
そもそも“盗賊ギルド”の方針は、“力こそ正義”“ダマされるほうが悪い”という横暴を他者におしつけ。〔“盗賊ギルド”のメンバーだけが『掟』によって連携し、利益を搾取し続ける〕、というものだ。
“盗賊ギルド”の闇討ち・陰謀が脅威な、まっとうな一般人ならともかく。
〔『戦争種族C.V.』様たちは“暴行亜人”の戯言に対し『報連相』を行わない〕、というだけの話だ。
「それに“シーフ”は情報通なんだろう。かっこつけて“変質者の行動”を、いつもどおりにすると思っていたんだがなぁ・・・」
「キサマぁ・+ーー・・っ?:?、まさか、マサカ、マさか貴様らはっ!」
「さて無駄話はこれくらいにして、^・と・・・後はよろしく頼む!」
「「「・・・:^;ーー」」」「・・・かしこまりましたライゾウ様」
ライゾウの合図で現れた衛兵たち。彼らは〔臨時で衛兵になるように〕、と秘密の依頼を出された冒険者たちであり。付け加えるなら“盗賊ギルドの横暴”によって、大事なものを奪われ踏みにじられ、失った者たちだ。
隊商の護衛をしていて、ギルドの強力な装備をまとった山賊に襲われたり。暗殺・詐欺の濡れ衣を着せられ、全てを失ったり。〔“盗賊ギルド”に冥加金を納めていないモノは、全て獲物だ〕、という横暴によって蹂躙された漂泊者たちだ。
彼ら彼女たちは、“盗賊ギルド”からの賄賂など通じるはずもなく。C.V.様との『契約』によって、復讐に生きる決断をした人々であり。ライゾウの仮の部下でもある。
「重要な情報を聞き出す必要はない。偽情報をつかまされて、ヘマをしたらやばいからな。
とはいえ有益な情報を得るにこしたことはない。“盗賊ギルド”に損害を与えないという条件つきで、こちらに利のある情報を引き出してくれ」
「「「?:・?」」」「そのような尋問でよろしいのですか?」
元冒険者だった衛兵?の問いに、ライゾウははっきり答える。
「ああかまわん。正直、“盗賊ギルド”の秘密を入手しても、オレには確認する術がないからな。
最優先なのはコイツを殺さず、こわさないこと。次にあんた達に“尋問”の練習をしてもらうこと。情報に関しては、さほど重要では無い。〔得られたら幸運だ〕ぐらいに考えてくれ」
〔それさえ守れたら、賊の参謀を好きにしてかまわない〕
“山賊”と同レベルのことを告げるライゾウだが、それを批判する者はいない。
復讐の炎に身を委ねた元冒険者たちは、それぞれの冷たい表情をうかべ。
賊の参謀はというと、文字通り必死に思考をめぐらせ。差し出す情報の吟味を行いつつ口を開き。
「それならば尋Mォ`・:~ーーg:!?」
ナニかを言いかけた囚人の口が、『枷』によって封じられる。こうして“尋問の練習”が始まった。
ネタバレ説明:『ペットガーデン』について
リラックス効果のある『香りの幻』をメインとした、複合の『魔術能力』です。『壮健の杖』と併用し、疲労回復の効果を増幅することを念頭に開発された『魔術能力』です。
『犬猫のモフモフ喫茶』による冒険者たちのメンタルケアに失敗した眷属C.V.のポプリス。その理由はいくつかあるものの、改善し修行を積み重ねる時間などなく。
事実上の上位C.V.であるシャルミナとアヤメの協力によって、編み出された術式です。
その効果と誓約は、次のとおり。
1)草葉・ハーブや土の匂いによって、施術を受ける冒険者をリラックスさせる。『アルケミックホイール』+『壮健の杖』の効果を増幅する準備を整える。
2)『犬猫の幻影』を断念し、『苗・若芽の幻影』を投影してコストダウンを行う。リアルな犬猫が喜ぶ環境を作る事を目指す。
3)発動場所は冒険者ギルドの建物とする。効果範囲を広げるなどして、街路にまで影響を与えることは可能であり。都市ナーガム以外の冒険者ギルドでも『ペットガーデン』は発動できる。
ただし冒険者ギルドが所有権を持つだけの建物からは、発動できない。
4)『ペットハウス』のように威嚇・心理戦に使用することは禁じる。まともな冒険者・職員や犬猫をケアするためにのみ『ペットガーデン』は存在する。一応、ギルド施設に来た客の『接待』にも使用可能とする。
以上が現在の『ペットガーデン』の効果となり。嗅覚から干渉する『香りの幻』がメインですが。
実際は様々な冒険者の身体を『走査』して、最適な『香りを調合』する。回復メインの『身体強化』をかけたり、緊張をとくための『デバフ』をかける。『発汗による悪臭』を分解・洗浄する等々。
かなり伸びしろのある複合の『魔術能力』であり。
狂猛な黒霊騎士という面を持つ、上位C.V.のお気に入りでもあります。
かぐや姫の出した『試練』二つ〔『仏の御石の鉢』『龍の珠』を入手してください〕は、大惨事を引き起こす危険なものです。
では残り三つ『ツバメの子安貝』『火鼠の皮衣』『蓬莱の玉の枝』の入手は、マシな内容なのか?答えは『仏の鉢』『龍の珠』よりはマシだと愚考します。
あくまでマシであって、求婚者に引導をわたす要素はありますけど。
まず『ツバメの子安貝』に関して。“子安貝を得るためツバメ狩り”など始まれば、ツバメが食べる“害虫”が増えて大変なことになります。もちろん和風文化はそんな暴挙をしませんので〔子安貝を得られなかった〕、で終わりましたが。
ただし『子宝に恵まれる御利益がある、ツバメの子安貝』、を万が一にも入手したらシャレにならない。当時の医療事情・出産リスクを考慮すると。少なくない権力者が『ツバメの子安貝』を横取りしようと、強権をふるいかねない。
モラルの期待できない悪党はもちろんですが。
〔家を守るため、妻や娘への愛ゆえに、愛しい人を想って〕、普段はまともな人までもが『ツバメの子安貝』を狙いかねない。
平安時代の文化レベルでは『子宝の効能』はそれほど魅力的であり。『ツバメの子安貝』を入手することも、かなりのリスクを伴う。
間違っても『蓬莱の玉の枝』のように偽物を容易すれば、一騒動あったと愚考します。