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微風の旅立ち(偽)

 太平の世で、商人たちは商いを行い財産を増やし。同時に『国替え』という、江戸幕府からの『大名引っ越し命令』に振り回されました。いきなり大口の取引先が消えてしまう。しかも『ツケ・借金』を踏み倒して、『転封』してしまう。


 商人たちにとって、悪夢でしかなく。〔平和な世に、安心して商売ができた〕、などという説は詐欺に近いでしょう。確かに“戦乱”よりはマシなのでしょうけど。

 『江戸・大坂・京都』の三大都市なら、大名屋敷が引っ越すことはありませんが。改易・取り潰しのリスクを考えると、『絶対安全な御用商人・商売』などというものは無かったと愚考します。


 とはいえそれで泣き寝入りするほど、商人たちも甘くは無く。

 江戸次代の後期に商人たちの力が高まったのは〔『国替え』への対抗策をとった〕、からかもしれません。

 冒険者とギルドに対し、侍女頭シャドウのアヤメは干渉を行う。だがそれらの干渉は、かつてサヘルたちが『依頼料の分割払い』を提案した件の改良にすぎず。

 アヤメは『壮健の杖(身体ケア)』などの利権を、眷属C.V.マリーデを通じてサヘルたちに返し。自らは都市ウァーテルに戻ることを決定した。  


 


 無論、そんなことを大っぴらに言えるはずもなく。


 「グスッ・;`;」「姐御っ・・」「どうしても行かれるのですか・・・」「行かないでっ!」


 都市ナーガムの冒険者ギルド。そこでは冒険者たちはもちろん、ギルド職員までアヤメとの別れを惜しみ。この後に及んで、引き止めようとする(泣き落としにかかる)者までいた。


 「あなた達は冒険者でしょう?出会いも別れも、風の吹くまま。笑顔で見送ってくれないのかしら」


 「「「「「・・;~・;・・」」」」」


 アヤメとしては本命の利権を得るため、『下準備』を行っていたにすぎないのだが。冒険者やギルド職員の意見は違うらしい。


 冒険者ギルドの建物を増改築することで、雇用を増やし。景気をわずかばかりよくする。

 加えてギルド職員に速読・速記他のスキル提供・芳香療法を教えることで。ギルドの事務仕事を効率化・軽減することにより。依頼内容に条件をつけるなどの、交渉を行わせ。


 それにより『壮健の杖(身体ケア)』の他にも、アヤメは余録をもたらしただけ(・・)なのだが。


 「アヤメさんはシャドウ一族だ。主君に呼び出されたなら・・・」


 「「・・+・--」」「「「ケッ・・」」」「「「・:-・-・・」」」〔をつけろよ〕


 「・・`-~・、コホン、ケフン」


 白い視線の包囲網によって、ギルマスのクノッサスが沈黙し身を縮める。そこには仮にもあった威厳はない。

 アヤメたちの干渉によって、冒険者ギルドメンバーの待遇は急激かつ大幅に改善された。


 その結果〔今までギルドマスターは何をやっていたんだ(無駄飯ぐらいだ)!〕、という不満が噴出してしまい。現在、冒険者ギルドの幹部たちは、針のむしろに座らせられている。


 もっともアヤメがギルマスと同じ条件なら、ギルドの待遇改善など不可能であり。彼らを嘲るのは愚かで不毛な行為だ、とアヤメは思う。

 それにギルマスたちは、権力者とのパイプ役として利用価値が高い。侍女頭シャドウとしては大事にケアを行い、フォローを行う必要がある。

 

 「フゥ・・・仕方ないわね。これはギルマスのクノッサス殿にだけ(・・)話した秘密なのだけど。

  私は冒険の旅に出るわ。だから今日、この日に出発する」


 「「「ええっ!?」」」「「!:?・・?」」「そんなぁ・・・」「「「・^:^--~」」」


 アヤメの発言に、周囲全ての人々が驚愕する。

 そんな彼らに秘密を打ち明けるように、アヤメは出立の理由(作り話)を告げた。


 「『壮健の杖』に伴う『企画』は成功したわ。だけど都市ナーガムだけで、その豊かさを独占すれば“様々な脅威”を呼び込んでしまう。仕事を求める住民の流入はともかく、『壮健の杖』を安易に奪い独占しようととする“賊”が来襲しかねない。


  それに対抗するため、各地の都市にも『壮健の杖』による恩恵をもたらし。『都市連合』を結成する必要があるわ。連合して『結界』を作り、脅威に対抗する!それが私の始める、新たな冒険よ」


 「「「すごいっ・・」」」「すごすぎるっ!」「さすがはアヤメ様・・」「「アヤメお姉様・・」」 


 賞賛してくる冒険者たちに応えつつ、アヤメは胸中で〔ウソも方便〕、とつぶやく。

 確かにアヤメはある意味、冒険の旅に出る。だがその目的地は都市ウァーテル(本拠地)であり、旅はすぐに終わるだろう。


 ただし『壮健の杖(身体ケア)』による各地の冒険者ギルド、及び市町村に干渉するのは本当のことだ。

 そもそも『植生』を保ちつつ、効率的な『薬草採取』を行う。そうして『医薬品』の量産から、『霊薬』の低コスト化など。アヤメが初期に計画したことは、ほとんど成し遂げられていない。はっきり言えば、それが可能なレベルまで冒険者たちは成長しておらず。


 アヤメたちが冒険者たちを指揮・育成できるほどの領域レベルに達していない。


 よって『薬草採取』からの計画はいったん持ち帰り。『壮健の杖』『依頼料の分割払い』の計画はサヘルたちのパーティーに任せる。


 「そうして『壮健の杖』他による『結界』が完成したなら。ナーガムは始まりの都市として、その中心になるでしょう。その時、貴方たちが然るべき成長をしていたなら。


  教師として人に教える。ギルドの幹部に出世して権勢をふるう」


 「「「・・-:~:・」」」「「「・・-・(チラッ)」」」「「「フゥ・-・」」」

 「・;+;~・ー;」


 引退後の冒険者としては、恵まれている未来をアヤメは示すも。聴衆である冒険者たちの反応は薄い。そしてギルマスのクノッサスは、死んだ瞳で虚空を見つめていた。

 


 「・・・あるいは『他の石』を見出し、私以上の秘宝をもたらすかもしれないわね」


 「『他の石』とは、何でしょう?」


 「『壮健の杖』は『アルケミックホイール?』によって錬成された、『蒼賢・・の石』が核となっている。


  だけど『蒼』は()色のたった一つにすぎず。世界には『賢者』以外にも、多種多様な上級職があり。宝物の形は『石』ばかりではない。『火水風』かもしれないし、『樹』や『魔術』かもしれない」


 「「「「「「「「「「・・・-・・」」」」」」」」」」

 

 アヤメの言葉によって、冒険者たちの瞳に熱が宿る。それは欲望の色を帯びており、同時に知恵の光を放っていた。


 そもそもアヤメの本業は侍女頭であり、扇奈の懐刀(切り札)であり。加えて聖賢イリス様と同じ『○-●=*~|』を目指している。

 本来なら『壮健の杖』を作る可能性すらなかったのだが。何の因果か、今回の仕儀になってしまった。

 〔楽しくない〕、といえばウソになるが。そろそろ・・-:とっくに本業に戻らなければならない刻限であり。あとはサヘルたちや冒険者ギルドに任せるべきでしょう。


 「貴方たちが、どんな『宝』を見出すか楽しみにしている・・・とはいえ急すぎる別れも味気ない。

  今夜はささやかな酒宴を楽しむとしましょう」


 「「「御馳走になります!」」」「「「「アヤメ姐さん(ギルドクイーン)の冒険に乾杯!!」」」」「「・・^-^・・」」「お姉様っ!」


 こうしてアヤメたちはギルドメンバーを酔いつぶしてから、都市ナーガムを出発し。都市ウァーテルへと帰還していった。



 『アルコール』を身体から抜いたり、耐えたり、飲み干すため。やむをえず『身体強化』を乱用した。

 藩の『国替え』で、路頭に迷わぬよう。商人たちは様々な対抗策をとらねばなりません。


 そのために重要なのは『国替え』の事前情報を集めることでしょう。常日頃から幕府の要人に“ワイロ”を送り、いざという時に情報を得ることです。まともな人々は〔ずるい。恥を知れ〕、とお怒りになるかもしれませんが。


 理不尽に幕府の都合で行われる。住民・商人の迷惑などお構いなしな『国替え』に対し、まともな手段で対抗できるのでしょうか?江戸幕府が強権をふるう『国替え』に対抗するため。商人たちも搦め手の『情報収集』を行う必要にせまられた、と私は愚考します。


 何しろ『天下の副将軍』ですら〔国替えに関してはノータッチ〕であり。それで大損する商家を救済するエピソードなど、私の知るかぎり皆無です。創作ヒーローすら全く欠片も当てにできない以上、現実の商人は自力ワイロで対抗するしかなく。


 〔ワイロは駄目だから、忍者を屋敷に忍び込ませて情報収集をさせる〕、などというのは〔パンが無ければお菓子を食べろ〕という戯れ言と同レベルだと愚考します。

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