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依頼失敗の後で

 江戸時代、各藩の御用商人として辣腕をふるっていた商家。彼らは『藩』の財政を預かる者として特権を得る代わり、移動・商取引で制限を受けていたと愚考します。そのため一山あてるとしたら、悪代官と癒着して違法・グレーな商売に走るしかなかった。


 『他藩』と取引して新商売を始めようにも、本拠地を治める武家のしがらみを優先するよう横槍が入ったり。“他家と内通するな!他家を豊かにするなら、こちらを優先しろ”、というぐあいに武家の即物・感情的な妨害が入ったと愚考します。


 ただし全国の年貢・富が集まる『江戸・大阪』は例外であり。これら大都市と、その流通に携わる交通の要衝は、大きな商いができたかもしれません。

 都市ナーガムにある冒険者ギルドは複数の建物を所有している。それらは工房であり、市場でもある。それらの建物が集合することで、冒険者たちが旅立つ支度をととのえる『基地』と化していた。

 


 1)獣・魔物の解体を行い、その肉をさばいて冒険者キャクにふるまう『肉屋』を兼ねた酒場

 2)薬草・鉱物素材を精製し、錬金術を行う『研究所』であり。冒険者たちに割安で旅の道具を売る

 3)従来どおり依頼を斡旋する役所であり。情報分析を行って、『依頼計画』を立てる作戦室

 

 4)そして上記1~3の核となる。冒険者を癒やし、ケアを行う『保養所』



 この4棟の建物と、それらを囲む防御柵によって、ナーガムの冒険者ギルドは増改築されていた。

 (なおギルド増築の【資金】はC.V.シャルミナ様が出しており。〔タダでかま(ギルドを)いませんわよ(乗っ取る)〕、と告げる彼女に、クノッサスが交渉して『借金』にしてもらっている)



 そんな都市ナーガムのギルドに、負傷した冒険者パーティーが来訪する。


 「申し訳ありません。依頼を達成できませんでした」


「そうですか・・残念ですが、やむを得ません」


 〔冒険者は自由で、あらゆる事態に対応できる〕、ということになっている。だが、そんなものはギルドの安っぽい宣伝文句にすぎず。冒険者が成功を収めるには〔相性の良い依頼を受ける〕、という準主人公の『強運』も必要だとポプリスは考えている。


 実力にみあった怪物の襲撃だけでなく。悪天候・物価の高騰や“悪意”の気まぐれ等々、(新人に限らず)冒険者をなすすべ無く破滅させる存在モノはいくらでもあるのだ。


 「とりあえず一人一人に『口頭』で依頼を失敗した原因について尋ねます。『報告書』は後ほど提出してください」


 『依頼』を受けたら全力でそれを達成するのが、冒険者の義務なのは間違いない。

 しかし一度の失敗で〔ランクを下げる・罰金を科す〕など、悪の組織(ヤクザ)と同レベルな愚行であり。まともな『軍団』なら、まずあり得ない。

 そもそもハグレモンスター・天災や“偽情報(依頼)”など『やむを得ない理由』があるならば。冒険者ギルドはその情報を把握し、対応する必要がある。


 『魔物』なら討伐、天災なら救援し、“依頼人の裏切り(偽情報)”ならば報いを受けさせる必要がある。


 無論、冒険者パーティーの“不手際”が原因なら、しっかり対処・・すればいい。そう考えながらポプリスは『スマイル』を浮かべ。


 「ヒィ・・」「「っ!?〔・:^;”・・!!」」「あのっ・・!:・`」「・・-;・」


 「ご安心ください。過ちをおかすのは罪ではありません。覇王の一人も〔過ちを犯した時に、どう対処するかが重要だ〕、と仰ったとか。


  ワタシはそのための情報を聞き取りたいだけです」


 「「「「「はいっ、はイぃーー」」」」」


 〔冒険者のあら探しをしたいわけではない〕


 そんなポプリスの意向は正しく伝わり、『報連相』はスムーズに進行した。






 人間は失敗し、過ちをおかす。常勝不敗などというのは、『物語』の英雄だけであり。

 一介の冒険者がデビューの時から、完璧に依頼を達成させ続けるなど不可能な話だ。


 しかし頭がお花畑の依頼人は、そんな常識を知らず。

 冒険者ギルドの職員たちには、自転車操業で依頼を受ける冒険者に対し、万能な完璧を要求してきた。


 依頼を達成できなければ“ペナルティ”というムチをふるい。装備が破損したり、敗走したら“冒険者の自己責任”とのたまう。若手冒険者が飢えれば“ハングリー精神”をふりかざし、“努力が足りない落伍者”の烙印を押す。


 そのため金・時間のない冒険者たちは、身体のケアなどできないまま依頼を受ける(戦い続ける)しかなく。冒険者ギルドは、冒険者ゴロツキを使い潰し、野垂れ死にさせてきた。


 冒険者組合ギルドとは名ばかりの、ヤクザな傭兵組織と言える。




 「だから(ク、くふっ)、こうして『壮健の杖』で身体(は^~)をもみほぐす(きく、効く、きく~)

  血コウを良くしてアヒッ、ふ、フォ、オ、オー~ーッ!!」


 低ランク冒険者であるオルバンの足下で野太いオトコの声が響く。それはたまった“疲労”が排出される音であり。若者にとっては聞くにたえない、耳への“毒”でもあった。


 「・・・このぐらいの強さでいいですか?」


 「ああっ!そうだっ、そのmまマ、クゥーーー」


 しかしオルバンは耳をふさぐわけにはいかず。仰向けになった客の冒険者に、具合を尋ねながら『壮健の杖(マジックアイテム)』を押し当てていった。


 「^:^・・~^~・・;^・」


 〔そんなに気持ちがいいものかね・・・〕


 仰向けになった高ランク冒険者の表情は、オルバンから見えない。

 だが過酷な内容の昔語りは途切れ、奇声をこらえる姿から表情を察するのはたやすく。


 「フゴッ!!、ハー--^~・・」


 〔勘弁してくれ〕


 『汗』以外の体液がタクサン漏れそうにな予兆(奇声)に、オルバンはげんなりとなる。


 だが依頼クエストを成し遂げられず。文無しに近いオルバンに『割のいい仕事(マッサージ)?』を拒否する選択肢はなく。

 

 彼は心を無にして『壮健の杖』をふるい。熟練冒険者の『汗』にまみれた敷布を洗濯し、次の客を迎え入れた。






 『壮健の杖』:『蒼賢の杖』と呼ばれるマジックアイテム。風属性に関わる『振動波・微小雷』など様々な術式を発して、身体の血行をよくする。身体の内側・外側の両面から刺激を与え、冒険で疲労した身体をケアする。

 

 侍女頭シャドウのアヤメが『術式』を提供し。C.V.シャルミナ様が出資し、(ギルマスを半ば脅して)作られた『壮健の杖(マジックアイテム)』は、冒険者たちを席巻していた。



 〔面倒な依頼を達成してきたぞ!さあ『壮健の杖』を使わせてくれ・・!!〕


 〔“きた()”?・・ですか。しかも“面倒”だったんですね〕


 〔っ!?・・・コホン、ゴホン。街道整備の依頼を達成しました!頼む、『壮健の杖(褒美)』を使わせてください!!〕


 〔・・承知しました。すぐ『杖』を使用できる、短時間コースと。二日後に予約して、『施術』をも受けられる豪華コースのどちらになさいますか?〕


 〔豪華コース(ゴージャス)を頼む!〕


 〔わかりました。豪華コ-スを二日後の午前中に予約します。くれぐれも予約時間に遅れないでください〕


 〔よっしゃ^~^ーー〕


 

 こんなやり取りが毎日のようにかわされ。冒険者たちは報酬がいまいちでも、面倒な依頼に取りかかる。(C.V.様・シャドウ一族が半ば乗っ取っている)冒険者ギルドの意向どおりに、荒野・山村での重労働までもこなしていた。


 その状況を〔まともな冒険をしている〕、と言っていいのか微妙だが。冒険者の宣伝広告イメージアップにつながっているのは確かであり。そうなれば冒険者に依頼を出す際の、警戒心・心理的抵抗も低くなるでしょう。


 少なくとも(C.V.様とシャドウ一族の干渉を受ける)冒険者ギルドが人脈を広げているのは確かだった。




 そういう元気な冒険者たちが『元気になる(ハッスルする)』、都市ナーガムの歓楽街にある一室において。

 アヤメは豪華なイスに座り、豪勢な部屋でふんぞり返っていた。


 「このたびはシャドウ様の『壮健の杖』が、大成功をおさめ。祝着至極にございます」


 「そっ、ありがと。だけど杖の材料を調達したり、『術式』の連動・調整など。半分以上の維持整備はシャルミナ殿が行ってくださる。私の功績など微々たるモノにすぎないわ」


 「・:・;・・・」


 アヤメのにべもない返事に、建物のあるじが表情をわずかに引きつらせる。彼女からすれば交渉の一環として『接待』を行い、世辞を述べたいのだろうが。

 あいにく侍女頭アヤメの役職はヒマなど無く。『身体強化(旋風閃)』をメインに戦う者にとって、『歓楽街の豪華』は心身にあわない。


 そして何よりアヤメは彼女・・と、対等な外交をする気などなかった。

 全国の大名・武家が暮らす江戸、年貢を集める大阪は大きな商いができた。その流通に携わる要衝も商売のチャンスはあったと愚考します。

 ただしそれは明治時代の『商会・財閥』に遠く及びません。


 確かに大都市は、各藩の都合・しがらみを最優先する地方都市よりは大金が動いたでしょう。

 あるいは幕府が直接統治する『天領』なら、商売への制限がゆるくなる。儲けると“臨時徴税”を課されたり。〔お家のため〕、という“免罪符”をふりかざした武家が無理難題をふっかけることもなかった・・・はずです。


 しかし幕府の治める『天領』は、自由市場・商圏にはほど遠く。あくまで〔地方都市よりはマシ〕だと愚考します。

 その理由は派閥があり。代替わりで、『経済政策』が変わりかねないから。


 そもそも『幕臣』には藤堂家など大名家が就くこともあり。大名家でなくとも、縁戚でつながっている武家には配慮(忖度そんたく)を求められます。そしてバカ殿でなくとも、凡人殿様が功績を求め。自分の領地が得る、利益だけを優先すれば。


 現代の“カルテル”を紳士と錯覚しかねない。ワイロ・裏取引が飛び交う、仁義なき争いが始まります。そしてこの争いは、代替わりによって再開・悪化しかねない。新商売に挑戦する以前に、今までの商取引を維持する努力・工作をしないと商家がつぶれてしまう。


 こんな武家政権の下では、まともな大きい商いを継続できる環境ではなく。『廃藩置県』こそ、近代化の【要】だったと愚考します。

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