ギルドと分割払い
“勅使が通る松の廊下を血で穢した”、という真実は隠蔽され。“嫌がらせをしていた吉良上野介に、浅野内匠頭が意地をかけて切りつけた”という美談?*?のみが知れ渡った。
最初に礼法教師の吉良上野介に授業料を払わず。封建社会的に無礼をはたらいた浅野家の愚行を“倹約してワイロを出さない”、へと美化した。
こうして“忠臣蔵”が引き起こされ。真実を知らない世間の人々は、“忠臣蔵”に喝采を送り。数百年もの間、仇討ちの美談として『忠臣蔵』は語り継がれます。
実際のところ『太平の世』をぶち壊しにしかねない、大醜聞だったのですが。“血で穢された松の廊下”の情報を知らなければ、私も“忠臣蔵”を賞賛していたでしょう。
しかし実際のところ、“松の廊下”の件は知れ渡っており。その原因は時の将軍『徳川綱吉』のせいだと愚考します。
〔勅使が役目を終えて帰るまでの間だけ、“血の穢れ・刃傷沙汰”の件を知られなければいい〕、と考えたのか。“浅野内匠頭”を取り抑えた武士に褒美を与え。被害者の吉良上野介には見舞いの手紙をおくったそうです。
〔今年も一年よきように国を治めよ〕、という勅使の儀式さえ乗り切れば。〔弱い朝廷が、幕府に過ぎたことを持ち出し、交渉する力など無いだろう〕・・・という。綱吉の傲慢さが、『情報隠蔽』をザルにしたと愚考します。
冒険者への・・正確には冒険者ギルドに依頼する料金を『分割払い』にする。
そうすることで手持ちの資金が少ない者でも、高額の依頼料がかかる『難易度の高い依頼』を出すことが可能となり。
加えて大金をかかえた状態で、“賊”に襲われ依頼料を奪われる。それによって『依頼』が行えなくなったり。現在進行形でモンスターの被害にあっており、依頼を出すのが遅れてモンスターの被害が拡大するのを防ぐ・・・確率がわずかながら高くなる。
「これらは依頼人の得るメリットだが・・・〔それに伴い依頼の件数も増える〕、というのがシャドウ様の主張だ」
「冒険者たちが依頼の書類を奪い合う、光景が無くなると?」
「バカなっ!そんなうまい話があるわけがない!」
都市ナーガムの冒険者ギルド。その奥ではギルマスのクノッサスと幹部たちが、『依頼料の分割払い』について話し合っていた。
はっきり言って、こんな会議を開かされている時点で、シャドウ様に従うしかないのだが。それを理解できない者のためにクノッサスは説明会を開く。
「分割払いの依頼料をどうやって回収する!即金で依頼料を払う必要がなくなり、安易に依頼を出されるようになったら・・・」
依頼料はシャドウ一族が立て替え。分割された依頼料はシャドウ様が回収する。
分割払いで依頼を出せる者は、条件をつけて人数を制限する。主な依頼人は、辺境・貧村でモンスターに襲われている者たちからの、緊急を要する依頼であり。裕福で都市部に住む者たちは、従来どおり即金で依頼料を払ってもらう。
「そんなことになればっ・・・-~:・悪くはないのか?」
「この『依頼料を分割払い』する計画が、うまくいくかは未知数だろうが。
少なくともシャドウ様は本気だ」
そうでなければギルド職員の『給料アップ』を行ったり。『蒼賢石』などという『秘宝』を冒険者たちの目の前で作る。『壮健の杖』『芳香療法』を提供して、冒険者ギルドに関わる者たちの『ケア』など行わないだろう。
もし今さら〔依頼料の分割払いは中止します〕、などということになったら。『給料』『秘宝』に『ケア』という大きすぎる恩恵は、シャドウ様によって没収され。
下手をしなくとも暴動が起きてしまう。それを先導(扇動?)するのは、受付嬢をはじめとする冒険者ギルドの職員かもしれず。“吊るされる”のは、間違いなくこの場にいる幹部たちだ。
断言するが、逃げる間・場所もないだろう。
「しかしそれでは、冒険者ギルドの独立が守れなくなってしまう」
「・・・否定はせん。だがそれは辺境の開拓民をモンスターの餌食にして。
人口増加と食料不足を放置して、死人が出続けるのを座視してまで守る価値のあることなのか?」
「「「・~・:・」」」「そんなわけないだろうがっ!」「「・・-:・・」」
こうして会議は荒れてしまい、結論をだすのは次回ということになった。
冒険者ギルドは営利組織だ。そしてカネが人の命を左右する世界において、巨大組織はどうしても表沙汰にできない資金・取り引きが発生する。
例えば冒険者ギルドの場合、“依頼人の裏切り”が発生すると。その場合、表立って冒険者が殴り込みをかけたり、糾弾するのは“報復の連鎖”が始まりかねず。
裏から手を回して引導をわたすのが常だ。そして引導をわたす際には、事実上の『連座制』がとられており。お家騒動で血の雨がふったり、屋敷の住人が皆殺しになることすらある。
冒険者という『戦力』をかかえた組織の運営は、綺麗事ではなりたたないのだ。
「だから盗賊ギルドとの同盟はかかせない。それなのにっ・・・」
シャドウ一族の提案する『依頼料の分割払い』に応じれば・・・必ず『高利貸し』とぶつかり。
(最初から借金した者を破産させることをねらい、資産・人身を奪う)『貸しはがし』を行う盗賊ギルドとは戦争することになるだろう。
そしてその結果は、“都市ウァーテルの陥落”が示しており。また盗賊ギルドが敗れる。
もしくは長期戦になって、莫大な損失が出るだろう。
「そんなことは許さない、許せない、許すわけにはいかん・・・ベノス!」
「お呼びでございますか」
「『隊商』を作って、偽の依頼を出せ!『分割払い』など机上の空論だと、わからせてやるのだ」
「かしこまりました」
こうして『分割払い』への対抗策が発動した。
そして数日後・・・
「冒険者ギルドにようこそ!」「「「・・:^:・・」」」
「・・・-・・・」
「いかがなさいました?当ギルドに何か用事があるのではございませんか?」
「あ、ああ・・実は依頼があるんだが・・・」
都市ナーガムの冒険者ギルド。そこでは笑顔の受付嬢ポプリスが、依頼人を迎えるという。ギルドにおいて珍しくない受付業務を行っていた。
ただし笑顔の受付嬢は、得体の知れない圧力を発し。依頼を持ってきた客はというと、その気配に圧倒され。露骨に腰が引けているという有様だった。
冒険者に限らず大半のギルドでは、見かけない光景だろう。
「新しく設置された、ギルドの設備が珍しいのですか?最近、来られるかたは皆さん驚かれます」
「ああっ・・何か珍しい『大きな壺』があるようだが」
「いいご質問ですね!
これはお姉様が作られた『蒼賢の積層輪』という魔術装置であり。これにより『良薬』が大量に作られ、『高級薬』を入手するチャンスも増えていきます」
まだまだ試行錯誤を行っている『計画』だが、大半のギルド職員にとっては確定事項であり。その表情には一分の揺るぎも無い。
一方の客はというと、落ち着き無く周囲に視線をめぐらせ。唾をのみこんでから、受付嬢に質問を重ねる。
「ところで、随分と『犬の像』が置いてあるようだが・・・いったいこれは何のためにあるんだ?」
「これから『依頼料の分割払い』を行うにあたって、必要な対策を取らねばなりません。
そのために『犬の像』を購入したり造っていただきました」
「・・・『猫の絵』もずいぶん壁にはっているようだが。これはどんな目的で?」
「『猫』は家の守り神です。そして“汚らわしいネズミ”を狩るハンターですから。その加護を得られることを願って『絵』を描いてもらったのです。
ただし『犬の象』と万が一にもケンカしないよう、『像』ではなく『絵』にしてもらいました」
「ほ、ほ~--う・:・・」
「こうすれば“小狡い策士”を『猫』が引き裂き。『ワンちゃん』が逃げる“コソ泥”を地の果てまでも追いかけて狩る。
そんな冒険者ギルドの方針をわかりやすく、知らしめることができるでしょう」
ニコニコと笑みを浮かべるポプリスに対し、依頼人の額にはいつしか汗がうかんでいた。
そんな依頼人に対して受付嬢はあくまで和やかに、やり取りをかわし。
「遠方に旅する隊商の護衛依頼ですか」
「そうだっ!報酬は充分に払う。ただし額が額だから、依頼料は『分割払い』にしてもらいたい」
「さっそく『報酬は分割払いにして』、の依頼ですか。手持ちの現金が無い、お客様でも依頼を出せる。とっても良い仕組みですものね」
「ああ・・ぜひともそれでお願いを・・・」
『Galu、GaaAAA----~ーーー!!!』『キシャぁーー!』
「ヒィっ、なんだっ!いったい何の吠え声っ・;`・!?」
怯えた誰何の声に応えるように、男性人間の身体を引きずって『犬』の巨体が現れ。
さらに数匹の『猫』が受付嬢の背後から顔をのぞかせる。その両の目が、獲物を物色する冷徹な光をおび。
「こらこら、みんな。お客様の前で牙をむかないの。
ただでさえ忙しいお仕事が、さらに増えてしまうでしょう」
だがポプリスの一言でおとなしくなり。『猫』たちは音もなく姿を消した。
『犬』のほうも男性人形の顔面をさらし、〔生きた人間を引きずってなどいない〕と、明らかにする。
「…ケッ、(驚かしやがって)」
表面上は平静を装いつつも。依頼人の内心が唇の動きに出る。それは声こそ発していないが、ポプリスに対し雄弁にある事実を伝える。
「『犬』がお嫌いなんですね」
「・・・別に、普通だろう」
「そうなのですか?私の知る限り、狩人にとって『犬』は相棒であり。行商人にとっても、危険を知らせるよい友人だと聞いていますけど」
「あいにく小規模な隊商でな。子供のころから“犬猫”には縁がない」
吐き捨てるように告げる依頼人に対し、ポプリスは白けた視線を投げる。その視線に軽蔑の色を感じ、カレはまなじりを険しくした。
しかしまなじりを険しくして、怒りたいのはポプリスのほうであり。
「申し訳ありませんが、アナタの依頼は断らせていただきます」
「なんだとっ!」
「鏡を見てごらんなさい。化けの皮が剝がれた盗賊の顔が映っていますよ」
この世界には食料難からの『死』が近くに有り。そのため大事な食糧・農作物や荷物をかじり台無しにする、ネズミは人類の敵だ。そしてネズミを追い払い狩る『犬猫』は、人慣れしてなくても人々の隣人・・・隣獣?でしょう。
ただし“盗賊ギルド”を除いて。
“盗賊ギルド”にとって、ネズミは足音・気配を消してまぎらわせてくれる。穀物を食い荒らし“飢える”人々が増えれば、奴隷の売買がやりやすくなり。地下水道に死体を放り込めば、食べて処分してくれる。
そんなネズミの天敵である『犬猫』は、“盗賊ギルド”にとっての敵であり。“賊”の暗躍・裏工作を妨げる『犬猫』を、連中は本能レベルで嫌っている。
「モンスターと戦う斥候・偵察役なら、『犬猫』モンスターと戦うため嫌っていることもあり得ますけど。普通の行商人が両方を嫌うことなどあり得ません」
「・・・チッ」
『馬車』に積んだ荷物をネズミから守ってくれる。いつか商家をかまえた家で、『盗賊除け』になる『犬猫』を嫌う商人は少ない。たとえ縁がなく飼えなくとも、親しみくらいはあるし。
何より〔客が飼っている『犬猫』が嫌いです〕、などという商人では接客にさしさわる。
「初回ですから、特別に見逃してあげましょう。どうぞ、お引き取りください」
「このアマがっ・`・貴様の顔は忘れんぞっ!」
こうしてポプリスは、きびすを返した“厄介な客”を見送った。
それともう一つ“忠臣蔵”の実態を明らかにした候補は、幕末後の『維新政府』でしょう。
〔降伏した徳川幕府との交渉を有利に進めたい。全国の諸藩を叩きつぶすスキャンダルはないか!〕、という思惑により、『維新政府』は幕府の記録・資料を徹底的に調べ。その中のネタとして『忠臣蔵』の記録も出てきたのではないでしょうか?
そして〔錦の御旗は尊い。官軍は正義だ〕、と声高に叫ぶなら。〔勅使が通る廊下を血で穢した〕、無責任な藩主の【真実】を白日の下にさらし。被害者である吉良上野介と一族の名誉を回復してほしかったです。




