灰色の分割払い
『忠臣蔵』を否定するうえで、最大の障害は『歌舞伎・時代劇』の存在でしょう。300年以上も『劇』の演目に使われたオハナシを、否定するのは容易ではありません。
もっとも最近は歴史真実の暴露が増えたせいか、TV放映の『忠臣蔵』は減った気もします。
江戸時代の平民にとって。『忠臣蔵』は〔身分の低い赤穂浪士たちが、権力者の吉良を倒す〕、というアンチ権力の演目であり。封建時代にそれを上演する時は、登場人物の名前を変えて〔忠臣蔵ではアリマセン。アンチ権力ではありません〕、という体裁をとる必要があったとか。
しかしブチ切れて刃物をふるった、“浅野内匠頭”は藩主であり権力者サイドの人間です。
例えるなら〔悪役令嬢物語に登場する、ヒロインに婚約破棄を告げる“バカ王子”が安直な闇討ちを仕掛けた。あげく老人吉良の後ろから襲いかかって仕損じた〕、ようなものであり。
普通に“嘲笑の的”になりこそすれ、悲劇の主人公になど成り得ないはずです。
『蒼賢(壮健)の杖』を数本、作らせ。侍女頭のアヤメは冒険者たちのマッサージを行わせる。その目的は移動に伴う『足』の疲れをケアするため。『身体強化』を独学で修得し、身体の内側にダメージをためこむ冒険者を一人でも減らすためであり。
そうしてケアした冒険者たちに多くの依頼をこなしてもらう。『依頼料の分割払い』によって、増える依頼に対応するフットワークを修得してもらい。さらに“暴行亜人”の殲滅や、植生を破壊しない『薬草採取』を連続して行えるように仕向け。
アヤメはシャドウ一族が利益を得るため、冒険者たちに様々なサービスを提供し。
続けて冒険者ギルドの職員たちの環境改善に取りかかる。
「あの?・`・・アヤメ様?」
「何かしらクノッサス」
「もうとっくに受付嬢たちの、給料は上げております。『芳香療法』を教え、それに必要な道具・素材を提供しました。これ以上、雇用契約を変える必要があるのでしょうか?
〔これ以上、冒険者ギルドに口出ししてもらっては困る〕」
アヤメによる急な冒険者ギルドの改革を、ギルマスのクノッサスが制止してくる。彼からすれば痛みどころか、出血を伴う改革など勘弁してほしい。
まして領主貴族でもなく、冒険者ギルドの幹部でもない。たかが侍女頭のアヤメに指図されるなど、業腹なのでしょう。
そんなクノッサスの心情を、組織に属する者としてアヤメはよく理解している。
ただしシャドウ一族としては利権の妨げになる、邪魔な考えにすぎず。上級シャドウとしては〔寝言は寝て言いなさい〕、と恫喝したい。
今までクノッサスたちギルマスは散々、“盗賊ギルド”に協力してきたのだ。ならば“盗賊ギルド”より強いシャドウ一族には、従うのが“暴力の道理”というものだろう。
今さら〔冒険者ギルドは中立組織です。口出ししないでください〕、などという寝言は通じない。
とはいえ、そんな“暴力の道理”を言の葉にだして、説く気などアヤメにはない。彼女はあくまで善意の助言者を装い、クノッサスに語りかける。
「この程度の改善など、『速読・速記術』を修得したギルド職員への手付金に過ぎないわ。『依頼料の分割払い』を行うことによって、仕事量が倍増するのは確定している。
それに対応するギルド職員たちの待遇・給料はもっと良くしないと」
『分割された依頼料』を回収するだけでも、大仕事でしょうけど。それによって『依頼件数』が増え。ギルドの『財産』が増えれば、さらに大きな計画を立てられる。
ギルド職員たちは、そのための兵士であり軍勢なのだ。報酬もそれにみあったものになる。
〔このアマ、いったい何を考えている?〕
〔・・・・・〕
探るようなクノッサスの視線に、アヤメは沈黙を返す。もっとも彼女たちが考えているのは、たいしたことではない。
せいぜい他の借金取りとかち合った時、冒険者ギルドの『分割された依頼料』を優先するよう。硬軟併せた交渉をギルドに代わって、シャドウ一族が行うだけ。
そして冒険者ギルドが『依頼料』の取り立てを、争う相手は多岐に渡る。“盗賊ギルドの高利貸し”や“重税をかける領主貴族”など、依頼人の財産を狙う商売敵はいくらでもおり。
〔奴等が強行手段に出れば、シャドウ一族は身を守るという大義名分を得て。大っぴらに干渉できるようになるわ〕
かつて『山賊殲滅の導士』『竜喰らいの魔女』の二つ名を持つ冒険者は、通り魔よろしく“山賊”『野生動物?』を狩って生計を立てたとか。〔その自由・爽快さに憧れが無い〕、と言えばウソになる。
〔だけど私たちシャドウはC.V.組織に属している『軍勢』よ〕
〔“悪徳の都”みたいに暴虐をやらかしていた連中ならともかく。仮にも統治を行っている権力者に、理由もなく襲いかかるわけにはいかない・・と?〕
〔仮に大義名分があっても、〔身を守るため、悪党だから成敗する〕は駄目でしょうね。
私たちシャドウ一族は、公式の『貴族位』がない。そんな私たちが『領主貴族』に強硬策を仕掛けたら、よくて“盗賊”あつかい。高確率で“魔物”あつかいされ、既存の権力者たちから集中攻撃を受ける〕
そんな修羅の道を歩む気など、アヤメたちにはなく。一族を、考え無しに侵略を行う帝国民にするなど論外だ。
〔だから『依頼料の分割払い』を利用して、既存の勢力に干渉・介入を行う。“無能”どころか、“賊”の手駒になっている冒険者ギルドなら乗っ取ることも可能でしょう。
そうして冒険者ギルドに代わって、『分割された依頼料』の回収を行い。それを妨害する者は排除する。“分割された依頼料にこだわって、判断を誤り争った愚か者”として、シャドウ一族の『糧』となってもらう〕
〔姫長様・・・そういうのを『修羅の道』、というのではございませんか?〕
〔貴族や平民たちからすれば、そうでしょうね〕
〔それは人間全員でしょう〕
〔だけど【モンスターと戦う】C.V.様や勇士からすれば、汚れ仕事を担当する戦闘集団であり。
冒険者ギルドが兼業で“賊の片棒をかついでいる”現状、シャドウ一族の有用性を示せるわ〕
サヘル、汐斗など、シャドウ一族にはC.V.様に認められる実力者がいる。だが認められているのは、サヘルたち個人であり。シャドウ一族全体では無い。
しかもC.V.様の望みは、汐斗たちが『入り婿』としてC.V.拠点でハーレムを築くことであり。
彼らを引き抜かれたら、残りのシャドウ一族は『捨て扶持』を与えられて飼い殺しになるかもしれない。聖賢の御方様が健在ならともかく。【モンスターと戦う】C.V.様には万が一があるわけで。
シャドウ一族を率いる、扇奈やその側近たちは、一族の有用性を何としても示す必要があった。
『分割払いの依頼料を回収する。冒険者ギルドに代わって、商売敵と戦う』という案件は、シャドウ一族の有用性を示すのにちょうどいい・・という結論をシャドウの首脳陣は出した。
“山賊・暴行亜人”が野放しに近く。自然環境を破壊して、素材採取をどんどん困難にしていく。
そんな冒険者および様々なギルドの間抜けっぷりにあきれ。〔つけこめる〕と判断したのだ。
こうしてアヤメは、まず冒険者ギルドに干渉をしかけていった。
そんなバカ殿“浅野内匠頭”が何故、悲劇の主君に成り得たのか?
理由は情報が隠蔽されたから。〔浅野内匠頭が朝廷の勅使が通る松の廊下を、上司の吉良を切りつけて血で穢した。【天子様】を軽んじる?、朝敵に等しい凶行を犯した〕件が抹消され。
代わりに〔嫌がらせをしていた吉良上野介に、浅野内匠頭が一太刀くれてやった〕、という内容のみ伝達され。こうして浅野内匠頭は悲劇の主人公になりました。
この件は証拠を探す必要もなく。どの『忠臣蔵』を読んでも、浅野家の藩士にはそう伝えられており。血で穢れた『松の廊下』のマの字も出てきません。世間にも同じ内容が伝わっているでしょう。
そしてこの『情報の隠蔽・変換?』は、難しい『陰謀論』などではなく。
〔キレて刃物をふるうバカ殿を饗応役に任命したことがバレれば、江戸幕府の『任命責任』になる。朝廷との外交で、かなりの失点になる〕、という理由により。江戸幕府の総力をあげて抹消にかかった。口止めが行われただけの話です。
ただしそれを知らされていない浅野家の藩士たちは“ケンカ両成敗になっていない”、などと見当違いの逆恨みをはじめ。世間の人々は“吉良が権力を使って罪を免れた”、という思い込みに捕らわれた。
こうして“忠臣蔵”は起こり。世間受けの良い『仇討ち+アンチ権力物語』として、『忠臣蔵』はもてはやされていきます。
もし〔松の廊下を血で穢された〕事実を勅使が即日、知る『もしもの歴史』があったなら。
〔血の穢れた廊下を歩かせ“呪詛”をかける気だ。それはつまり『勅使』を送った朝廷と○○○○にも災いを・・・〕という大スキャンダルになり。〔日本中が“大迷惑”を被る騒動になった。元凶の浅野家・赤穂藩は“逆賊・朝敵”として家老達も責任を取らされた〕と言わせてもらいます。