冒険者ギルドの変化
私が〔『忠臣蔵』に問題有り〕、と考えた契機は二つあります。
一つは〔外国人から『忠臣蔵』はテロリストあつかいされている〕、という雑学本を読み、検証をしたから。
そしてトドメとなったのが、『凍える雪夜』を観たためです。
〔隠れた吉良上野介を見つけ。往生際の悪い仇敵吉良を、四十七士が囲んで自害を強いる〕、というクライマックスなのですが。
〔討ち入りの黒装束に身を固めた浪士たちが、寝間着一つで『雪夜』の寒さに震える老人吉良に圧力をかける〕、という。
〔凶悪なヤクザ・テロリストが、哀れな人質を“虐待+処刑”する〕、という場面を連想させ。〔自害させてやるからありがたく思え〕、という傲慢な本音が見え隠れする“大石内蔵助”は、断じて弱者・民草の味方などではない。
そう印象付けられたシーンを観て、完全にアンチ忠臣蔵になりました。
外周の『魔術円』が回転することで、薬効成分の『遠心分離』を行い。
さらに『水を濾過する』ように、風属性の『魔術陣』を重ねて、その成分を感知・分離しつつ精製する。
『音波の探査・冷熱の変化・極微量の匂い粒子』をそれぞれ対応する『風の魔術陣』で捕捉し遠心分離も行う。そうして重ねた『風の魔術陣』の底で、『小雷・魔力』による精製の仕上げが行われ。
アヤメは『蒼賢の石』と名付けた物体を取り出した。
それから数日が過ぎ去り。都市ナーガムの冒険者ギルドは騒々しいことになっていた。
「「「ア、ア、ァ・:・・-~」」」「ぐっふぅ-^+^~」「「「「フオ、ォオ`ー・:・」」」」
だらしない奇声が垂れ流され、とろけた表情はだらしがない。もし予備知識なく、ソレらを目の当たりにすれば・・・悪いクスリか呪いをかけられたと判断するだろう。
無論、モンスターと戦う冒険者たちが、そのような害悪に惑わされるはずがない。
「時間になりました。お次の方たち、どうぞ」
「よっしゃ、待ちくたびれたぜ!!」「オラ、どけっ!」「へっ、ヘへっ・・・・・ッ!」
「そんなっ!?まだ始まったばかりだろう・:!」「もうちょっと・;`・ちょっとだけっ!」
「グズグズする方は、次回に減点を行います。それでもかまわないなら・・・」
「「「さあタイムアップだ。時間厳守でいくぞっ!」」」
脅しのセリフが終わる前に、奇声を発していた者たちは動きだす。そうして迅速に譲られた場所に、身ぎれいにした冒険者たちが寝転がり。
臨時雇いのギルド職員たちが、『蒼石』を先端つけた『杖』をかまえ。
寝転がった冒険者たちの『足裏・腰や肩』に『杖の先端』を押し当てていく。
「「き、キ、来たぁー^~^」」「「「おほっ、ホっ、フホぉ~^-」」」「「・・-^:^・」」
そうして目の毒ならぬ、耳を汚染する奇声が響き渡る。
その合唱に、ついに良識あるギルド職員のガマンが限界をむかえ。
「アナタたち、いい加減に・・:」
「・・・受付業務の妨害になっているわね。早急に改善策を練らないと」
「「「「ようこそっ!、おいでくださいました。アヤメ様!:!!」」」」
「「「-~:・っ!!」」」「「お疲れ様です、アヤメ姐さん!!」」「ホヘ^-`ッ!?」「-!!-」
冒険者ギルドに『蒼賢の石』をもたらした。賢者であり自称侍女のアヤメ様が来訪したことにより、ハチの巣をつついた騒ぎになった。
人間は必要とするモノを得ると、幸福を感じる。渇きに水、飢えに食物、病に癒やし等々。
必要にあったモノを提供した者は、歓喜と賞賛をもって迎えられる。
では冒険者たちのニーズにあった、望むモノとは何か?
報酬・美酒に名声、あるいは武具や冒険の地図と考える者もいるでしょう。ただし、それらは時期・状況によってニーズが変わるモノにすぎず。仲間・居場所は冒険者自身が作り見出すもので、アヤメが用意できるモノでは無い。
「とりあえずの『対処』をしましょう。『静寂の風よ、来たれ!』」
アヤメが発動させた『風術式』によって、奇声の声量が大幅に小さくなる。『空気の振動を止めて、詠唱・声を封じる』、という先人の『魔術』をアレンジしたものであり。『魔術』の発動を封じる力はないが、“騒音”を軽減することは可能だ。
「「「「「ーーっ--:・!!」」」」」
「・・これでは“悪臭”がこもってしまうか・・『転輪風』」
続けて『換気』の術式を併用し、アヤメは冒険者ギルドの職場環境を整え。それから自らの用事を告げる。
「今日は紹介したい人物を連れてきたのだけど。ギルドマスターはいるかしら?」
「ただ今、呼んで参ります!」
「別に緊急の用事というわけではないし。忙しいなら後日、日を改めるわ。
それと私のことは気にせず『ケア』を受けなさい。ずいぶん込みあっているようだし」
「「「めっそうもございません!」」」「首に縄をかけてでも連行いたします!」
「それでは失礼をばして・:*`!:・*」
「お見苦しいものを・・アナタたちっ!」「「「「イエッサー:ーー!!」」」」
再び大騒ぎする冒険者ギルドの人員たち。彼ら彼女たちがアヤメの顔色に一喜一憂するのは、冒険者ギルドの望むモノを提供したから。ギルド職員も含め、冒険者たちを『ケア』して活力を復活させる『蒼賢の石』を提供・整備しているためだ。
冒険者たちにとって、『移動』は厄介な問題だ。
依頼人の住所に赴き、冒険の舞台で歩き走り、跳んで転ぶこともある。そのため『足』を酷使するのは必定であり。敏捷に優れた『前衛職』はともかく。重量のある『前衛職』・学者肌の『後衛職』は、素速い『前衛』に移動スピードをあわせることを求められ。
複数職業が集まる冒険者パーティーにおいて、『足への負荷・移動の足並みをそろえる』問題は極めて厄介だ。そしてこの問題は『靴』の性能・破損によって増大していき。
『身体強化』の魔術によって、致命的なものとなる。
『身体強化』の負荷・反動がこない戦闘民族と違い。只人冒険者・シャドウ一族は、『身体強化』の負荷で身体の芯にダメージを蓄積したり。反動によって命脈を縮めるリスクすら伴う。
〔だから私は『壮健の杖』を作り、冒険者ギルドに提供した〕
『蒼賢の石』から作られた『蒼賢の杖』は、要するに『マッサージ魔道具』だ。
それによって冒険者たちの身体を『ケア』して働かせる。今までの依頼に加え、“暴行亜人”の駆除や適切な薬草採取など。目先の報酬額が低い依頼を、複数こなせるよう『ケア』を行う。
これがシャドウ一族なら様々な『修行』を課し、食事で身体を作り。経穴・マッサージや『秘薬』など、聖賢の御方様がらもたらした様々なモノで『ケア』を行える。
〔だけどこれらの修行・ケアを冒険者に行うわけにはいかないわ〕
〔コストがかかるから?〕
〔私たちの望む、お礼がないからよ〕
強い冒険者を育てても、彼らは自分のためにその力をふるう。
だがアヤメたちシャドウは講師・師匠の類ではなく。授業料をもらって、教え子の成長を喜ぶ先生ではないのだ。せいぜい使える兵数がそろって喜ぶ鬼教官でしょう。
そんなアヤメの思惑を知ること無く、冒険者ギルドに所属する者たちは、下にもおかぬもてなしをしてくる。いいように利用されるとも知らず、おめでたい連中と言えるでしょう。
「粗茶でございます」
「ありがとう、いただくわ」
「先輩、お出しする菓子はこちらでよろしいでしょうか?」
「・・・・・(最高級のものに決まっているでしょう!)」
「ひゃいっ!?すぐにご用意します!」
「・・・・・」
「すみません、気が利かない子で・・・あとでよく言って聞かせておきます」
「別に気にすることはないわ〔できればもてなしも不要なのだけれど〕」
駆除・採取依頼が増えるにつれ、事務仕事が増えるのは確定事項であり。アヤメはすこしばかり『速読・速記術』、および『芳香療法』の初歩をギルドの事務方に教えたのだが。
「そういうわけにはいきません。恩にはお礼を、仕事には相応の対価を払いませんと」
「私には、私の思惑があって『術式』を提供しただけよ。気にすることはないわ」
「わかっております。その時は協力を惜しみません」
〔その協力って『薬草採取』の計画を遂行することよね?ギルマスの地位を狙うとか、権力争いの話ではないわよ、ね・:?〕
そんな質問を受付嬢にした場合、どんな答えが返ってくるのか。アヤメはもう聞かないことにしている。極力、考えないようにすると決めた。
そうして視線を慎重にはずし。『壮健の杖』を先輩冒険者たちにあてる、ヒヨッコ冒険者たちをみやり。
「「「・^:^・っ」」」「「「-~♡」」」「-^-^っ!」
〔よし、なにも見てない。私は何も気付いてない。この件は早急に彼女におしつけましょう〕
サヘルはよく歓楽街を取り仕切れるわね・・・そんな現実逃避をしつつ、アヤメは好意的な視線の包囲網を無視し続けた。
『忠臣蔵』の中には〔吉良上野介は『覚悟』を決めて、護衛の数を減らしていた〕、という説がありますが。〔暗い寒空の夜に一人孤独に隠れ震える時間は、心身両面からその『覚悟』をへし折った〕、と推測します。
さらに“大石内蔵助”は吉良邸から退去する際に〔火事など起こさないように〕、と配慮を見せる忠臣蔵もありますが。“寝言は寝て言え”としか言いようがない。
死の覚悟を決めた吉良上野介が〔もはやこれまで〕、と屋敷に火をつける。あるいは救援の来ない寒空にに心が折れ、自暴自棄になった『屋敷の主』が火をつけてしまう。他にも護衛との戦闘で『龕灯』を落とす・壊されるなど、“失火”のリスクはいくらでもありました。
結果的に火事は起こらなかったものの。護衛をかかえた武家の屋敷は、“昼の激務で寝入った商家に強盗を仕掛ける”のとはわけが違います。もし大火が発生したら、四十七士とやらはどうするつもりだったのでしょう?
“仇討ちのため必要な犠牲だった。吉良が抵抗したのが悪い。戦なのだからやむを得ない。知らぬ顔の半兵衛”
こんなところでしょうか?これらはあくまで私の推測にすぎません。
ただし否定するなら〔討ち入りの際、絶対に失火を防ぐ対策〕、などというものがあるなら教えてほしいです。
結論として“屋敷が火事になろうが、江戸の町が火に包まれようが。仇討ちのためならやむをえない”、と考えているに等しい“四十七士”たちは無自覚の狂信者か。あるいは吉良上野介・その護衛たちの【良識】に依存した、テロリストにすぎないということです。




